医学検査
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資料
糖尿病専門クリニックにおける尿中微量アルブミン定性半定量検査の有用性
手塚 裕子長田 希美高久 みどり
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2017 年 66 巻 1 号 p. 56-59

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Abstract

糖尿病腎症の早期発見・治療のための検査として実施されているのが尿中微量アルブミンであり,随時尿での検査値でも糖尿病腎症病期評価が可能となった。近年尿中微量アルブミン定性半定量検査が行われている。この検査法は診療所規模でも院内の迅速検査が可能であり,保険点数も定量検査に比して安価である利点を有している。定性半定量検査は定量検査と相関において好成績を示すという報告が多く,当院においても両検査法の検査結果の一致率がどの程度であるか実試料を使用して検討を実施したので報告する。

緒言

本邦における透析患者は年々増加の一途を辿り,1998年以降,新規透析導入患者の原因疾患第1位が糖尿病となっている1)。そのため,糖尿病診療の中で合併症としての腎症を早期発見・早期治療することは大変重要である。

糖尿病腎症の早期発見・早期治療の指標として,尿中微量アルブミン定量検査が有用であるが,この定量検査は診療所規模の施設では即日検査での結果報告が困難であり,外部へ依頼し実施されているのが実情である。また,保険点数に関しても定量検査は110点と比較的高い。

一方,近年尿中微量アルブミン定性半定量検査が実施可能となり,診療所規模の施設でも院内での迅速検査・至急結果報告が可能で,保険点数も49点と定量検査に比して安価である。

さらに報告で,定性半定量検査は定量検査と良好な相関を示すとする多くの報告がある2)。糖尿病を主に診療している当院においても,迅速検査で簡便で安価という利点から,定性半定量検査を糖尿病腎症の治療指標の一検査として採用するための検討を行った。

I  方法

1. 対象

対象は,当院外来に定期受診している1型(11名)および2型(35名)糖尿病患者で,糖尿病腎症第1期および第2期の診断がされている患者46名(男性23名,女性23名)の外来随時尿を使用した。

2. 検査方法

定性半定量検査は,尿中アルブミンとクレアチニンを検出するオーションスクリーン マイクロアルブミン/クレアチニン(アークレイ株式会社製多項目試験紙キット)を使用し,オーションイレブンAE-4020(同社製半自動尿分析装置)による機器判定法にて行った。

定量法は,検討当時の当院外部検査会社で実施しているラテックス定量検査法(使用機器:日本電子株式会社製,ディスクリート方式臨床化学自動分析装置(BioMajesty JCA-BM165),分析試薬:N-TIA Micro Albニットーボー(ニットーボーメディカル社製))にて検査を行った。

3. 検査手技

患者が受診時に提出した新鮮随時尿を,定量法に関しては速やかに検査会社指定の容器に分注,冷蔵保存した。定性半定量法については,定量法に提出する検体を分注したのち,尿カップに1~2秒間,試験紙の指定部位まで浸し,引き上げて定性検査機器にセットした。

4. 判定方法

定性半定量法の結果は,アルブミン/クレアチニン比について検査機器取扱説明書記載のランク表(Table 1)に基づいて,定性半定量値(mg/gCr)を「<30」,「<100」,「<200」,「<300」,「>300」の5段階に分けて分類した。

Table 1  半自動尿分析器A/C(アルブミン/クレアチニン比)対応表
ランク番号 1 2 3 4 5
定性値 NORMAL 1+ 2+
半定量値(mg/gCr) < 30 100 200 > 300 OVER

定量法の検査結果は,アルブミン,クレアチニン,アルブミン/クレアチニン比は外部委託検査会社から報告された結果を用い,定性半定量検査と同様に5段階に分けて分類した。

本検討は定性半定量法と定量法との相関の確認を目的に行ったため,データの比較はアルブミン/クレアチニン比でのみ行った。

II  結果

定性半定量法と定量法の,糖尿病腎症病期分類にて1期と2期の境とされている「30 mg/g·Cr」3)を基準とした陰性陽性をTable 2に示す。

Table 2  定性半定量法と定量法の30 mg/gCrを境界とした陰性陽性別表
定量
陽性 陰性
定性 陽性 7 1
陰性 6 32

全検体において,定量法から見た単純一致数(定量法判定と定性半定量法判定が一致した検体)は46件中39件で84.8%であった。検査診断性能として陽性判定一致(感度)は13件中7件で53.8%,陰性判定一致(特異度)は33件中32件で97.0%であった。

III  考察

今回は新鮮随時尿に関して検査を行ったが,本来尿中微量アルブミンは24時間蓄尿にて行われる検査4)である。しかし,蓄尿の実施と正しい検体保存を行うことは難しく,検体処理にも手間がかかることから,多くの場合,随時尿での尿中微量アルブミン検査が行われているのが現状である。また,日本糖尿病学会でも随時尿での検査を,糖尿病早期腎症の病期分類に用いることを推奨している5)

今回の定量法との相関において陰性陽性一致率が84.7%と比較的好成績を得ることができた。一方で,定量検査にて陽性判定がなされた13件中6件が定性半定量法で陰性判定となり,感度は53.8%であった。また,定量法で陰性判定がなされた33件中1件は定性半定量法で陽性判定となり,特異度は97.0%であり,本検討では低感度高特異度であるという結果が出た。

今回の検討では,n数が少なかったためデータの信頼性が同様の他検討より劣ること,また油野ら6)や菅﨑ら7)の報告にもあるように,患者個々における筋肉量や食事・薬物療法などによる尿中クレアチニン値の変動,加齢による尿濃縮能の変化などが感度低下を示した可能性があると考えられ,今後n数を増やしたものや,患者の属性別などでの再検討が必要であると思われる。

定量検査がアルブミン,クレアチニンともに定量値で出されるのに対し,定性半定量検査が前述の2項目共に比色法での判定を元に機器が算出している半定量値であり,ここに定性半定量法の限界がある。

しかし,偽陰性6件の定量検査値は30.7~42.2 ‍mg/‍g·Crの間に分布(30.7, 35.6, 36.1, 38.7, 40.0, 42.2)し,うち4件は40 mg/g·Crまでの軽微なアルブミン指数の上昇であった。また他2件についても50 mg/g·Cr以下の範囲にあり,大きな乖離は見られず,定量法で陽性であっても比較的低値においては定性半定量法で偽陰性を呈すると考えられる。

陰性陽性一致率について同様の他検討と比較すると,辻井ら6)では87.4%,菅﨑ら7)では87.5%であり,本検討では84.7%とやや低めを示したものの,n数を考慮すると臨床的には概ね良好な相関であると考えられた。

当院では,尿中微量アルブミンの結果は患者が持参した糖尿病連携手帳に記載し,手帳返却時に看護師または臨床検査技師が指導を兼ねて説明している。

この際,結果によって患者の生活や食事について聞き取りを行い,必要に応じて管理栄養士に食事療法の再指導を依頼している。また,患者が管理栄養士による栄養指導を希望しない場合には,日本糖尿病療養指導士(certified diabetes educator of Japan;CDEJ:臨床検査技師1名)または千葉県糖尿病療養指導士(CDE-Chiba:看護師1名,臨床検査技師1名)の有資格者が,腎機能についての基本的な知識と日常生活で注意すべき点を指導している。

これらの患者指導において,受診当日の検査結果を提示できることは重要であり,尿中微量アルブミン値を院内で即日検査できることの意義は大きいと思われる。特に当院のような糖尿病を主に診療しているクリニックにとって,省スペースで簡便な定性半定量検査機器の有用性は高い。今回検討した「オーションイレブンAE-4020」は,臨床検査技師でなくても検査が簡便に行える点,また検査時間が短い点において,就業職種や人員が限られた診療所規模の医療機関に適した検査機器であると思われる。

尿中微量アルブミン定性半定量検査は,日本糖尿病学会による糖尿病腎症病期診断では定量値で行うよう規定されているため5),病期診断に利用することは出来ないが,3ヶ月毎に1回検査することが可能な尿中微量アルブミン定量検査のうち,1~2回を定性半定量検査で行うなど定量検査と組み合わせることにより,また個々の患者の状態を考慮して利用することで,患者への経済的負担を軽減し,糖尿病腎症の病期確認・経過観察の一助になるものと考える。

IV  結語

尿中微量アルブミン検査は,糖尿病腎症早期発見・治療のために有用な検査である。その中でも迅速検査が可能で保険点数においても安価な定性半定量検査は,患者への即日結果報告が可能であり,他職種との連携した患者へのリアルタイムな指導が出来,また医療費負担の点において診療所規模で出来る糖尿病性腎症の病期確認・経過観察検査として有用であると思われる。

V  謝辞

本調査検討実施の際,全面的なご協力をいただいた成田センタークリニック院長・安徳純先生,同院検査室職員のみなさま,本論文執筆にアドバイスをくださったソレイユ千種クリニック院長・木村那智先生に心より感謝申し上げます。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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