抄録
1999年に生じた台湾集集 (チチ) 地震 (Mw.7.6) で地震すべりを起こしたチェルンプ断層は, 同じ地震で変位したにもかかわらず, その北半部とそれ以外の部分で観測された地震すべりの挙動 (変位量や変位速度) が大きく異なっていた. この原因として, Ma et al. (2003) は地震波の特徴から北部では地震すべりを起こした断層面の摩擦強度が著しく低下したとし, その摩擦強度の低下の原因を断層ガウジの粘性流潤滑化説で説明しようとした. その後, この考えを検証する目的もあって, チェルンプ断層北部において深度2000mの地震断層面を貫き, 断層面周辺の孔内計測及びコア試料を用いた物質科学的な検討が行われた (台湾チェルンプ断層掘削計画 : TCDP). 本論では, この掘削計画のなかでも物質科学的検討結果によって得られた研究成果について概略し, その結果を基に, Ma et al. (2003) で提案された説とは異なり, thermal pressurization説が最も観察事実をよく説明するとし, なぜthermal pressurizationが生じたのかその成因について考察を行なった.