抄録
炭素質コンドライト中のマトリクスには微小鉱物が多く含まれており,その中の特異な鉱物については,その存在が確認できるだけでも生成条件等の有力な指標となりうる.近年,プレソーラー粒子として注目されてきた炭素鉱物もその1つであり,これら隕石中の炭素鉱物を知ることは太陽系形成初期過程,原子太陽系星雲を考える上で非常に重要である. 炭素質コンドライト中の炭素鉱物については代表的なものにダイヤモンドとグラファイトが挙げられる.これらの電顕鉱物学的研究において,特に南極産炭素質コンドライトについては十分であるとは言えない.そこで今回,試料調整法により炭素鉱物の効率的な抽出を目指し,それらの構造的,組織的特徴を検討した. 試料及び処理法: 今回用いた隕石試料は,Murchison(CM2),Allende(CV3),及び10個の南極産隕石である.試料調整法としては,フッ化水素酸,希硝酸,王水の順に処理を行った.これにより,0.2g-0.3gあるいはそれ以下の隕石からでも,TEM観察に十分な量の炭素鉱物を抽出する方法を確立した. 結果: ダイヤモンドはMurchison隕石および南極隕石Yamato-86751,Belgica-7904より見出された.MurchisonおよびYamato-86751中のものはおよそ20-30Åの丸い球状であり,その格子像より単結晶ではなく,複雑な双晶構造であることが推定された.Belgica-7904からも,電子線回折によりダイヤモンドと一致する回折線が確認された.像においては前者とは異なり,明確な粒子は確認できなかった. グラファイトおよび低結晶度炭素に関してはしっかりとした板状のもの,リボンが絡み合ったように見えるもの,直径5-10nmの”ナノボール”状のもの,球状のもの,中心部から同心円構造が見られるもの,不定形なものなど多様な形態のものが見出された.このうち,同心円状構造が見られるものは高い熱変成を受けたとされる[1] Belgica-7904のみから見つかった.全体的に結晶度については炭素質コンドライトの岩石学的分類による明確な差が認められた.例えば,Allende(CV3)中のものは結晶度が比較的良く,しっかりとした板状のものも良く観察されるのに対し,Murchison (CM2)中のものは低結晶度で,不定形のものが主であった.南極隕石についても,この二つのタイプに分類できた. 結晶度の良くないタイプの隕石の赤外スペクトルからは,有機物由来と見られるC-H結合等のピークが認められた. また,Tagish Lake隕石から初めて発見され[2],有機物と確認されたコア-マントル構造を持つドーナツ状炭素物質と同様の組織が,南極隕石Yamato-793321,Yamato-81020,Yamato-86720,Yamato-86751より見出された.さらに,球状の炭素に関して,この大きさや,結晶度が悪く,EDSスペクトルもドーナツ型のものと同様多くのO,Sなどを含むことにより,これらも有機物の形態の一つである可能性が示唆される. これらの粒子に対して,電子顕微鏡下での加熱実験を行い,熱に対する挙動を検討した.References:[1]Akai J.,(1988) Geochim. Cosmochim. Acta 52,1593-1599 [2]Nakamura K. et al.,(2001) Meteorit. Planet. Sci. 36,A145