景観生態学
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特集「東日本大震災から10年,津波被災地の今」
仙台湾沿岸における津波による低頻度大規模撹乱後10生育期目の植生と人為撹乱の影響
菅野 洋富田 瑞樹平吹 喜彦原 慶太郎
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2023 年 28 巻 1-2 号 p. 13-23

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抄録

東日本大震災時の津波によって大規模な撹乱を受けた仙台湾沿岸において,植生回復と盛土造成等の復旧事業による人為影響の程度を明らかにすることを目的として,津波撹乱から10生育期を経た2020年8~9月に植生調査を行った.調査は,汀線から内陸に向かって帯状に成立していた「砂浜植生ゾーン」,「低木林ゾーン」,「高木林ゾーン」の3タイプごとに,その場の土壌・微地形・残存植生がおおむね保全された区画を「自然区」,重機踏圧地や丘陵地土砂による盛土の上に植栽が実施された区画を「人為区」と二分して実施した.種の在・不在をもとに算出したJaccardの類似度を用いたNMDS解析により,調査した91地点は5グループに区分され,それはおおよそ①砂浜植生ゾーンの自然区と重機踏圧された人為区(指標種はハマニガナ,コウボウムギなど),②低木林ゾーンの自然区(メマツヨイグサ,ハマヒルガオなど),③低木林ゾーンと高木林ゾーンの盛土植栽された人為区(セイタカアワダチソウ,シロツメクサなど),④高木林ゾーンの自然区のうち残存林と倒木箇所(コナラ,イヌツゲなど),そして⑤高木林ゾーンの自然区のうち地表が剥離した裸地と湿地(ヨシ,イヌイなど)であった.この結果は,①自律的に再生した自然区では,砂浜海岸エコトーン本来の植生様態と撹乱後も残存した樹林の影響を受けつつ,成帯構造が再構築されたこと,反面,②丘陵地土砂を用いた盛土植栽の人為区では,低木林ゾーンと高木林ゾーンを問わず外来植物が優勢な,砂浜海岸とは異質の群落が成立したことを示している.また,③高木林ゾーンの地表剥離した裸地では湿生植物の,低木林ゾーンの盛土植栽のうち覆砂を施した箇所では,砂浜植物の発生が検出され,埋土種子の貢献が推察された.数百年から千年に一度発生する低頻度の大規模地震・津波に見舞われながらも,砂浜海岸エコトーンの成帯構造を反映して出現したさまざまな自然立地で,多様な自生種が生残・発生して植生回復が自律的に進んでいる実態は,生態系レジリエンスの発現機構と生物学的遺産の有用性を提示しているといえる.

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