本研究では,エチオピア北部ティグライ州における農家の生計多様化戦略について,家畜保有規模の変化と農外収入に焦点を当てて検討する.家畜は畜産物の産出や畜役のほか,消費を平準化するバッファーストックとして重要な役割を果たしてきた.しかし,近年人口増加や気候変動などの要因により,放牧地の減少や家畜保有規模の縮小が各地で起きている.これは結果的にショック時における家計の回復力の低下や世帯員の栄養不足などの問題を引き起こす.
研究対象地域であるティグライ州では,旱魃が度々発生しており,畜産の規模縮小が起きている.本研究では,生計多様化の手段である農外活動と家畜保有頭数の変化と関連させることで,畜産経営環境が悪化する中で,どのような特徴を持つ世帯が農外収入を得る一方で畜産規模を変化させる傾向にあるのか,またその要因について分析をおこなった.
本研究では,2016年に実施したティグライ州の州都メケレ近郊農村における農家インタビュー調査結果155世帯分のデータを使用した.ウシ保有頭数が減少したか否かと農外収入を得たか否かを被説明変数,世帯の属性や畜産経営環境などを説明変数とするSeemingly Unrelated Bivariate Probitモデルを推定した.
分析の結果,農家は畜産収入を得ることに関するコストを基に生計手段の一つである畜産の規模を調整し,耕種作や畜産の状況に応じて農外収入を獲得していると考えられる.また,世帯主年齢も生計手段の多様化に影響することが示された.