2015 年 22 巻 p. 157-182
地方財政健全化法の下では,自治体の健全化判断比率が早期健全化基準に達すれば,財政健全化団体となって,その後の財政的な選択は大きく制約される.重要なのは,そうした強制的な力が発動することで健全化への取り組みが始まるのではなく,財政健全化団体となることを自治体が自発的に回避することにある.自治体に自発的改善を促す仕組みが現実に機能していることを検証するため,将来負担比率の高い自治体が改善策として行う地方債の繰上償還に関するモデルを都市データに基づいて推定した.その結果からは,将来負担比率や実質公債費比率の早期健全化基準からの乖離率が小さいほど繰上償還の確率と金額が高まるという意味で,自治体の財政健全化行動を促すガバナンス効果が確認された.
ここで,早期健全化基準が設定されているのが将来負担比率の合計値のみであることを考えれば,将来負担比率を構成する各項目の係数がすべて正に推定されたとしても合理性はある.しかし,繰上償還促進効果を示す係数が実際に正であったのは地方債残高に限られ,債務負担行為に基づく支出予定額や設立法人に係る一般会計負担見込額の係数は負であった.これらの項目に対しては,地方債の繰上償還では問題を本質的に解消できないことを踏まえれば,自治体は将来負担比率の改善だけではなく,それぞれの項目に潜む問題やリスクへの対処を独自に考慮した財政運営を行っていると解釈できる.こうした行動を前提とした制度設計も必要であると考えられる.