日本地方財政学会研究叢書
Online ISSN : 2436-7125
研究論文
オランダ住宅政策における住宅協会の変容と地方分権改革
―1988年ヘールマメモを中心に―
島村 玲雄
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2023 年 30 巻 p. 67-84

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抄録

 本稿は,オランダの社会住宅供給を担う非営利民間組織である住宅協会が,1988年のヘールマ改革によりどのように変容したのか,地方分権改革との関係を踏まえて明らかにすることを目的とする.住宅協会は1901年の住宅法を画期とし,住宅サービス供給の公的な制度に組み込まれた.国と非営利組織による福祉サービス供給というオランダ特有の関係性が構築され,戦後社会住宅供給の独占的な役割を担うこととなった.その後,1988年のヘールマ改革では,国の社会住宅政策からの撤退により,「民営化(財政的自立)」を果たした住宅協会は,縮小する社会住宅供給の独占的な役割を引き続き担いつつ,政策目標を共有する社会的企業へと変容し,社会住宅政策は基礎自治体へ移譲され,政府は財政保証機関を通じた間接的な支援という体制へ移行した.背景には,戦後模索してきた住宅協会の自立と,民営化を伴う財政再建策と基礎自治体への権限移譲を図った分権化改革を行ったルベルス政権の政策潮流とが合致したことで結実したと言える.近年は,自由主義右派政党の躍進に伴い,国内外の住宅市場の自由化圧力に晒されながら,なお社会住宅供給の役割を担っている.

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