日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
22 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
研究論文
  • ―サプライサイド経済学と公共選択論の影響とその結果―
    小泉 和重
    2015 年 22 巻 p. 37-59
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     本論文は1978年にカリフォルニア州で起こった「納税者の反乱」をその理論的なバックボーンとなったサプライサイド経済学と公共選択論の視点から考察するものである.両理論は納税者の反乱(すなわち,提案13号の発意)が州経済と財政に,経済成長,財政黒字,さらに政府規模の縮減をもたらすとして,高く評価した.しかし,実際の1980年代から90年代にかけてのカリフォルニア州経済,財政を検討すると,厳しい景気後退と財政赤字,さらに政府規模の水準が緩やかに復位する状況が析出されたのであった.また,財政危機時には収支の均衡を維持するため州議会では「増税コンセンサス」が形成され,州の歳出規模を制約する制度(提案4号)も地元経済界の道路投資に対する要求を前に空洞化されていったのであった.このように,上記の理論が評価したとは異なる結果が起こった反面,納税者の反乱はカリフォルニアの地方財政に財政ストレス,政府間対立,さらにリスキーな財政運営をもたらしたのであった.このような点から,住民が行使した自律的な財政統制(財政提案)が地方政府の財政自治と対立し相克する関係にあることを示した.

  • ―財政安定化評議会による予算監視と財政再建―
    田尾 真一
    2015 年 22 巻 p. 60-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     ドイツでは2009年に基本法が改正され,連邦および州に対して新規借入れを原則として認めない債務ブレーキ制度の導入,そして連邦および州の財政非常事態を回避するための予算監視機関としての財政安定化評議会の設置が規定された.この基本法改正については大枠を論じたものは散見されるが,実際に財政安定化評議会によってどのように予算監視がなされているのかについては論じられてこなかった.そこで本稿では財政安定化評議会における予算監視がどのように実施されているのかを制度分析によって明らかにし,さらに,その予算監視によって財政非常事態の恐れがあると指摘された4州の再建状況とその背景についても考察を加える.その結果として,以下の3点を指摘する.まず,2009年の基本法改正は連邦だけではなく州政府の財政規律にも言及するものであり,ドイツ全体として財政健全化を目指し,実際に健全化へと進んでいる点である.2点目は財政安定化評議会が連邦と州との共同の監視機関として相互に予算監視を行うことで財政規律を働かせている点である.加えて予算監視に必要な指標や基準値が広く公表されることも財政規律を高める一因となっている.最後に,財政調整制度を含めた財政構造のために財政再建が厳しい州が存在しており,財政規律を法律や制度だけで規定するには限界があり,財政需要に見合った財政調整の仕組みを模索する必要があるという点を指摘する.

  • 河原 礼修
    2015 年 22 巻 p. 82-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     本稿は,①長期にわたる税目別の格差指標の値を1人当たり税収と税収総額についてそれぞれ算出すること,②長期にわたる市町村税収間の格差拡大要因を検証することを目的としている.そのため,市町村税収の地域間格差の大きさを市町村税の主要な税目について1975年度から2010年度の36年間にわたる全国市町村データを対象に検証し,年度ごとの地域間格差拡大に関する変動要因の分析を行った.その際,平成の大合併によるデータ単位数の大きな変化が,格差にまつわる指標に与える影響については,十分に注意して考察を行った.また,既存研究の多くでは,分析の際に,主として1人当たり税収格差に焦点があてられている.しかし,1人当たり税収がほとんど同等の地域だとしても,税収総額の水準の違いによって公共サービスの程度は異なってくる可能性が考えられるため,税収総額における市町村税収間の分析を行うことも重要である.

     分析の結果,市町村税収の格差拡大要因に関して,1人当たり税収でみる限りでは先行研究でも指摘されているように,固定資産税の影響が非常に大きいことが確認された.加えて,その中でも,償却資産分の要因が大きいことが数量的に明らかになった.一方,税収総額における格差拡大要因としては,1980年度から1993年度までは市町村税収のうち市町村民税個人分の影響が大きく,1994年度以降は固定資産税の影響が大きいということが数量的に示された.

  • ―地域内所得格差に着目した合併自治体別パネルデータ分析―
    宮下 量久
    2015 年 22 巻 p. 107-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     合併特例債は地域の一体性の確立や行政サービスの平準化を目的に公共的施設などを整備するための地方債であり,その元利償還の7割が基準財政需要額に算入されるため,「平成の大合併」を推進した財政支援策のひとつといえる.しかし,合併自治体の住民負担や地方債残高の増加,財政規律の弛緩などの問題が特例債の発行を通じて生じる恐れもある.特例債は平成の大合併を経て急増しており,発行期間は東日本大震災の影響によって最大10年間延長されたことから,今後もその発行額の増加が予想される.

     ところが,特例債の発行要因に関する包括的かつ定量的な分析はこれまで十分に行われてこなかった.そこで本稿では,合併自治体内の所得格差を特例債の発行要因として考慮するため,市町村別ジニ係数を説明変数に用いてパネルデータ分析を行った.その結果,合併自治体は地域内所得格差が大きいほど特例債を発行していた.編入合併自治体の地域内所得格差は新設合併自治体よりも大きいが,特例債の発行要因ではなかった.ただし編入合併自治体は他の周辺自治体を吸収したことで地域内所得格差を生じさせているが,合併後の財政基盤も強固であるため,特例債を必要としなかったと思われる.

     特例債発行の財政的要因に着目すると,新設合併自治体と編入合併自治体はともに財政の硬直性に直面した場合,一般地方債ではなく起債条件の有利な特例債を活用していた.

  • 鷲見 英司
    2015 年 22 巻 p. 130-156
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     地方財政健全化法によって,健全化判断比率で見た地方財政の健全化が進展した.地方財政再生制度(以下,新再生制度)下では,地方自治体は健全化判断比率と早期健全化基準の導入によって,フローとストックから財政状況を連結して把握され,財政健全化の先送りが困難になったため,自治体の財政運営が先送りから健全化へと変化したと期待される.この仮説に立てば,健全化判断比率で見た地方財政の健全化は,新再生制度下での自治体の財政運営が健全化へと変化したことに起因すると解釈される.そこで,本稿では新再生制度下の2008年度から2012年度までの市町村データを用いて,健全化判断比率が悪化した自治体の歳入・歳出行動を分析し,地方税等の自主財源確保や歳出削減による財政健全化がその他の自治体と比較して有意に実施されたかどうかを検証した.

     主な分析結果は以下のとおりである.第1に,早期健全化予備団体と早期健全化団体では,一部に財政健全化を意図した歳入・歳出行動が有意に実施され,新再生制度の早期是正効果が確認された.第2に,実質収支の悪化に直面した自治体では歳出削減を通じた実質収支の改善,公債費負担の増加に直面した自治体ではストック面での財政健全化を意図した財政運営が実施され,健全化判断比率の導入が,自治体の財政運営を先送りから健全化へと変化させたことが確認された.本稿の分析から新再生制度が期待された早期健全化に対して一定の効果をもったと結論づけられる.

  • ―将来負担比率のガバナンス効果に着目して―
    石川 達哉, 赤井 伸郎
    2015 年 22 巻 p. 157-182
    発行日: 2015年
    公開日: 2024/06/14
    ジャーナル フリー

     地方財政健全化法の下では,自治体の健全化判断比率が早期健全化基準に達すれば,財政健全化団体となって,その後の財政的な選択は大きく制約される.重要なのは,そうした強制的な力が発動することで健全化への取り組みが始まるのではなく,財政健全化団体となることを自治体が自発的に回避することにある.自治体に自発的改善を促す仕組みが現実に機能していることを検証するため,将来負担比率の高い自治体が改善策として行う地方債の繰上償還に関するモデルを都市データに基づいて推定した.その結果からは,将来負担比率や実質公債費比率の早期健全化基準からの乖離率が小さいほど繰上償還の確率と金額が高まるという意味で,自治体の財政健全化行動を促すガバナンス効果が確認された.

     ここで,早期健全化基準が設定されているのが将来負担比率の合計値のみであることを考えれば,将来負担比率を構成する各項目の係数がすべて正に推定されたとしても合理性はある.しかし,繰上償還促進効果を示す係数が実際に正であったのは地方債残高に限られ,債務負担行為に基づく支出予定額や設立法人に係る一般会計負担見込額の係数は負であった.これらの項目に対しては,地方債の繰上償還では問題を本質的に解消できないことを踏まえれば,自治体は将来負担比率の改善だけではなく,それぞれの項目に潜む問題やリスクへの対処を独自に考慮した財政運営を行っていると解釈できる.こうした行動を前提とした制度設計も必要であると考えられる.

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