法制史研究
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学界動向
魔女研究の新動向
ドイツ近世史を中心に
小林 繁子
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2016 年 65 巻 p. 113-138,en7

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抄録

 本稿は、近年進展の著しい歴史的魔女研究の動向を整理し、その論点と課題を明らかにするとともに、隣接諸分野との接続、発展の可能性を提示することを目指すものである。魔女研究には、裁判・支配の実態と、魔女の表象という大きく二つの問題領域が互いに関連しあいながら存在している。前者においては、犯罪史研究の隆盛に刺激を受け、魔女犯罪を刑事司法一般に位置付ける試みがなされている。また魔女犯罪の政治性を巡って提唱された「道具化」論は、人類学的・民俗学的知見に基づいた近世社会・国家の魔術性という前提を得て相対化されつつ、これを支える地域研究の事例が蓄積されている。国家形成と魔女迫害との関連を問う研究においては、地域研究に基づき学識法曹の役割、共同体内における在地役人の位置づけなど、近世的支配をより立体的に描き出す指標として魔女研究が有効であることが示された。
 後者の問題領域においては、知識人の悪魔学テキストのみならず絵画やビラ・版画などが分析対象となっている。作り手と受け手の相互作用に対する分析視角には、メディア学や社会学における転回の影響が認められる。ジェンダーを巡る研究においては、これまで等閑視されてきた男性魔女の存在も取り上げられるようになった。日本でも個別の研究成果は現れているものの、今後はそれらを研究プロジェクトとして統合・総括することが望まれよう。

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