沙漠研究
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原著論文
中国内モンゴル自治区の沙漠地域に生育する植物のアレロパシー活性の検定と高活性植物沙棘と黄花蒿の発見およびその作用物質の推定
宝 龍白 梅栄阿都 沁夫藤井 義晴
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2019 年 29 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

植物の二次代謝物質は従来「老廃物」もしくは「貯蔵物質」と考えられてきたが,近年植物の生存戦略として重要な機能を持つことが明らかとなってきた.このような機能は生存競争が激しい沙漠地域に生育する植物に顕著である可能性がある.本稿は内モンゴル自治区の沙漠地域に生育する植物の効率的利用を目的としてアレロパシー活性の検索を行った.

そこで本研究においては,内モンゴル自治区の沙漠地域に生育する在来優良植物や優良牧草,薬用植物など22種類を対象に,植物の地上部のアレロパシー(他感作用)検定方法であるサンドイッチ法によって,葉,実などの活性を検定した結果,受容植物レタスの幼根長を,沙棘(サジーまたはスナジグミ,Hippophae rhamnoides)は96%,籽蒿(ハイイロヨモギ,Artemisia sphaerocephala)は94%,猪毛菜(ヤマヒジキ,Salsola collina)は92%,黄花蒿(クソニンジン,Artemisia annua)は87%,桔梗(キキョウ,Platycodon grandiflorus)は87%,沙柳(スナヤナギ,Salix psammophila)は85%,沙蓬(サーミ,Agriophyllum squarrosum)は83%の順に阻害した.植物由来の揮発性物質によるアレロパシーの検定方法であるディッシュパック法によって,葉,実の揮発性物質の活性を検定した結果,受容植物レタスの幼根長を黄花蒿は89%,臭柏(サビナビャクシン,Sabina vulgaris)は77%,籽蒿は54%,油蒿(ユコウ,Artemisia ordosica)は52%の順に阻害した.

サンドイッチ法による検定で最も活性が強かった沙棘の実は10 mg/10 mLの濃度で受容体植物レタスの幼根成長を96%阻害し,その水抽出成分のEC50(50%生育阻害濃度) は130 mg/Lと極めて強かった.この画分をGC-MSで分析した結果,他感作用候補物質としてサルコシン(Sarcosine)(54 mg/100 g)とアスパラギン (Asparagine)(50 mg/100 g)を検出した.サルコシンが沙棘に多量に存在し,アレロパシー候補物質であることを見出したのはこの研究が初めてである.

ディッシュパック法で最も活性の強かった黄花蒿の揮発性の阻害物質として,GC-MSによる分析を行い,阻害活性を比較した結果,1,8-シネオール(1,8-Cineole)が作用の本体と推定した.

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© 2019 日本沙漠学会
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