2012 年 2 巻 1 号 p. 15-31
本稿では、現在、国際舞台で活躍する著名なバイオリニストが、メディアのインタビューに対して、自分自身が使用するアントニオ・ストラディバリやガルネリ・デル・ジェスといったバイオリンの銘器について、何をどのように語るかに着目することで、銘器神話の言語構造を分析した。分析にあたっては、ロラン・バルトの、神話は言語的に構築されていくという前提、および同じくバルトの概念である、人々の語りを支配し、語り手の主体性を奪っているエクリチュールの概念を援用した。分析の結果、バイオリニストが音楽家集団の中で共有されている、ある特定の語りに支配されているため、銘器について語る際、多くのバイオリニストに顕著な共通点が認められることがわかった。また、ストラディバリやデル・ジェスの名は、単に楽器そのものを指すだけではなく、そこに神話化の鍵となるいくつかの記号を取り込んでいることが明らかになった。