2001 年 21 巻 5 号 p. 341-347
近年の仮想現実感(VR)技術の成熟によって,高度な現実感を安価に提供できるようになったことに伴い,VRを福祉分野に適用する試みは大きく広がりつつある.本稿では,福祉目的のVRシステムだけではなく,VR要素技術の福祉適用まで含めて,福祉VR研究の現状について概観した.VRは福祉機器シミュレーション,障害者の社会生活訓練のほか,教育支援,コミュニケーション支援など様々な分野に適用されている.一定の成功を収めている福祉VR研究は,決して高度な現実感生成を目的とせず,VRなりの現実感を最大限発揮することを目指し,被支援者との密接なコミュニケーションのもとで進められたものが多い.今後は高度に発達した情報ネットワーク,モバイルコンピューティング技術もとりいれ,人と人とのコミュニケーションを密にする福祉VRの発展が望まれる.