砂浜に生じる砂丘地帯には,特有の植生が成立することが知られている.しかし現在の日本では,砂浜とともに砂丘植生は消滅の危機にある.本総説では,過去から現在に至る砂丘地帯の変遷をたどりながら,砂丘植生を危機に至らしめた原因を概説する.100年ほど前の日本には,大きな砂丘のある砂浜が至る所にあったことが古い地図などから読み取ることができる.砂丘地帯に独特の植生が成立するのは,砂の移動による埋もれや傷害,潮風,貧栄養等といった物理・化学的な環境が厳しく,その厳しさに耐えられる植物しか生育できないからである.現在の日本で見られる砂浜は,ほとんどが大きな砂丘のない海岸沿いの細長い砂浜だけである.ここ40年の変化を見ても,砂浜の奥行き(汀線から砂浜の内陸側の境界までの距離)は,4分の1近くにまで減少している.消滅の主な原因は,砂浜の内陸側からの開発と松林の造成である.砂丘のある広い砂浜が,市街地やマツ林に変貌すると,環境が変わり砂丘植生は消滅する.砂浜の海側からも人為的な影響により侵食が進み,後退している砂浜は少なくない.侵食が始まるとそれを防ぐために堤防が造られて,植生だけでなく砂浜そのものがなくなっていることが見られる.最近,砂浜を温存しながら侵食を防止する工法が採用されることがあるが,その工法にも問題が見られる.堤防が造られずに残っている数少ない砂浜も,車の侵入やゴミ投棄,外来種の侵入により影響を受けているところがある.このまま,砂浜の減少が続けば,砂浜を唯一の生育地としている植物だけでなく砂浜独自の動物も絶滅の危機に陥る.