日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
研究論文
所得控除と税額控除
―カナダの連邦税と州税を事例として―
池上 岳彦
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 21 巻 p. 37-57

詳細
抄録

 個人所得税においては,個人または世帯の非裁量的支出を基礎的生活費とみなして負担を軽減するため,人的控除,医療費控除等が行われる.これについては,所得控除を行った後の課税所得が個人の担税力を表すという議論と,税額控除のほうが所得再分配の観点から望ましいという議論とが,対立している.本稿は,この問題について,カナダを事例として検討した.1966年のカーター報告は,所得に占める非裁量的支出の割合は逓減するので,所得税は裁量的支出向け所得に対して一定率で課税することにより全体として累進課税となるが,逆に非裁量的支出の追加は裁量的支出からの転換なので,その一定割合を負担軽減する,と述べた.これは税額控除の論理に適っており,カナダの1987年税制改革における所得控除から非還付型税額控除への転換も,それに沿ったものといえる.ただし,税制改革の評価は,制度内容に加えて,財政収支,政府間関係,租税構造等を含んで行われる.所得控除から税額控除への転換に加えて,2000年度に州レベルの個人所得税が連邦税に対する“Tax on Tax”から“Tax on Income”へ転換したことによって,個人所得税を賦課する州政府が独自に税率構造,税額控除等を決定できるようになっている.本稿は,税額控除が,所得再分配に加えて,課税自主権の観点からも大きな要素となりうることを示した.

著者関連情報
© 2014 日本地方財政学会
次の記事
feedback
Top