2019 年 18 巻 4 号 p. 253-260
唇顎口蓋裂患者は,上顎劣成長や不正咬合などの審美的および機能的障害をきたすことが多く,インプラントを用いた包括的治療が有用である.今回われわれは,唇顎口蓋裂患者に対し,歯科インプラントおよび顎矯正手術を行い咬合機能の回復を得た1例を報告する.
患者は48歳の女性で,歯性上顎洞炎,上顎劣成長,多数歯歯周病にて全顎的および審美的治療を希望し当科初診となった.唇顎口蓋裂に対し幼少期に数回の手術が施行されていたが,顎裂は残存し上顎劣成長の状態であった.インプラント治療に先立ち,根尖病巣を有した543 12345の抜去,自家脱灰象牙質とハイドロキシアパタイト(以下,HA)顆粒を用いた顎裂部骨移植およびソケットプリザベーションを行った.6か月後に上顎歯牙欠損部にインプラント埋入を行い,顎矯正手術のためにインプラント支持型プロビジョナルレストレーションを作製した.最後に両側下顎矢状分割術およびオトガイ形成術を施行し,咬合の安定を図ったのちに最終補綴物を装着し,患者の満足を得た.