法制史研究
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学界動向
モンゴル法制史研究動向
萩原 守額定 其労
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2015 年 64 巻 p. 171-211,en11

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抄録

 故島田正郎氏が切り開いた北アジア法史という研究分野の内、モンゴル法制史は、欧米、日本、モンゴル、中国領の内モンゴル等各地で、現在最も盛んに研究の行われている分野である。この研究動向の原稿では、モンゴル法制史の主要な諸研究を「通史的研究」、「モンゴル帝国期」、「北元時代」、「清代のモンゴル」、「一九一一年以降のモンゴル」という五章に分けて紹介・論評していく。
 まず「通史的研究」としては、ロシアのリャザノフスキー氏がモンゴル法制史を初めて通史にまとめ、大きな功績を残したが、彼自身は現地語で書かれた法制史料を自ら読解しておらず、既にその研究上の価値は決して高くない。一方、上記の島田氏は漢文法制史料を精査し、特に清朝治下での蒙古例の全体像を解明した功績が光るにもかかわらず、満蒙文史料や欧文の研究を参照する事がなかったため、欧米での研究とすれ違いに終わり、残念ながら知名度が低い。
 「モンゴル帝国期」については、チンギスハーンの定めた法典『大ヤサ』が、成文法として本当に存在していたのかどうかが、最近の焦点となっている。「北元時代」に関しては、いくつもの蒙文法典原本が文献学的に研究されているが、法制史的研究がなされているのは、『ハルハジロム』のみである。「清代のモンゴル」については、ロシア人の始めた研究を日本人、内外モンゴルのモンゴル人、欧米人の研究者たちが受け継いで、蒙古例法典、裁判制度ともに、盛んに研究が発表され、日進月歩の状態である。「一九一一年以降のモンゴル」に関しては、内外モンゴルの研究者を中心に研究が始まってはいるが、なお、盛んとは言えない状況である。
 今後は、各時代とも、文献学的な研究に加えて、より法学的特徴を持つ研究が求められるであろう。

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