合併特例債は地域の一体性の確立や行政サービスの平準化を目的に公共的施設などを整備するための地方債であり,その元利償還の7割が基準財政需要額に算入されるため,「平成の大合併」を推進した財政支援策のひとつといえる.しかし,合併自治体の住民負担や地方債残高の増加,財政規律の弛緩などの問題が特例債の発行を通じて生じる恐れもある.特例債は平成の大合併を経て急増しており,発行期間は東日本大震災の影響によって最大10年間延長されたことから,今後もその発行額の増加が予想される.
ところが,特例債の発行要因に関する包括的かつ定量的な分析はこれまで十分に行われてこなかった.そこで本稿では,合併自治体内の所得格差を特例債の発行要因として考慮するため,市町村別ジニ係数を説明変数に用いてパネルデータ分析を行った.その結果,合併自治体は地域内所得格差が大きいほど特例債を発行していた.編入合併自治体の地域内所得格差は新設合併自治体よりも大きいが,特例債の発行要因ではなかった.ただし編入合併自治体は他の周辺自治体を吸収したことで地域内所得格差を生じさせているが,合併後の財政基盤も強固であるため,特例債を必要としなかったと思われる.
特例債発行の財政的要因に着目すると,新設合併自治体と編入合併自治体はともに財政の硬直性に直面した場合,一般地方債ではなく起債条件の有利な特例債を活用していた.
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