JAMSTEC Report of Research and Development
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報告
耐圧ガラス球内部計測データによる潜航・浮上運動解析
小池 義和森野 博章栗原 邦彰糸井 成夫河上 達清水 悦郎
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2014 年 19 巻 p. 49-58

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Abstract

近年,深海探査の要求は高まっており,低コストで簡易な深海探査システムの実現が望まれている.江戸っ子1号プロジェクトは,東京下町の中小企業,大学,研究機関,金融機関,企業有志がフリーフォール型の簡易深海探査システム実現を目的として集まって実施したプロジェクトである.プロジェクトでは,深海7800 mでの3Dビデオ撮影に成功している.このプロジェクトに参加した筆者らは,江戸っ子1号プロジェクトで使用したフリーフォール型深海探査システムのガラス球内部に温度センサと気圧センサを設置し,深海の温度プロファイル,着底,離底の検知ができないかを検討した.その結果,センサ出力から得られる体積変化分から着底,離底の検出が可能となることを確認した.

1. はじめに

江戸っ子1号開発プロジェクトとは,下町の中小企業が中心となって深海探査機を製作しようというプロジェクトである(こどもくらぶ,2014).中小企業の連合体に(独)海洋研究開発機構,芝浦工業大学,東京海洋大学が技術支援を行い,東京東信用金庫が事務局業務を行いながら進められている. %%上記の企業,研究機関のほかにもソニー(株)のエンジニア有志や(株)アイツーアイ技研等がサポートメンバーとして参画している. 上記の企業,研究機関のほかにも新江ノ島水族館からも支援をいただき,ソニー(株)のエンジニア有志から技術,機材,人的援助をもらっている。また,アイツーアイ技研からは様々な提案をうけている.

プロジェクト開始当初は遠隔操作型探査機(ROV)のようなものの開発を目指していたが,ROVでは開発費用が億単位で必要である,運用には船舶が必要となるため運用費用も膨大である等の問題より方針転換を行い,低コストで製作・運用可能な深海探査機を製作するプロジェクトとして進められている.現在は,橋本らが開発したカメラシステム(橋本・服部,1977)を発展させ,最新の技術を用いてフリーフォール型深海シャトルビークル「江戸っ子1号」の開発が進められている.橋本らが開発したシステムではカメラシステムとして,ガラス球内に封入されるカメラはフィルムを用いたモータドライブつきのスチルカメラであった(橋本他,1979).これに対して,現在は動画撮影が行えるビデオカメラが非常に小型になっているため,十分にガラス球内に封入可能である.そのほか,充電池,センサ,集積回路等いずれの技術においても格段に進歩しており,特にセンサ類は制御基板上に搭載することが可能であることより,これら現代の技術を積極的に利用することにより,江戸っ子1号は新たな探査システムとして機能するのではないかと考えた.

そこで江戸っ子1号を新たな探査システムとして機能させるためにも,まずは,どのような変化が計測できるのかを確認するために,2013年11月に実施され3Dハイビジョン映像の取得に成功した4000mならびに7800m海域での実海域試験(海洋研究開発機構,2014)の際に,ガラス球表面やガラス球内部に各種電子部品である気圧センサ,温度センサ等を設置し観測を行った.気圧センサ,温度センサをガラス球の外部に設置することなくガラス球の内部に設置して計測することが可能な場合,計測データを送受信するためのガラス球に対する加工が不要となり,ガラス球の強度保持,コスト低減が期待できる.本稿ではガラス球内部の圧力,気温等,計測したデータを分析することにより,深海の温度プロファイルや,江戸っ子1号本体の動きとして,どのようなことが計測・推定できるのか,特に深度推定や着底,離底検知システムとしても利用できないかという観点から検証を行う.

2. フリーフォール型深海シャトルビークル「江戸っ子1号」による探査システム

2.1 江戸っ子1号の概要

江戸っ子1号はFig. 1に示すように実験機材を内蔵する耐圧ガラス球(岡本硝子(株)製) を4種類組み合わせた形で構成される.撮影球はビデオカメラ,照明球は撮影用のLEDライト,トランスポンダ球は母船との通信を行うトランスポンダ(海洋電子社製)およびその制御回路,通信球は躯体の海面浮上後に自身の位置情報を母船に通知するためのGPSと衛星通信機器をそれぞれ内蔵する.躯体には鉄製の錘が括り付けられており,母船から海中に投下されると自重により沈降する.躯体が海底に着地すると照明球および撮影球の電源がオンになりあらかじめ決められた時間スケジュールで外部環境の撮影が行われる.錘の切り離しは母船から躯体のトランスポンダへの音波による指令で行われ,以降は躯体の浮力のみにより浮上する.

Fig.1.

Overview of the Edokko No.1

図1.江戸っ子1号の全体図

2.2 ガラス球内へ配置したセンサおよび回路の構成

今回,江戸っ子1号を構成する4つの球内にFig. 2に示す配置で温度センサと圧力センサを設置し測定を行った.温度センサ(1)はディジタル温度センサICであり基板に設置することで基板付近の温度を測定している.これに対して,温度センサ(2)はサーミスタ温度センサを用いて,ガラス球面に設置している.サーミスタ温度センサの取り付けには,保守性を優先したことから簡易粘着ゴム(blutack,bostik社製)を用いている.二つの温度センサにより海水温の変化の測定を試みている.各センサの仕様は以下の通りである.

  •      

    ・ 温度センサ(1)

      測定レンジ :-40℃~120℃

      精度     :±0.5℃

      製品名    :アナログデバイセズ社 ADT7411

  •      

    ・ 温度センサ(2)

      測定レンジ :-50℃~105℃

      精度     :R25許容差1%

      製品名    :セミテック社 103AT-11-FT

  •      

    ・ 圧力センサ

      測定レンジ :500hPa~1150hPa

      精度     :±10hPa

      製品名    :フリースケール社 MPL115A1

なお上記でR25許容差%1とは,気温25℃でのゼロ抵抗負荷値の精度が± 1%であることを意味する.

Fig.2.

Layout of sensors in each glass ball

図2.各ガラス球内での温度センサ・圧力センサの配置

また,ガラス球内の温度及び気圧の測定のための回路構成をFig. 3に示す.各センサにより測定されたガラス球及び基板温度,ガラス球内の気圧をPICマイコンで集約し,リアルタイムクロックの時刻データとともにメモリに記録する.ガラス球内の温度計測はPICマイコンのADC(Analog/Digital Converter)を使用している.その他のセンサはADCが内蔵されており,変換されたデータがI2Cバスによりマイコンに送られる.尚,I2Cバスはマイコン及びセンサICなどの集積回路間の制御を簡易に実現する2線式双方向バスである.

Fig.3.

Block diagram of the circuit boards

図3.測定回路図

2.3 測定場所および期間

実験ではFig. 1の構成の躯体を3体用意し,日本海溝周辺のそれぞれ異なる地点に潜航させた.本稿ではこれらを躯体Red,躯体Green,躯体Blueと呼ぶ.

各躯体が潜航した地点はおおよそFig. 4の海域図に示す通りであり,躯体Redの地点は水深約4000m,躯体Green,躯体Blueの地点は水深約7800mと推定される.Fig. 5は各躯体で測定及び撮影を行った日時を示している.Fig. 5には着底,離底の時刻も合わせて示している.測定はすべての躯体で海中に投下する直前に回路の電源を入れ測定を開始,躯体が海底から浮上し母船で回収した直後に測定を終了させている.

Fig.4.

Locations of the experiments

図4.潜航地点

Fig.5.

Date and time of the measurements and the camera operations

図2.測定日時及び撮影時刻

3. 測定結果

3.1 ガラス球内部に設置された温度センサの測定結果

全ての躯体の沈降速度は,トランスポンダ(海洋電子社製)を用いたスラントレンジの測定結果から,沈降及び浮上途中の2000mまでの測定結果であるが,沈降速度が約1.2m/s,浮上速度が約1.0m/sであることが計測できている.ビデオカメラの撮影結果から,躯体Greenでは,投入から着底,離底,浮上の時刻を,躯体Blueでは投入から着底,離底の時刻を躯体Redでは投入から着底までを測定できている.

躯体Greenは,ビデオの撮影結果により投入から着底までおよそ1時間53分要している.深度2000mまでのスラントレンジ測定結果から得られている平均沈降速度から海面から着底した位置までのスラントレンジは約8100mと推定できる.直径330mm,厚さ12mmのガラス球内部に直接設置されたサーミスタ温度センサの測定結果をFig. 6(a)に示す.図では撮影球,照明球,通信球のガラス球内部に設置されているサーミスタ温度センサの投入から測定終了までの変化を比較がしやすいように一枚のグラフに表示している.同じく,Fig. 6(b)には躯体Blue,Fig. 6(c)には躯体Redのガラス球内側に設置されている温度センサにより測定した結果を示している.ただ,躯体Blueの照明球にはガラス内部には温度センサが設けられていない.グラフの開始時刻は,各躯体が船舶からクレーンにつり下げられて,投入する時間が数分間含まれているが,ほぼ,海中に投入されたと同時の時刻と見なせる.

Fig.6.

The time variation of the temperature measured on the inner surface of the glass spheres of the red, blue and green label unit. The temperature is measured by the thermistor temperature sensor attached on the inner glass surface. “LED sphere” in Figs. 6 indicates the thermistor temperature in the glass sphere for LED light system. “COMM sphere” is the temperature of the communication system glass sphere. “CAM sphere” is the temperature of the video camera system glass sphere. The legends of the following graphs are same.

図6.躯体Red,Blue,Greenにおける,撮影,照明,通信の各球のガラス球内部に設置されたサーミスタセンサによる温度変化.図中の凡例は,それぞれ,“LED sphere”は照明球内部に設置されたサーミスタ温度センサの出力,“COMM sphere”は通信球内部の温度センサ出力,“CAM sphere”は撮影球内部に設置された温度センサ出力.以降の図の凡例も同様.

また,Fig. 6には着底,離底,浮上の時刻を図中に示している.

最初に注目すべき点は,カメラ球内部での消費電力は撮影時6W程度である.また,LED球内部での消費電力は,照明時12W程度であり,通信球は着底時は,ほぼ,待機状態で2Wの電力を消費している.このように,3球では大きく消費電力が異なっているが,一部で1~2分程度の間隔で2℃程度変化する温度変化が現れているが,着底している間では,各球のガラス球内部の温度変化は±1℃程度の温度差となっていることである.ここで,躯体Redの照明球,通信球のサーミスタ温度センサ出力,躯体Blueの通信球のセンサ出力,躯体Greenの照明球のセンサ出力で着底の間に現れている1~2分程度の間隔の温度変化の原因について考えた時,今回使用している機器の消費電力から直径330mmのガラス球で実際にそのような早さで温度の変化が起きているとも考えにくい.また,使用しているPICマイコンは12bitのA/Dコンバータを有しており,電源電圧が3.3Vとしていることから,最小分解能は806$\mu$Vである.また,使用しているサーミスタ温度センサは4℃付近では1℃の変化は30mV程度の変化に相当する.そのため,PICマイコンのA/Dコンバータの量子化誤差とは考えにくい.それ以外の温度センサ出力では変化は現れていないため,今回,A/Dコンバータの基準電圧の生成に問題があったと考えられ,今後,検証をする必要があると考えている.

次に沈降中,浮上中の温度変化に注目する.すべての躯体で,投入から着底までが測定できており,7800m付近に投入されたと考えられている躯体Green,Blueでは投入から着底の間の温度変化に着底時より低い温度が現れている.沈降速度が1.2m/sより1時間半前程度であり,水深としては着底した箇所より2000m程度浅い深度と考えられる.このような海域で海底より低い温度が観測される結果については,既にこの近海でのクルーズレポート(よこすかクルーズレポート,ID:YK12-09)で報告されている.クルーズレポートでは,測定時期が異なるが房総沖でのCTDによる測定結果で4000m付近で海水温度が最低になる温度プロファイルが示されている.また,躯体Green,Blueでは離底から海面への浮上の間においても,離底した時間から2時間程度経過したところでも着底時よりも低い温度となっている.浮上速度は1.0m/sとなっており,沈降時よりも速度が遅いため,浮上までの温度変化の傾きが沈降時よりも緩くなっており,着底時から温度が低くなる箇所が現れる時間も長くなっていると考えられる.一方,躯体Redは着底までに58分程度であり,着底までの深度はスラントレンジで4300m付近の深度と推定される.そのため,着底時より低い温度が投入から着底までに観測できなかったと考えられる.ここで,ガラスの熱拡散率は4.0×10-7m2/s前後であり,銅の熱拡散率は約1.1×10-4m2/sと3桁程度熱拡散係数が異なる.しかし,今回の測定では1.0m/s前後の潜行速度であれば簡易的に温度プロファイルを確認する目的に対して,ガラス球内部での温度変化で代用可能なことが確認できたと考えている.また,Fig. 6に示した結果より,ガラス内部での温度変化で着底,離底を判断することは難しいことを改めて確認した.

3.2 基板に設置された温度センサの測定結果

Fig. 7に各球の制御回路に組み込まれている温度センサにより測定した温度変化の結果を示す.ガラス球の内面に設置されたサーミスタセンサが海水温の影響を表すのに対し,基板に設置された温度センサでは稼働している機器の発熱による温度上昇に加えて,ガラス球全体の伸縮の影響を大きく受けると考えられる.ガラス球の収縮については後節で考察する.Fig. 7(a)において,躯体Greenでは投入時から撮影球,照明球はすべて稼働状態にある.しかし,投入から着底までの温度変化は照明球と撮影球でほぼ同じような傾向を示している.それに対して通信球は,アイドル状態で,他の球より消費電力が少ないため異なる変化となっている.ガラス球内部の空間に機材が占める体積の大小が影響していると考えられるが,着底後の温度は,それぞれの球で異なっている.これに対して躯体Blueでは投入から撮影開始まで1時間30分の時間がある.そのため,投入から着底までの各球の温度変化はほぼ同様となっており,動作する着底20分前から温度変化に差が現れていると考えられる.躯体Redは投入から撮影開始まで1時間の時間がある.このことから,躯体Blueと同様な変化が期待されるが異なる結果となっている.センサの位置と機材の位置が大きく影響していると考えられる.

Fig.7.

The time variation of the temperature measured on control circuit board of the red, blue and green label unit. The temperature is measured by the temperature IC sensors.

図7.躯体Red,Blue,Greenにおける,撮影,照明,通信の各球の制御基板に設置された温度センサにより測定された温度変化

3.3 基板に設置された気圧センサの測定結果

Fig. 8に各球の制御回路に組み込まれているダイヤフラム式の気圧センサにより測定した投入からの気圧変化の結果を示す.ダイヤフラム式であるが気圧センサの出力はセンサ内部の温度により補正がなされている.

Fig.8.

The time variation of the pressure inside the glass spheres measured on control circuit board of the red, blue and green label unit. The pressure is measured by the diaphragm type pressure sensor.

図8.躯体Red,Blue,Greenにおける,撮影,照明,通信の各球の制御基板に設置されたダイヤフラム式の気圧センサにより測定された気圧変化

各球の投入直後の各球の気圧は,封入時に減圧されており,おおよそ同じ値になるように管理されているが,数hPa程度の差が発生している.いずれの結果においてもガラス球は深海での水圧により収縮しているが,実際には温度低下により内部の圧力は投入時よりさらに低くなる結果となっている.躯体Greenでは着底時より,その直前で着底時より低い気圧が観測されている.また,離底から浮上までの間にさらに低くなる結果となっている.躯体Greenは撮影,照明とも投入時から稼働している.そのため,機器の稼働,停止による気圧変化はないため,深度による水圧変化によるガラス球の収縮と海水温の温度変化により,Fig. 8(a)の結果が得られたのではないかと考えている.同じく躯体Greenでは着底時の内部気圧が全ての球で同じ値を示している.

これに対して,躯体Blueでは着底直後は内部の気圧は各球で異なっている.照明球,通信球では投入から着底までほぼ同じように変化しているのに対し,着底直前にカメラとLED照明が稼働したため,異なる内部気圧変化を示す結果になったと考えられる.また,撮影開始後5時間後に一旦撮影を停止し,1分後に撮影を再開し,3時間後に停止している.そのため,カメラとLED照明が稼働した時刻から8時間後の機器が停止した時間に,撮影球と照明球の内部気圧が低下している.その後7時間後に5分間,カメラとLED照明が稼働し,わずかに内部気圧が上昇していることが確認できる.その後,2時間15分後に再びカメラとLED照明が稼働しており,その時間と離底の時間がほぼ同じとなったため,他の球で見られる着底の気圧と比較した内部気圧の低下は,躯体Blueの照明球では確認されていない.

躯体Redであるが,投入から1時間後の着底直前にカメラとLED照明が稼働している.着底直前の内部機材の稼働状況は躯体Blueと同じである.しかし,撮影球と照明球で,内部気圧はほぼ同じ値となっているが通信球は他の球よりも低い値となっている.ダイヤフラム式気圧センサにより温度補正が必要となり,センサ内部の温度センサ出力を用いて補正が行われている.そのため,センサ付近の温度が稼働機材付近に設置されていると気圧センサに影響を与えていると考えられる.

Fig. 8からある程度の経過時間を考慮することで気圧センサを使用して着底,離底の変化を検知する可能性が考えられるが,機材の稼働状況と着底,離底が重なると異なる変化として現れる可能性があり,着底,離底の指標として使用することは難しいと考えられる.

4. ガラス球内部に設置されたセンサによる着底,離底変化の検出の検討

今回,温度センサと気圧センサが設置されていることから,ガラス球の収縮に相当する内部容積の体積変化分に推定できないか試みた.用いる換算式としては,厳密な議論が必要であるが,今回はマイコン内部での組み込みを容易にするため,気体の状態方程式に関連した式(1)の換算式を用いた.

  
\begin{equation} \mathit{Volume\;delta}=\frac{T}{P}-\frac{T_{o}}{P_{o}} \end{equation} (1)
ここで,$P_{o}$$T_{o}$は海中に投入前のセンサの出力値である.これにより単なる気圧変化ではなく,温度の影響も考慮して,内部容積の体積変化分に相当する換算値が得られると考えられる.

(1)の適用において,圧力は基板上に設けられた気圧センサ出力を用いるが,温度は基板上に設置された温度センサ出力,または,ガラス球内面に設置された温度出力のいずれかを用いることが考えられる.

Fig. 9には基板上に設置された温度センサ出力を用いて体積変化分を躯体Green,Blue,Redで求めた結果を示している.躯体Redの通信球では着底の変化を検知することができていないが,他の球では,3つの躯体とも着底の前後で体積変化分の変化の傾きが不連続になっていることが確認できる.

Fig.9.

The time variation of the equivalent volume deviation on the glass sphere calculated by eq.(1). The calculation is employed both outputs of the atmosphere sensor and of the temperature sensor on the control board.

図9.躯体Red,Blue,Greenにおける,式(1)を用いた体積変化分に相当する換算値の時間変化.用いた気圧と温度は,撮影,照明,通信の各球の制御基板に設置されたダイヤフラム式の気圧センサと温度センサにより計算.

Fig. 10にはガラス球の内側に設置されたサーミスタ温度センサを用いて体積変化分を求めた結果を示す.Fig. 9と比較すると着底,離底時の変化の確認が困難な結果となっている.一つは,前節で説明したように温度センサの出力が1~2分間隔で±1℃変化していることが上げられるが,躯体Blueの撮影球の変化をFig. 9Fig. 10で比較すると明らかなように,1~2分間隔の変化が無くてもFig. 10では着底時の変化が現れていない.これは,ガラス球の内面に設置された温度センサが海水温の変化を表しているのに対して,基板上の温度センサ出力は,ガラス球内の温度を表していることを支持する結果と考えている.

Fig.10.

The time variation of the equivalent volume deviation on the glass sphere calculated by eq.(1). The calculation is employed both outputs of the atmosphere sensor and of the thermistor sensor on the inner surface of the glass sphere.

図10.躯体Red,Blue,Greenにおける,式(1)を用いた体積変化分に相当する換算値の時間変化.用いた気圧と温度は,撮影,照明,通信の各球の制御基板に設置されたダイヤフラム式の気圧センサとガラス内側に設置されたサーミスタ温度センサにより計算.

また,躯体Blueでは投入から着底,及び離底から浮上までの変化が3球とも同様な値と傾きで変化が得られている.Fig. 8(b)では各球で気圧の差が現れていたが,式(1)を用いることで,ほぼ同じ値で閾値等を設定できる可能性があることが確認できた.

5. 結論

今回,深海7800m,及び4000mに潜行させてフリーフォール型撮影システムのガラス球内部に設置された温度センサ及び気圧センサにより,簡易的に海水温の変化及び着底,離底の検出について検討を行った.

今回の測定により得られた結果を以下にまとめる.

  1. (1)   ガラス球の内側に設置された温度はフリーフォール型の躯体が1.0~1.2m/sで沈降,浮上している時は水温プロファイルを推定可能である.内部で,2W(通信球),6W(撮影球),12W(LED球)の消費電力で稼働する機器があったとしてもガラス内側に設置された温度計では,±1℃以内に抑えられる可能性がある.ただし,設置場所及び温度センサの選定には十分注意する必要がある.
  2. (2)   基板に設置された温度センサ及び気圧センサは十分時間が経過することにより,ガラス球内の状態(気圧,温度)を表している.但し,設置場所には十分注意し,付近にある機器の影響を避けるように設置することでさらに精度を向上させることが可能である.
  3.  今回の測定では,深海7800m付近では,ガラス球の収縮による圧力変化より,ガラス球内の温度低下により気圧が低下することが確認できた.
  4. (3)   基板に設置された温度センサ及び気圧センサの値から理想気体の状態方程式を使用して求めた体積変化分は,ガラス球の収縮に応じた内部容積変化分に相当することを確認した

また,体積変化分を考慮することで高い精度で着底,離底の検知が可能と考えられる.

以上の結果を用いて,今後,簡易なフリーフォール型深海用探査システムの高性能化を進めていく予定である.

謝辞

江戸っ子1号プロジェクトは,JAMSTECの実用化展開促進プログラム及びグローバル技術展開支援助成金事業を受けています.また,プロジェクトはJAMSTECの堀田平理事,松浦正己部長,土屋利雄担当役からご指導・ご支援いただきました.ここに感謝申し上げます.また,かいようでの実験にあたっては,2回の航海において井上孝道船長,請蔵 榮孝船長および乗組員の皆様の適切なるご指導とご協力により,実験に成功することができています.改めて感謝申し上げます.

参考文献
  • こどもくらぶ編 (2014),町工場の底力(4)深海をめざす,かもがわ出版.
  •  橋本 惇 ,  服部 陸男 (1977),耐圧ガラス球を用いた深海カメラシステムの試作について,海洋科学技術センター試験研究報告1,26-31.
  •  橋本 惇 ,  服部 陸男 ,  名執 薫 ,  青木 太郎 (1979),フリーフォール方式耐圧ガラス球入り深海カメラシステム,海洋科学技術センター試験研究報告3,24-28.
  • 海洋研究開発機構 (2014),Blue Earth, 128
 
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