日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
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G1 惑星科学
  • 香内 晃
    セッションID: G1-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに
     隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドの特徴は次の通りである:i) 同位体異常を示すXeが含まれる,ii) SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在する,iii)しかし,炭素同位体はsolarである.これまでにいくつかのモデルが提案されているが,以上の3つの特徴をすべて説明できるモデルは存在しておらず,ダイヤモンドの形成機構はいまだによく分かっていない.そこで,星間分子雲から隕石母天体への進化過程で起こりうる有機物の生成・変成過程を再現する実験を行った.
    2.実験
     本研究では,次の2つの実験を行った:1)分子雲中での氷(H2O:CO:NH3:CH4=4:2:2:1)への紫外線照射による有機物の生成と,その有機物が低密度雲でさらに105年紫外線照射を受ける過程を再現する実験,および,2)分子雲有機物が炭素質隕石母天体に取り込まれた後に起こる,水質変成・熱変成を再現する実験.
    3.結果
     1)分子雲で生成された有機物は,電子線回折ではハローパターンを示すが,高分解能電子顕微鏡観察では1 nm程度のダイヤモンド微結晶(または,ダイヤモンド前駆体)とグラファイトの存在が明らかになった.さらに,低密度雲でのさらなる紫外線照射によりダイヤモンドが5 nm程度まで成長することがわかった. 
    2)分子雲有機物の炭素質隕石母天体での水質変成(100-200oC)および熱変成(200-400oC)により,ダイヤモンド,グラファイト,アモルファスカーボン,カルビンが形成されることが明らかになった.
    4.議論
     隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドは炭素星や超新星起源ではなく,星間雲起源だと考えるとこれまで問題になっている以下の事を無理なく説明できる:i)SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在することは当然である,ii) 炭素同位体も太陽系と同じ物質からできたので同じで当然である,iii) 超新星起源のXeが星間雲の有機物に打ち込まれ,これがダイヤモンドに取り込まれた.また,プレソーラーダイヤモンドに起源の異なるものがあることや,彗星起源の惑星間塵は小惑星起源の惑星間塵と比べてダイヤモンドの含有率が低いことは,プレソーラーダイヤモンドの一部が隕石母天体で形成された可能性を示唆する.
  • 杉田 光弘, 留岡 和重
    セッションID: G1-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに
     Ningqiang隕石は、CV3タイプともCK3タイプとも言われている特異な炭素質コンドライトである。Bulk組成でCa、Alの量は特に少ないわけではないが(0.82×CV平均値)、他のCV3隕石と比べるとCa、Alに富む包有物(CAI)の存在量が非常に少ない[1.0vol% vs 4.8 vol%(CV平均値)]。その理由として:1)Ningqiang隕石にはもともとCAIが少なかった、あるいは2)CAIは普通に存在したが、変成作用によって一部が消失した、という2つの可能性が考えられる。これまでの我々の研究によって、NingqiangのほとんどのCAIに、通常CAIには見られないnephelineが含まれていることがわかっており、上記 2)の可能性が示唆された。 NephelineはCV3隕石やCO3隕石のCAIにも含まれていることが知られている。Naに富むnephelineは、CAIの初生鉱物に比べ、凝縮温度がはるかに低いため、その成因は論争の対象になってきた。今回新たなNingqiang試料を加え,合計16個のCAI(径100-700 μm)を見いだした。それらのCAI、さらにコンドリュール、マトリックスを光学顕微鏡、走査電子顕微鏡、EPMAを用いて詳しく調べ、nephelineの存在形態、そして、その成因を探った。
    2.結果
     Meliliteを含むCAIのほとんどは、meliliteが細粒化すると同時に一部がnephelineに交代されている。コンドリュールにも、そのmesostasisがnephelineに交代されているものが存在する。また、マトリックスには、hibonite、fassaite、ilmeniteを含むCAIの破片(径35-80μm)と思われるものや、fassaiteなどのCAIに通常見られる鉱物やnephelineが単独の粒子(2-5μm)で分布している。 Broad-beamによる EPMA分析の結果、NingqiangマトリックスはCV3隕石と比べ、Na、Alに富んでいることがわかった[Na:1.2wt%、Al:4.1wt% vs Na:0.37wt%、Al:2.0wt%(CV平均値)]。X線元素マッピングを行ったところ、マトリックス中にNa、Alは広範に分布しており、両者の分布に強い相関が見られた。これらの結果から、マトリックス中のNa、Alの相関はnephelineの分布に対応していることは明らかである。つまり、マトリックスには広い範囲にnepheline粒子が高密度で分布している。
    3.考察
     CO3隕石の場合、熱変成度が高くなるほど、CAI中のnephelineの量が増えていることが知られている。しかし、熱変成とマトリクス中のNa量に相関があるということはない。このことから、変成により生じたnephelineが熱の影響によりマトリックス中に拡散していく、というプロセスは考えにくい。 一方、Ningqiang隕石のマトリックスでは、nephelineがCAIの破片と思われるものとともに広く分布している。これらの結果から、Ningqiang隕石のCAIは隕石母天体に集積した後、以下のような過程を経たと考えられる:(1) 母天体において強い変成作用を受け細粒化し、大部分がnephelineに交代された。(2) その後、角れき岩化作用により一部粉砕され、現在のマトリックス粒子(大部分はFeに富むolivine)と混合した。そのため、現存するCAIの量は少なくなったと思われる。
  • 石崎 倫子, 留岡 和重
    セッションID: G1-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに
     CK隕石は炭素質コンドライトの中で唯一強い熱変成を受けており,そのほとんどが岩石学タイプ4-6に属する。CK隕石のほとんどはケイ酸塩暗色化という特異な特徴を示す。ケイ酸塩の暗色化は、隕石の薄片を透過光で見たとき、ケイ酸塩(おもにカンラン石,その他に斜長石)が薄黒・茶色にくすんで見える現象である。この暗色化は、衝撃を受けたときに共融点の低いFe-Niメタルや硫化物が溶融し、ケイ酸塩の割れ目に入りこむことによって起こるとこれまで考えられてきた(Rubin, 1992)。しかし、Kobe (CK4) 隕石のケイ酸塩暗色化は、細かい気泡を含んだカンラン石(vesicular olivine)によることが示された(Tomeoka et al., 2001)。本研究では、Kobe隕石以外のCK隕石においても同様な原因で暗色化が起こっているかを明らかにすること、また暗色化の成因の解明を目的とし、光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡を用いてALH85002(CK4,ショックステージS2)、Y693(CK5,S2)の2つの隕石の観察・分析を行った。
    2.結果
     ALH85002は特に全体的に暗色度が強く、Y693は暗色度の強いところと弱いところが不均質に分布する。ALH85002、Y693のケイ酸塩暗色化を起こしている部分において、細かい気泡(球径0.05-5μm)やマグネタイト、ペントランダイトの微粒子(球径0.1-8μm)を含んだvesicular olivineが、non-vesicular olivine(気泡を含まないカンラン石)の粒子間を埋めて,網の目状の脈を形成している。また、ALH85002のマトリックスで、比較的暗色度が強い部分と弱い部分におけるvesicular olivineの占める割合(modal%)を測定したところ、それぞれ>20%、 <10%であった。
    3.考察
     暗色化の強いALH85002、Y693両隕石にvesicular olivineが広く存在すること、そして、一つの隕石でも、暗色化の強いところほどvesicular olivineの体積比も大きいことが示された。したがって、これらの隕石のケイ酸塩の暗色化の原因はvesicular olivineであると言える。 Vesicular olivineは、その気泡や球形の包有物を含んだ脈状の組織から衝撃溶融によるものと考えられる。空隙率の高い炭素質コンドライトは、衝撃により大きな加熱が生じる。また、揮発性成分に富むため、溶融と同時に発泡しやすい。しかし、 ALH85002、Y693はどちらもショックステージS2であり、S2の衝撃圧ではカンラン石が溶融するほどの高温には至らない。我々は、vesicular olivineは、高温 (>600℃) に熱せられた天体が、比較的低い衝撃を受けることによってできたと考える。Kiriyama et al. (2001) の高温 (600-800℃) におけるAllende衝撃実験からも、そのことは支持される。ゆえに、我々は、CK隕石のケイ酸塩暗色化は、高温に加熱された天体における衝突の結果起こる現象だと考える。
  • 三浦 保範, 胡 夏高, 李 建保
    セッションID: G1-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに:大きな中国大陸には落下隕石が多いが、隕石衝突孔は報告されていない。2002年度山口大学日中学術交流基金(旅費)の一部援助で中国科学院天地研究所と共同調査したところ、砂漠の隕石や隕石衝突孔の発見が中国側でなかったことが分かった。本報告では、2001年からの中国での隕石衝突孔調査(青海大学学長の協力による)の調査と分析結果の一部を報告する。
    2.中国の隕石衝突孔の問題点:これまで中国の大半を占める低地に隕石衝突孔が報告されていないのは、2大河による破壊埋没によると考えられる。高地に比較的残存している可能性が高いので、4千m級の高地の青海省地域を選んだが、国家的事業をしている近くなので、道路から奥地はいることは学術研究調査であっても困難であり、現地の中国人の強力な協力がないと実現が困難であった。事前の衛星画像と地質図の解析でも、大陸的な隕石衝突孔が高地でも少ない。その理由は、3小大陸が合体して現在の中国大陸が形成されているため、最初の衝突地形の破壊が進んでいると考えられる。日本と同じように、中国でも衝突起源の物質の回収が、隕石衝突構造研究の第一となる。現地で提供された詳細な地質図から円形状分布をしている、青海湖と西寧市を候補地として、調査した。
    3.候補地1―青海湖現在約60kmx30kmであるが、3孔の10kmサイズの構造が合体している。孔底も破壊されているため、湖水が流れ込むだけの異様な構造になっている。実験室で確認している衝突関連物質として、破砕岩、シャッターコーン、Fe-Ni含有粒子(Mg欠如)、破砕石灰岩、衝撃変成炭素物質などである。
    4.候補地2―西寧市現在約20km径であるが、3つの河川と断層線で構造が破砕されている。中央丘状構造が残存している。実験室で確認している衝突関連物質として、破砕ガラス岩、シャッターコーン状岩石、シリカの多い岩石にK長石・Fe-Ni含有粒子がある。異様な物質として、岩塩・硫化物粒子などがあり、かなりの地殻変動を受けている。
    5.まとめ:中国の隕石衝突構造の候補地として、衛星・地形・地質情報解析と、X線同定とASEM分析から、青海湖(破砕石灰岩中のFe-Ni粒子、シャッターコーンなど)と西寧市(破砕岩、Fe-Ni粒子)であることが分かってきた。
  • 鈴木 昭夫, 大谷 栄治
    セッションID: G1-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに
    惑星形成のシミュレーションによれば、形成初期には内部が大規模に融解し、マグマオーシャンが形成されたと考えられている。そのような状態においては、固相と液相の分別が効率よく行われるため、金属相が惑星中心部に沈み込んでコアを形成し、またマントルでは結晶が分別して化学的不均質がもたらされた可能性がある。特に、上部マントル条件でリキダス相と考えられるオリビンとマントル組成融体との密度関係はマントルの分化過程を左右するため大変意義深い。これまで、筆者らは初期地球のマグマオーシャンを想定し、地球マントル組成融体の密度を高温高圧下で測定する実験を行ってきた。また、地球に比べてFeOに富む火星のマントル組成融体に関しても研究を進めている。火星マントル組成のモデルとしては、主としてMorgan and Anders (1979)によるもの(MA)とDreibus and Wanke (1984)によるものがあるが、後者は火星由来と考えられるSNC隕石をもとに推定されており、Shergottite Parent Body(SPB)と呼ばれている。MAとSPBの各モデル組成の特徴としては、どちらも地球マントルに比べてFeO/MgO比が高いが、MAはSPBに比べてAl2O3が重量%で倍程度も多い。MA組成融体の密度に関しては、以前に報告しているので、今回はSPB組成融体に関する密度測定の結果を主に報告する。加えて、火星マントル条件で相平衡実験も行ったので、その結果も示し、火星形成初期でマントルの分化を議論する。
    2.実験方法
    高温高圧実験にはKAWAI型マルチアンビル装置を使用した。密度測定には結晶浮沈法を用い、SPB組成の計算塩融体中で密度既知の物質が浮上するか沈降するかを調べた。具体的には、まず、試料を加圧し、続いて加熱してSPB組成珪酸塩のリキダス以上に所定の時間保持した後、急冷してから試料を回収した。それから、試料容器を切断して研磨し、密度比較用の結晶が実験前と比べてどちらに移動しているかを調べた。相平衡実験においては高温高圧下で10分から120分保持したものを回収し、EPMAおよび顕微ラマン分光装置で相の同定を行った。
    3.結果と考察
    オリビンを用いた実験の結果、6.0GPaではFo94組成のオリビンは浮上し7.0GPaでは沈降した。また、ダイヤモンドを用いた浮沈実験から、SPB組成融体の密度は14.2GPaでダイヤモンドの密度と等しくなることが分かった。密度測定実験から、SPB組成融体の密度と、その融体と共存しうるオリビンとの密度逆転は9.0GPaで起こることが示された。一方、相平衡実験によると、10.0GPaでのリキダス相はオリビンで、14.0GPaではガーネットであり、12.0GPa付近でリキダス相が変わる。これらの結果により、リキダス相であるオリビンは6.5GPaから12.0GPaまでの圧力範囲で周囲のSPB組成融体よりも高密度になり、火星のマグマオーシャン中を浮上しうることが示された。また、リキダス相の分別によって生じる成層構造により、火星で噴出したいくつかの異なるマグマが作られたと考えられる。
  • 白瀬 理絵, 大谷 栄治, 近藤 忠, 久保 友明
    セッションID: G1-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    コロネン(C24H12:分子量300.36)はPAHの一種で、宇宙空間に存在する有機物の候補と考えられている。その構造は環状に結合した7つのベンゼン環からなり、化学的に比較的安定で難水性の物質である。実際に火星由来の炭素質隕石中にも見つかっており、その赤外スペクトルは星雲に見られる赤外放射スペクトルと類似している。このコロネンを試料として用い、コロネンの高温高圧下での安定性について研究した。また、高温高圧下におけるコロネンと水の反応性について研究を行った。高圧発生として、MA–8型マルチアンビル高圧発生装置を用いた。試料のコロネンは前記の装置によって高温高圧状態にした後、回収試料をFTIR、ラマン分光、粉末X線、MALDIによって分析した。本研究ではこれらの結果を用いて、氷天体中の有機物が安定に存在する可能性のある範囲を議論した。回収試料の分析から、コロネンは1.6GPa、400℃において、出発試料と変化しない赤外スペクトルのピークを示し、コロネンはこの条件において安定であることがわかった。コロネンは4GPa、800℃において、グラッシーカーボンという非晶質の炭素物質になることがわかった。この条件における回収試料の赤外スペクトルは不活性で、ラマン分光と粉末X線回折によって分析すると、グラッシーカーボンのラマンスペクトルとX線回折パターンに良く似たピークを示した。しかし、グラッシーカーボンのX線回折パターンには見られない不明のピークがあり、これは歪んだダイアモンドのピークに相当する可能性があることがわかった。コロネンは6GPa、800℃においては出発試料とほとんど変わらない赤外スペクトルのピークを示し、それに加えてコロネンが二つ結合した物質であるジコロニレンのピークが見られた。また、MALDIによる分析結果から、この条件においてコロネンの2、3、4量体が生成していることがわかった。コロネンと水を試料として用いた実験では∼3GPa、270℃においてコロネンと水の反応は見られず、コロネンは安定であった。これらの結果からコロネン、コロネン–水系における“相図”を作成し、氷天体の内部の温度圧力条件に照らし合わせて、氷天体内部の有機物の安定性を議論した。それによると、コロネンは氷天体エウロパの500km深度付近までは安定に存在するが、より深部へ行くと分解し、その最深部ではグラッシーカーボンを生成すると考えられる。また、エウロパよりも大きな氷天体、ガニメデの深部ではコロネンは分解せず、重合すると考えられる。
G2:サブダクションファクトリー
  • 臼井 寛裕, 中村 栄三, Helmstaedt Herwart
    セッションID: G2-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    沈み込み帯は地球表層物質がマントル中に導入される場であり、沈み込み帯での物質循環を定量的に理解することは、固体地球の化学進化を議論するうえで重要である。スラブの一部を構成する海洋地殻は、その沈み込みに伴いザクロ石と単斜輝石を主要構成鉱物とするエクロジャイトと呼ばれる岩石になることが知られており、マントルへもたらされた海洋地殻に起源を持つ物質(海洋地殻起源物質)として、エクロジャイトを用いた数多くの研究が行われてきた。本研究では、アメリカ合衆国南西部、コロラド台地に約30 Maのキンバーライトの火成作用によりもたらされた、エクロジャイト捕獲岩に着目した。我々のこれまでの研究により、このエクロジャイト捕獲岩の原岩は、白亜紀後期に沈み込みを開始した海洋地殻の一部であることが明らかとなっており (Usui et al., 2003)、本研究ではそれらの全岩微量元素及び、Sr・Nd・Pb同位体組成データに基づき、沈み込む海洋地殻の変成過程における化学進化を議論した。 本研究で用いたエクロジャイト捕獲岩は主要構成鉱物として、ザクロ石、オンファス輝石、ローソン石、ゾイサイトを含む。エクロジャイト捕獲岩の変成温度圧力は、ザクロ石–単斜輝石地質学温度計及びコーサイトの存在により、3 GPa(深さ約90 km)において約550 ℃から750 ℃と決定された。また、これらエクロジャイトは、捕獲岩として短時間で地表にもたらされた為に、二次的な変成鉱物の存在がほとんど認められず、後退変成作用の影響が非常に小さいと考えられる。このように、低温高圧型の変成作用を被った本研究対象のエクロジャイト捕獲岩は、島弧火成作用地域の下に存在する海洋地殻の地球化学的情報を十分保持していると予想される。 XRF及びICP-MSを用いて、エクロジャイト捕獲岩の全岩主成分・微量元素組成分析を行ったところ、エクロジャイト捕獲岩の全岩主成分元素組成は、海洋底変質を被った中央海嶺玄武岩 (変質MORB)の組成領域に含まれ、例えばSiO2 に関し49.0–52.3 wt.%となっている。また、Zr、Hf、Nb、TaといったHFS元素に関しても、同様の傾向を示す。一方、軽希土類元素(LREE)やRb、Sr、U、Th、Pb濃度に関しては、すべて変質MORBに比べ2–10倍程度高い値を示す。次に、TIMSを用い全岩試料のSr・Nd・Pb同位体組成分析を行った。捕獲岩の噴出年代(30 Ma)における、Sr 同位体初生比は0.70502–0.70842であり、&epsilon;Ndは -3.1–-1.2という負の値を示す。このことは、顕生代の変質MORBの&epsilon;Ndが一般に正の値を示すことと矛盾している。また、30 MaにおけるPb同位体初生比に関しても変質MORBに比べ高い値を示し、その組成領域は206Pb/204Pb–207Pb/204Pb及び206Pb/204Pb–208Pb/204Pbダイアグラムにおいて変質MORBと海洋底堆積物両者の間にプロットされる。すなわち、これら全岩微量元素及び同位体組成の結果は、エクロジャイト捕獲岩の原岩である海洋地殻が、中央海嶺において海洋底変質を被った後、沈み込みに伴う変成作用時に海洋地殻の上位に位置する海洋底堆積物由来の変成流体によって汚染を受けた、ということを示している。 これまで、一部の海洋島玄武岩に見られるSr・Nd・Pb同位体組成異常は、マントル中に過去に沈み込んだ堆積岩が存在する証拠として考えられてきた。しかしながら、本研究の結果は、そのような同位体異常は必ずしも堆積岩そのものが海洋島玄武岩の発生域であるマントル深部まで沈み込む必要がなく、堆積岩由来の変成流体によって汚染された海洋地殻物質が沈み込むことによっても説明できる可能性を示唆している。
  • 増田 純一, 有馬 眞
    セッションID: G2-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    北部マリアナトラフの低速アマグマティック拡大軸に形成された水深5500mに達するCentral Graben(N20°E144°付近)には、上部マントルから上部地殻に達する背弧海盆地殻断面が露出している。深海調査研究船「かいれい」による調査航海「KR02–––01」で行われたドレッジで、上部マントルを構成するレルゾライト、ハルツバージャイト、ダナイト、ウェブステライト、下部地殻を構成するトーナル岩、閃緑岩、角閃石ハンレイ岩、キ石ハンレイ岩、ドレライト、角閃岩、上部地殻を構成する玄武岩が採取された。本研究では主にトーナル岩、角閃石ハンレイ岩の岩石学的特徴と、背弧海盆海洋地殻における化学的分化プロセスを検討した。トーナル岩、斑レイ岩中の斜長石や角閃石の化学組成は、全岩SiO2含有量と良い相関を示した。トーナル岩、角閃石斑レイ岩の全岩主要元素と微量元素は、同一マグマの結晶分化プロセスを示唆する連続的変化トレンドを示し、SiO2含有量約57wt.%に明瞭な屈曲点が認められた。全岩化学組成は、低いK2O値など背弧海盆玄武岩に特有な傾向を示し、島弧に産出する火成岩類と明確に区別される。このことから、本研究の深成岩類はトラフ拡大によって海底に露出した背弧海盆地殻起源岩石と考えられる。結晶分化作用、沈積作用のマスバランス・モデルを考察した。SiO2含有量=57%の変化トレンド屈曲点組成を初生マグマに近い値を示すと考えた。SiO2含有量>57%の岩石類について初生マグマの結晶分化作用モデル計算、SiO2含有量<57%の岩石類について初生マグマの沈積作用モデル計算を行った。斜長石、角閃石、およびイルメナイトの結晶分化作用モデルと沈積作用モデルで、全岩組成の変化トレンドを説明する事ができた。Central Graben Southに露出するトーナル岩、斑レイ岩類は、背弧海盆海洋地殻を構成する玄武岩の部分融解により形成された、安山岩質マグマの結晶分化プロセスで生成されたと考えられる。
  • 土谷 信高
    セッションID: G2-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    大陸地殻の成長の場は沈み込み帯であると考えられるが(Taylor and McLennan, 1985など),沈み込み帯で発生するマグマは玄武岩質であるため(Gill, 1981; Grove and Kinzler, 1986),地殻の平均組成が安山岩質であることを説明できない(Ellam and Hawkesworth, 1988など).この問題に対する1つの解答としてスラブメルティング説(Martin, 1986; Defant and Drummond, 1990)があるが,珪長質メルトがマントル中を上昇する機構については不明の点が多い.高Mg安山岩は,マントルを上昇する珪長質メルトとマントルかんらん岩との反応によって形成されると考えられ(Kelemen et al., 1993; Yogodzinski et al., 1995; 上松ほか,1995; Shimoda et al., 1998),スラブメルトの上昇機構について重要な情報を与えるものである.しかしながら,マントルかんらん岩と珪長質メルトとの反応を直接示す証拠は,高Mg安山岩類から見い出されているわけではない.
    北上山地から新たに見い出された始新世高Mg安山岩は,著しくNiに富む(最大 0.58 wt%)かんらん石斑晶を有することが特徴である.これらのかんらん石斑晶は,高橋(1986)のolivine mantle arrayよりも上方にプロットされ,マントル中のかんらん石よりもNiに富むが,Fe/Mg分配からは全岩化学組成に相当するメルトと平衡共存可能である.また,全岩化学組成をMELTSプログラム(Ghiorso and Sack, 1995)で検討した結果,かんらん石斑晶の組成はほぼ再現することができる.以上のことから,かんらん石斑晶はメルトから平衡に晶出したものであり,かんらん石中のNi含有量が高いことは,メルト中のNi含有量が一般の未分化なマグマのそれよりも高かったためであることが分かる.これは,高マグネシア安山岩類が,同じ程度のCr量を示すマントル由来の初生玄武岩類や多くのボニナイト類と比較して,よりNiに富む特徴を示すことと調和的である.また同様のNiに富むかんらん石斑晶は,瀬戸内安山岩類のうち,松山地域の未分化な高Mg安山岩からも見い出されたことから,この様な特徴は高Mg安山岩に共通な特徴として一般化できる可能性がある.
    北上山地の始新世高Mg安山岩類の岩石化学的性質は,アダカイト質メルトがマントルかんらん岩と反応するモデルによって説明可能である.珪長質なメルトがマントルと反応する場合,メルト中のSiO2とかんらん石が反応して斜方輝石が形成される.この場合,かんらん石–メルト間のNiの分配係数は,斜方輝石–メルト間のそれよりも大きいため,メルトは次第にNiに富むようになると考えられる.以上のように,高Mg安山岩中のかんらん石斑晶がNiに富むこと,すなわちメルト中のNi含有量が通常のマントル由来のマグマよりも高いことは,珪長質メルトとマントルとの反応の証拠を示すものと考えられる.
  • Bayaraa Batkhishig, Bignall Greg, 土屋 範芳
    セッションID: G2-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    The Shuteen Cu-Au prospect, ca. 450km SSE of Ulaanbaatar (South Mongolia) is associated with Carboniferous subduction-related magmatic activity. We initiated a detailed geochemical study to decipher the genetic relationship between subduction-related volcano-plutonic rocks hosting the intrusion-related mineralization.
    In the Paleozoic, south Mongolia experienced island arc accretion and Andean-type magmatism. Extensive rifting and formation of the South Mongolian paleo-ocean (SMPO) characterize Ordovician to Silurian times, with migration of the South Mongolian microcontinent in the Devonian closing the SMPO. The 321 Ma Shuteen Pluton and Dusiin Ovoo Volcanic Formation comprise the 200km2 Shuteen Complex, which represents the root of a magmatic arc associated with subduction of SMPO beneath the South Mongolian microcontinent.
    Major/trace element data indicate the Shuteen Complex comprises well-differentiated, high-K series rocks, with high Al2O3 compositions and <1 ASI molar ratios, whilst Na2O contents and occurrence of accessory titanite indicate plutonic rocks to be "I-type". The Shuteen Complex has chemical characteristics typical of (calc-alkaline series) volcanic arc rocks. Most Shuteen Complex rocks have high Sr/Y and La/Yb ratios, and low Y concentrations indicative of (Archean) high-Al TTD type (high Al2O 3 trondhjmite-tonalite-dacite) magma, whilst low Sr samples are typical of island arc ADR type (andesite-dacite-rhyolite) magmas. Isotopic data indicate fractional crystallization and partial melting of altered MORB produced Shuteen Complex magma and residual eclogite facies. N-MORB normalized plots of Shuteen andesite and granitoids reveal subparallel enriched LREE, depleted HREE patterns. Initial 87Sr/86 Sr and 143 Nd/144 Nd isotope ratios for Shuteen plutonic rocks indicate a N-MORB source.
    High pressure partial melting of subducted slab, including oceanic sediment, produced residual eclogite and source magma for the Shuteen Complex, although our model also requires contamination by crustal material. During its ascent through the mantle wedge, slab-derived magma can assimilate mantle material - however, Shuteen rocks have a Cr:Ni ratio of 2:1, and average Mg-number ∼34, which indicate magma genesis involved negligible mantle contribution. Melting of lower crust was unlikely to produce adakitic-type rocks at Shuteen, as the crust beneath South Mongolia in the Trans-Altai suture zone
    Preliminary fractional crystallization modeling, involving hornblende and plagioclase crystallization, and 30% fractional crystallization of a magma with 10% contaminated crustal material, is consistent with geochemical characteristics in plutonic rocks exposed in the Shuteen area.
  • 藤縄 明彦, 鎌田 光春
    セッションID: G2-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    安達太良火山形成史は,藤縄他(2001)により3分され,その第3期,最近約25万年間は専らカルクアルカリ安山岩(一部デイサイト)マグマを噴出したとされる.今回,噴出物再区分と層序検討をし,地質学的近縁性からグループにまとめた.グループ毎,全岩組成上の類似性を整理し,マグマ供給系の変遷を考察した.
     地形分類,岩相・岩質から, 37噴出物に区分,下記の7グループ(以下,Gと略す)にまとめた.テフラ層序と岩石放射年代から,東中腹部第1・箕輪山Gが25-20万年前(3-1期),山頂部Gの活動が12万年前(3-2期)に対比, 10∼3万年前頃に沼の平南縁・北縁部Gが形成された(3-3期)と解される.東中腹部第2Gは3-1期後期以降,沼尻Gは3-2期頃の活動開始が推定される.
     噴出時期と組成特性から,以下のように4分できる.
    3-1期a:東中腹部第1・第2Gは,FeO*/MgO=2.2∼2.7,TiO2,FeO*,P2O5に富み,MgO,K2Oに乏しい. Rb, Ba, Zrに乏しくYに富み,低SiO2域でSc, V, Co量が高い.Rb/Ba,Nb/Zr,Rb/Zrは各々約0.12, 0.04, 0.25∼0.3を示す.
    3-1期b:箕輪山Gは,FeO*/MgO= 2.0∼2.5,Al2O3に富み,CaO,K2Oに乏しい. Sr, Nb, Sc, Vで独自の傾向を示す一方,液相濃集元素比は3-1期aと類似する.
    3-2期:山頂部Gは組成が分散し,明確な傾向を示さない.これは安達太良第2降下火砕物中の,3種本質物質共存が象徴的である.
    3-3期:沼の平南縁部・北縁部Gは,3-1期aGと対照的にFeO*/MgO=1.6-2.3, TiO2,FeO*,P2O5 に乏しく,MgO,CaO,K2O に富む. Rb, Ba, Zr, Y に富み,Nbに乏しい. Rb/Ba,Rb/Zr ,Nb/Zr も各々約0.14,0.35, 0.035と異なる.沼尻Gの組成も概ねこれと重なる. 
    3-1期aと,3-3期との組成差が,供給系の時間変遷の反映とすれば,3-2期の分散は,転換期でのマグマ系混在を表す可能性がある.そこで,安達太良第2降下火砕物の組成を,層序と併せ検討した. 本質物質は,軽石と下位スコリア(1)と上位スコリア(2;溶岩餅・火山弾を含む)に3分でき,3者間の組成上の食い違いは,いずれの組成変化過程にからも互いを導けず,噴火直前まで3者が孤立したことになる.層序との相関からは,噴火の途中で,MgO, TiO2の乏しい安山岩マグマ(スコリア1)から,苦鉄質安山岩マグマ(スコリア2)へ置換したことが判る.
     スコリア1の主化学組成は,東中腹部1Gの最未分化組成に,スコリア2のそれは,沼の平南縁部Gの変化傾向未分化側延長上に各々対応する.この対応関係は,両G間で差のあるNb, Ni, Cr, V, Sc,やRb/Ba, Rb/Zrでも成立する.よって,12万年前の大噴火時に,苦鉄質マグマ供給系の転換が推定される.25_から_20万年前,マグマ系1(3-1期a+スコリア1)が形成された.およびマグマ系2(3-1期b)が独立して形成された.約8万年の噴火休止中,前者には未分化なマグマが残存したが,後者は噴出能力を失った.
    12万年前頃,残存マグマ系1下部に,マグマ系3(3-3期)が付加する.熱供給により珪長質マグマが発泡して噴火し,マグマ系1も噴出する.引き続き,マグマ系3上部も残存珪長質マグマと爆発的に噴火,次第に静穏な噴火へと推移した.こうして溜まり内の苦鉄質マグマはマグマ系3へ置き換わり,約10万年以新の活動に引き継がれた.
  • 大谷 栄治
    セッションID: G2-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    プレート内部では水は様々な含水鉱物として地球深部に運ばれる。運ばれた水はマントル遷移層に保持される可能性がある。マントル内部にはプレートの沈み込みに関連した4つの脱水帯とマントルプルームの上昇にともなう一つに脱水融解域が存在する可能性がある。 プレートの沈み込みに関連した4つの脱水帯として第一は、蛇紋石や角閃石の脱水分解反応によって、島弧の火山活動が引き起こされる最上部マントルである。第二はマントル遷移層である。マントル遷移層に沈み込む水は、含水E相やウオズレアイトに蓄えられる。マントル遷移層では、プレートの温度条件によっては、E相の脱水分解反応が生じる可能性がある。また、ウオズレアイトが含水量の少ないリングウッダイトに相転移する際にも脱水反応が生じる。第三の脱水帯は下部マントル最上部である。ここでは、プレート内に存在したスーパー含水B相の脱水分解反応と含水リングウッダイトがペロブスカイトとマグネシオブスタイトに分解する際に脱水反応が起こる。第四は、下部マントル深部深さ1200∼1400km付近である。ここでは、下部マントルの含水相D(G)相が脱水分解を起こすことが知られている。 マントルプルームに関連する脱水帯は、上部マントル最下部である。ここでは、水を含んだマントルプルームは含水のソリダス温度が低下することにより、脱水融解を引き起こす可能性がある。地震波トモグラフィ研究によって地震波の低速異常のあるものは、このような脱水域に対応する可能性がある。 MORB––水系の高圧実験によると、ガーネットからペロブスカイトへの相転移圧力が水の存在下で約1GPa程度低圧に移動し、カンラン岩との密度逆転がなくなり、MORB成分は常に重くなる。その結果、カンラン岩と玄武岩層は分離せず、下部マントルに沈降する。一方、無水の条件では、玄武岩層は分離してマントル遷移層や下部マントル最上部に集積する可能性がある。このように、水はプレートの運動に大きな影響を与える。
G3:マグマの発生・上昇・定置
  • Litasov Konstantin, 大谷 栄治
    セッションID: G3-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    Water plays very important role in the geodynamics of the Earth's interior. It can dramatically affect physical properties, melting temperatures and melt compositions. Recently, Litasov and Ohtani (2002) reported phase relations at 10-25 GPa for the starting composition of CaO-MgO-Al2O3-SiO2-pyrolite+2wt% H2O and found significant decrease of intensive melting temperature (defined as an apparent solidus) at the pressures of 13-16GPa near olivine/wadsleyite boundary. This observation can be connected with differences in water storage capacity in wadsleyite and olivine. It is also play very important role for possibility of hydrous origin of the volcanics rocks (like komatiites) in Archean, when temperature of mantle plumes could be enough for very deep melting. Possible release of water from hydrous wadsleyite to the melt or fluid may cause intensive melting in the bottom of the upper mantle. The possibility of hydrous origin of some Archean komatiite magmas was recently demonstrated by different studies. However, 2wt% of H2O should be very high for the natural systems. Therefore, here we tested hypothesis of hydrous melting at the bottom of the upper mantle in the pyrolite with 0.5wt% of H2O. Phase relations and melt compositions have been determined at 13.5-17.0GPa and temperatures from 1600 to 2100°C. Garnet is the first liquidus phase in the pressure range of 13.5-17GPa followed by olivine at 13-16GPa and anhydrous phase B at 16-17GPa. Clinopyroxene appears only in experiment at 13.5GPa and 1600°C. Experimental products at 13.5GPa and 1600-1900°C do not contain any quench crystals. Quench crystals of the partial melt were detected at 13.5GPa and 1950°C. Similarly, at 16-17GPa quench crystals were detected only at 2100°C, whereas they are absent at lower temperatures. Therefore, the apparent solidus temperature at pressures above 16GPa is close to that of dry solidus, however it is lower than dry solidus at 13.5GPa (1900°C and 2050°C respectively). We do not detect drastic decrease of solidus temperature along phase boundary between olivine and adsleyite in the pyrolite with 0.5wt% H2O. The solidus temperature decreases gradually. Compositions of small fraction melts of pyrolite+0.5wt% H2O fall in the range of those obtained in dry pyrolite and pyrolite+2.0wt% H2O (Litasov and Ohtani, 2002). Partial melt at 13.5 GPa has high CaO (13.8wt%). The CaO content decreases significantly with increasing pressure from 13.5 to 17GPa. The SiO2 contents of partial melts at 16-17 GPa is high (50-52wt%) relative to that at 13.5GPa (48.2wt%) due to formation of anhydrous phase B.The present results for pyrolite with 0.5 wt% H2O still support a model for hydrous origin of some ancient komatiites by dehydration melting of rising wet plumes at the base of the upper mantle. Hydrous melting of mantle plume can be started at every pressure below 15-16GPa (olivine/wadsleyite transition). The water affects on composition of the partial melts indirectly, changing melting temperature and degree of partial melting.
G4:元素の移動と鉱床
  • Gedikile Harrison, 根建 心具
    セッションID: G4-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    菱刈浅熱水性金鉱床は極めて高品位大鉱床のひとつであり,本鉱,山田,山神の鉱床からなる。これらの幾つかの鉱脈と母岩に含まれる硫黄の同位体を測定し,熱水の起源を考察した。鉱床に関係したと考えられる黒園山と獅子間野石英安山岩中に見られるマグマ起源の硫黄は0ないし+2パーミルを示すのに対して,鉱床及び熱水変質の硫黄は-3から+16パーミルまで変化する。比較的重い数値は最末期の不毛黄鉄鉱や鉱脈中の後期の破砕帯の中に認められるが,大半の値は-3から+4パーミルの値を取り,石英安山岩のそれとよく一致する。硫黄のマグマ起源説を支持する。重い値は地表近くで鉱液が一端参加され硫酸根となったものが再び沈降して,ほとんど還元されたことを意味する。
  • 原 淳子, 土屋 範芳
    セッションID: G4-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1、はじめに 地熱地帯では様々なタイプの変質帯が形成され、地熱現象を化学的に特徴付けている。熱水/岩石相互作用によって生成される地熱流体は、その温度・化学条件によって特定の変質帯を形成する。これまで数多くのField調査及び室内鉱物合成実験が行われ、2次鉱物の安定領域が明らかにされてきた。しかし、どのようにして特定元素に卓越した地熱流体が形成し、2次鉱物が生成されていくのかは未だ明らかにされていない。変質帯を特徴づける粘土鉱物やzeoliteといった鉱物相は、そもそも不安定なため平衡状態を有さず、準安定相として存在し、形態を変化させていく。このような現象は、岩石あるいは鉱物と熱水組成の平衡関係のみからでは説明できず、系内における熱水化学組成の時間的・空間的変化を考慮する必要があると考えられる。そこで本研究は、反応のダイナミクス性に注目し、実験的に熱水/岩石反応特性を解明することによって、変質帯の形成メカニズムを評価することを目指した。
    2、実験方法 実験は回分式実験と流通式実験の2つに大きく分け、水熱実験を行った。出発物質には両実験系とも火山砕屑岩を用い、温度・圧力条件は75 – 250 ℃の地熱温度、飽和蒸気圧下で行った。回分式実験では主要岩石構成元素の見かけの溶解・沈殿速度を求めると共に、溶解挙動から溶解沈殿メカニズムの考察を行った。一方、流通式実験では流通経路内数箇所に溶液採取地点を設け、各地点の溶液濃度変化を解析することにより熱水/岩石界面での物質移動現象を定量的に評価することを試みた。
    3、流体/岩石反応速度 火山砕屑岩はIncongruentな溶解挙動を示し、岩石の溶解速度は元素によって各々異なることが明らかとなった。反応溶液の化学組成はこのような溶解速度の差異によって特徴づけられており、2次鉱物の組成をも左右した。これは元素により反応律速段階が異なることに起因している。特にアルカリ及びアルカリ土類金属に関しては溶解・沈殿挙動が溶液組成の変動とよく一致することが確認でき、それに基づいて構築した溶解・沈殿反応速度モデルは実験結果と整合性を有した。この反応速度は反応の進行と共に形成される反応表面層の厚さを著しく反映しており、その厚さが測定値とほぼ一致することも確認されている。
    4、物質移動度 岩石表面からBulk溶液への移動を示す物質移動係数も溶解速度と同様、各元素によって異なり、温度・流速条件に強く依存して変化した。その結果として低温ではCaの移動度、高温ではNaの移動度が高く、流速が速くなるとこの傾向を保ちつつKの移動度が上昇することが明らかとなった。一方、アルカリ及びアルカリ土類金属などのネットワーク装飾元素に比べるとSi, Alといったネットワーク構成元素は著しく移動度が少ない。このように物質移動度は、主要岩石構成成分の溶脱・濃集作用を裏付ける基礎パラメータを示しており、ここで定量的に評価した速度及び物質移動パラメータを導入し、移流 - 拡散 - 反応速度式を構築したところ、流通系における実験結果とよく一致する結果も得られている。この現象は、鉱物表面からアルカリイオンが溶脱し、Si, Al – richな溶脱層が形成されると共に著しく溶解した元素が流出域方向に沈殿する様子を描いている。
    5、まとめ 地熱系における特定元素の溶脱と富化作用は、変質帯形成過程の重要な役割を担っており、今回のようなdynamicアプローチを行うことにより、地熱変質作用に関する熱 - 水理 - 化学反応過程の相互理解がより深まると考えられる。
  • 黒澤 正紀, 島野 貞純, 石井 聰, 島 邦博, 加藤 工
    セッションID: G4-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     ペグマタイトや熱水脈の流体包有物の元素濃度は、花崗岩起源流体に関連した鉱床形成や元素運搬に関する直接的な情報を与える。そのため、個々の脈の流体包有物の元素分析については既に多くの研究があるが、ペグマタイトから熱水脈・熱水鉱床への移行過程での花崗岩起源流体の組成変化を追跡した研究は少ない。そこで今回は、花崗岩起源流体と熱水鉱床の関係を明らかにするため、甲府花崗岩体周囲のペグマタイトと熱水脈に含まれる流体包有物の金属元素濃度をPIXE (粒子線励起X線分析法)によって分析し、その移行過程での運搬元素の濃度と種類がどのように変化するかを検討した。 試料には、山梨県甲府市黒平のペグマタイト脈、甲府市水晶峠の熱水石英脈、長野県川上村川端下の石英脈からの単結晶石英を用いた。これらの脈は、甲府花崗岩体に関連した一連の熱水活動により形成したもので、川端下の石英脈は甲武信鉱山の銅—鉄鉱床の鉱化作用と関係している。黒平の石英は気泡と液体からなる2相包有物を含み、その均質化温度は320-330度である。水晶峠の石英は、気泡と液体からなる2相包有物と気泡と液体と岩塩結晶からなる3相包有物を含み、2相包有物の均質化温度は380-480度、3相包有物の均質化温度は370-420度、3相包有物の塩濃度は31%である。川端下の石英は、気泡と液体と岩塩結晶からなる3相包有物を多数含み、気泡の割合が高い2相包有物を少量含む。2相包有物の均質化温度は360℃、3相包有物の均質化温度は350-400度、3相包有物の塩濃度は30-38%である。分析は、筑波大学加速器センターの4 MeV プロトンビームを用いて行った。この分析条件では、流体包有物中のCaを相対誤差33%、Feを9%、Znを6%、Srを5%、BrとRb を4%の相対誤差で定量できる。また、検出限界は、原子番号や包有物のサイズなどにも依存するが、原子番号25-50の元素に対して4-46ppmである。 定量の結果、黒平の流体包有物には200 ppm の Fe、150-500 ppm のCu、 150-250 ppm のGe、20-100 ppm の Br, Rb, Pb が含まれていた。水晶峠の包有物には、900 ppm のFe、2300 ppm の Mn、250-400 ppm のCu、120 ppm のGe、10-350 ppm の Br, Rb, Sr, Zn, Pbが含まれていた。また、川端下の包有物には0.2-9 wt% のCaと Fe, 300-8000 ppm の Mn と Zn、 40-3000 ppm の Cu、100-4000 ppm の Br, Rb, Sr, Pb, そして100 ppm 以下のGeが含まれていた。これらの元素種と濃度範囲は、世界各地の花崗岩起源脈から報告された値とほぼ一致する。また、流体包有物からのGeの検出は初めての報告となる。Mn, Fe, Cu, Pb, Zn, Rb, Sr, Br濃度は、ペグマタイトから熱水脈になるにつれて増加しているが、Ge濃度は減少している。ペグマタイトよりも熱水脈の包有物の方が塩濃度が高いので、これらの結果は、Geを除く金属元素濃度は流体の塩濃度と共に増加するという傾向を示すものと考えられる。熱水脈の包有物の高い均質化温度を考慮すると、その傾向は、おそらくペグマタイト形成後に生じた花崗岩流体の沸騰現象に関係すると考えられる。沸騰により生じた高塩濃度・高金属元素濃度流体に対し、天水による希釈の割合が小さければ金属鉱床形成につながる可能性がある。今後、この高金属元素濃度流体と甲武信鉱山の鉱化作用の関係について検討する予定である。
  • 林 謙一郎, 新田 朋子
    セッションID: G4-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    青森県下北半島,恐山地熱地帯には,シリカシンター(珪華)が広範に分布している.湧出する熱水には硫酸酸性型,中性塩化物重炭酸型,中性塩化物型などが報告され,それぞれのタイプで酸素・水素同位体比が異なることが知られている(Aoki, 1992).同位体比の解析から現在の熱水の起源は主に天水で,これに様々な割合でマグマ水起源物質が添加していると考えられてきた.ここでは熱水から沈殿したシリカシンターの酸素同位体比を層序ごとに調べることにより,一連のシンターが生成する間に熱水の起源がどのように変遷してきたかを検討したので報告する.
     本研究では一連のシンターとしては最も厚く,層厚約1.3 mを有するものを検討した.このシンターの生成期間については明らかではない.産状の特徴から,下部層と上部層に区分できる.下部層は厚さ約1 mで,赤や黄色に着色した縞状構造が特徴で,ストロマトライト状の組織を有する部分も存在する.上部層は厚さ約30 cmで白色を呈する1 mm程度の薄層の互層からなる.シンターはまれに外来岩片を伴うが大半は熱水から沈殿したシリカ鉱物のみから成り,X線粉末回折の結果は上部層はopal-Aのみから,また下部層はopal-Aおよびopal-CTの両者から構成されている.
     シリカ鉱物の酸素同位体比は通常のレーザー加熱五フッ化臭素法によった.酸素同位体比(δ18OSMOW)は下部層では概ね+20から+25 ‰で,上部程重くなる傾向がある.上部層は+25から+30 ‰で上部に向かい連続的に同位体比が軽くなっている.シリカ鉱物の酸素同位体比は,それを沈殿させた水の酸素同位体比と熱水の温度に支配されているであろう.シリカ鉱物が水と同位体的に平衡になった時の温度として1) 熱水貯留層中の温度(220℃),2) 地表でシリカが沈殿した温度(現在の地表での実測値は96℃)の両者の可能性が考えられる.貯留層中の温度を仮定した場合,熱水の同位体比の計算値は+10から+20 ‰となり,高温火山ガスあるいはマグマ水の同位体比として考えられる値よりもはるかに大きく,このような組成の熱水の存在は現実的ではない.従ってここでは熱水が地表に噴出した時の温度が,シンターの酸素同位体比を決定していると考えた.非晶質シリカー水間の同位体分配係数を用いて求められた熱水の酸素同位体比は,天水よりも最大12.5 ‰重い.このことから熱水の酸素同位体比は天水と高温火山ガスの中間にあり,時代とともに両者の割合は変動するが,最近は高温ガスの影響がより強くなっているように思われる.
G5:初期地球と隕石
  • 三浦 保範
    セッションID: G5-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに:古生代末期のイベントに,プレートテクトニクス説とマントルプリューム説以外に,小惑星隕石の衝突があり、その点から研究成果をまとめる。
    2.大衝突地域の場所を示す痕跡:海底の生物を大量に死滅させた、小惑星隕石の海底衝突は、地表では地殻変動が激しく2億5千万年も経つと消滅してしまって実証が難しい。しかし、最近の丸山らの地球深部プリューム・テクトニクスは、地球の断面が分るため,その証拠を正確に残している。大陸移動に示された衝突地点は、インド洋でアジア大陸の下部にある大量の下降流となっており、衝突でできた下降流がその証拠である。その下降流の反動で、直角の東西方向(アフリカ・タヒチ)にスーパー・プリューム(上昇流)が、衝突と同じ直線方向(大西洋中央海嶺)にも流体の外殻が衝撃波を伝播して、上昇流をつくることとなった。その結果、小惑星隕石の海中衝突が地球惑星最大のマントルの下降流の形成されている場所に相当し、これから北半球と南半球に大陸が大きく分裂するきっかけとなることになる。そして、生命絶滅と火山などを誘発した。
    3.世界の地質境界の石灰岩対比:白亜紀末期KTBの地層(デンマーク・イタリアなど)と二畳紀末期PTBの地層(中国・煤山)の褐色または黒色石灰岩粘土層(隕石衝突粒子を含む地層)の方解石鉱物の格子定数・密度変化と比較した。その結果、秋吉台掘削試料の243m付近での褐色石灰岩は、他の地質境界KTBとPTBの褐色粘土層の石灰岩以上の強い力が残存していることが分かった。
    4.褐色粘土層中の方解石の物性の異常変化:秋吉台帰り水地域の地下243mの褐色方解石の格子定数変化の範囲(最低と最大の格子定数の変化で、格子体積の場合0.44%)は、他の地質境界(イタリアKTBで0.05%、デンマークのKTBで0.22%、中国のPTBで0.33%)の黒色から褐色方解石の格子変化より約2∼9倍とかなり大きい。これは、中生代白亜紀末期KTBの方解石が、欧州から見て地球の裏側のメキシコの海底衝突のため,衝突地点から地球半周した分だけ方解石のひずみが標準方解石(堆積熱水性起源で0.01%程度)より約5∼22倍大きい。しかし、古生代末期PTB方解石は、標準方解石より約33∼44倍とかなり大きく、KTB方解石よりもさらに約2∼9倍大きい。
    5.衝突性起源物質の同定:地下243mの褐色粘土層試料から、方解石(X線ピークの強度からの構成比87.7%)以外に炭素高圧鉱物(チャオアイト;1.1%)、隕鉄成分(テーナイト系;10.8%)と粘土鉱物(0.4%)のX線回折ピークによる結晶質の鉱物が同定された。また、それに相当する粒子の組成は、分析走査電子顕微鏡(山口大学)で確認でき、特に微量のFe–Ni含有粒子(10μmオーダー)が検出された。衛星画像などの解析から2種の円形地形が確認され交差する地域から、破砕岩や地表の高圧シリカが見られる。
    6.まとめ 古生代末期に赤道付近で小惑星隕石海底衝突があり、大きなマントル対流を誘発し,また、その証拠に衝突孔リム付近の堆積物が残存し、中国の煤山と日本の秋吉台地域の褐色粘土層や破砕岩から、他の地質境界と同じ衝突性の鉱物が発見された。
  • 木村 眞, 比屋根 肇, 林 楊挺, 物井 晶
    セッションID: G5-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    炭素質コンドライト(以下,CC)中に典型的に見られる難揮発性包有物(以下,包有物)は年代の古さ,種々の同位体異常,高温凝縮を反映する鉱物組合せなどから,原始太陽系の最初期の過程を知るために極めて重要な物質と考えられている.これらの包有物は炭素質コンドライトばかりでなく,エンスタタイト・コンドライト(以下,EC)や普通コンドライト(以下,OC)からも少数が報告されてきている [1-3].われわれもSahara 97159(EH3)とY792947(H3)及びそのペアーと考えられる隕石から異常に多数の包有物を発見した [4, 5].ここでは,EC,OC中の包有物の岩石鉱物学的特徴,酸素同位体組成,微量元素組成につき報告する. Sahara 97159中に含まれる包有物の分布密度は22/cm2とEC中で最多である.構成主要鉱物はspinelで,さらにhibonite, perovskite, corundum, anorthite, Ca-rich pyroxeneが含まれる.また二次的変質鉱物としてnepheline, sodalite, albite, Ti-rich troilite, Ti-V-sulfideが認められる.二次的鉱物を考慮すると包有物の主要タイプはCC(特にCO)に見られるType A的及びSpinel-richなものであろう.ECの包有物の全岩組成もCCのそれと一致する. OCは25個の試料を調べたが,包有物の産出は稀で,平均分布密度は0.7/cm2である.ただし,前述のように多数の包有物を含むものもある [5].主要構成鉱物の特徴はSahara 97159中のものと同様に,spinelが主である.ただ,二次的鉱物の種類は異なり,nepheline, sodaliteに加えて,ilmenite, hedenbergiteが認められる.包有物のタイプはECやCCのそれと類似する. 包有物の初生的鉱物の酸素同位体組成はCC中のものと一致して,CCAM線上にプロットされる.一方,nephelineなどに富む部分では酸素同位体組成はTF線に近いところにプロットされる.Sahara 97159中の包有物のREE組成はCCで認められるGroup III的なパターンを示す. このようにECとOC中の包有物の岩石鉱物学的特徴,タイプ,全岩組成,酸素同位体組成,微量元素組成はCC中の包有物のそれらと極めて類似している.このことは全てのグループのコンドライト中の包有物が共通の起源を持つことを示唆している.一方,二次的変質鉱物の種類,組成はOCとCCでは共通しているが,ECでは異なっており,ECの包有物は二次的変質作用を還元的かつSiO2に富む環境で受けたと考えられる.このような環境はECの主要構成物質形成の場を反映しており,包有物の変質の場はもともとの形成の場とは異なっていたことが強く示唆される.References: [1] Bischoff and Keil (1984) GCA, 48, 693-709. [2] Fagan et al. (2000) MAPS, 35, 771-781, [3] Guan et al. (2000) EPSL, 181, 271-277, [4] Lin et al. (2003) GCA (in press). [5] Kimura et al. (2002) MAPS, 37, 1417-1434.
  • 青木 崇行, 赤井 純治, 牧野 州明
    セッションID: G5-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    炭素質コンドライト中のマトリクスには微小鉱物が多く含まれており,その中の特異な鉱物については,その存在が確認できるだけでも生成条件等の有力な指標となりうる.近年,プレソーラー粒子として注目されてきた炭素鉱物もその1つであり,これら隕石中の炭素鉱物を知ることは太陽系形成初期過程,原子太陽系星雲を考える上で非常に重要である. 炭素質コンドライト中の炭素鉱物については代表的なものにダイヤモンドとグラファイトが挙げられる.これらの電顕鉱物学的研究において,特に南極産炭素質コンドライトについては十分であるとは言えない.そこで今回,試料調整法により炭素鉱物の効率的な抽出を目指し,それらの構造的,組織的特徴を検討した. 試料及び処理法: 今回用いた隕石試料は,Murchison(CM2),Allende(CV3),及び10個の南極産隕石である.試料調整法としては,フッ化水素酸,希硝酸,王水の順に処理を行った.これにより,0.2g-0.3gあるいはそれ以下の隕石からでも,TEM観察に十分な量の炭素鉱物を抽出する方法を確立した. 結果: ダイヤモンドはMurchison隕石および南極隕石Yamato-86751,Belgica-7904より見出された.MurchisonおよびYamato-86751中のものはおよそ20-30Åの丸い球状であり,その格子像より単結晶ではなく,複雑な双晶構造であることが推定された.Belgica-7904からも,電子線回折によりダイヤモンドと一致する回折線が確認された.像においては前者とは異なり,明確な粒子は確認できなかった. グラファイトおよび低結晶度炭素に関してはしっかりとした板状のもの,リボンが絡み合ったように見えるもの,直径5-10nmの”ナノボール”状のもの,球状のもの,中心部から同心円構造が見られるもの,不定形なものなど多様な形態のものが見出された.このうち,同心円状構造が見られるものは高い熱変成を受けたとされる[1] Belgica-7904のみから見つかった.全体的に結晶度については炭素質コンドライトの岩石学的分類による明確な差が認められた.例えば,Allende(CV3)中のものは結晶度が比較的良く,しっかりとした板状のものも良く観察されるのに対し,Murchison (CM2)中のものは低結晶度で,不定形のものが主であった.南極隕石についても,この二つのタイプに分類できた. 結晶度の良くないタイプの隕石の赤外スペクトルからは,有機物由来と見られるC-H結合等のピークが認められた. また,Tagish Lake隕石から初めて発見され[2],有機物と確認されたコア-マントル構造を持つドーナツ状炭素物質と同様の組織が,南極隕石Yamato-793321,Yamato-81020,Yamato-86720,Yamato-86751より見出された.さらに,球状の炭素に関して,この大きさや,結晶度が悪く,EDSスペクトルもドーナツ型のものと同様多くのO,Sなどを含むことにより,これらも有機物の形態の一つである可能性が示唆される. これらの粒子に対して,電子顕微鏡下での加熱実験を行い,熱に対する挙動を検討した.References:[1]Akai J.,(1988) Geochim. Cosmochim. Acta 52,1593-1599 [2]Nakamura K. et al.,(2001) Meteorit. Planet. Sci. 36,A145
  • 中沢 弘基, 関根 利守, 掛川 武, 中澤 暁
    セッションID: G5-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    はじめに
    アミノ酸をつくるために不可欠なアンモニアが地球上で如何に生成したか、は生命の起源に至る化学進化の研究の出発点であろう。アンモニアの生成は非還元的な大気中では困難で、最近は原始海洋中で生成した可能性が追及されている。原始地球に関するこれまでの研究を縦覧すれば、グリーンランド、イスア地域の変成岩が堆積岩起源であることから、38億年以前に海洋が存在していたことが推定され、月の土壌の年代決定から地球の生成にかかわった激しい地球外物質の集積は、35億年前まで継続したことが推定される。大陸の起源は未だ不明で、原始地球のほとんどか、あるいは全体が海洋で覆われていたと推定される。従って、隕石は海洋に衝突していたはずである。既知の隕石で最も落下頻度の高い普通コンドライトは、数十%の金属合金を含んでいる。金属鉄を含む隕石の海洋衝突は、当然、水を還元して水素の発生が期待され、同水素と大気中の窒素によるアンモニアの生成が期待される
    実験
     本研究は、衝撃実験により上記可能性を確認することを目的とした。ステンレス製の容器にCu3N(窒素源), H2OおよびFeを封入し、ステンレス製飛翔体(0.8∼1.1km/s) を衝突させた後、容器内の水溶性成分を取り出して分析し、アンモニアの発生を確かめた。
    結果
     本実験により、実験前に封入した窒素(Cu3Nおよび大気窒素)のうち8%がアンモニアになることが確認された。本実験は、金属鉄を含む普通コンドライトが海洋に衝突した場合を"定性的に"模擬するが、水や窒素がほとんど無限にある天然の隕石海洋衝突を"定量的に"模擬するものではない。従って、アンモニアの生成量は封入された水および窒素量で制限された。
     本実験で用いたCu3NおよびFe粉末には、不純物としてそれぞれ0.1wt% および0.02wt% の炭素が含まれていたが、それらが水素添加されるとともにアンモニアと反応して、グリシン、アラニン、セリンなどのアミノ酸が生成され、それぞれ定量的に測定された。
    検討
     本実験により、鉄を含む普通コンドライトの海洋衝突で容易に、アンモニアが生成することが証明され、かつ、微量に含まれる固体炭素を原料に各種アミノ酸が生成することが明らかとなった。実験でのアンモニア生成量は、封入されたH2OおよびNの量に制限されるが、隕石海洋衝突では還元剤としての鉄の量に依存しよう。径50m規模の普通コンドライトが10%程度の鉄を含むとして計算すると、3900tのアンモニアの生成が可能である。同隕石に0.1%の固体炭素が含まれていて全部反応すれば、グリシン相当のアミノ酸は1200tも生成する。
     ミラーの放電実験〈還元型大気〉の成功に反し、非還元型大気ではプラズマや電磁波などを照射してもアンモニアやアミノ酸は生成せず、生命の起源に必要な分子の起源を宇宙空間に求める研究者も多い。本実験は、非還元型大気であっても局所的には還元反応が進行し、多量な生成物が海洋に溶解することで生き残ることを示している。生命の素は、地球外固体炭素と地球の空気(N2)と水から、地球上で生成したと考えるべきである。
  • 矢内 桂三, 野田 賢, Byambaa C., Borchuluun D., Munkhbat T., Baljinnjam L.
    セッションID: G5-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    ジャルナシ(Jalanash,モンゴル名Nuzhgen)隕石はモンゴル国(モンゴル人民共和国,Mongolian Peopleユs Republic)に近年落下した隕石で,同国で回収された隕石6個のうちの1個である.ジャルナシ隕石は1990年8月15日14:00頃西モンゴルのウルゲイ(Olgiy, 49°N, 90°E)に落下したもので,落下直後同地の遊牧民により回収された.当時1個以上が落下したと言われているが回収した隕石の総重量は約1kgで,現在はその本体約700gが研究されることなく,West Mongolian Museumに保管されている.1994年11月にジャルナシ隕石の一部を入手できたので,本隕石の種類,鉱物組み合わせと組織,及び全化学組成等について概要を報告する.ジャルナシ隕石は粗粒,塊状で非常に脆いが落下直後に回収されたためきわめて新鮮である.構成鉱物は主に粗粒カンラン石とピジョン輝石からなり,鉱物粒子間を炭素質物質が埋める典型的なユレイライトである.Fe-Ni金属鉄も粒間に多量に生じている.金属鉄は珪酸塩鉱物のFe成分が炭素により還元され生じたものであろう.鉱物組成は非常に均質でカンラン石(平均Fo80.6, 最大値Fo79-80の間,組成巾 Fo91.8-78.6),ピジョン輝石(平均En75.1Fs17.2Wo7.7; 組成巾 En75.8-74.3Fs17.9-16.6Wo8.3-7.1).主化学組成はSiO2 39%,TiO2 0.08%,Al2O3 0.9%,FeO 16.2%,MnO 0.5%,MgO 38.3%,CaO 0.82%,Na2O 0.09%,Cr2O3 0.7%,FeS 0.8%, Fe 2.1%,Ni 0.1%,Co<30ppmである.南極産ユレイライト12個と比較検討したと結果,組織はいずれのものとも異なっているが,鉱物組成はALH-78019及びALH-78262ユレーライト隕石に類似していることが明らかになった.
  • 大西 市朗, 留岡 和重
    セッションID: G5-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに
     コンドライト隕石の主要構成物の中で、エンスタタイトは水質変成において最も変成されやすい鉱物の一つである。エンスタタイトの交代変成でできる鉱物は隕石のタイプで異なり、CMタイプではサーペンティン、CVタイプではスメクタイトである。昨年、我々はエンスタタイトを様々なpH(0-14)の溶液で水熱変成させ、サーペンティンあるいはスメクタイトの生成条件が溶液のpHに強く依存することを見出し、報告した。これまでの研究から、コンドリュール中で, Fe-Ni金属やNa、Siに富むガラスはエンスタタイトとともに選択的に変成されることがわかっている。従って、エンスタタイトとFe-Ni金属やガラスとの反応の過程・条件を知ることは、コンドライトの水質変成を解明する上で重要である。そこで、本研究では、エンスタタイトとFe,あるいはエンスタタイトとSiO2の水熱変成実験を行った。

    2.実験方法
     合成した斜方エンスタタイト(OEn)粉末に、Fe粉末またはSiO2粉末を混合し、出発物質とした。各粉末の混合比は、OEn/Fe(あるいはOEn/SiO2)=9/1または5/5(重量比)とした。混合粉末と0.01N-、0.1N-、1N-NaOH溶液(pH=12、13、14)をそれぞれ金チューブに封入し(溶液/粉末=3.3(重量比))、テストチューブ型水熱合成装置を用いて、 1kb、300℃、保持時間7日の条件で実験を行った。実験試料の同定には主としてXRDを用いた。

    3.結果と考察
     回収試料の分析により、溶液のpH、NaOH濃度が同じ場合、出発物質がOEn + Feでは、サーペンティンが、OEn + SiO2では、スメクタイトとタルクが生成しやすいことが分かった。これは、OEn + Feでは、Feの溶解によって溶液中の(Mg+Fe)/Si比が増加して、サーペンティンの生成が促されたのに対し、OEn + SiO2では、SiO2の溶解によって溶液中の(Mg+Fe)/Si比が減少し、スメクタイトやタルクの生成が促された結果と考えられる。また、出発物質が同じ場合、高pHかつ高Na(0.1N、1N-NaOH)の溶液でスメクタイトが生成しやすく、低pHかつ低Na(0.01N、0.1N-NaOH)の溶液でサーペンティンやタルクが生成しやすい。スメクタイトは、結晶構造中に層間イオンとしてNa+やOH-基あるいは構造水を多量に含み得る。この性質から、Na+濃度及びOH-濃度が高い、高pH溶液においては、スメクタイトが生成しやすい条件ができたのだろう。一方、Na+濃度が低く、かつ低pHの溶液では、スメクタイトの生成が抑制され、代わって結晶構造中に層間イオン等を含まないサーペンティンやタルクが生成した、と考えられる。
     以上の結果から,CMタイプ隕石の水質変成では、エンスタタイトとFe-Ni金属等のFeに富む鉱物が低pH溶液と反応したと考えられる。一方、CVタイプ隕石では、エンスタタイトとガラスなどのNa、Siに富む鉱物が高pH溶液と反応したのであろう。
  • 川添 貴章, 大谷 栄治
    セッションID: G5-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.はじめに 現在、初期地球における集積とそれにともなう地球中心核の形成過程を総合的に理解するモデルとして、深いマグマオーシャンのモデルが広く受け入れられている。まず微惑星の集積によって初期地球が成長すると同時に、その衝突エネルギーによって地球表層が熔融しマグマオーシャンを形成した。その中において熔融した金属鉄がマグマから分離し、原始マントルを沈降して核を形成した。その沈降する過程において熔融した金属鉄はマグマもしくは原始マントル鉱物と元素の分配反応をしたと考えられ、その反応の痕跡はマントル組成に見られる。Fe、Ni、Coはマントル存在度をMgで規格化してCIコンドライト組成と比較すると約10分の1に枯渇している。この枯渇の要因を高温高圧下における熔融金属鉄とマグマもしくは原始マントル鉱物との分配から説明し、マグマオーシャン底部の条件を見積もる研究が行われてきた。マグマオーシャンの深さ・その底部の温度を見積もることは集積・核形成についてだけでなく、固化過程を含めた冥王代の地球の姿を解き明かすためにも非常に重要なものである。過去の研究では主に熔融金属鉄とマグマ間の温度、圧力、酸素分圧が分配に与える効果について研究されてきた。本研究では27 GPa,、2773- 3373 Kの条件下において熔融金属鉄と原始マントルを構成したと考えられるMg-ペロヴスカイト、マグネシオヴスタイト間のFe、Ni、Coの分配係数とそれに与える温度、圧力、酸素分圧の効果、さらに熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト間における分配に与えるAl2O3の効果について研究を行った。2.実験方法 高圧発生装置には東北大学設置の川井型3000 tonプレスを用いた。二段目アンビルには先端サイズ2.0 mmのタングステンカーバイド製のものを用いた。試料は目標圧力である27 GPaまで加圧した後、圧力媒体内部に組み込んだReヒーターを用いて加熱し、2773- 3373 Kで30分から2時間保持し急冷した。脱圧・回収した後、波長分散型EPMAによって組成分析を行った。3.結果と議論 分配係数にはFe、Ni、Coの熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト、マグネシオヴスタイト中の重量分率の比を用いた。熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト間の分配係数はNiについて85-160、Coについて40-80、Feについて9-36であり、熔融金属鉄とマグネシオヴスタイト間の分配係数はNiについて11-29、Coについて7.5-23、Feについて3-10であった。酸素分圧の増加と温度の上昇にともないそれぞれの分配係数は減少する。圧力の増加にともなって熔融金属鉄とマグネシオヴスタイト間の分配係数は減少する。熔融金属鉄とMg-ペロヴスカイト間の分配係数はAl2O3の増加にともなって減少し、その程度は酸素分圧が低いほど大きかった。求められた分配係数から見積もられるマントル存在度と実際のマントル存在度を比較・検討すると、マグマオーシャンは本研究において実験を行った27 GPa(810 km)の条件よりも深く、その底部は3373 Kよりも高温であったことが考えられる。
  • 海田 博司, 小島 秀康
    セッションID: G5-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     第39次日本南極地域観測隊によって1999年に発見,採集されたYamato (Y) 983885隕石は,その岩石・鉱物学的特徴から月起源であることが報告されている[1]。本研究では月隕石Y983885をより詳細に観察・分析して,その起源を考察した。 月の岩石あるいは隕石は,それに含まれるAlとFeの濃度によって化学的に大きく二種類に分類できる。すなわち,Alに富み,Feに乏しい月の高地起源の斜長岩的な岩石とAlに乏しく,Feに富む月の海の玄武岩である。前者の例としてはDhofar 026 (Al2O3≒30 wt% [2]),後者の例としてはNorthwest Africa 032 (Al2O3≒9 wt% [3]) が挙げられる。Y983885は,主としてCaに富む斜長石(An89-98)などの多数の岩片が細粒のガラス質マトリックス中に埋め込まれているといった特徴から,月の高地起源の斜長岩質レゴリス角礫岩に分類されている[1]。しかし,詳細な組織観察と化学分析の結果,Feに富むマフィック鉱物を含む岩片(最大で約0.4 mm)が含まれていることが分かった。この岩片は組織および組成から月の海の玄武岩起源であると考えられる。実際,Y983885の全岩の主要元素化学分析によると[1],Al2O3濃度は21.8 wt%であり,他の斜長岩質月隕石や月高地 (Al2O3≒25 wt% [4]) のそれよりも低いことが分かる。こうした“混合”月隕石はCalcalong Creekでも報告されており[5],そのAl2O3濃度は約21 wt%とY983885に近い値を持つ。また,Y983885のFeやMgの濃度 (FeO=9.4 wt%, MgO=8.0 wt% [1]) が月高地の値 (FeO=6.6 wt%, MgO=6.8 wt% [4]) よりも高いことは月の海の玄武岩成分を含むことと調和的である。さらに今後,こうした中間的な組成を持つ月隕石が発見されるだろう。 【参考文献】[1] Kaiden H. and Kojima H. (2002) Antarctic Meteorites XXVII, 49-51. [2] Taylor L.A. et al. (2001) LPS XXXII, #1985. [3] Fagan T.J. et al. (2002) Meteorit. Planet. Sci., 37, 371-394. [4] Taylor S.R. (1982) Planetary Science: A lunar perspective. Lunar Planet. Inst., 481 pp. [5] Hill D.H. et al. (1991) Nature, 352, 614-617.
  • 木村 有希子, 大谷 栄治, 久保 友明 , 近藤  忠, 木村  眞, 高田 淑子 
    セッションID: G5-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1.研究背景と目的
     隕石は、もともと宇宙空間で起きた天体間衝突の結果生じた破片であると考えられている。よって、隕石には天体間衝突の痕跡が残されているはずであり、その痕跡の1つと考えられるのが高圧鉱物の存在である。隕石中の高圧鉱物はいくつか種類があり、それぞれが固有の温度圧力条件を経験しないと形成されない。このことから、隕石中に存在する高圧鉱物の種類を調べる事により、隕石が経験した温度圧力条件を推定する事ができる。また、高圧鉱物の組織(成長距離)から、その温度圧力条件の継続時間を推定する事ができる。
     本研究では、2種類の南極隕石、Y791384とALH78003に見られる高圧鉱物の、種類や組織(成長距離)を調べることによって、これらの隕石が経験した温度圧力条件とその継続時間を推定することを目的としている。

    2.方法
     分析には隕石の薄片を用いた。鉱物同定には顕微ラマン分光装置を、組成分析にはEPMAを、組織観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。

    3.結果と考察
     得られた鉱物同定結果と、同様の鉱物構成を持つAllende 隕石の相図とを比較することにより、各隕石が経験したと考えられる温度圧力条件を推定した。その結果、Y791384は約20GPa、2000℃以上の、ALH78003は約17GPa、2000℃以上の高温高圧条件を経験していることが明らかになった。
     また、成長距離がわかりやすい一種類の高圧鉱物(リングウッダイト)に着目して組織観察を行い、Y791384が経験した高圧(約20GPa)状態の継続時間を推定した。その際、鉱物の成長速度と温度に関する計算や、固体中の熱伝導の計算を行った。その結果、Y791384は少なくとも数秒以上、高圧状態を経験した可能性があることが明らかになった。
     以上の結果から、さらに、Y791384の母天体が経験したと考えられる衝突の規模を推定する。宇宙空間で天体同士が衝突すると、天体内部で高温高圧状態が一定時間生じる。その温度圧力は天体の衝突速度に、高温高圧状態の継続時間は天体サイズに、それぞれ依存する。そこで、隕石が経験した温度圧力条件とその継続時間がわかれば、その隕石の母天体が経験した衝突規模(速度とサイズ)を制限できる可能性が考えられる。天体間衝突は太陽系で普遍的な現象であり、この現象によって地球を含む惑星も形成されたと考えられている。このような点から、天体間衝突の規模を制限することは重要である。
     今回の観察結果得られた温度圧力条件と継続時間から、天体衝突規模の推定を行う予定である。
G6:深成岩及び変成岩
  • 金 容義, 木村 卓哉, 菅野 智之
    セッションID: G6-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    佐野川gabbbro massは、南部フォッサマグナ地域に、最大1.5km×2kmの十島岩体、および3つの少岩体(下野・西沢・柿元)が、分布している。佐野川沿いにNNW–SSE方向 2km、長さ20kmの範囲に、深部断裂に沿って併入した岩体である。岩体に伴う安山岩–玄武岩脈において、久野(1957)により、A2O3の高い、含クロム透輝石が晶出することが明らかにされている。晶出時に、異常な条件であることが検討されていた。岩体は、微閃緑岩から微花崗閃緑岩、そして花崗斑岩(グラノファイヤ)などにより主に構成されている。岩体は、新第三紀中新世、富士川層群(松田、1961;富士川団研グループ、1976)の礫岩及び砂岩・頁岩互層に貫入している。砂岩に黒雲母などを変成鉱物として晶出している。岩体について、矢島(1959、1970)、相馬・吉田(1963)の報告がある。Gabbro岩相について、解釈は異なる。相馬・吉田(1963)では、石英閃緑岩・閃緑岩の岩体中心部に、しそ輝石はんれい岩・輝石はんれい岩・角閃石はんれい岩相が、幅500m長さ2kmの規模での分布を示し、深成岩相として解釈している。主に下野・柿元岩体など。矢島・加藤(1980)では、はんれい岩–閃緑岩として4岩体(下野・西沢・柿元・十島)を区分し、安山岩–玄武岩岩脈の貫入を報告している。Gabbroは、安山岩–玄武岩岩脈に、数cm大から数10cmの規模でゼノリス状に分布している。また、ペグマタイト状に輝石の巨晶をも含む。4つの岩体の、北端と南端の安山岩–玄武岩岩脈に含まれる。とくに北端での形成が大であり、紅砒ニッケル鉱などを伴う。幅5mm大の脈状を呈したり、3cm大でgabbroに含まれている。またゼノリス状で含む岩脈と共に、クロム透輝石を含む玄武岩–安山岩岩脈が形成する。砂岩・頁岩互層に貫入し、脈幅は3mである。クロム透輝石は最大2cm大であり、角閃石の微晶を含んでいる。従来Gabbro岩相として解釈してきた深成岩相は、主に安山岩–玄武岩岩脈にゼノリス状に取り込まれている岩相である。佐野川岩体の主岩相は、微閃緑岩–微花崗閃緑岩や花崗斑岩(グラノファイヤ)である。なお細粒なgabbroをも含む。丹沢山地の第3紀花崗岩などに類似して、岩相変化が著しい。とくに中央部に位置する柿元岩体では、数十cmの幅で微閃緑岩から花崗斑岩に漸移する。十島岩体および、さらに南部地域(富士川沿い)では、花崗斑岩(グラノファイヤ)・安山岩岩脈が多く分布する。フォッサ・マグナ方向に伴い(NS走向 70–80E傾斜)、砂岩・頁岩互層に10数m幅の岩床状に、併入している。緑泥石などの変質鉱物を多く伴い淡緑灰色を呈する。岩体は、カルク・アルカリ岩系(Yajima,1970)を呈している。周辺域に分布している藤代岩体(安倍川–藤代川–地蔵峠)・相又岩体(富士川–相又川)の化学組成との検討では、類似した値を示し、ソレアイト岩系からカルクアルカリ岩系へ移行していく(岡野、1999)。いずれもH2O(+)の多い値を示す。角閃石や黒雲母が、緑泥石などの変質鉱物に置きかえられているためである。安山岩や微閃緑岩が不安定であり、微はんれい岩は安定である。また分化傾向も詳細にみると、相又岩体はカルクアルカリ岩系を、藤代岩体はソレアイト岩に近く、佐野川岩体は中間型をしめす(岡野、1999)。ただ巨視的には丹沢型に類似している。岩体は、フォッサ・マグナの構造運動を著しく受けて形成した事は従来の解釈と差異はない。しかし岩体の北端で岩脈にゼノリス状に含まれる紅砒ニッケル鉱やgabbro,そしてクロム透輝石に含まれる角閃石の微晶。そして南端での変質鉱物を多く含む安山岩の岩床は、深部断裂の規模の巨大さと水の存在を特徴づける。
  • 川浪 聖志, 小山内 康人, 大和田 正明, 矢田 純, 平原 由香, 加々美 寛雄
    セッションID: G6-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    北海道中央部に位置する日高変成帯は,狩勝峠から襟裳岬にかけて南北150km・東西幅20~30kmの範囲で分布する.本変成帯は海洋地殻から構成される幌尻オフィオライト帯(宮下, 1983)と,島弧地殻断片である日高変成帯主帯(以下,主帯;小松ほか, 1982)との接合衝上体と考えられている(小松ほか, 1979).主帯は様々な深成岩類および変成岩類から構成され,北部・中部・南部地域に区分される(小松ほか., 1986).主帯変成岩類は,東から順に変成堆積岩(ホルンフェルス,変成分帯ではI帯に相当),黒雲母-白雲母片岩~片麻岩(II帯上部),黒雲母-角閃石片麻岩(II帯下部),褐色角閃石角閃岩(III帯),グラニュライト(IV帯)の5つの岩石ユニットに区分される(小山内ほか., 1985).上部層(I帯からII帯上部)は砂泥質変成岩からなり,下部層(II帯下部からIV帯)は塩基性変成岩が卓越する (小松ほか,1982).  本研究では南北約100km,東西数kmの幅を持ち,主帯全域に分布する角閃岩類の原岩について解析した.下部層の大部分を構成する角閃岩類の原岩の解析は,日高変成帯の形成プロセスを解明する上で重要な意味を持つ.今回の発表では希土類元素を含めた微量成分化学組成およびSr・Nd同位体組成から角閃岩類の原岩について議論する. 主帯の角閃岩類は,III帯及びIV帯に分布する.III帯に産出する角閃岩類は褐色角閃石角閃岩を主体とし,塊状あるいは稀に弱い縞状構造を示す.また幅数mmから数cmの石英長石質岩脈が発達する場合がある.斜方輝石-黒雲母トーナル岩が貫入した褐色角閃石角閃岩の周囲ではカミングトン閃石を含むことがある.IV帯に分布する角閃岩類は斜方輝石角閃岩(ホルンブレンド グラニュライト)を主体とし,単斜輝石あるいは両輝石,稀にザクロ石を含み,発達した縞状構造を示す.またザクロ石-斜方輝石-菫青石片麻岩などの泥質変成岩と互層する産状や,褐色角閃石角閃岩に斜方輝石トーナル岩がネットワーク状に発達したアグマタイト様の構造もみとめられる. 角閃石と斜長石を主要構成鉱物とし,斜方輝石を含まない褐色角閃石角閃岩(III帯及びIV帯に属する)を用いて,全岩化学組成,希土類元素を含めた微量化学組成およびSr・Nd同位体組成から原岩について検討した.日高変成帯主帯のピーク変成年代である55Ma(Rb-Sr全岩アイソクロン法,Owada et al., 1991)で規格化したSrI値およびNdI値は,それぞれ0.702745∼0.705248±14(2σ),0.512868∼0.513215±14(2σ)であった. 中部地域および南部地域南部の角閃岩は,N-MORBの希土類元素規格化パターンと酷似しており,0.513029∼0.513250±14(εNd=+9.01∼12.45)という高いNdI値を示すことからN-MORB起源であるとみなすことができる.一方,南部地域北部(ムコロベツ沢–パンケ沢)の角閃岩は,比較的E-MORBに類似した規格化パターンを示し,低いNdI値(0.512863∼0.512944±14; εNd=+5.77∼7.35)をもつことから,E-MORB的な原岩が推定される.以上の結果は,主帯の角閃岩がN-MORB起源とE-MORB起源の2系統に区分できる可能性(川浪ほか,2002)を示唆しているようにみえる.しかしながらこれらのE-MORB的な角閃岩は,Nd含有量とNd同位体比の関係から,N-MORB組成の角閃岩と周囲の泥質変成岩類あるいはそれらの部分溶融によって生じたS-タイプトーナル岩マグマとの同化作用の影響を受けた可能性も指摘できる.
  • 石川 晃, 中村 栄三
    セッションID: G6-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    地球上最大の巨大火成作用区として知られるオントンジャワ海台の一部は、現在、ソロモン諸島、マライタ島において地上に露出している。その本体は白亜紀中期に誕生した後、34 Maにアルノアイトと呼ばれる揮発性成分に富んだ超塩基性火山岩により貫入を受けている。アルノアイトは多様なマントル捕獲岩を含有しており、これらの捕獲岩は海台下リソスフェアの破片として見なされるため、海台の形成に関する貴重な情報を保持していることが期待される。 採取されたマントル捕獲岩の大半は、比較的低温の平衡温度(750-1100℃)を示すスピネルかんらん岩あるいはざくろ石スピネルかんらん岩であり、浅部リソスフェアを構成していたと考えられる。その主要構成鉱物量比、構成鉱物の主要元素濃度、あるいはSIMS、ICP-MS、ID-TIMSにより得られた単斜輝石中の微量元素濃度は非常に多岐にわたっており、その多様性は(1)起源マントルの部分溶融度、(2)その後の交代作用の影響、(3)冷却に伴う再結晶作用の影響,などの違いが組み合わさることにより形成されたと理解される。本研究では浅部リソスフェアの起源を知る目的で、最も交代作用の影響が少ないと考えられるかんらん岩9試料に対して、鉱物分離した単斜輝石のSr、Nd同位体分析を行った。用いた単斜輝石はLaを除く軽希土類元素に関して系統的に枯渇するREEパターンを示している。得られた同位体比は始源マントルの推定値に比べて枯渇した特徴を持ち(87Sr/86Sr = 0.70237-0.70311;143Nd/144Nd = 0.51311-0.51331)、Nd同位体比に関しては147Sm/144Nd比との強い相関が認められた。この相関は部分融解程度を異にする一連の融け残りかんらん岩のNd同位体比が、時間効果によりその枯渇度に応じた進化を遂げたものとして理解できる。噴出時において各試料中の同位体平衡が成立していたこと、交代作用の影響は無視できるほど小さいことなどの仮定の下、全岩の主要構成鉱物量比および鉱物間の分配係数を用いたマスバランス計算により、各試料に含まれる単斜輝石の組成から全岩組成を見積もることができる。その再計算により求められた全岩アイソクロンは、年代値として168 ±38 Ma、Nd同位体初生値としてεNd = 7.1を与え、直上の地殻を構成するオントンジャワ海台玄武岩の噴出年代(121-125 Ma)やNd同位体初生値(εNd = 3.7-6.0)とは異なっていることが明らかとなった。従って、これらのかんらん岩の融解は海台の形成には関与しておらず、むしろ膨大な海台玄武岩の噴出によって覆い隠されてしまった海洋地殻(MORB)を抽出した、一連の融け残りかんらん岩であることが、その枯渇したNd同位体初生値から強く示唆される。また年代値に関しても、海台周囲に現存する海洋地殻は地磁気縞の解析により、およそ120から160 Maに形成されたことが示されており、本研究によって得られた年代値と調和的である。以上の考察から、オントンジャワ海台の異常に厚い地殻(平均33 km)は、現在のアイスランドのように中央海嶺下にマントルプルームが上昇することによって生成されたのではなく、むしろ現在のハワイのように、既存の海洋リソスフェアの底にマントルプルームが上昇・定置し、既存の海洋地殻を太らせる形で生成されたと考えられる。
  • 森下 知晃, 前田 仁一郎, 宮下 純夫, 松本 剛, Dick Henry, ABCDEクルーズメンバー
    セッションID: G6-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    本発表は海洋底からの初めてのスリランカイト(Ti2Zr06)の報告である.スリランカイトは低速拡大軸下でのカンラン岩-メルト相互作用によって形成された.
  • 竹下 浩征, 郷津 知太郎, 板谷 徹丸
    セッションID: G6-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    西アルプスのピエモンテカルクシスト中白雲母の化学組成は異常に大きなバリエーションを持つ。見かけ上マスコバイトーパラゴナイト系及びマスコバイトーセラドナイト系両方の系において大きな組成範囲が見られる。緑泥石帯の高いNa/K比を持つ細粒白雲母類は砕屑起源の白雲母と考えられる。多分、カレドニアやバリスカンなどの高温変成岩類からもたらされたと想像される。サブマイクロ粒径のマスコバイトとパラゴナイトが混在していることが原因でEPMA分析値のNa/K比が0∼0.78まで連続的に観察された。ルチル帯ではパラゴナイト成分が20%以内であり、砕屑白雲母が存在していたとしても十分に均質化したと思われる。 砕屑起源の白雲母組成を除去したとしてもマスコバイトーセラドナイト系の大きな組成変化が見られる。明らかに他の主要な変成鉱物と非平衡な白雲母の存在を示唆する。これは変成岩類の上昇冷却過程で生じた後退変成反応が白雲母に進行したと言える。
  • 廣井 美邦, 鈴木 美穂子, Wallis Simon
    セッションID: G6-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    超高圧変成岩の上昇機構あるいは上昇の原動力の問題は,スールー・ダービー帯のものを含め世界各地に産出する超高圧変成岩にまつわる根本的な未解決問題である。それに関連して,超高圧変成岩が超高圧変成時あるいはその後の上昇時に部分融解したかどうかも重要な問題である。なぜなら,多くの超高圧変成岩に対して見積もられる最高温度が700℃以上であり,水が存在すれば部分融解するほど十分に高温だからである。部分融解すれば,その浮力と移動性が上昇を容易にするが,他方で,マントル物質との強い相互作用の問題が生じる。
    スールー・ダービー帯に産出するエクロジャイトの中には,藍晶石と石英(元はコース石?)を含むものが少なくない。そのような岩石において,しばしばオンファス輝石が斜長石と普通輝石あるいは角閃石(±鉄酸化物)とのシンプレクタイトに置換されている。それに加えて,藍晶石と石英との粒間に斜長石が形成されているのが普通に見られる。藍晶石+石英の組合せは著しく広い温度—圧力条件で安定であるにもかかわらず,なぜそれらの粒間に斜長石が生成したのかという疑問が生じるが,Nakamura (2002) はそれを上昇中(減圧時)のサブソリダス反応で説明している。われわれはそれが部分融解および形成されたメルトからの結晶作用の産物である可能性があることを指摘する。その根拠となる観察事実や分析データ等は次の通りである。
    1)しばしば斜長石とともに緑簾石や白雲母などの含水鉱物が出現し,斜長石形成時に水が存在したことを示唆する
    2)斜長石に累帯構造がみられ,また組成ギャップがある:石英に近い側ではアルバイトであり,藍晶石に近い側ではもっと灰長石成分に富むが,その間に常に組成の不連続性が見られる
    3)残存オンファス輝石およびそれを置換したシンプレクタイト中の単斜輝石あるいは角閃石の組成が藍晶石との位置関係により異なる
    4)オンファス輝石を置換したシンプレクタイト中の鉄—マグネシウム鉱物が藍晶石の近くでは角閃石,遠い側では輝石であることが多い
    5)我々はまだ確認していないが,Nakamura (2002) によると斜長石に伴ってスピネルやコランダムなどのシリカに不飽和な鉱物が出現する:粗粒な岩石中の石英—長石のような局所的共融系でできるメルトには組成勾配ができ,石英から遠い側のメルトはシリカに不飽和であることが実験的に示されている(例えば,別府ら(2002))
    6)従来の石英ム長石系での部分融解実験結果によると,高圧でできるメルトほどアルバイト成分に富むので,減圧につれてメルトがアルバイトを晶出し,石英を融解して組成を変えたために斜長石が生成したと考えることができる
  • 石渡 明, 清水 豊
    セッションID: G6-07
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    上越変成帯には,足尾帯のジュラ紀付加体または古生代付加体を原岩とする低変成度片状岩(水無川・川場変成岩:Takenouchi & Takahashi, 2002: J. Geol. Soc. Japan, 108, 794-)と,高圧型結晶片岩類(Hayama et al. 1969: Mem. Geol. Soc. Japan, 4, 61-)が分布する.後者は谷川岳山頂付近のわずかな露頭や中新統粟沢層の礫などとして産するのみであり,谷川岳の結晶片岩は蓮華変成岩と同じく古生代後期のフェンジャイトK-Ar年代を示す(Yokoyama, 1992: Bull. Natn. Sci. Mus., Ser. C, 17, 43-),清水他(2000:地質学会107年会要旨,289; 2001:同108年会要旨,160)はこれら結晶片岩の岩石学的性質を報告したが,今回はそれらを総括して上越変成帯の変成作用の性質について考察する.検鏡した標本は約300個の粟沢層結晶片岩礫と,谷川岳山頂付近から採集した数個の結晶片岩及び横山一巳博士提供の標本である.
      塩基性片岩礫は緑簾石Na角閃石片岩を主体とし,少数のパンペリー石Na角閃石片岩やMnざくろ石緑簾石Na角閃石片岩を含む.Na角閃石はクロス閃石から狭義の藍閃石組成を示し,コアからリムへウィンチ閃石→クロス閃石→ウィンチ閃石という累帯構造を示すことがある.長石はすべて曹長石である.しかし,残存ウィンチ閃石を含む片状角閃岩の礫が1個あり,緑簾石・ウィンチ閃石に富む部分と普通角閃石・斜長石(An38)に富む部分が縞状をなし,ウィンチ閃石のリムを普通角閃石が取り巻く.泥質片岩礫は,緑泥石(±ざくろ石)フェンジャイト片岩(長石はすべて曹長石)が主だが,少数のざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩があり,これらはAn16の灰曹長石とルチルを含む.谷川岳山頂の塩基性結晶片岩はざくろ石普通角閃石ゾイサイト片岩と普通角閃石片岩(斜長石An60)であり,泥質片岩はAn40-60の斜長石とカリ長石,ルチルを含むざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩である.
      従って,上越変成帯の塩基性岩はパンペリー石+Na角閃石の組み合わせから緑簾石+Na角閃石の組み合わせへ累進的に鉱物共生を変化させていたと考えられ,前者の鉱物共生は,パンペリー石+Na角閃石の共生を欠く三波川変成帯低温部よりも,飛騨外縁帯(宮川,1982:岩鉱, 77, 256-,箱ヶ瀬のパンペリー石ローソン石藍閃石片岩)や中国地方(辻森, 1998:地質雑, 104, 213-)の蓮華変成帯低温部に類似している.緑泥石(±ざくろ石)フェンジャイト片岩はこれらに伴う泥質片岩と考えて矛盾がない.しかし,灰曹長石を含むざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩は三波川変成帯の高温部と同様である.辻森ほか(2001:地質学会108年金沢大会見学案内書, 157-)は青海変成帯をエクロジャイト・ユニットと非エクロジャイト・ユニットに分け,前者は緑簾石青色片岩相~エクロジャイト相に属するが,後者のうちBanno (1958: J. Geol. Geogr. 29, 29-)の黒雲母帯に相当する部分ではAn10-25の灰曹長石が塩基性岩にも泥質岩にも産し,このユニットは藍閃石片岩相/緑色片岩相漸移帯(緑泥石帯)から角閃岩相(黒雲母帯)に属するとした.粟沢層の礫のうち灰曹長石~斜長石を含む塩基性・泥質片岩や谷川岳山頂付近の結晶片岩類は青海の非エクロジャイト・ユニットに類似し,伊藤(1997:地質学会福岡大会演旨,205)は飛騨外縁帯伊勢地域からも灰曹長石黒雲母帯の泥質片岩を報告している.以上のことから,上越変成帯の結晶片岩類は飛騨外縁帯~中国地方の蓮華変成帯と放射年代だけでなく岩石学的性質もよく類似しており,ローソン石青色片岩相から緑簾石青色片岩相を経てエクロジャイト相に至る典型的な高圧型変成帯と青色/緑色片岩漸移相から角閃岩相に至る高圧中間型変成帯との複合変成帯だったと考えられる.
  •   Zaw Win Ko, 榎並 正樹, 青矢 睦月
    セッションID: G6-08
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    四国三波川帯・別子地域の瀬場谷中流域は、曹長石-黒雲母帯に属し、変斑れい岩 (250 m × 150 m)を取り巻いて、少量の泥質片岩を伴う塩基性片岩が不定形のレンズ状 (2 km × 1 km) に分布している。これらの岩相からは、散在的にではあるがエクロジャイト相の鉱物組み合わせが報告されており、変斑れい岩と塩基性片岩を主とするレンズ全体はエクロジャイト・ナップの一部をなし、エクロジャイト相の変成作用を経験していないとされる通常の結晶片岩類の上位に重なると考えられている。しかしながら、このエクロジャイト・ナップに属するとされる泥質片岩からは、エクロジャイト相での平衡を示す岩石学的・鉱物学的デ-タは報告されていない。そこで、泥質片岩中からエクロジャイト相変成作用の情報を読みとることを目的として、クロリトイドを含む泥質片岩に注目して研究を行った。その結果、新たにクロリトイド+バロワ閃石の共生を見いだした。今回はこの共生が、エクロジャイト相条件下で安定であったことを論じる。
    検討した2試料において、クロリトイドと黒雲母が、ざくろ石の包有物としてのみ産する。そのほかの鉱物としては、ざくろ石、バロワ閃石、パラゴナイト、フェンジャイト、緑泥石、緑レン石、石英、電気石、チタナイトおよびルチルが認められ、パラゴナイト以降の鉱物は、ざくろ石の包有物としても産する。曹長石は、ざくろ石の包有物としては認められないが、基質部にバロワ閃石や緑泥石をともなう細粒集合体として、きわめてまれに産することがある。
    クロリトイド:mg# [= Mg/(Mg+Fe)]値は0.29-0.33であり、中・低圧変成岩中のもの(mg# < 0.25)に比べるとMgに富む。
    ざくろ石:結晶の中心部から周辺部にかけて、MgとFeが増加し、Mn およびCa が減少する昇温型累帯構造を示し(Alm49-66Prp8-18Grs14-24Sps2-23)、曹長石-黒雲母帯に属するクロリトイドを含まない泥質片岩中のざくろ石 (Alm25-73Prp1-12Grs13-39Sps0-50) に比べて、Mgに富む。
    バロワ閃石:Al (1.65-2.34 pfu) とNa (0.95-1.57 pfu) に関して広い組成範囲を有し、曹長石-黒雲母帯に属する他の泥質片岩中の角閃石 (Na < 1.02 pfu) と比べると、Naに富む。また、包有物として産するもののほうが基質のものに比べて、Na角閃石成分に富む傾向にある。
    緑泥石:基質の緑泥石は均質(Si = 2.7-2.8 pfu, mg# = 0.60-0.64)である。一方、包有物として産する緑泥石は、Si量が3 pfuを超えて広い組成範囲を示し (Si = 2.7-3.3 pfu, mg# = 0.50-0.73)、それは緑泥石とタルクがサブミクロン単位で互層していることによると解釈される。
    Holland & Powell (1998)の熱力学データベースを用いて見積もった、クロリトイド+緑泥石+バロワ閃石+ざくろ石+パラゴナイト+石英の組成共生の平衡条件は、540-570 C・1.6 GPaである。一方、緑泥石+クロリトイド+ (タルク) の共生から得られる圧力条件は、550 Cにおいて1.8-1.9 GPaである。これらの平衡条件は、エクロジャイト・ナップの下位に位置するとされている周囲の結晶片岩類 (500-580 C・0.8-1.1 GPa) に比べると、有意に高圧条件を示し、変斑れい岩および塩基性片岩中のエクロジャイト共生の平衡条件 (610-640 C・1.2-2.4GPa) とは矛盾しない。今回の研究結果は、泥質片岩を含めてレンズ部の結晶片岩類全体が、エクロジャイト相変成作用を経験したことを示しており、エクロジャイト・ナップの存在を強く示唆す
  • 中野 伸彦, 小山内 康人, 大和田 正明, 豊島 剛志, 角替 敏昭, Tran Ngoc Nam, Pham Binh
    セッションID: G6-09
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     近年,レーザーラマン分光分析法により,変成岩類のジルコン中からコース石やダイヤモンドの存在が明らかとなってきている.コース石やダイヤモンドはジルコン中でSiに富む単斜輝石と共生する.一方,基質部の単斜輝石は,後退変成作用の過程で石英の離溶ラメラを形成することが多い.従って,それらの離溶ラメラは,超高圧変成岩を特徴づける組織と考えられている(Liou et al., 1998).このような単斜輝石を含むザクロ石-斜方輝石-単斜輝石グラニュライトがベトナム・コンツム地塊から見いだされた.
     コンツム地塊は,剪断帯を境界として,高温変成岩ユニットおよび低温変成岩ユニットに区分される(小山内ほか,2002).同グラニュライトはこの剪断帯部に分布し,マイロナイト化した石英長石質片麻岩中にブロック状もしくはレンズ状に産する.主成分構成鉱物としてザクロ石,単斜輝石および石英の斑状変晶と,それらの粒間を埋めるシンプレクタイトを含む.石英や単斜輝石側に形成されたシンプレクタイトは,Alに乏しい斜方輝石とNaに富む斜長石から構成され,ザクロ石の周囲のものはAlに富む斜方輝石とNaに乏しい斜長石およびスピネルから構成される.ザクロ石は石英,ホルンブレンド,藍晶石,クリノゾイサイト,ルチルを包有する.単斜輝石は,基質部に粗粒結晶(1から3mm)集合体として産することもある.単独で存在する単斜輝石や単斜輝石集合体の周縁部の単斜輝石粒には斜方輝石,ホルンブレンドおよび斜長石からなる離溶ラメラが存在する.単斜輝石集合体内部の単斜輝石粒は斜長石の離溶ラメラを持つ.ザクロ石と共生する単斜輝石は内部に石英の離溶ラメラを形成し,高いJdモル(Jd13-15)を含む.斜長石,石英の離溶ラメラを復元すると,単斜輝石は高いSi含有量をしめす(CaEs10-13).
     顕微鏡下での観察と鉱物化学組成から次のような変成過程が明らかとなった.(1) ピーク条件下でザクロ石+Si,Naに富む単斜輝石(Cpx1)+石英が安定に存在する.(2) 減圧過程で,Alに乏しい斜方輝石(Opx1)+Naに富む斜長石(Pl1)が形成される.また,単斜輝石はNa,Siが乏しくなる(Cpx2).(3) 減圧が進み,ザクロ石の分解により,Alに富む斜方輝石(Opx2)+Naに乏しい斜長石(Pl2)+スピネルが形成される.冷却・減圧過程では,(4) ザクロ石と共生する単斜輝石(Cpx1)から石英の離溶ラメラが形成され,単斜輝石の組成はSiに乏しくNaに富む(Cpx3).(5) 単斜輝石集合体内部の単斜輝石粒(Cpx1)からNaに富む斜長石(Pl3)の離溶ラメラが形成される.単斜輝石の組成はSiおよびNaに乏しくなる(Cpx4).(6) Cpx2からAlに乏しい斜方輝石(Opx3),ホルンブレンドおよびややCaに富む斜長石(Pl4)から構成される離溶ラメラが形成され,単斜輝石は著しくNaに乏しくなる(Cpx5).これらの変成過程は,以下の反応式によって表すことができる.
    (1) Grt+ Cpx1+ Qtz (超高温・超高圧条件),(2) Grt+Cpx1+ Qtz= Opx1+ Pl1+ Cpx2(超高温・高圧条件),(3) Grt= Opx2+ Pl2+Spl(高温・中圧条件),(4) Cpx1= Qtz+ Cpx3,(5) Cpx1= Pl3+ Cpx4,(6) Cpx2+ H2O= Opx3+ Hbl+ Pl4+ Cpx5
     Jdモルから見積もった最低圧力条件は1.6GPaと低いが,Siに富む単斜輝石の存在よりコース石が存在する圧力条件に達していた可能性も示唆され,ザクロ石の分解反応の解析および様々な地質温度計による変成条件の見積もりから,コンツム地塊の変成岩類は,1000℃・3GPaの超高温・超高圧条件から等温・減圧する温度・圧力履歴が推定される.
  • 廣井 美邦, 本吉 洋一
    セッションID: G6-10
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    スリランカのハイランド岩体には,珪岩やドロマイト質大理石に伴ってコンダライトと呼ばれる泥質グラニュライトが広く産出する。コンダライトは著しくアルミナと鉄に富んでおり,通例,珪線石+ザクロ石+アルカリ長石+石英+ルチル+イルメナイト+ジルコン+石墨+燐灰石+モナザイト+磁硫鉄鉱+黄鉄鉱の鉱物組合せを持つ。少量の黒雲母,十字石,藍晶石,コランダム,Znに富むヘルシナイトがザクロ石中の包有物として出現することから,コンダライトでは昇温変成時期に脱水反応(黒雲母や十字石などの含水鉱物の分解反応)がほぼ完了したことが示唆される。一部のコンダライトでは,珪線石とザクロ石がヘルシナイトと斜長石とのシンプレクタイトによって置換されている(以下,これをヘルシナイト化と呼ぶ)のが見られる(Hiroi et al., 1997)。このシンプレクタイトのヘルシナイト/斜長石比は珪線石を置換する場合とザクロ石を置換する場合で明瞭に異なり,前者で高い。これは,置換される鉱物のAl含有量の違いを反映している。ヘルシナイト化の起こっている岩石では,石英が明瞭な融食形を示し,また特にカリ長石が石英の周囲に濃集している。他方,珪線石やザクロ石などの鉱物は斜長石の薄層によって取り囲まれていることが多い。これらの点と,コンダライトのヘルシナイト化は局所的かつ不規則に進んでいることから,それは外部からの流体の流入によって引き起こされた可能性が高い(Hiroi et al., 1997)が,その時に部分融解が起こったのかどうかは不明であった。この度,上記のヘルシナイト化したコンダライトにおいて,珪線石がコランダムとアルカリ長石(あるいは,コランダムとカリ長石または斜長石)とのシンプレクタイトによって置換されている(以下,これをコランダム化と呼ぶ)のが新たに見いだされた。このシンプレクタイト中のコランダムがさらにヘルシナイトに置換されていることがあり(コランダムを置換してできたヘルシナイトはザクロ石や珪線石を直接的に置換したものとは形態が異なるので容易に区別できることが多い),ヘルシナイト化がコランダム化と同時かその後で起こったことを示唆している。注目に値するのは,コランダム化が石英の近傍で進行していることである(ただし,コランダムと石英は直接には接しておらず,アルカリ長石(あるいはカリ長石/斜長石)の薄層によって隔てられているが,その厚さは0.1 mm以下である場合もある)。このことは,0.1 mm以下の距離で,シリカの化学ポテンシャルに大きな勾配が生じたことを示している。そのような事態を発生させる原因としては,単に流体(どのような組成かは別として)が外部から流入することだけでは不十分で,それによって部分融解が引き起こされたことを強く示唆している。なぜなら,一般に流体は熱と物質の移送を効果的に促進する媒体であることと,粗粒の石英と別種の鉱物との界面での部分融解では,メルト中に大きな組成勾配が生じ,シリカに飽和したメルトは石英の極く近傍に限られることが実験的に明らかにされている(別府ら,2002)からである。一方,ヘルシナイト化とコランダム化の進んだ岩石には粗粒の石墨が産出しており,流入した流体の組成に限定を与える。もし外部から流入した流体が石墨や磁硫鉄鉱などの副成分鉱物と平衡であったなら,それは著しく二酸化炭素の富み,水の分圧は極端に低かったはずで,部分融解を引き起こす可能性は低い。部分融解が起こったのであれば,流入した流体と珪酸塩鉱物および石墨などの珪酸塩鉱物以外の鉱物との間の反応のカイネティックスの違いが重要な役割をはたしたものと考えられる。
  • 小山内 康人, Sajeev Krishnan, Kehelpannala Wilbert, Prame Bernard
    セッションID: G6-11
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    東ゴンドワナ超大陸に由来する主要な高度変成岩分布地域であるスリランカ・ハイランド岩体は、これまでグラニュライト相変成岩類が広域に分布することが知られており、なかでもスリランカ中央部のKandy周辺地域ではサフィリンー石英グラニュライトなどの超高温変成岩の分布も明らかにされていた(Osanai, 1989; Osanai et al., 2000, Kriegsman and Schumacher, 1999; Sajeev and Osanai, 2002など).演者らはハイランド岩体について過去7年間で5回の野外調査を実施し、膨大な岩石試料について様々な解析をおこなってきた.今回は、ハイランド岩体の苦鉄質グラニュライトおよび泥質グラニュライトについて、現時点で見積もられる超高温・高圧の最高変成条件について報告する.なお、これらの最高変成条件をしめす岩石は、他の一般的な温度・圧力条件(750-900℃、7-8 kbar)をしめす泥質∼珪長質グラニュライト中にレンズないしブロックとして産する.苦鉄質グラニュライト:Kandy南東のAmpitiyaおよびVictoria Dam Roadの2カ所から見出される.この苦鉄質グラニュライトはザクロ石-単斜輝石-石英からなる塊状の岩石で、ザクロ石ム単斜輝石間あるいはザクロ石ム石英間には等温減圧過程で形成された斜方輝石-斜長石シンプレクタイトが出現する.斜方輝石および斜長石はこのシンプレクタイト以外にはみとめられず、ピーク変成条件としては高圧グラニュライト相∼エクロジャイト相が見積もられる.ザクロ石-単斜輝石地質温度計からは950-1050℃が見積もられ、この温度下での斜方輝石+斜長石=ザクロ石+単斜輝石+石英反応は、岩石化学組成を石英ソレアイトとした場合、約17kbarとなる.斜方輝石-斜長石が安定となった後退変成条件は、900-980℃・約8kbarが見積もられ、ハイランド岩体の一般的な苦鉄質グラニュライトから得られるピーク変成条件(Schumacher et al., 1990)と一致する.この岩石のザクロ石-単斜輝石-珪長質フラクション-全岩によるSm-Nd内部アイソクロン年代は約530 Maとなり、斜方輝石を加えた年代とは誤差の範囲内で一致する.このことは、斜方輝石を形成する等温減圧過程が急速に進行したことをしめすと考えられる.泥質グラニュライト:泥質グラニュライトでは、Osanai(1989)の報告以来、サフィリン-ザクロ石-斜方輝石、サフィリン-斜方輝石-石英などの超高温条件をしめす鉱物共生が報告されてきた.最近では、Sajeev and Osanai(2002)などでもサフィリン+ザクロ石+石英=斜方輝石+珪線石、サフィリン+石英=斜方輝石+珪線石+菫青石などの反応が見出され、サフィリン-石英の安定領域から斜方輝石-珪線石-石英の安定領域を経て(等圧冷却)、ザクロ石-菫青石および菫青石-スピネルの安定領域へ変化(等温減圧)する変成過程が明らかにされている.今回、新たにKandy南方・Gampola付近のFAS系で解析可能な石英長石質グラニュライトからザクロ石-コランダム-石英およびザクロ石-コランダム-珪線石共生が見出された.ザクロ石-コランダム-石英共生は、Guiraud et al.(1996)では約1000℃、11kbar以上で安定に存在するとされており、付近のサフィリングラニュライト中の斜方輝石がしめす最大アルミニウム含有量(12.88wt%)から見積もられる温度条件(約1150℃)とも矛盾しない.従って、様々な岩石成因論的グリッドを用いた泥質グラニュライトから見積もられる最高変成条件は、約1150℃、12.5kbar以上となる.
  • 鈴木 里子, 白石 和行, 加々美 寛雄, 有馬 眞
    セッションID: G6-12
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    東南極大陸に分布する太古代ナピア岩体は、約39億年のSHRIMP U-Pbジルコン年代が正片麻岩から報告されている極めて古い地質帯である。また、1000℃を越える広域的な超高温変成作用(Ultra-high temperature crustal metamorphism)(約7-11kb)を被った岩体としても知られており(Harley and Hensen, 1997)、初期大陸地殻の形成と進化を解明する上で重要な地域である。これまでSHRIMP U-Pb ジルコン年代、Rb-Sr系およびSm-Nd系全岩同位体年代、CHIME法によるU-Pbジルコンおよびモナザイト年代として、2.8-3.1Gaと2.3-2.5Gaに集中値を持つ年代値が報告されており、超高温変成作用の年代について論争があったが、近年、2.3-2.5Gaを超高温変成作用年代とする説が有力である(Grew et al., 1998; Harley et al., 2001; Carson et al., 2002)。 本研究では、ナピア岩体における超高温変成作用後の冷却史を明らかにすることを目的としリーセルラルセン山地域に産するザクロ石珪長質片麻岩について、Sm-Nd ザクロ石アイソクロン年代とSHRIMP U-Pbジルコンおよびモナザイト年代の測定を行なった。リーセルラルセン山地域は、ナピア岩体の中でも1100℃以上の変成温度が記録される最も変成度の高い地域である(Harley and Motoyoshi, 2000; Hokada, 2001; Ishizuka et al., 2002) 。ザクロ石珪長質片麻岩は、S-type花崗岩組成を持つ(SiO2量68-76wt%)。形状およびTh/U比の値によりジルコンは3タイプに分類できる。A-タイプジルコンはTh/U比が高い中心部コア(Th/U>1.0)とオーバーグロース部、B-タイプジルコンはTh/U比が低いコア(0.4<Th/U<0.7)とオーバーグロース部からなる。コアは組成累帯構造を呈し、オーバーグロース部との境界部にしばしば融食組織が見られる。C-タイプジルコンは、自形コアとオーバーグロース部からなり、組成累帯構造を示さない。一方、モナザイトは不規則な組成累帯構造を呈する。SHRIMP測定の結果、A-タイプコアから約2.83Ga、B-タイプコアから約2.6-2.5Ga、C-タイプジルコンコアから約2.5Gaの年代値が得られた。また、ジルコンのオーバーグロース部から2.48Ga、モナザイトから2.48Gaの年代値が得られた。一方、Sm-Nd ザクロ石アイソクロン年代は2.38Gaであった。この年代値は同地域の他の片麻岩類から得られたSm-Nd 鉱物年代の値とほぼ一致している(Suzuki, 2003)。 本研究で得られた2.83Ga(A-タイプジルコンコア)はinherited ageを、約2.6Gaから2.5Ga(B-タイプジルコンコア)はinherited ageあるいは原岩である花崗岩の定置年代を示していると解釈された。ジルコンオーバーグロース部およびモナザイトから得られた2.48Gaは、ピーク変成年代と考えられる。一方、ザクロ石アイソクロン年代2.38Gaは変成作用後の冷却年代を示していると考えられる。 ピーク変成作用に続く冷却速度を見積もるため、ピーク変成年代(2.48Ga)の最高変成温度を約1100℃とし、Sm-Nd 鉱物年代の2.38Gaを約600から650℃のSm-Nd系ザクロ石閉止温度(Mezger et al., 1992)の通過年代とみなした。見積もられた冷却速度は、約5℃/Maである。ナピア岩体の超高温変成作用は、1100℃を超すピーク変成温度とそれに続く等圧冷却経路(Motoyoshi and Hensen, 1989))で特徴づけられている。本研究によりナピア岩体で初めて推定された極めて遅い冷却速度と等圧冷却経路は、超高温変成作用がアセノスフェアマントルの上昇と密接に関連していた事を強く示唆している。
  • 堤 之恭, 横山 一己, 寺田 健太郎, 日高 洋
    セッションID: G6-13
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    日本海に浮かぶ隠岐・島後の変成岩は,岩石の類似性により飛騨片麻岩の西方延長と考えられてきた.Sano et al. (2000) は飛騨帯の準片麻岩についてジルコンのSHRIMP年代測定を行い,様々な年代を示すジルコンを含んでいることを明らかにした.その中で最も若いジルコン年代は245±15 Maを示しており,これは堆積年代の上限であると考えることができる.一方,Suzuki and Adachi (1994) は飛騨の利賀地域と隠岐島後の準片麻岩についてジルコン及びモナザイトのCHIME年代測定を行い,それぞれ350 Ma以降に堆積し,250±10 Maに変成作用を受けたものと結論付けた.Sm-Nd全岩アイソクロン法においては,飛騨帯の和田川流域の泥質片麻岩では274±13 Ma(浅野ほか,1990)という年代が得られているのに対し,隠岐島後の泥質片麻岩からは1960±820 Ma(田中・星野,1987)という古い年代が得られており,様相を異にしている.今回,我々は隠岐島後の準片麻岩について予察的にジルコンのSHRIMP年代測定を行った.その結果,238U-206Pb*年代についてはCHIME年代と整合的と思われる結果が得られたが,1000 Ma未満の若い年代を示すデータは207Pb*-206Pb*年代とは一致しない,いわゆるディスコーダントなものであり,コンコーダントなデータは約1900-2300 Maに集中するという結果を得た.また,Sano et al. (2000)によって測定された飛騨・天生地域の片麻岩の結果と比較すると,年代分布の面で著しく異なっていた.これらの結果は,隠岐島後の片麻岩が飛騨の主要部分の片麻岩よりも著しく古い堆積年代をもつ岩石である可能性を示していると思われる.
  • 辻本 真治, 草地 功, 小山内 康人
    セッションID: G6-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    Sri Lankaの大部分の基盤は先カンブリア代の高度変成岩によって構成されている。これらの基盤岩は、Hiroi et al., (1990), Kroner et al., (1991)などにより、Nd放射年代の違いに基づいてWanni Complex, Kadugannawa Complex, Highland ComplexおよびVijayan Complexの各地質ユニットに区分されている。Sri Lanka南西部Galle周辺のGintotaには、Highland Complexに属するgarnet-orthopyroxene charnockite中にcalc-silicate rockが挟存している。このcalc-silicate rockは層状構造をなしており、大部分のものは主に単斜輝石(Cpx)、スカポライト(Scp)に富む層から構成されているが、その他に主にScp、アルカリ長石(Afs)に富む層、珪灰石(Wo)に富む層なども見られる。このcalc-silicate rockはカルシウムに富む堆積岩を起源としたものと考えられ、これが広域変成作用を受けることによって上述のような構成鉱物の集合体に変化したものと考えられる。この変成鉱物の生成後に、ケイ素に富む熱水がcalc-silicate rockの層状構造とは不調和に浸入し、特徴的に板状のWoからなる幅約50cmの脈が形成されている。また、Wo脈に近接したcalc-silicate rock中には、粗粒のCpx、Wo、Scpが局所的に形成されている。本産地に産する主な鉱物はCpx、Scp、Wo、Afs以外に、斜長石(Pl)、方解石(Cal)、石英(Qtz)、チタナイト(Spn)、燐灰石、石墨、磁硫鉄鉱などがある。本研究では、Galle周辺のGintotaに産するcalc-silicate鉱物の産状および鉱物学的性質を報告すると共に、これらのcalc-silicate鉱物の成因について考察する。 主な鉱物記載:Cpxは自形から他形で、最大15cmに達する結晶として産する。肉眼的には暗緑色を呈する。EDSによる化学分析から求めたXMgは0.53-0.60である。粉末X線回折値から求めた格子定数はa=9.767(8)、b=8.957(4)、c=5.258(4) Å、β=105.58(4)°である。Woは脈状、およびcalc-silicate rock中に層状として産し、肉眼的に白色_から_淡黄色である。脈状に産するものは長さ15cmに達する板状結晶を示す。粉末X線回折値から求めた格子定数は単斜晶系で,a=15.409(4)、b=7.311(3)、c=7.066(2) Å、β=95.36(2)°である。Scpはcalc-silicate rock中の全ての層に共通して見られる。半自形から他形の灰色結晶集合体として産し、鏡下では無色である。化学分析の結果では結晶の中心部と周縁部での組成変化は見られず全体的に均質な組成を示し、メイオナイト成分は0.72-0.87mol%である。粉末X線回折値から求めた格子定数はa=12.165(3)、c=7.567(3) Åである。Afsもcalc-silicate rock中の全ての層に産する。また,Wo脈の周辺には部分的に最大径20cmのメルトポットとしても存在する。化学組成はOr85-100である。成因: THERMOCALC v. 3.2 (Powell and Holland, 1988)と熱力学データセット(Holland and Powell, 2002)を使用して、アクティビティーを補正した部分的な岩石グリッドを作成した。それによりCASV システムでモデル化し、Scp、Woなどのcalc-silicate鉱物の成因および変成経路を推定した。その結果、変成作用時のピークの温度条件は、ScpがCpx、Afs、Spnと平衡に存在していることから800°C以上であると推定された。また、初生グロシュラーが存在しないことから、aCO2は約0.2から0.5であったと考えられる。初生的にScp、Woが生成された後の温度の低下に伴って、ScpはPlとQtzに,WoはQtzとCalに後退変質している。これらの後退反応に加え、WoとPlからScpとQtzへの反応も見られる。これらの後退反応組織であるシンプレクタイトはCO2の供給を受けることによって約0.5以上の高いaCO2条件下で形成されたものと考えられる。
  • 多賀 優, 村田 守, 草地 功
    セッションID: G6-15
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    中国地方には後期白亜紀から古第三紀の花崗岩類が広く分布し,その分布域ごとに,領家帯・山陽帯・山陰帯に区分されている(石原,1977)。山陽帯に属する花崗岩類のうち,中国地方の後期白亜紀山陽帯花崗岩類は特に広島花崗岩と呼ばれている。広島花崗岩に属する岡山県中・南部の花崗岩類は87から75Maの年代を示し,比較的均質でバソリスを形成している(柴田,1979)。これらの中には,広島花崗岩の活動より少し古い時期の小規模累帯深成岩体が点在している(濡木ら,1979)。この例として,妙見山花崗花閃緑岩質複合岩体(白川,1975;光野ら,1975),有漢花崗閃緑岩体(Takagi,1992)などがある。
     今回,岡山市北西部日近に分布する花崗閃緑岩体(濡木,1979;寺島,1983では石英閃緑岩体)を調査したところ,トーナル岩から花崗岩からなる累帯深成岩体であることが明らかになった。そこで,この日近累帯深成岩体の岩石記載・主要および微量成分を明らかにすると共に,これを貫く周辺の広島花崗岩との化学組成を比較検討した。さらに,同様な累帯深成岩体である妙見山・有漢岩体との比較検討をおこなったので,それらの結果についても報告する。
     日近累帯深成岩体は岡山市北西部(岡山空港の北西部)に位置し,東西7km,南北6kmの範囲に分布している。周縁部から順に日近トーナル岩,日近花崗閃緑岩,日近花崗岩および柏尾花崗岩からなる。柏尾花崗岩は日近花崗岩を貫き,他は漸移関係にある。これらは,周囲の広島花崗岩によって貫かれている。
     日近トーナル岩2試料,日近花崗閃緑岩26試料,日近花崗岩8試料,柏尾花崗岩5試料,広島花崗岩9試料の主要および微量成分を蛍光X線分析法で求めた。日近累帯深成岩体構成岩石の主要および微量成分組成は,SiO2含有率の増加に対してなめらかな組成変化経路を示している。Rb・Sr含有率と岩石記載から判断して,日近累帯深成岩体は,同源のマグマから分別相がホルンブレンド・斜長石の組み合わせから斜長石・カリ長石の組み合わせに変化して生成されたものと考えられる。
     日近累帯深成岩体を構成する岩石の主要および微量成分の変化経路を周辺の広島花崗岩のそれと比較してみると,MgO・Na2O・K2O・P2O5・Rb・Sr・Cr・V含有率で異なる変化経路を示していることから,両者は異なるマグマ起源と言える。
     日近累帯深成岩体と同様な累帯深成岩体と考えられるものに,妙見山花崗閃緑岩質複合岩体(白川,1975)および有漢花崗閃緑岩体(Takagi, 1992)がある。これら3累帯深成岩体は岡山県中部に近接して分布している。妙見山および有漢花崗岩類のSiO2含有率は,日近花崗岩類のそれ(56から75 mass%)とほぼ同じである。残念ながら,妙見山および有漢花崗岩類のAl2O3やP2O5の分析値が分散しており,分析結果に疑問が残る。そこで,比較的分析精度が良いと思われるMgO・Na2O・K2O含有率の組成変化図を検討した。MgOとNa2O含有率の組成変化経路を見てみると,有漢花崗岩類は日近花崗岩類のそれと1つのなだらかな組成変化経路を示すのに対し,妙見花崗岩類は広島花崗岩と1つのなだらかな組成変化経路を示す。一方,K2O含有率の組成変化経路は,妙見・有漢花崗岩類と広島花崗岩とが1つのなだらかな組成変化経路を示しており,日近花崗岩類とは異なっている。したがって,これら3岩体は異なるマグマ活動の可能性が考えられ,今後の再検討が必要であろう。
  • 村田 守, 貴治 康夫, 小澤 大成, 西村 宏
    セッションID: G6-16
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    西南日本内帯には,白亜紀大規模酸性火成岩が分布している。この成因には,海嶺の沈み込みが考えられている。西南日本内帯白亜紀の花崗岩質岩体を,構成岩石・岩石形成時の海嶺(スラブ・ウィンドウ)との関係をみた。その結果,火成活動を以下のようにまとめることができる。スラブ・ウィンドウ前方の熱いスラブのメルトに起因するHMAとアダカイト質花崗岩質岩の活動があり,続いてスラブ・ウィンドウに起因するアダメロ岩・花崗岩の主活動(一部に石英閃緑岩・トーナル岩を伴う)があり,その後沈み込んだスラブ・ウィンドウ後方の熱いスラブのメルトに起因するHMAとアダカイト質花崗岩質岩・石英閃緑岩・トーナル岩の小規模活動である(村田ら,2002)。スラブ・ウィンドウ内の火成活動に注目すると,火成活動の西から東への移動は明確である。
    西南日本内帯の白亜紀アダカイト質花崗岩質岩は,山陽帯と領家帯に小岩体として点在している。それらのうち,山陽帯の丹波花崗岩質岩(京都市北方の丹波帯中央部に分布する小規模岩体の総称)および仰木花崗岩質岩体,領家帯の大峰花崗岩質岩体および御林山花崗岩質岩体が詳しく調べられている(貴治ら,2000)。これらの岩体は化学組成に特徴があるだけではない。御林山花崗岩質岩の年代は不明であるが,アダカイト質花崗岩質岩は100 Maよりも古い活動時期を示している。つまり,丹波花崗岩質岩のK-Ar年代は101-107 Ma(貴治ら,1995),U-Th-Pb年代は107-111 Ma(未公表),仰木花崗岩質岩のU-Th-Pb年代は106 Ma(未公表),大峰花崗岩質岩のRb-Sr年代は130 Ma(Ishizaka, 1966)である。一方,近畿地方の山陽帯・領家帯の花崗岩質岩の多くのK-Ar黒雲母年代は70-80 Ma(松浦ら,1995)であり,アダカイト質花崗岩質岩より新しい。HMAも山陽帯と領家帯の小岩体として分布している。丹波帯中央部では,K-Ar黒雲母・角閃石年代が101-107 Maのアダカイト質花崗岩質岩(貴治ら,1995)と108 MaのHMA(木村・貴治,1993)が,時間・空間的に密接に活動している。
     近畿地方中部の山陽帯・領家帯には,磁鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩(生畑岩体・花脊別所岩体)とチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩が,同一地域に同時に活動している。これらは,磁鉄鉱系花崗岩質岩体の周辺部がチタン鉄鉱系に漸移するものもある。そこで,1つの岩体が全てチタン鉄鉱系のものをチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩1(百井谷・旧花脊峠南方・畑山林道・仰木の各岩体),磁鉄鉱系岩体の周辺部で漸移したチタン鉄鉱系をチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩2(花脊別所岩体・旧花脊峠北方岩体)として区別した。これら8試料のイオウ同位体比分析を三菱マテリアルに依頼した。Sasaki and Ishihara(1979)によれば,大陸地殻の生物起源物質の影響を受け,低酸素分圧条件になったと思われるチタン鉄鉱系のイオウ同位体比は-10.9から+2.5パーミル,磁鉄鉱系のそれは+0.5から+9.1パーミルと区分されている。しかしながら,本地域に密接に分布する磁鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩は-1.0から+3.3パーミル,チタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩1で-2.8から+0.4パーミル,チタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩2で0.0から+2.3パーミルであり,3者間に有意の差はなかった。このことは,スラブメルト起源と考えられるアダカイト質花崗岩質岩が地殻内を上昇する際に,大陸地殻との相互作用がそれほど顕著で無かったこと,磁鉄鉱の形成が酸素分圧とイオウ分圧に規制(Murata et al., 1983)されていることを意味している。アダカイト質花崗岩質岩の成因をさらに詳しく検討するために,今後は,有色鉱物の化学組成およびホウ素の含有率と同位体比を明らかにしたい。
  • 谷本 一樹, 田切 美智雄
    セッションID: G6-17
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    泥質片岩における実験に基づいた石墨化度の精度を得るため、1つの路頭から選んだ10の泥質片岩試料について分析を行った。石墨化度の実験精度は、GD=31およびGD=26において±1であった。この評価は隣り合う2つの試料がGDの差6以上であるときに変成度が異なるといえることを示唆する。我々は関東山地三波川の支流および荒川の路頭において、走行方向に垂直な方向に20cmそして25cm間隔で試料採集を行い、GDの変化について調べた。そしてこの地域のGDの不連続性を見出した。そしてこのような地質の関係をMiyashiro(1994)はシャッフルドカード構造といっている。三波川の支流では蛇紋岩質な緑色片岩がシャッフルドカード構造を形成していた。そして荒川では泥質片岩におけるスラスト面がシャッフルドカード構造を形成している。一方で関東山地釜伏山で掘削された約280mのボーリングコアからは連続的なGDの変化がみられる。
  • 吉村 康隆, 宮本 知治, 本吉 洋一
    セッションID: G6-18
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    東南極プリンスオラフ海岸からリュツォ・ホルム湾にかけて分布しているリュツォ・ホルム岩体は,角閃岩相からグラニュライト相に達する高度変成岩類が分布しており,変成度はリュツォ・ホルム湾奥に向かい累進的に上昇する(Motoyoshi et al., 1989; Hiroi et al., 1991).スカレビークスハルセンは,リュツォ・ホルム湾沿岸,昭和基地の南西約70kmに位置する露岩で,グラニュライト相帯に属する.本地域は,第40次南極地域観測隊により調査され,ザクロ石-珪線石片麻岩,ザクロ石-黒雲母片麻岩,斜方輝石珪長質片麻岩,石灰質変成岩類が卓越し,ザクロ石-スピネル-珪線石片麻岩や塩基性片麻岩が狭在する.本地域の変成条件は,各種地質温度・圧力計の適用により,800-950℃,0.7-1.0GPaの値が見積もられる.今回は,特にザクロ石-珪線石片麻岩,ザクロ石-スピネル-珪線石片麻岩,ザクロ石-黒雲母片麻岩に注目する.
    ザクロ石-珪線石片麻岩は,ザクロ石,珪線石,斜長石,石英に富み,少量のカリ長石を含み,黒雲母などの含水鉱物はほとんど認められない.ザクロ石は,コアに比較的細粒の包有物が多くみられ,特徴として,Yに富むコアおよびPに富むリムを有している.Y2O3含有量は最大で約0.1wt%,P2O5含有量は最大約0.12wt%である.
    ザクロ石-スピネル-珪線石片麻岩は,粗粒なザクロ石や珪線石の周囲にはスピネル+斜長石のシンプレクタイトが発達する.主な構成鉱物は,ザクロ石,スピネル,珪線石,コランダム,斜長石,カリ長石,石英であるが,スピネルと石英やコランダムと石英が接して産することはなく,これらの共生は,今のところ認められていない.ザクロ石はYやPをほとんど含まず組成累帯構造も認められない.マトリックス中の斜長石よりAnに富む斜長石の包有物が認められる.
    ザクロ石-黒雲母片麻岩は,縞状構造が顕著で比較的石英や長石に富むものと,縞状構造がやや不明瞭でザクロ石や黒雲母に富むものとがある.いずれの岩相もミグマタイト構造が発達し,ストロマティック組織やシュリーレン組織を呈す.主な構成鉱物は,ザクロ石,黒雲母,斜長石,カリ長石,石英である.ザクロ石は,縞状構造がやや不明瞭な岩相のものは,自形性の強い長石や石英の包有物を多量に含み,顕著なポイキロブラスティク組織を示す.この岩相中のザクロ石もわずかながらYに富むコア,およびPに富むリムを有する特徴をもつ.さらに,ザクロ石中の斜長石は,マトリックス中のものに比べ高いAn値を有する.縞状構造が顕著な岩相では,著しいポイキロブラスティック組織は示さないものの,Y2O3含有量は,今回取り扱った岩相の中で最も高く,最大で約0.13wt%に達する.
    以上の結果および推定される変成条件から,ミグマタイト構造が見られるザクロ石_-_黒雲母片麻岩中のザクロ石は,ポイキロブラスティク組織や高Y含有量等からメルトが存在した中で成長したと思われ,部分溶融が起こったと考えられる.ザクロ石-珪線石片麻岩は,顕著なミグマタイト構造を持たないにもかかわらず,ザクロ石の組織や組成等からは,部分溶融の関与が示唆される.本岩相はいわばレスタイト的な岩相である可能性があり,メルトが分離・移動したため無水な岩相になったのかも知れない.ザクロ石-スピネル-珪線石片麻岩は,ザクロ石中にマトリックスよりも高Anを示す斜長石が包有されてはいるものの,特に部分溶融に特徴的な組織を持たないことから,スピネル-斜長石シンプレクタイトなど,この岩相でみられる組織は,後退変成作用時に形成されたと考えられる.
G7:火山及び火山岩
  • 平原 由香, 周藤 賢治
    セッションID: G7-01
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    1990年代中頃以降に,北部北海道に産する第三紀火山岩について多くの地球化学的データ(主要元素組成・微量元素組成)が報告されてきた.そのようなデータに基づき,火山活動とテクトニクスとの関係についての議論が進展した(後藤ほか,1995;岡村ほか,1995;Watanabe, 1995;広瀬・中川,1999;Ikeda,1998;Yamashita et al.,1999など).地下深所の上部マントルの組成変化などを解明するためには,玄武岩の地球化学的研究が特に重要である.北部北海道に広くみられる中期中新世以降の玄武岩のSr及びNd同位体比の測定結果によれば,次の特徴がある(Shuto et al.,2003)。
     北部北海道の玄武岩は12Ma以降に形成されたものが多いが,これらの大部分は狭い範囲の87Sr/86Sr初生値(SrI=0.70296-0.70393)と143Nd/144Nd初生値(NdI=0.51288-0.51307)をもつ.これらのSrIとNdIには時間的変化はみられない.雄武地域の玄武岩はこれらの大多数の玄武岩よりも高いSrIと低いNdIを有する.
     北部北海道の最北端に位置する礼文島(南北22km,東西6km)における第三紀火山活動は,約18Ma以降,3期(約18Ma,約13Ma,約10Ma)にわたって起こっている.礼文島に産するこれらの火山岩を形成したマグマ活動の成因を明らかにすることは,北部北海道の火山活動場の特徴を解明する上で重要である.今回は火山岩の主要元素組成・微量元素組成及びSr, Nd同位体組成などに基づき礼文島の火山活動場についての考察を行う.  礼文島の火山岩の特徴を以下にまとめる.
    (1) 礼文島の新第三系は下位より元地層, 香深層, 浜中層より構成される. 島の北部には香深層と同時異相の関係にある召国層が分布する.
    (2) 礼文島の新第三系火山岩は元地層の安山岩質溶岩(SiO2=56.7∼68.7wt%), 香深層の玄武岩質~安山岩質火山角礫岩及び溶岩(SiO2=52.3∼63.0wt%), 元地層を貫入するデイサイト質貫入岩体(SiO2=61.2∼62.6wt%), 召国層と浜中層を貫入するドレライト質貫入岩体(SiO2=51.2∼59.1wt%), 召国層に覆われるアルカリドレライト(SiO2=54.35wt%)である. 香深層の玄武岩質火山角礫岩からは10.4±2.2Ma, 元地層を貫入するデイサイト質貫入岩体からは13.0±1.6Ma, 召国層に覆われるアルカリドレライトからは18.2±1.2MaのK-Ar年代値が報告されている(Goto and Wada, 1991; 後藤ほか1995). 礼文島の火山岩は全てSiO2-FeO*/MgO図でMiyashiro(1974)によるカルクアルカリ系列に属する. K2O含有量は香深層を除きGill(1981)による中カリウム系列に属する. 香深層の火山岩は低カリウム系列に属する.
    (3) FeO*/MgO<1.5以下の試料をMORBで規格化した液相濃集元素のパターンはNbの負異常を示し, LIL元素に富みHFS元素に乏しい島弧的マグマの特徴を示す.
    (4) Sr, Nd同位体組成はSrI=0.7037∼0.7040, NdI=0.5128∼0.5129である. 元地層の安山岩質溶岩とデイサイト質貫入岩体はSiO2含有量が高いが, アルカリドレライトと同程度に比較的枯渇した同位体組成を示す(SrI=0.7037, NdI =0.5129). 香深層の玄武岩∼安山岩及びドレライト質貫入岩体はSiO2含有量の増加に伴いSrIは増加し(0.7038→0.7040) ,NdIは減少 (0.5129→0.5128)する.
     以上のように,礼文島の玄武岩質岩石のSrIとNdIは北部北海道に産する他の多くの玄武岩(雄武玄武岩を除く)のSrIとNdIの範囲内の値を示す.これは礼文島の玄武岩質マグマが他の玄武岩質マグマとともに,同位体的に共通のマントル物質から生成されたことを示唆している.北部北海道の中新世以降の玄武岩質マグマは,日本海あるいはオホーツク海の拡大に関連して,深部から上昇した枯渇した(MORBの起源マントルよりもエンリッチした)アセノスフェア性マントルから生成されたものと考えられている(Shuto et al.,2003). 礼文島の玄武岩質岩石のSrIとNdIは,アセノスフェア性マントルの上昇が北部北海道の広い範囲に及んだことを示唆している.
  • 中村 一輝, 谷口 宏充
    セッションID: G7-02
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    火山噴出物の形状や組織の多様性は,マグマが火道を上昇する際など,噴火・堆積過程において被った現象の相違に起因する.特に,軽石など爆発的噴火によって生じた噴出物には,マグマ上昇の際の現象が組織などに保存されるため,形状や組織を解析することによって,その現象に関する知見を得ることが可能である. 有珠火山では有史以降,噴煙柱を形成する爆発的な噴火が5回発生しており,その軽石は多様である.本研究ではその例の1つである1977年に起こった有珠火山のプリニアン噴出物,特にBig. I(katsui et al., 1978)噴出物の岩相,構成粒子の量比,軽石の形状や組織に注目してキャラクタリゼーションを行った. 1977年噴火はBig I_から_IVの4回の噴煙柱を立ち上げる大規模な噴火で特徴付けられる.(katsui et al., 1978).Big. Iの噴煙柱の挙動は詳細に観測されており,段階的に成長し,急激に減衰したと報告されている(新井田・他,1982).Big. I堆積物は明瞭な境界を持つ4つのフォールユニットに区分できる.これは,噴煙柱の段階的成長,急激な減衰に対応していると考えられる. 上記3色の軽石間で岩石組織を比較した結果,斑晶の量はほとんど変わらないが,発泡度は白色軽石で高く,明灰色軽石,暗灰色軽石で低いことがわかった.石基の結晶度は白色軽石で低く,明灰色軽石,暗灰色軽石で高い.ここで発泡を含む石基の組織は,マグマが火道を上昇するときに被った現象を記録していると考えられるので,白色軽石はマイクロライトが十分に成長することができないほど上昇速度(冷却速度)が大きいマグマによって生成したと推測できる.また明灰色軽石,暗灰色軽石は,冷却速度が相対的に遅くマイクロライトが晶出したことによって,気泡の析出が妨げられたことも発泡度が低いことの一つの原因であると推測できる. Big. I堆積物について,これらの本質物質と異質物質の鉛直方向の量比変化を調査した.その結果,噴煙柱高度が最も高かったときの噴出物は,相対的に白色の軽石,繊維状の軽石,異質物質に富んでいる.このことから,噴出率が増加することと,異質岩片,繊維状軽石,白色軽石が増加することとの間には相関関係があると判断される.
  • 安井 光大, 山元 正継, 伊藤 奈緒, 久枝 栄二, 山田 哲也, 永井 甲矢雄
    セッションID: G7-03
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     本研究は東北日本弧の最も海溝側に位置する鮮新世火山岩類を対象とした.各地域の噴出物のMgOとK2Oについて第四紀脊梁TH で規格化(八幡平:吉田ら, 1983)した結果,MgOとK2O(顕著)に乏しいType-1,MgOに乏しくK2Oに富むType-2,MgOに富みK2Oに乏しいType-3(角閃石斑晶を含む),第四紀脊梁CA 岩と同様にMgOとK2Oに富むType-4に区分された.Type-1と3は本弧北部,Type-2と4は南部に産し第四紀火山岩と同様にK2O量の島弧縦断変化が認められる.この変化は鮮新世で著しい.またFeO*/MgOとSiO2の関係では,Type-1はFeO*/MgOの増加につれSiO2に富まない典型TH,Type-2はSiO2も増加するがType-1に近い変化経路を示す.Type-3と4の区分は不明瞭だが,少なくとも南部には系列や年代に関係なく肥沃的なマグマが産する.同位体でもType-1と3が枯渇的(87Sr/86Sr≦0.7046),Type-2と4が肥沃的(≧0.7050)である.Kersting et al. (1996) は第四紀火山岩の同位体の島弧縦断変化を地殻物質の混染によると考えたが,鮮新世では実際に高87Sr/86Sr物質の混染を示唆する系列岩が南部に産し,その玄武岩でさえ87Sr/86Sr=0.7052である. 全岩FeO*/MgO=2での両輝石の平衡温度 (Wells, 1977) は,Type-1で1050-1100℃,Type-2で1000-1050℃,Type-3と4で900-1000℃と概算される.ここで約2.5Ma以前にType-1と2,それ以降にType-3と4が出現することから,本弧のマグマは南北を問わず低温化していると考えられる.これは北部で顕著である.なおTH系列の変化経路は,Type-1が普通輝石(安井・山元, 2001),Type-2が紫蘇輝石(+斜長石),第四紀脊梁THが斜長石(Fujinawa, 1988;酒寄, 1991)主体の分別相の除去で説明できる.ゆえに各時代の噴出マグマの温度や由来深度が分別相の特徴に影響している可能性がある. また鉄チタン酸化物から酸素フュガシティー (Spencer and Lindsley, 1981) を求めた結果,その温度が約800℃の時に,Type-2で-14.5,Type-3で-12,Type-4で-13.5(log unit)と見積もられた.Type-3では例外的に高く第四紀青麻-恐CA岩のそれ(蟹沢ら, 1986;畠山, 1996MS)に類似する.この特徴は北部の異常な低温化に関与した可能性がある.その後の脊梁CA岩は南北を問わず脊梁THに比べてMgOとK2Oに富む(Masuda and Aoki, 1979).しかしその特徴は北部でK2O,南部でMgOに顕著で,後者は経年変化に乏しい.ゆえにCA岩の肥沃性は北部と南部で本質的に異なると考えられる.
  • 山田 亮一, 吉田 武義
    セッションID: G7-04
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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    黒鉱鉱床は火山性塊状硫化物鉱床であり、本邦では、新第三紀中新世の深海底における珪長質火山活動に密接に関連して形成されている。これらの珪長質火山活動を、東北本州弧のテクトニクスの変遷とそれに起因する火山活動史の中に正確に位置付けるため、鉱床や火山岩層序などの情報が豊富な秋田県北部の北鹿地域を対象として、既存の火山岩年代値や主要成分化学分析値を火山層序的な観点から再検討した。この結果、黒鉱鉱床の形成やその前後の火山活動の変遷は、時期的にも、組成的にも東北本州弧のマグマサイクルと調和的であることが予想された。そこで、火山岩の性質からそれらをもたらしたテクトニクス場を検証するため、鉱山坑内や探鉱ボーリングにより層序の判明している岩体から相対的に変質の進んでいない試料を採取し、かつ、この地域の黒鉱や鉱脈に伴う中性変質作用では比較的動きにくい元素を対象として、黒鉱形成以前、黒鉱とほぼ同時期および黒鉱形成以降のデイサイト類の相違を検討した。その結果、記載岩石学的には、黒鉱形成以前の無斑晶デイサイト(少量の斜長石斑晶存在)で特徴付けられる活動、黒鉱直後の斜長石斑晶の顕著なデイサイト(少量・小粒の石英斑晶随伴)の活動、そして黒鉱形成以降の斜長石?石英斑状デイサイトや花崗斑岩・石英斑岩を随伴する活動という時系列的に異なる3つの火山活動ステージが識別された。各々の活動期に対応して、主成分ではSi-Alの比や, Ti, Caの含有量に有意の差が認められ、また変質により動きにくい微量元素(HFS元素)では、Nb, Yの割合やその変化傾向に相違が認められた。即ち、各々の活動期内の分化程度に係わる変化トレンドの他に、各々の活動期の間には、分化では説明できない明瞭な系統的変化が認められた。これら3回の珪長質火山活動の転換時期や活動場のテクトニクスの変遷は、これまで東北本州弧の玄武岩の研究から得られた結論(吉田ほか,1995、八木ほか2001)と整合的であり、黒鉱鉱床が、本州弧全体のテクトニクスの変遷に関連してある特定の時期、環境下で形成された可能性が高いことが推定される。
    八木正彦・長谷中利昭・大口健志・馬場 敬・佐藤比奈子・石山大三・水田敏夫・吉田武義(2001) リフト活動の変遷に伴うマグマ組成の変化-東北本州、前-中期中新世の秋田-山形堆積盆地における例-、岩石鉱物科学, 30, 265-287.
    吉田武義・大口健志・阿部智彦(1995) 新生代東北本州弧の地殻・マントル構造とマグマ起源物質の変遷、地質学論集, 44, 263-308.
  • 高橋 友啓, 長橋 良隆, 柳沢 幸夫, 吉田 武義, 黒川 勝己
    セッションID: G7-05
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     福島県太平洋沿岸には,海成の鮮新統である仙台層群大年寺層が分布する.大年寺層は珪藻化石層序に基づくと3.9-2Maである.本研究では,仙台層群大年寺層中に挟在する101層(134試料)のテフラ層を対象とし,既知の層序(柳沢,1990;久保ほか,1990;久保ほか,1994)に基づいて,岩相記載及び,記載岩石学的性質(全粒子組成・重鉱物組成・火山ガラスの形状)を明らかにした.また,火山ガラスのEDS分析を系統的に行い,98層(103試料)から1030点の分析結果を得た.これらのデータに基づいて,記載岩石学的特徴及び火山ガラス化学組成の層位的変化から,噴出マグマの岩石学的特徴を検討した.
    大年寺層に挟在するテフラ層は,細粒ガラス質(中間型ガラス主体)で,普通角閃石を含むものが多い.火山ガラスの化学組成はSiO2量68.8-80.0wt.%で,K2O量により大きく三分(Low-K,Medium-K,High-K)される.このうち,High-K領域のテフラ層(8層)は,重鉱物組成で黒雲母を含むことなどから,中部日本の古飛騨山脈起源のテフラと推定される.このHigh-K領域のテフラ層を除いた,Medium-K領域とLow-K領域のテフラ層に関して,火山ガラス化学組成の層位的変化について検討すると,下位から上位へとK2O量が変化しない層準とK2O量が減少する層準が認められ,この減少傾向は5回繰り返していることが明らかになった.K2O量が変化しない層準のK2O量は,低い値(2-3wt.%程度)のものが複数層にわたり連続している.また,この層準では重鉱物組成の層位的変化は認められない.一方,減少傾向が確認される層準では,K2O量が1.5-4wt%の範囲で,バイモーダルな組成を示すもの,及びその範囲内である程度の幅を持つ組成を示すものが含まれる.これらは,K2O量の低い側(1.5-2.5wt.%)はあまり変化せず,K2O量の高い側(3-4wt.%)が上位へと減少している.また,K2O量の減少サイクルでは,重鉱物組成(特に普通角閃石と輝石の量比)が変化しており,K2O量の減少に伴う普通角閃石の減少,もしくは斜方輝石の増加が認められる.このことは,組成累帯したマグマ溜りの上から順に,マグマが噴出した可能性を示唆している.また,K2O量がほとんど変化しない時期のK2O量は,K2O量の減少傾向の認められる時期の低K2O量側の組成にほぼ一致している.したがって,高K2O量マグマの形成は,マグマ溜りの頂部のような特別な場所に一時的に起こったものと考えられる.
  • 伴 雅雄, 田中 勇三, 佐川 日和
    セッションID: G7-06
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/12/31
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     蔵王火山の中央部には直径約1.7kmの東に開く馬蹄形をした馬ノ背カルデラが見られる。その中に体積約2.2km3の五色岳があり、その西麓に火口湖である御釜が位置している。御釜のすぐ南東方向には旧火口跡(先御釜火口)が存在する。この地域には最近約3万年間の噴出物が分布しているが、それらは主に馬ノ背カルデラのカルデラ壁の外側に沿って分布する駒草平アグルチネートと主に五色岳を構成する五色岳火砕岩に分けられる。駒草平アグルチネートは10枚以上の主にアグルチネートからなる層によって構成され、厚いところで30mに達する。五色岳火砕岩は傾斜不整合によってさらにunit1-5に分けられる。層序からunit3は先御釜火口からの最終噴出物と考えられ、unit4,5は御釜から噴出したものと推定される。unit5の主体は西暦1895年の噴火によってもたらされたものと考えられる。unit1,2の噴出口は明らかでない。五色岳火砕岩の多くには、デューン構造、スランプ構造を伴う平行葉理、サグ構造、U字型のチャネル、側方方向での激しい層厚変化などの特徴が頻繁に見られ、火砕サージ堆積物と考えられる。但し、unit1の下部にはブルカノ式噴火によってもたらされた降下火砕岩が見られ、unit5は主に水蒸気爆発によってもたらされた灰白色凝灰角礫岩からなる。
     蔵王火山における最近約3万年間のテフラはZa-To1-10の10枚に分けられており、Za-To1-4は約2-3万年前、休止期をはさみZa-To5以降は数千年前より若く特に6以降は歴史時代のものと考えられている。層序関係などから、駒草平アグルチネートはZa-To2に、五色岳火砕岩はZa-To6以降に対比される。
     本質岩片の斑晶組み合わせは駒草平アグルチネートでは、斜長石、斜方輝石、単斜輝石、磁鉄鉱で、五色岳火砕岩はこれにカンラン石が加わる場合があり、斜長石中の塵状包有物、斜方輝石の逆累帯、カンラン石と輝石のMg-vに関する非平衡関係などマグマ混合を示唆する特徴が多く見られる。一方全岩化学組成は、SiO2量にして駒草平アグルチネートでは55-56%、五色岳火砕岩では56-58%と明瞭に異なる。さらに五色岳火砕岩のunit4はunit1-3よりK2Oなどが僅かであるが明瞭に高い傾向を示す。
     ところで、五色岳火砕岩の僅か前に噴出したと考えられるZa-To5は馬ノ背カルデラ近傍では火山礫サイズの降下スコリアからなり、含まれる斑晶は3つのグループすなわち高Mgカンラン石+高An斜長石、高Mg斜方輝石+高Mg単斜輝石+中間An斜長石、低Mg斜方輝石+低Mg単斜輝石+低Mgカンラン石+低An斜長石に分類され、それぞれ別のマグマに由来したものと考えられる。またZa-To5の全岩化学組成はSiO2量にして55-56%と駒草平アグルチネートと同じであるが、MgO,Cr,Ni量が駒草平アグルチネートより明瞭に高い。
     以上から最近約3万年間のマグマ供給系の変遷をまとめると以下のようになる。駒草平アグルチネート形成時期には、SiO2=55-56%の混合マグマが安定して供給される状況にあった。休止期をはさみ、Za-To5の形成時期にはより未分化なマグマが関与し、その後の五色岳火砕岩の活動のきっかけとなった。五色岳火砕岩の噴出時期にはSiO2=56-58%の混合マグマが形成され噴出し続けているが、御釜へ火口が移動した以降は混合マグマの組成がそれ以前より僅かに高K2Oに変化している。
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