保健医療学雑誌
Online ISSN : 2185-0399
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総説
理学療法とオートポイエーシス
村部 義哉*
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2022 年 13 巻 1 号 p. 39-48

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抄録

要旨 本稿は,患者の身体機能や日常生活動作能力の向上,そして行為の再獲得を目的とする理学療法介入に関して,生命の有機構成の論理化を目的としたシステム論であるオートポイエーシスを導入し,身体哲学的な観点から理学療法介入の定式化を試みるものである.システム論は,構成要素の関係性の組織化によって,構成要素の総和以上の特性が創発されるとする概念であり,要素還元的な機械論とは異なる.理学療法においては,関節可動域,筋力,感覚などの部分的要素への個別的介入が要素還元的な治療介入であるのに対して,患者を身体システムとして設定し,それらの構成要素の関係性の組織化によって,行為の創発を促進するといった治療方針がシステム論的な治療介入となる.本稿では,こうしたオートポイエティックな理学療法介入における身体システムの構成要素を「感覚」に設定し,その関係性の形成に関する患者の認知機能や情動,意識などの機能的役割および実践的活用方法の論理化を行う.理学療法学が医学分野に属する学問領域である以上,理学療法の臨床実践は科学的根拠に準拠するものでなければならない.しかし,自然科学分野の研究成果に過剰に依存した臨床実践は,患者の個別性(動機,環境,来歴など)を無視する結果となる.オートポイエティックな理学療法の実践とは,患者の個別性を最大限活用するものとなる.

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© 2022 保健医療学学会
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