本研究は独立前後のインドにおける公用語問題、特に英語を公用語にするかどうかをめぐる南北間の論争に着目し、両者が構築した「言語イデオロギー」の論理構造を明らかにすることを目的とした。北部は英語を公的地位から排除することで精神の脱植民地化と大衆との融合を図り、独立国インドのアイデンティティを構築しようとした。一方、南部は英語を公用語として残すことで、北部と対等な立場を維持し、南部独自のアイデンティティを守ろうとした。本研究は、特定の言語を選択し、それを正当化する論理が共同体構想の一部であり、言語の選択はその価値だけではなく、それを話す人びとやその社会の価値づけをも同時に行う。言語イデオロギーの構築は、集団的アイデンティティの構築の一環なのであり、特にインド独立期において、それが集団的(政治的)アイデンティティの性質を決定したといえるほどの重要性をもっていたと言えるであろう。