法制史研究
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学界動向
リュケァトのサヴィニ研究について
守矢 健一
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2015 年 64 巻 p. 213-238,en13

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抄録

 ヨアヒム=リュケァトは、かれが教授資格取得論文(一九八四年)を公刊して以来、サヴィニ研究の主導者と目されている。本論文の目的は、『サヴィニ研究』(二〇一一年)に所収された、サヴィニのテクストを巡るかれの研究を紹介することにある。これを四つの段階に分けて行う。
 第一は、ドイツと日本とのサヴィニ研究が一九六〇年代以来、一種の並行関係にあることの指摘である。この指摘を、ドイツについてガグネアとリュケァトにより、日本について磯村哲と石部雅亮により例解する。サヴィニ研究と政治的現代の認識とが両国の研究において、緊張を孕む関連に立っていることが示される。
 第二に、ごく簡単に、リュケァトの教授資格取得論文を紹介する。二〇一一年に編まれた論集に収められた諸論文において、教授資格取得論文では簡単に触れられたにとどまる論点がしばしば詳述されているからである。「客観的イデアリスムス」のテーゼによって広く知られるに至ったこの大作において既に、リュケァトにおける、サヴィニのテクストを歴史的文脈のなかに位置づける試みの徹底が、二〇世紀初頭以来戦後に至るまでのドイツ法学の、形而上学に彩られた言説に対する批判でもあることが、はっきりとわかる。
 第三に、一本の論文を例外として、教授資格取得論文公表後に公表された諸論文を、大体において公表年順に紹介するが、その際に、さまざまの論点の関連を明らかにすることに意を用いた。サヴィニ研究における現代史的観点がより深められたこと、サヴィニのテクストを歴史的脈絡から解明する試みが進んだこと、が示される。
 第四に、リュケァトのサヴィニ研究における、重点の移動に触れておいた。二〇世紀末以降の研究において、リュケァトは、サヴィニにおける法の体系的思考を、サヴィニの哲学的傾向と相対的に切り離したうえで、これを今日における知的挑戦として、ラーレンツやカナーリスによる、最終的に法の外にある要素に依拠した法の体系化の試みを一方に、そしてその後の法体系そのものに対する関心の低下を他方に配置し、この両者との関係で擁護するに至る。これはわれわれを多少驚かせる。しかしこれをリュケァトにおける形而上学批判の矛先の鈍化と理解すべきではなく、ましてサヴィニ擁護と即断すべきではない。むしろ、穏当な限りにおける法の自律の可能性を示そうという試みの一環と捉えられる。

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