人工林における間伐手法の違いが,物理環境と植生のどちらの変化を通して,人工林内の昆虫群集の多様性に影響を与えるのかを明らかにすることを目的に,連続したヒノキ人工林に点状間伐区(PT),点状+列状(3残1伐)間伐区(PLT),列状間伐区(LT)および無間伐区(NT)を設定し,間伐前,間伐直後および間伐1年後の昆虫群集の変化を既報の植生変化と比較した.間伐直後には間伐に伴う攪乱により下層植生が減少していたにもかかわらず,全間伐区で昆虫数は増加しており,植栽木の間伐による林内の光環境の変化や,下層植生の減少による林床の微気象の変化に昆虫が反応したと考えられた.間伐1年後には全処理区で昆虫個体数が増加しており,この増加には下層植生の増加も寄与していると推察された.また,間伐前には植物に依存している昆虫はわずかであったが,間伐1年後には下層植生の変化に対応した昆虫群集構成の変化が示唆された.間伐手法の違いでは,間伐直後にはLT,PLT,PTの順で,間伐1年後にはPLT,PT,LTの順で個体数の増加率が高くなっており,最も間伐率が高く,林冠疎開の大きい点状+列状間伐での昆虫数の増加が大きくなった.以上の結果から,間伐直後の昆虫個体数の変化は,主に間伐手法の違いによる林床の物理環境の変化度合いに大きく規定されるものの,その後の変化は,下層植生にも影響を受けていると考えられた.