景観生態学
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原著論文
空間スケールの違いが野生動物分布の推定に与える影響
後藤 明日香望月 翔太村上 拓彦
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2014 年 19 巻 2 号 p. 127-138

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抄録

人と野生動物との軋轢を解消するためには適切な野生動物管理が重要である.本研究の目的は,異なる概念の空間スケール(extent:空間の広がり,grain size:データの最小サイズ)において動物分布と環境因子との関係を明らかにすることである.対象とした野生動物は,ツキノワグマ(Ursus thibetanus),ニホンザル(Macaca fuscata),イノシシ(Sus scrofa)である.ロジスティック回帰分析により各対象種の分布確率予測モデルを作成し,本州スケールと新潟県スケールでextentによる違いを,新潟県スケールにおいて500m解像度と30m解像度でgrain sizeによる違いを比較した.extentの比較では,全ての対象種で最適モデルに選択される環境因子やその寄与するベクトルに違いがあった.ツキノワグマについて,本州スケールでは農業地域の割合,針葉樹林の割合,広葉樹林の割合,積雪深の平均値が正に寄与したが,新潟県スケールでは農業地域は負に寄与し,広葉樹林は最適モデルで選択されなかった.モデル精度は本州スケール,新潟県スケール共に高かった.ニホンザルについては,本州スケールでは農業地域の割合,針葉樹林の割合,広葉樹林の割合,水域の割合が正に寄与し,積雪深の平均値が負に寄与した.一方新潟県スケールでは,針葉樹林の割合と積雪深の平均値が正に,農業地域が負に寄与し,広葉樹林の割合と水域の割合は最適モデルで選択されなかった.新潟県スケールのモデル精度は中程度であったが,本州スケールのモデル精度は低かった.イノシシは,本州スケールでは農業地域の割合,市街地の割合,針葉樹林の割合,広葉樹林の割合,水域の割合が正に寄与し,積雪深の平均値が負に寄与した.イノシシは本州スケールでは高精度で分布を推定できたものの,新潟県スケールでの推定は困難であった.イノシシの分布が拡大中であることが,本州スケールで土地被覆の全クラスが正に寄与したことと新潟県スケールでの分布推定が出来なかったことの理由として考えられる.grain sizeの比較では,最適モデルとモデル精度に大きな違いはなかった.本研究では,extentの違いが野生動物の分布予測に影響を与えた.この結果から,野生動物の分布を予測する際,特に空間の広がりを考慮することが重要であると考える.

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© 2014 日本景観生態学会
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