顔には表情筋と呼ばれる筋肉があり,それらの動きによって表情が造られる.本研究は,表情の変化がわかりにくい重症心身障害児者(以下,重症児者)のストレス時に動く表情筋によって構成される表情を明らかにすることを目的とする.方法は,重症児者の日常生活を定点観測し,心拍変動および表情筋の動きを感知することによって数値データとして収集した.不安や苦痛などで交感神経系のはたらきが活発になり,心拍数が増加する変化を手掛かりに,重症児者の状況と表情筋変化に着目し,それらの観測データを統計学的に分析した.1症例(大島分類1)のストレスと考えられた3場面を重回帰分析し,表情筋の動きのうち共通する説明変数は「閉眼」するであり,ストレスの程度が強いときには「眉の外側を上げる」動きが有意であった.表情の変化が微細であり,肉眼では捉えにくい重症児者の表情変化について,視覚化できる可能性が示唆された.