本研究は宮城県仙台市の沿岸部おいて,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波と地盤の沈降による攪乱を受けた後背湿地を対象として,2時期での植生変化を調べた.調査は,2014年7~8月と2019年8~9月に同じ地点で計131地点の植生調査を実施し,TWINSPANとDCA法を用いた解析を行った.また,2019年に撮影した空中写真から植生図を作成し,各優占群落と地盤高の関係を調べた.その結果,2014年から2019年にかけて,各方形区の植生は,水生から湿生,湿生から陸生の植物種が優占する群落型へと変化が確認された.また,水生や陸生など優占する生育立地タイプが同じ群落型間でも,水生ではタチコウガイゼキショウからヒメガマ,陸生ではススキからマツ類へと優占種が変化する傾向にあった.このような対象地の植生変化は,震災後の地盤の隆起に伴う土壌の乾燥化に加えて,震災時の攪乱からの経過年数に伴い,より寿命が長く,個体サイズの大きな種の分布・葉群拡大による被陰といった植生遷移の進行が考えられた.水生・湿生草本の優占群落は地盤高40 cm以下の比較的低い立地に集中し,2019年時点の群落面積は対象地全体の約2割を占め,これらの生育適地は減少傾向にあると考えられた.