2013 年 17 巻 p. 35-42
JAMSTECは主に深海曳航体(Deep-Tow)などに使用する8000m級光電気複合鎧装ケーブル(複合ケーブル)が巻かれたストックドラムウィンチを所有している.2011年度,この複合ケーブルを使用して,Deep-Towによる東北地方太平洋沖地震の震源域の調査航海を行ったが,曳航作業中に船上とDeep-Tow間の通信が途絶えた.帰港後に原因調査を実施したところ,複合ケーブルは大深度での運用には堪えないことがわかった.一方で,この複合ケーブルは東北地方太平洋沖地震の震源域調査を含め,大深度海域調査には欠かせないものであるため,早急な換装が求められた.以上のような経緯を踏まえ,複合ケーブルの換装を行った.換装においては,大深度での運用にも堪えるよう,光ロスバジェット(光伝送損失量の許容値)を検討し,水圧によって光損失が増大する水中光コネクタに対して,検討した光ロスバジェット内に光損失が収まっているか確認した.また,利用可能な光系統数を,旧ケーブルでは2系統だったが,4系統にした.さらに,フリーフォールの際に光パワーメータを用いて,実運用における光損失も計測した.上記事項について報告する.
独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)では,主に深海曳航体(Deep-Tow)用に使用される,8000m級光電気鎧装ケーブル(No.3ウィンチケーブル)を所有している.Deep-Towはこの複合ケーブルを通して,電力を供給され,光通信によってDeep-Towに搭載されたビデオカメラからの映像等をuplinkし,Deep-Towの制御信号をDownlinkする.この複合ケーブルを,平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震のDeep-Towによる震源域調査のために使用したが,ケーブルを巻き出すにつれ光損失が増大,深度5000m以深になると光通信が不可能になるまで光損失が増大するトラブルが発生した.これを受け,光損失増大に関する原因調査が行われた.調査の結果,この複合ケーブルは建造から20年以上経過し,No.3ウィンチケーブル内部の光ファイバにスラックが発生しており,通信環境の劣化が認められた.一方で,震源域調査への早急な対応が求められたことから,No.3ウィンチケーブルの更新が求められた.更新の際には,上記のような水圧による光通信途絶が発生しないよう光ロスバジェットの検討や,光水中コネクタの光損失値が高圧下でも検討した光ロスバジェット内に収まっていることの確認のため,耐圧試験を実施した.また,利用可能な光系統数を,旧ケーブルの2系統から4系統にした.本報告では,複合ケーブルの更新過程において行われた上記耐圧試験等の結果と,実海域にて使用前に行われたフリーフォールの結果について報告する.
1章で,先述の通り,No.3ウィンチケーブルは主にDeep-Tow用の曳航ケーブルとして使用される.No.3 ウィンチケーブルの主要目とケーブル断面図をFig. 2.1及びTable 2.1に示す.

Cross-section view of No.3 winch cable
図 2.1. No.3ウィンチケーブル断面図
| Wire length | 8000 m |
| Outer diameter | 17.2 mm |
| Weight | ≦1100 kg/km (air), ≦860 kg/km (fresh water) |
| Breaking strength | ≧147 kN |
| Water breaking pressure | ≧78 MPa |
| Optical fiber core | SM, cladding diameter : 125 µm, |
| Optical transmission loss | ≦0.45 dB/km (1310 nm), ≦0.30 dB/km (1550 nm) |
| Power line | annealed copper stranded cable, 7 wires /0.5 mm, Outer diameter 1.5 mm |
| Conductor resistance (20°C) | ≦17.0 Ω/km |
| Insulation resistance (20°C) | ≧9000 MΩ · km |
1章でも述べたように,旧No.3ウィンチケーブルは水圧によって光損失の増大が発生し,船上とDeep-Towとの通信が途絶する問題が発生した.そのため,新No.3ウィンチケーブルでそのような問題が発生することの無いよう,光ロスバジェットに余裕を持つ必要がある.この光ロスバジェットの評価のため,No.3ウィンチの光伝送経路より光ダイヤグラムを作成した.この光ダイヤグラムを作成するに当たり,光伝送経路上の各光損失点における光損失値の見積もりは,各機器の仕様や三木(2002)の最大損失値をもとにTable 2.2のように設定した.
Table 2.2より No.3ウィンチの光ダイヤグラムを設計した.光伝送経路とダイヤグラムを Fig. 2.2に示す.
| FC Connectors | 0.5 dB | |
| Rotary Joint | 3 dB | |
| No.3 Winch | 1310 nm: | 0.45 dB/km |
| 3.6 dB @ 8000 m | ||
| 1550 nm | 0.3 dB/km | |
| 2. 4 dB @ 8000 m | ||
| Underwater optical connector | 3 dB | |

Optical transmission path of No.3 winch and Optical diagram
図 2.2. No.3 ウィンチの光伝送経路と光ダイヤグラム
Fig. 2.2の光ダイヤグラムを設計するにあたり,No.3ウィンチを「よこすか」に搭載し,「よこすかディープ・トウ(YKDT)」を接続する場合を考える.YKDTの場合,後部操舵室のオペレーションルームに船上の光伝送装置(船上部)がある.船上部より,後部操舵室壁面に備え付けられたFCコネクタ及び,格納庫壁面の接続箱内FCコネクタを通り,No.3ウィンチのR/J(Rotary Joint)に光ファイバで接続される.R/Jからウィンチ鍔部に設けられた接続箱内のFCコネクタを通り,No.3ウィンチケーブルに接続される.その後,ケーブル端末の耐圧容器内のFCコネクタを通り,光水中コネクタ,光水中ケーブルを経て,YKDTの光伝送装置の光水中コネクタに接続される.光ダイヤグラム上で,YKDTの水中部の光出力パワーが -4.38dBm,船上部の光出力パワーが -0.62dBm,光パワー受光可能範囲を黄色の背景で表している.光パワー受光可能範囲は水中部が-8dBm~-25dBm,船上部が-10dBm~-25dBmである.また,uplinkを赤線,downlinkを青線で示している. Fig. 2.2より,uplinkについては7dB, downlinkについては6dBの光ロスバジェットがあり,6dB以上の余裕を持った設計となっていることがわかる.
2章にて,No.3 ウィンチ光系統の光ダイヤグラムを示した.この光ダイヤグラムの中で,光水中コネクタは水圧によって光損失値が変動し,まれに光通信が困難になるほど損失値が増大する場合がある.そのようなことがないよう,ウィンチ端末部に光水中コネクタを組み込む前に,JAMSTECの中型高圧実験水槽にて,高圧下での光パワーレベル測定を行った.測定における,光接続図をFig. 3.1に示す.測定では,水圧を上げていく際の光損失値をリアルタイムで計測するために,光パワーメータの発光源,受光源ともに中型実験水槽の外に設置し,中型実験水槽蓋の貫通口に水中光コネクタを取り付け,光ケーブルを中型実験水槽の外側に引き出し計測を行った.

Optical connection diagram at medium sized hyperbarig chamber
図 3.1. 中型実験水槽における光接続図
計測対象として,No.3ウィンチケーブル端末部に使用する予定の光水中コネクタレセプタクル4つ(レセ1,レセ2,レセ3,レセ4)と,それに接続する可能性のある,2本の両端プラグ付光水中ケーブル(ケーブル1,ケーブル2)を使用した.これらをTable 3.1の組み合わせで測定を行った.レセ1,レセ2は住友電気工業株式会社(住友)製,レセ3,レセ4は広和株式会社(広和)製のレセプタクル,ケーブル1,ケーブル2は広和製の両端プラグ付水中ケーブルである.
| Case1 | Case2 | Case3 | Case4 | |
| レセ A | レセ 1 | レセ 1 | レセ 3 | レセ 3 |
| レセ B | レセ 2 | レセ 2 | レセ 4 | レセ 4 |
| ケーブル | ケーブル 1 | ケーブル 2 | ケーブル 1 | ケーブル 2 |
レセ1,レセ2とレセ3,レセ4でメーカーが異なるが,両メーカーとも同一のものを製作している.
圧試験の昇圧速度,高圧速度は以下の値で行った.
以上の環境の下,測定を行った結果を Fig. 3.2にまとめる.

measuring result of optical loss
図 3.2. 高圧下光損失計測結果
まず,Fig. 3.2より,Case1の光損失値は-4.2[dB]から-3.2[dB]の間を右上がりに変動していることが分かる.この光損失値は光水中コネクタ部2か所に対しての損失値であり,Table 2.2の見積りを満たしていることがわかる.よって,使用にあたって問題はないが,圧力がかかることによって光損失値に変動が起きているため,光水中コネクタのレセプタクルとプラグの接合面に圧力によってずれが生じていることが考えられる.この原因として,レセプタクルとケーブルでメーカーが異なっていることが原因の一つと推測される.住友製及び広和製の光コネクタは同一品だが,異なるメーカー同士の組み合わせや,レセプタクルとプラグで製造年月が異なる場合には損失が大きくなる恐れがあることが,メーカーより報告されている.また,Fig. 3.2より,Case 2については-3.2[dB]でほぼ一定,Case 3については-1.4[dB]でほぼ一定,Case 4については-1.5[dB]でほぼ一定であることからそれぞれ使用にあたって問題ないことがわかる.以上より,高圧下光損失計測の結果,全ての光コネクタで高圧下において,光損失値が過大になることはなく使用にあたって問題ないことが確認された.
3章で光損失値を確認した水中光コネクタを No.3ウィンチケーブル端末部に組み込み,ケーブルをウィンチに巻きこんだ.その後,最終的にケーブルを使用する前に,ウィンチに巻き込む際に生じる撚りを解放するためにフリーフォールを行う必要がある.フリーフォールとは,ケーブル端末に錘を取り付け,海面下に巻き出し,撚りを解放する作業のことを指す.また,端末部には回転計を取り付け,ケーブルが何回転したか計測を行う.多くの場合,フリーフォールは連続して2回行う.1回目は撚り取りのため,2回目は撚り取りがされたか確認のためである.2回目において,右方向と左方向の回転数がほぼ同じになっていれば,撚りは解放されたと見なすことができる.Fig. 4.1に,フリーフォール時におけるケーブル端末部の写真を示す.

A photo of termination of No.3 winch at free-fall
図 4.1. No.3ウィンチフリーフォール時の端末部の写真
Fig. 4.1のような構成でフリーフォールを行った.このNo.3ウィンチケーブルの最大使用深度は6000mであるため,6500mケーブルを巻き出しフリーフォールを行った.また,フリーフォールの際にはウィンチ光経路の光損失計測も行った.フリーフォールにおける光経路図をFig. 4.2に,Fig. 4.3にフリーフォールによるケーブル回転数のグラフを,Fig. 4.4にフリーフォールにおける光損失計測結果を示す.

Optical transmission path of No.3 winch at free-fall
図 4.2. フリーフォール時のNo.3ウィンチ光伝送経路

Revolution of No.3 winch cable at freefall
図 4.3. No.3ウィンチケーブルのフリーフォール結果

Optical loss of No.3 winch at freefall
図 4.4. フリーフォール時のNo.3ウィンチケーブルの光損失
Fig. 4.3のグラフでは船上から見て右回転した時を+として,回転方向を定めている.aより1回目のフリーフォールでは,右に364回回転した後,巻き取り時に左回転が発生し,フリーフォール終了時には初期値から右に339回回転した状態となった.次にbを見ると,ケーブル繰り出し時に30回の右回転が生じた後に,ケーブル巻き込み時には左回転が生じ,巻き込み終了時には右に2回転した状態となって,初期値とほぼ同じ状態となっていることが分かる.よって,フリーフォール1回目と2回目を比較し,2回目では終了時の回転状態が初期値とほぼ変わらないことから,1回目で撚りは解消されたことが分かる.以上より,フリーフォールは問題なく終了することができた.
次に,Fig. 4.4について注目する.Fig. 4.4では縦軸に光損失値,横軸に線長を示している.また,aでは Fig. 4.2における1番に発光源を,2番に光パワーメータを接続し,端末部にて1番の光コネクタと2番の光コネクタを接続し,光伝送経路を折り返して1310nm帯と1550nm帯の光損失値を計測した場合を,bでは, Fig. 4.2における3番に発光源を,4番に光パワーメータを接続し,aの場合と同様に光損失値を計測した場合の計測結果をグラフで表している.a, bより光損失値は,ケーブルが繰り出されていくとともに,増大していくことが分かる.これは,水圧が増加していくことにより,マイクロベンディングがファイバに発生し,光パワーが減衰することが原因の一つとして考えられる.この微小な光ファイバの曲げは,光の波長が大きいほうが影響を受けやすく,aとbを比較すると, Fig. 4.4.aのNo. 1-No. 2光伝送経路の方が微小な光ファイバの曲げの影響を受けていることが分かる.また,No.1-No.2の光損失値はaより,1310nm帯で最大-15.48dB,1550nm帯で最大-16.11dB,No.3-No.4の光損失値はbより,1310nm帯で最大-15.64dB,1550nm帯で最大-13.42dBである.一方, Fig. 2.2の光ダイヤグラムより,船上部→水中部の片道の光損失値の見積りは1310nm帯で14.5dB,1550nm帯で17.15dBである.a及びbで示している光損失値は船上部→水中部→船上部の往復の損失値であることから,No. 1-No. 2及びNo.3 -No. 4の光伝送経路ともにFig. 2.2において検討した光ダイヤグラムの損失値よりも低い値を示していることが分かる.この見積りとの違いは,Fig. 2.2で検討した見積りは最大の光損失値であることによるものである.以上より,フリーフォール時に計測した光損失値は全ての光伝送経路において,Fig. 2.2で検討した光ダイヤグラムにおける損失値を下回っていることから,No.3ウィンチケーブルは深度6000mでの調査に使用することに十分堪え得る性能を持っていることが確認された.今後は,マイクロベンディングによる光パワーの減衰が生じないようなアーマードケーブルを検討し,さらなる機能向上に努めていく.
4章で述べたようにフリーフォールでの光損失計測も問題がなかったことから,No.3ウィンチケーブルの換装は終了した.フリーフォール後,No.3ウィンチケーブルは日本海溝での調査潜航(YK12-08)に用いられ,YKDTに搭載されたマルチビーム音響測深器やサイドスキャンソナーによる東北地方太平洋沖地震震源域の海底詳細地形調査や海底面のカメラ撮影を成功させた.その後も,JAMSTECが地震・津波観測監視システム(DONET)として進めている海底ケーブル敷設のための,6000m級ディープ・トウによるルートクリアランス調査などに従事している.今後も,新しくなったNo.3ウィンチケーブルの優れた光伝送経路を活かし,また,2系統から4系統となった光通信系統を活かして,大深度での海底面調査等が行われると期待される.