景観生態学
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徳島県域における湿生・水生絶滅危惧植物の潜在的生育適地の推定
原田 悦子小川 誠三橋 弘宗鎌田 磨人
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2008 年 12 巻 2 号 p. 17-32

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抄録

生態系の保全や再生・修復を効率的に行っていくためには, 限られた分布情報を用いて野生生物の潜在的生育・生息地を推定する手法を発展させる必要がある。本研究では, 複数種の湿生・水生希少植物の分布パターンから種をグループ化した上で, 種グループそれぞれについて潜在的生育地を推定する手法を提案し, その有効性について検討した。まず, 徳島県で絶滅の危機に瀕する湿性・水生の絶滅危惧植物のうち66種を対象として, その分布情報を, 3次メッシュを用いてGISに格納した.そして, メッシュ内の種の在・不在データと環境要因 (3次メッシュ内の温量指数, 降水量, 標高平均値, 傾斜角度平均値, TWI9以上の面積率, SPI平均値, 標高5m以下の面積率) から, CCAによって種を序列化した後に, クラスター分析でグループ化した.次に, それぞれの種グループが選好する環境要因を, 選好度によって求めた.そして, 環境要因別に, 同様の環境幅を持つメッシュを全メッシュから抽出し, それぞれにレイヤを作成した上で, 感度と特異度を求めた.さらに, 感度が高いレイヤ順にオーバーレイし, レイヤ間で重なり合うメッシュを順次抽出した.その際, 感度と特異度を毎回算出し, 感度が特異度を下回る直前のズテップで抽出されたメッシュを潜在的生育適地とした.結果は以下の通りである.種グループAの潜在的生育適地は, 山地内の緩斜面域の源流的環境に形成される湿地であると推察された.種グループBの潜在的生育適地は, 吉野川下流域の流路周辺であり, 洪水のたびに一時水域が形成されてきた領域と一致した.種グループCの潜在的生育適地は, 主に吉野川, 那賀川河口域の沖積低地であり, 縄文海進以降に陸地化した標高5m以下の領域とほぼ一致した.種グループDの潜在的生育適地は, 山地から低地に至る多様な類型を含んでおり, 特に, 砂礫台地や岩石台地といった扇状地性段丘の割合が高かった.このうち, グループD1の構成種は, 段丘や山麓地と低地との接合部に湧出する水によって酒養される湿地を主な生育地として, D2構成種は, 土砂浸食が盛んな河川沿いの崩壊地等に一時的に形成される湿地を主な生育の場としてきたと考えられた.種グループBやCの潜在的生育適地は, 水田や居住地としての土地利用率が高く, 土地利用の観点からは絶滅リスクが最も高い地域であると考えられた.

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