抄録
アダカイトマグマはスラブの溶融で生成され,島弧に噴出すると言われている.しかるに,そのマントル・ウェッジでの振舞いはよくわかっていない.直接的情報が乏しいからである.そのシリカに富む性質から,マントルではかんらん石との反応が予想される.また,完全な反応を免れ,シリカに過飽和な性質が保持されねばならない.佐賀県,唐津高島のGroup IIIと総称される捕獲岩はアダカイトマグマがマントル・ウェッジを通過した証拠である可能性があるので,ここで検討を加える. 唐津高島の捕獲岩はいわゆるGroup I, IIのものが優勢である事は良く知られている(小林・荒井,1981).これらとは全く特徴が異なるGroup IIIと呼ばれる捕獲岩(岩石)は主としてオルソパイロクシナイトであり,かんらん石とメルトとの反応生成物であると解釈される.このオルソパイロクシナイトはダナイト(Group I)中の小脈,またはダナイトの小片を含む個別の捕獲岩として産する.オルソパイロクシナイトと接するかんらん石は融蝕を示唆する内側に凸の境界を有する.ダナイト中のオルソパイロクシナイト近傍のクロムスピネルの周囲には花弁状の斜方輝石が生じる.オルソパイロクシナイト小脈の中心部には斜長石がしばしば存在するが,石英は未発見である.また,しばしば単斜輝石が含まれ,ウェブスタライト的なものもある.また,Alに富むスピネルを含むことがある.輝石類は比較的細粒であり,鏡下で淡紫褐色を呈し,変形構造および離溶構造は認められない. 輝石類は比較的Feに富み,斜方輝石のMg#は0.82∼0.88である.Al2O3に富み,斜方輝石で約5 wt%,単斜輝石で5∼8 wt%である.斜長石はAn60前後であることが多い.SIMS(東京工業大学:圦本尚義氏の御好意による)およびLa-ICP-MS(金沢大学)により,単斜輝石の微量元素組成を検討した.始源マントルで規格化したREE分布パターンは緩く上に凸(Sm頂点)である.始源マントルで規格化するとSrやZrは負の異常を示す.微量元素の分布パターンではYogozhinski & Kelemen(1998)の報告したAdak島のアダカイト中の単斜輝石斑晶と類似している.ただし,高島のGroup III単斜輝石の方がREEなどの微量元素の濃度が高い.以上を総合すると高島のGroup III捕獲岩はアダカイトマグマがマントル・ウェッジを通過する時にかんらん石と反応して生成したものである可能性がある.更に詳細な地球化学的な検討を加える.