抄録
銅ヶ丸鉱山の鉱床は邑智層群の流紋岩質火砕岩及びそれを貫く花崗岩を母岩とする。本鉱床は鉱脈鉱床で、一部にスカルンを伴うとされ、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、磁硫鉄鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱、輝銅鉱、自然銅、を産出したとされる(服部ほか、1983)。松田・赤坂(1997)は上記鉱物の他に白鉛鉱、メロナイトの鉱石鉱物を報告し、本鉱山のスカルン鉱物とされてきた柘榴石、輝石はCaに富む種ではなく、著しくFeに富む特異なものであることを明らかにした。しかし、石見銀山に劣らぬ銀含有量であるにもかかわらず銀鉱物の記載はない。本研究では、特に銀の産状に着目して、鉱石鉱物の産状、化学組成を報告する。本鉱床の鉱石鉱物は黄銅鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱、錫石、方鉛鉱、から成り少量の赤鉄鉱、灰重石を伴う。脈石鉱物は主に石英、緑簾石、緑泥石、柘榴石、単斜輝石、セリサイト、白雲母で少量の方解石、亜鉛スピネル、カリ長石を伴う。本鉱床は今まで銀を含む鉱物の記載が無かったが本研究により銀を主成分とする鉱物が2点見出された。一つは黄銅鉱に包有される直径10μmの鉱物、もう一つは黄鉄鉱に包有される2-3μmの鉱物である。何れもCu、Ag、Sを主成分とし、他にFe, Znを含む鉱物である。銀含有量は最大70.8wt%に達する。既存のCu-Ag-S系鉱物には一致する化学組成が無い。方鉛鉱は0.1-0.4wt%のAgやBiを含みAg:Biの比はほぼ1:1である。これは少量のマチルダ鉱成分の存在を示唆すると考えられる。また黄鉄鉱、黄銅鉱は部分的に0.1-0.9wt%程度の金銀を検出する部分がありinvisibleGoldの存在が示唆される。閃亜鉛鉱のFeS含有量は5mol%付近に大部分の物が分布し、分布範囲は狭い。石見銀山のものと比較すると最大ピーク位置は一致するが分布範囲は石見銀山の方が幅広い。緑泥石のFe/(Fe+Mg)と4配位のAlのクロスプロットにおいて、Fe/(Fe+Mg)は石見銀山永久鉱床のものと重複するが4配位のAlは本鉱床の物がより狭い範囲に分布する。柘榴石は累帯構造を示し、中心部がMnに富み縁部がFeに富む物と、中心部がMnに富み昼間部がFeに富み縁部がMnに富む物の2タイプが存在し、すべての柘榴石はCaに富む中心部とMgに富む縁部を持つ。化学組成はアルマンディン成分に富む組成を示す。緑簾石は黄緑色を呈する一般的な物の他に鏡下で鮮黄緑色を呈する鉄に異常に富む物、肉眼で桃色を呈し鏡下で淡褐_から_淡紅色を呈する物のほか、肉眼で紅色で鏡下で強い多色性(桃色_から_赤紫色)を示す物が見つかった。多色性が強い部分の定量分析の結果構造式で判断する限りMnはすべて3価であるため紅簾石である。亜鉛スピネルは閃亜鉛鉱と柘榴石の共存する試料で見つかり、境界にはセリサイトが存在する。本鉱床はスカルンと鉱脈状の鉱石から成り、前者はCaに乏しく鉄に富むことで特徴付けられる。典型的なスカルン鉱床と異なる原因は母岩が石灰岩ではなかったことと、熱水もCa成分に比較的乏しかったためであろう。後者はBi鉱物の欠落と単純な鉱物組合わせて特徴づけられる。