本研究は、EUのAI規制法に対して日本の報道機関がどのように語っているのかを明らかにするため、9本の社説記事を対象として、批判的談話分析における正当化の文法の枠組み(フェアクラフ, 2003/2012)と、ナラティブ分析における物語批評の手法(Foss, 1996, 2009)の2つを用いた検討を行った。その結果、批判的談話分析の視点からは、AIのリスクに対応する必要がある、営利企業の自主規制では不十分であるといった合理化に加えて、欧米で規制が始まっている、社会的な不安が広がっているといった権威化と、民主主義を守る、著作権や文化を守るといった倫理的評価を組み合わせながら、「法規制をすれば安全な社会が実現できる」という神話作成によってAIの規制を正当化していることが明らかとなった。また、ナラティブ分析の視点からは、「信頼できる情報」、「権利や原則」、「規制と開発・利用のバランス」という3つのテーマが、日本国民や諸外国とIT企業を登場人物として登場させ「守られるべき『安全』」という大きな物語を醸し出すことでAIの規制を正当化していることが明らかになった。
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