JAMSTEC Report of Research and Development
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報告
日本海東部におけるマルチチャンネル反射法地震探査
野 徹雄佐藤 壮小平 秀一高橋 成実石山 達也佐藤 比呂志金田 義行
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2014 年 19 巻 p. 29-47

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Abstract

日本海東縁では,1983年日本海中部地震(MJ7.7)や1993年北海道南西沖地震(MJ7.8)などのM7以上の被害地震,それらに起因する津波が繰り返し発生している.しかし,これらの地震の全体像を研究する上では地殻構造データが十分でなかった.そこで,「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」の一環として,2009年~2012年の4年にわたり,マルチチャンネル反射法地震探査と海底地震計による屈折法・広角反射法地震探査の地殻構造調査を実施し,地殻構造研究の側面から日本海東縁における地震発生帯の研究を進めた.調査は能登半島沖から西津軽沖にかけての沿岸域の大陸棚から大和海盆・日本海盆に至る海域にて行った.本報告では,本調査で実施された43測線のマルチチャンネル反射法地震探査によるデータ取得の概要とデータ処理の結果について記す.

1. はじめに

日本海東縁では,1964年新潟地震(MJ7.5[気象庁マグニチュード7.5]),1983年日本海中部地震(MJ7.7)や1993年北海道南西沖地震(MJ7.8)など過去に大地震とそれらの地震に起因する大津波によって大きな被害が繰り返し発生している(e.g. Ohtake, 1995; 岡村,2010).また,1980年代前半に,日本海東縁に沿った新生プレート収束境界の仮説(中村,1983; 小林,1983)が提案され,その後の調査観測から日本海東縁が単純な1ヶ所のプレート境界による地震発生帯ではなく,「ひずみ集中帯」とよばれる変動帯が複数の帯状に形成されていると指摘されるようになった(岡村,2002; 岡村2010).2000年以降,このひずみ集中帯付近では2007年新潟県中越沖地震(MJ6.8)などの被害地震が相次いで発生したが,これまで明確な調査対象としては位置付けられてこなかったため,地震調査観測の空白域となっていた(小原,2010).加えて,2011年東北地方太平洋沖地震が発生して以降,日本列島周辺で想定される地震や津波によるリスクの再検討の必要性が生じている中,日本海は発生する地震や津波を再検討するための観測データが非常に少ない.

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)では,文部科学省の科学技術試験研究委託事業による委託業務「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」において,その代表機関である独立行政法人防災科学技術研究所からの受託研究としてマルチチャンネル反射法地震(MCS)探査と海底地震計(OBS)による屈折法・広角反射法地震探査を日本海東部で実施した.この研究は,日本海東部における活構造,断層のイメージング,地震波速度の絶対値等の情報を地震探査から得る目的で行った.本報告では,これらの研究の中で,MCS探査に関するデータ取得とデータ処理の結果について記す.

2. データ取得とデータ処理

本報告に関する調査航海は,2009年~2012年において,能登半島沖から西津軽沖にかけての沿岸域の大陸棚から大和海盆・日本海盆に至る海域で実施した(図1).調査船は,JAMSTECの深海調査研究船「かいれい」(航海番号:KR09-09,KR10-10,KR11-08,KR12-10)と海洋調査船「かいよう」(航海番号:KY09-06)を用い,調査はMCS探査(43測線)とOBSによる地震探査(4測線)を実施した(図1).

Fig. 1.

Bathymetry and location maps of the survey area. Solid lines are MCS lines of the survey (red lines: KR09-09 and KY09-06, blue lines: KR10-10, black lines: KR11-08, orange lines: KR12-10), and yellow circles are the positions of the OBS sites. Alphabets and numbers which are described by the side of each line are each line name (omit "EMJS"). Gray areas show the contractive deformation zones by Okamura (2010). Red dots are the epicenters of earthquakes with M $\geq$ 2.0 and depth $\leq$ 50 km from 1925 to 2011 (Japan Meteorological Agency, 2013). TT: Toyama Trough; HS: Hakusan-se; YB: Yamato Basin; YR: Yamato Ridge; SR: Sado Ridge; MT: Magami Trough; TB: Tobishima Basin; NB: Nishi-tsugaru Basin; OR: Okushiri Ridge; MP: Matsuma plateau; JB: Japan Basin; OB: Okushiri Basin. I: the 1964 Niigata earthquake (MJ 7.5), II: the 1983 Nihonkai-Chubu earthquake (MJ 7.7), III: the 1993 Hokkaido-Nansei-oki earthquake (MJ 7.8).

図1.本報告の調査海域図.実線がMCS測線(赤:KR09-09・KY09-06,青:KR10-10,黒:KR11-08,橙:KR12-10),黄丸印がOBS設置点.各々の測線に記した数字またはアルファベットが測線名(ただし測線名の頭4文字[EMJS]は省略).灰色の領域が岡村(2010)によるひずみ集中帯の分布.赤点が1925~2011年の震源分布(M$\geq$ 2.0,深さ $\leq$ 50 km)(気象庁,2013).TT:富山トラフ;HS: 白山瀬;YB: 大和海盆;YR: 大和海嶺;SR: 佐渡海嶺;MT:最上トラフ;TB: 飛島海盆;NB: 西津軽海盆;OR: 奥尻海嶺;MP: 松前海台;JB:日本海盆;OB:奥尻海盆.I:1964年新潟地震(MJ7.5),II:1983年日本海中部地震(MJ7.7),III:1993年北海道南西沖地震(MJ7.8).

通常,MCS探査は,弾性波を発生させる震源,海底下からの反射波を受振するストリーマーケーブル,受振した記録を収録するデータ収録装置(探鉱機),発震点や受振点の位置を制御及び把握する測位システムから構成されている(e.g. 物理探査学会,1998).本報告では,三浦(2009)で記されている「かいれい」における第5段階のMCS探査システムを用いた.震源は「かいれい」に搭載されているBolt Annular Port Airgun 32基から成るtuned airgun array(総容量7800 cu.in. [約130リットル])を使用した(図23).本調査における震源の主な仕様は,発震間隔が50m,エアガンアレイの曳航深度が10m,エアガン動作圧力が2000 psi(約13.8MPa)である.また,ストリーマーケーブルは,同じく「かいれい」に搭載されているSentinel Digital Streamer System(Sercel Inc.)を用いた(図23).ストリーマーケーブルに関する主な仕様は,チャンネル間隔が12.5m,チャンネル数が444である.本調査におけるストリーマーケーブルの曳航深度は,深度調整装置(ION DigiCOURSE streamer depth controllers)を用いて海面下12mで制御した.探鉱機はSercel Seal System Ver.5.2(Sercel Inc.)を用い,本調査のデータはサンプリング間隔2ms,記録長16秒で収録した.測位制御システムはConcept社のSEPECTRAを用いて,探査時の位置情報はUKOOA P1/90・UKOOA P2/91フォーマットでアスキーデータとして出力し,探査終了後FGPS社のSeisPosを用いてデータ処理を実施した.なお,KY09-06航海の時は「かいよう」に搭載されているマルチチャンネル反射法地震探査システム(e.g. Takahashi et al. 2008)を用いた.KY09-06航海に関する主なデータ取得仕様は,震源(エアガン)に関しては,総容量12000 cu.in. [約200リットル],エアガン動作圧力2000 psi,エアガンアレイの曳航深度10m,発振間隔200mである.ストリーマーケーブルに関する主な仕様は,受振点間隔25m,曳航深度15m,チャンネル数16である.

Fig. 2.

MCS system on the R/V KAIREI in this report.

図2.本報告における「かいれい」のMCSシステム

Fig. 3.

Vessel towing geometry during the MCS survey. Top figure shows the streamer cable configuration, middle figure shows the source (airgun system) layout, bottom figure represents source-receiver depth and position, and navigation offsets.

図3.本報告における「かいれい」のMCSシステムの曳航システムの構成図.上図がストリーマーケーブルの構成図.中央図がエアガンシステムに関する構成図.下図が「かいれい」とエアガンシステム及びストリーマーケーブルの位置関係図.

本報告の調査では,堆積層や基盤形状だけではなく,モホ面までの地殻構造全体を可能な限りイメージングできるデータ取得仕様とするために,例えば「かいれい」で行われる統合国際深海掘削計画(IODP)の事前調査に関わるMCS探査(e.g. 野・他,2010)の時よりも,震源やストリーマーケーブルの曳航深度を深めに設定した.曳航深度を深めに設定することにより,低周波数帯域に対しては優位なデータが得られることが期待される(e.g. White et al. 2008; Singh et al. 2011).

船上で得られたデータは,JAMSTEC横浜研究所内の地震探査データ処理システムを用いて実施した.主な処理は,標準的な二次元反射法データ処理(e.g. 物理探査学会,1998; Yilmaz, 2001)に基づいており,フォーマット変換,トレースヘッダーエディット,F-Kフィルタ,バンドパスフィルタ,振幅回復,トレースエディット,CMP(Common midpoint)編集,ウェーブレット処理,Predictive deconvolution,多重反射抑制処理,速度解析,NMO(Normal moveout)補正,ミュート,CMP重合,F-X deconvolution,キルヒホッフ時間マイグレーションなどである(図4).特に,多重反射抑制処理は,surface related multiple elimination, radon filter, tau-p deconvolution の適用を測線毎に検討して,実施した.

Fig. 4.

Example of flow chart of data processing in this report.

図4.本報告におけるデータ処理フローチャートの一例.

3. データ処理結果から得られた特徴

データ処理によって得られた結果を図513に示す.これらの結果に関して,調査年度毎にわけてイメージの特徴を記す.

Fig. 5.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS0902, EMJS0903, EMJS0904, EMJS0905 and EMJS0906. Figures (a)-(d) are the enlarged figures of each rectangular frame. TT: Toyama Trough; TC Toyama Deep Sea Channel; YB: Yamato Basin; HS: Hakusan-se.

図5.測線EMJS0902,EMJS0903,EMJS0904,EMJS0905,EMJS0906の時間マイグレーション断面.青矢印は背斜.(a)~(d)は四角枠の拡大図.TT:富山トラフ;TC 富山深海長谷;YB:大和海盆;HS:白山瀬.

Fig. 6.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS0907, EMJS0908, EMJS1001, EMJS1002, and EMJS1003. Figures (a) and (b) are the enlarged figures of each rectangular frame. TT: Toyama Trough; TC Toyama Deep Sea Channel; YB: Yamato Basin; HS: Hakusan-se; SR: Sado Ridge; MT: Magami Trough; AU: Awashima uplift zone; NU: Niigata-oki Uplift Zone.

図6.測線EMJS0907,EMJS0908,EMJS1001,EMJS1002,EMJS1003の時間マイグレーション断面.(a)~(b)は四角枠の拡大図.TT:富山トラフ;TC 富山深海長谷;YB:大和海盆;HS:白山瀬;SR:佐渡海嶺;MT:最上トラフ;AU:粟島隆起帯;NU:新潟沖隆起帯.

Fig. 7.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS1004, EMJS1005, EMJS1006, EMJS1007, and EMJS1008. Figures (a)-(c) are the enlarged figures of each rectangular frame. TC: Toyama Deep Sea Channel; YB: Yamato Basin; SR: Sado Ridge; MT: Magami Trough; TG: Torimiguri; AU: Awashima uplift zone; NU: Niigata-oki Uplift Zone.

図7.測線EMJS1004,EMJS1005,EMJS1006,EMJS1007,EMJS1008の時間マイグレーション断面.(a)~(c)は四角枠の拡大図.TC 富山深海長谷;YB:大和海盆;SR:佐渡海嶺;MT:最上トラフ;TG:鳥海礁;AU:粟島隆起帯;NU:新潟沖隆起帯.

Fig. 8.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS1009, EMJS1101, EMJS1102, EMJS1103, and EMJS1104. Figures (a)-(c) are the enlarged figures of each rectangular frame. TC Toyama Deep Sea Channel; YB: Yamato Basin; SR: Sado Ridge; MT: Magami Trough; YR: Yamato Ridge; TB: Tobishima Basin.

図8.測線EMJS1009,EMJS1101,EMJS1102,EMJS1103,EMJS1104の時間マイグレーション断面.(a)~(c)は四角枠の拡大図.赤矢印は佐渡海嶺と大和海盆境界部に発達する背斜.TC 富山深海長谷;YB:大和海盆;SR:佐渡海嶺;MT:最上トラフ;YR:大和海嶺;TB:飛島海盆.

Fig. 9.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS1105, EMJS1106, EMJS1107, EMJS1108, and EMJS1109. Figure (a) is the enlarged figures of each rectangular frame. YB: Yamato Basin; JB: Japan Basin; TB: Tobishima Basin; OB: Oga Basin; II: aftershock area of the 1983 Nihonkai-Chubu earthquake.

図9.測線EMJS1105,EMJS1106,EMJS1107,EMJS1108,EMJS1109の時間マイグレーション断面.(a)は四角枠の拡大図.赤矢印は日本海中部地震余震域西縁に発達する背斜.YB:大和海盆;SR:佐渡海嶺;MT:最上トラフ;TB:飛島海盆;OB:男鹿海盆,II:日本海中部地震の余震域.

Fig. 10.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS1110, EMJS1201, EMJS1202, EMJS1203, and EMJS1204. Figures (a)-(e) are the enlarged figures of each rectangular frame. JB: Japan Basin; OR: Okushiri Ridge; NB: Nishi-tsugaru Basin; II: aftershock area of the 1983 Nihonkai-Chubu earthquake.

図10.測線EMJS1110,EMJS1201,EMJS1202,EMJS1203,EMJS1204の時間マイグレーション断面. (a)~(e)は四角枠の拡大図.赤矢印は日本海中部地震余震域西縁に発達する背斜.JB:日本海盆;OR:奥尻海嶺;NB:西津軽海盆,II:日本海中部地震の余震域.

Fig. 11.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS1205, EMJS1206, EMJS1207, EMJS1208, EMJS1209, and EMJS1209-1. Figures (a)-(e) are the enlarged figures of each rectangular frame. JB: Japan Basin; OR: Okushiri Ridge; NB: Nishi-tsugaru Basin; MP: Matsumae Plateau; OB: Okushiri Basin; II: aftershock area of the 1983 Nihonkai-Chubu earthquake.

図11.測線EMJS1205,EMJS1206,EMJS1207,EMJS1208,EMJS1209,EMJS1209-1の時間マイグレーション断面.(a)~(e)は四角枠の拡大図.赤矢印は日本海中部地震余震域西縁に発達する背斜.JB:日本海盆;OR:奥尻海嶺;NB:西津軽海盆;MP:松前海台;OB:奥尻海盆,II:日本海中部地震の余震域.

Fig. 12.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS09B, EMJS10A, EMJS10B, EMJS11B, and EMJS12A. Figures (a)-(c) are the enlarged figures of each rectangular frame. TT: Toyama Trough; MT: Mogami Trough; SR: Sado Ridge; TG: Torimiguri; YB: Yamato Basin; NB: Nishi-tsugaru Basin; OB: Okushiri Basin.

図12.測線EMJS09B, EMJS10A, EMJS10B, EMJS11B, EMJS12Aの時間マイグレーション断面.(a)~(c)は四角枠の拡大図.TT:富山トラフ;MT:最上トラフ;SR:佐渡海嶺;TG:鳥海礁,YB:大和海盆;NB:西津軽海盆;OB:奥尻海嶺.

Fig. 13.

Time-migrated seismic sections of the lines EMJS12B, and EMJS12C. MP: Matsumae Plateau; JB: Japan Basin.

図13.測線EMJS12B, EMJS12Cの時間マイグレーション断面.MP:松前海台;JB:日本海盆.

3.1 富山トラフ~大和海盆における調査(KR09-09,KY09-06航海[測線EMJS0902~EMJS0908,EMJS09B])

KR09-09及びKY09-06航海では,富山トラフ,白山瀬,能登半島北方沖大陸棚,大和海盆において調査を行った(図1の赤線,図5612).

まず,富山トラフ(図5612のTT)は,KR09-09航海の調査海域では最も厚い堆積層を有し,最大3秒(往復走時)に達する.トラフの西部においては凹状に最大0.5秒程度浸食されている富山深海長谷(図56のTC)がある.調査測線全域における富山トラフの海底地形は富山深海長谷を除くと平坦である.測線EMJS0906より南側の測線(図5の測線EMJS0903~0906)では,基盤は西から東へ傾斜し,深くなり,反射面のイメージの周波数が低くなっている.また,深部の堆積層は,基盤の深度の変化に対応して東へ傾斜しており,浅部はトラフの東部で厚く堆積している(図5).さらに,基盤下の地殻内では,連続性の良い反射面が確認できる(図5の測線EMJS0905の約7秒,約8秒,及び図5の測線EMJS0906の約6.5秒,約8秒).一方,測線EMJS0907より北側(図612)では,基盤深度が浅くなっていき,堆積層も薄くなっていく.基盤は,測線EMJS0907のトラフ内では東に向かって緩やかに傾斜しているが,測線EMJS0908では,全体として西から東へ向かって傾斜しているようなイメージではない(図6).

能登半島北方沖大陸棚と白山瀬の領域では,KR09-09の調査測線内で圧縮変形したイメージが最も多く確認できている.例えば,測線EMJS0903(図5,CMP4000~13000付近,青矢印が背斜)や測線EMJS0904(図5,CMP6000~20000付近,青矢印が背斜)では,背斜とそれに関連した断層の発達が確認できる.さらに,測線EMJS0902(図5,CMP5000~12000付近,青矢印が背斜)において,基盤が凹地となっている部分の堆積層下部で背斜などの逆断層を伴ったイメージが見られる.これらの背斜は,その上位に不整合で堆積している堆積層や海底面も変位している部分が認められるので,最上位の堆積層が形成された後も背斜を成長させるような活動が続いていた可能性がある.ただし,白山瀬(図56のHS)では,堆積層の層厚は非常に薄く(最大0.3秒程度),最近の活動を示唆するような変形したイメージは得られなかった.

大和海盆(図56のYB)においては,海底面は平坦で緩やかに西へ向かって深くなっていくが,基盤は海丘などの凸状の構造が点在する.堆積層の層厚は最大1.5秒程度で西に向かって小さくなっていく.堆積層は成層している部分が多いが,一部海丘等で凸状の基盤となっている部分において変形したイメージがみられる(e.g. 図5の測線EMJS0906のCMP4500付近,図4の測線EMJS0908のCMP2500付近).これらの海丘に関する先行研究で得られている年代は10Maより古いため(Kaneoka et al, 1990),堆積層中の変形は海丘形成時に関連したものである可能性が高く,最近の運動によるものである可能性は低い.基盤下の地殻内は,弱い振幅の連続性の良い反射面が認められるが,モホ面は明瞭に認められない.

3.2 新潟沖及び山形沖大陸棚~大和海盆における調査(KR10-10航海[測線EMJS1001~EMJS1009,EMJS10A~EMJS10B])

KR10-10航海では,新潟沖及び山形沖大陸棚,最上トラフ,佐渡海嶺,大和海盆における海域で調査を行った(図1の青線,図6812).新潟沖大陸棚においては1964年新潟地震が発生しており,さらに調査海域内は1833年庄内沖地震の震源域に対応している可能性がある(e.g. Ohtake, 1995; 地震予知総合研究振興会,2013).

まず,1964年新潟地震の本震直上に設定した測線EMJS1003上の新潟沖大陸棚では(図6,CMP44000以東),震源域付近の水深が200m以浅の大陸棚であり,多重反射の影響が強く生じることが懸念されたが,データ処理によって基盤までの反射面は確認できた(図6).測線EMJS1003の結果における大きな特徴の1つは,2つの背斜があることである.これらの背斜の形状は非対称で,西傾斜の逆断層を伴って形成されているとみられる.背斜の比高は往復走時約1.2秒で,東側の背斜の裾野が西側の背斜の裾野より下位に位置し,基盤面が不連続になっている.背斜の上位に不整合で覆う堆積層は,反射面の振幅が弱く,連続性も良くない.特に,背斜の裾野の反射面の不連続となっている部分の延長上に位置する堆積層中では反射面の連続性が悪い.先行研究(岡村・他,1994)と比較すると,これらの2つの背斜は粟島隆起帯とよばれる背斜群の一部であると推定される(図6のAU).また,2つの背斜の西側の裾野の反射面はさらに西側に続く基盤の反射面に対して不連続になっており,再び基盤が海底下0.5秒程度まで上昇し,堆積層中及び基盤では短周期の非対称背斜や断層の発達が認められる(図6,測線EMJS1003のCMP42000~44000).これらの高まりは,先行研究(岡村・他,1994)と比較すると,新潟沖隆起帯とよばれる部分に位置していると推定される(図6のNU).

粟島より北方の測線での新潟地震震源域付近の反射法地震探査の結果(図7,測線EMJS1005のCMP1500以東・測線EMJS1006のCMP2000以東)においては,粟島隆起帯(図7のAU)に相当する構造の頂部が浸食され,堆積層中の反射面の振幅が弱く,さらに連続性も良くない特徴をもつ.測線EMJS1005(図7,CMP1500以東)のイメージでは比高が3秒以上に達する大きな背斜が1つイメージされているが,測線が背斜の頂点付近で終わっているため東側への接続は不明である.しかしながら,測線EMJS1006(図7,CMP2000以東)のイメージにおいては,基盤面の高まりが約5 kmの幅にわたって形成され,その高まりの中に非対称な背斜とそれに関連する西傾斜の逆断層の形成が認められ,背斜間での基盤面は不連続であることが確認できる.このような測線EMJS1003~EMJS1006における粟島隆起帯付近のイメージングの結果は,粟島隆起帯が単純な同一の背斜から形成されているのではなく,異なる形状の複数の背斜から複雑に構成されていることが示唆される.一方,測線EMJS1005(図7,CMP2500付近)と測線EMJS1006(図7,CMP2500~3500付近)における新潟沖隆起帯(図7のNU)については,西傾斜の逆断層が作用していると推定される非対称な背斜がイメージされ,測線EMJS1003と大きく異なる点としては2秒以上に達する厚い堆積層が確認できることである.

最上トラフ(図6812のMT)は,測線EMJS1005と測線EMJS1006付近を境界として,基盤の傾斜方向や堆積層内の変形の発達に大きな違いがある.測線EMJS1005より南側では,基盤面が西へ傾斜しており,それと共に堆積層も厚くなる.佐渡海嶺との境界部で基盤は最も深くなり,トラフを鉛直方向にきると,くさび状の形状となっている.全体的に新しい変形構造の発達が少ない領域である.測線EMJS1006より北側では,トラフ東部において基盤が最大約4秒まで大きく落ち込み,トラフ全体は西から東へ向かって深くなる傾向になる.そのためトラフ全体の鉛直方向の形状は,トラフ南部のようにくさび状の形状となっておらず,全体としてかなり複雑な基盤形状となっている.さらに,非対称な背斜や逆断層のような変形の発達はトラフ南部より顕著で,その多くは基盤形状が急変し,海底付近まで変形が達しているケースもある.また,先行研究(岡村・他,1996)でも指摘されているが,測線EMJS1007で見られる鳥海礁(図7の測線EMJS1007のTG,図12の測線EMJS10AのTG)に代表されるような明瞭なインバージョンテクトニクスが作用した構造が見られることもトラフ北部の特徴である.このように,最上トラフは南部より北部の方が新しい構造発達により形成されていることが示唆される.

佐渡海嶺(図6812のSR)は,複数の背斜から構成されており,海底地形から見るとこれらの背斜が北東-南西方向に連なっているが,一列に連続して連なっているということはない.西傾斜の逆断層を伴って形成されたと推定される非対称な背斜が多く,基盤付近の反射面は不連続となっており,先行研究(Okamura et al. 1995)で指摘されているインバージョンテクトニクスが作用したと思われるイメージが多い.また,背斜の特徴については,全般的に最上トラフと接している東側に位置する背斜の比高が大きく,変形も顕著に確認できるのに対し,海嶺の西側では背斜の比高が徐々に小さくなっていき,圧縮変形せずに大和海盆形成時の正断層的な構造へと推移しているようにみえる.ただし,測線EMJS1009(図8,CMP14000~15000)の佐渡海嶺の西端では,逆断層を伴った背斜の形成が明瞭に確認できる.この背斜に関しては佐渡海嶺の西端に位置するものの,後述するKR11-08航海の結果と合わせて考えると,比較的新しい構造である可能性がある.

大和海盆(図68のYB)においては,圧縮変形を示唆するイメージは確認できない.海底面が深くなるところで,基盤も深くなり,堆積層は最大約1.5秒である.基盤深度は東(佐渡海嶺)・西(大和海嶺)へ向けてそれぞれ段々に上がっていき,基盤が大きくジャンプしているところの部分では基盤が凸状の構造になっているケースが多い.基盤下の地殻内の反射面は,全般的に不明瞭で弱い.

3.3 秋田沖~大和海盆・日本海盆における調査(KR11-08航海[測線EMJS1101~EMJS1110,測線EMJS11B])

KR11-08航海の調査海域(図1の黒線,図81012)は,日本海中部地震の震源域南部に位置し,気象庁が決定した本震は測線EMJS1109付近(CMP11430付近)に位置している(気象庁,1984気象庁,2013).さらに,日本海中部地震本震付近では1964年男鹿半島沖地震(MJ6.9)(e.g. Fukao and Furumoto, 1975)や2011 年東北地方太平洋沖地震(MJ9.0)の翌日にMJ6.4 の地震も発生している(e.g. Hirose et al., 2011).一方,調査海域南部では近年大地震の発生の報告がない地震空白域に対応している(Ohtake, 1995; 大竹,2002).調査海域の西部は,大和海盆から日本海盆へ遷移する領域に位置し,日本海の形成や大和海盆・日本海盆と日本海東縁で発生している地震との関係を検討する上で重要なフィールドである.

まず,調査海域の北東部にあたる男鹿半島北方沖(図9の測線EMJS1109のCMP2000以東,図10の測線EMJS1110のCMP3000以東)では,堆積層が東側へ向かって厚くなり,最大2秒程度に達する.堆積層内には約5 km間隔で非対称な背斜が形成されており,基盤の変形とも対応している.背斜や逆断層による堆積層内の変形は,大陸棚斜面においても生じ,背斜に沿って海底地形が変化している.これらの背斜の多くは,西傾斜の逆断層を伴って発達している.また,調査海域の南東部の男鹿半島南方沖に位置する飛島海盆(図89のTB)では,往復走時5秒に達する非常に厚い堆積層が形成されている.この海盆の中央部は褶曲や断層による変形は受けていないが,海盆の縁に沿って,逆断層とそれに伴った非対称な背斜の発達が認められる(図8の測線EMJS1102のCMP27500付近,測線EMJS1103のCMP2500付近,測線EMJS1104のCMP26500付近,図9の測線EMJS1105のCMP2500付近).飛島海盆西縁の背斜より西側では非常に明瞭な基盤がイメージングされているが,背斜が形成されている領域から飛島海盆の海盆底までにかけて基盤のイメージは不鮮明となっている.なお,この飛島海盆西縁の背斜による地形の高まりは,調査海域付近の男鹿半島沖大陸棚から秋田平野にかけて発達している飛島―船川隆起帯と対応しているとみられる(岡村・他,1996).

1983年日本海中部地震震源域の震源域南部に位置する領域(図910の測線EMJS1105~1110のII)では,男鹿半島沖周辺で見られたような顕著な圧縮変形を伴った構造は多く認められないものの,震源域の西端に位置する部分において東傾斜の逆断層を伴った非対称な背斜の発達が認められる(図910中の赤矢印).この背斜は北東-南西方向に走向をもつ地形上の高まりとしても現れており,日本海中部地震の余震分布の走向(海野・他,1985Nosaka et al, 1987)とも対応している.一方,この背斜より東側の震源域の中においては,弱い圧縮変形した背斜の形成が認められるが,基盤の凹凸と比べると堆積層内の圧縮変形は少ない.

日本海盆(図910のJB)は,海底地形が西部ほど深くなっていき,堆積層も西部へ向かって厚くなっていく(約1.5 秒).また,測線EMJS1110のCMP23000~27000付近では背斜の発達が認められるが,この背斜より西側では圧縮変形を示唆するイメージは認められない.一方,大和海盆の領域(図8のYB)や日本海盆と大和海盆の間の領域(図9のYB or JB)と比較すると,日本海盆は基盤の凹凸に対応した海底地形や堆積層の変化が相対的に小さく,堆積層は相対的に厚い.モホ面は,測線EMJS1108~EMJS1110において9 秒前後に明瞭にイメージされ,西部の方がより強い反射面として確認できる(図9[測線EMJS1108・EMJS1109],図10[測線EMJS1110]).なお,測線EMJS1105~EMJS1108にかけては,日本海盆か大和海盆かのどちらであるか判断できなかったため,図の記載上は「YB or JB」とした(図9).

3.4 西津軽沖~日本海盆における調査(KR12-10航海[測線EMJS1201~EMJS1209-1,EMJS12A~EMJS12C])

KR12-10航海の調査海域(図1の橙線,図1013)は,日本海中部地震の震源域北部を含む.日本海中部地震の余震分布の走向は北部と南部では異なり,KR12-10航海の調査海域に対応している北部では北西-南東方向へと変わる(海野・他,1985Nosaka et al, 1987).最大余震(MJ7.1)は震源域北部の測線EMJS1207近傍(図11の測線EMJS1207のCMP16055付近)で生じた(気象庁,1984海野・他,1985).また,調査海域の北部は,近年大地震の発生の報告がない地震空白域にあたる(Ohtake, 1995大竹,2002).調査海域の東部には西津軽沖大陸棚,西津軽海盆や奥尻海盆が位置し,調査海域の西部では日本海盆が広がっている.

まず,西津軽沖大陸棚(図11の測線EMJS1205のCMP3000以東,測線EMJS1206のCMP3000以東,測線EMJS1207のCMP4000以東)では,堆積層の層厚の変化が大きいが,最も厚いところで往復走時2.7秒である.堆積層中に圧縮変形した背斜と逆断層がイメージされている.しかし,この領域では,定常的な地震活動が新潟沖~秋田沖の大陸棚(図610の測線EMJS1003~1110)と比べて低調で,歴史地震も認められていない(地震予知総合研究振興会,2013).

大陸棚の西側に位置する西津軽海盆(図1011のNB)においては,堆積層の層厚が最大約3秒に達している.海盆内では背斜が形成されている領域もあるが,背斜の上位は堆積物が不整合で覆っている.しかし,海盆東縁及び西縁(奥尻海嶺,図1011のOR)の海盆両縁では,圧縮した構造が発達し,背斜とそれに関連した逆断層の形成が認められる.

1983年日本海中部地震震源域北部にあたる領域では(図1011のII),前述したKR11-08航海における震源域南部での結果と同様に,震源域の西端に位置する部分において東傾斜の逆断層を伴った非対称な背斜の発達が認められる(図1011の赤矢印).この背斜に対応する東へ傾斜する明瞭な反射面を地殻内に同定することができる.この反射面に接続している背斜は,震源域北部から南部まで余震分布の走向に沿って発達している.背斜とそれに接続している反射面は測線EMJS1207までは確認できるが,測線EMJS1208では不明瞭になる.一方,震源域東部に形成されている背斜は,西傾斜の逆断層によるものと見られる.ただし,この西傾斜の逆断層に関連した背斜は,震源域西縁に発達した背斜と比較すると,地形上の空間的な連続性は良くない.

日本海盆(図101113のJB)では,基盤下の地殻内は連続性の良い反射面を同定でき,モホ面も明瞭にイメージされている.また,松前海台と大和堆の間までの領域において,圧縮変形した背斜とそれに関連した逆断層の構造が地形や堆積層中にみられる(図1011の測線EMJS1201のCMP20000~24000付近,測線EMJS1204のCMP22000~24000付近,測線EMJS1205のCMP22500~26000付近,EMJS1206のCMP20000~23000付近,測線EMJS1207のCMP20500~25000付近).背斜とそれに関連した逆断層は,地殻内に明瞭な反射面としてイメージされており,その一部はモホ面近傍まで達している.このような地殻全体を横切るような断層は複数の測線で認められ,空間的に連続した圧縮変形した構造を形成している.この構造に沿った歴史地震は現段階で確認されていない(地震予知総合研究振興会,2013)が,今後十分に検討する必要がある.

4. 今後の予定

以上の結果を含む詳細な研究成果については,現在研究論文としてまとめているところである(e.g. Sato et al, 2014; No et al, 2014).さらに,2013年度から,文部科学省の「日本海地震・津波調査プロジェクト」による受託研究が始まり,2014年度以降日本海において十分に調査が進んでいない北海道西方沖や能登半島沖以西において,地震探査を実施する予定である(野・他,2014).新たに得られる予定の地震探査データを加えて,日本海での地殻構造研究を実施する.この研究によって,日本海の震源断層の位置や大きさの精度を向上させるとともに,JAMSTEC内外の研究グループと連携して,活断層をはじめとする震源断層を形成する要因となっている日本海の地殻構造や構造発達史を組み込んだ日本海における地震発生帯の全体像をとらえる情報を得たい.

なお,本報告のMCSデータは海洋研究開発機構の地殻構造探査データベースサイト[http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/IFREE_center/](Kido et al. 2006)にて公開している.

謝辞

本報告のデータは,文部科学省の科学技術試験研究委託事業による委託業務「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」において,その代表機関である独立行政法人防災科学技術研究所からの受託研究として実施した調査結果です.データを取得した調査航海においては,深海調査研究船「かいれい」・海洋調査船「かいよう」の乗組員の皆様,及び日本海洋事業株式会社海洋科学部の観測技術員の皆様にお世話になりましたことを深謝申し上げます.査読者の岡村行信博士(産業技術総合研究所),木戸ゆかり博士(海洋研究開発機構地球深部探査センター),および編集を担当された松本浩幸博士(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)には有益な助言をいただき,原稿を改善することができました.本報告をまとめるにあたり,瀧澤薫氏と井和丸光氏にご協力いただきました.本報告の地図の作図にはGMT(Wessel and Smith, 1991)を用いました.

参考文献
 
© 独立行政法人海洋研究開発機構
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