2017 年 66 巻 1 号 p. 33-39
B群連鎖球菌(GBS)は新生児における髄膜炎および敗血症の起因菌の一つで,新生児のGBS感染を予防するため妊婦GBSスクリーニング検査が推奨されている。しかしGBS以外の菌種がその培養過程で増殖し,その選択性に影響を及ぼす可能性がある。そこで,今回我々は国内3社の選択増菌培地および選択分離培地を用いてEscherichia coli(E. coli),Candida albicans(C. albicans),Enterococcus faecalis(E. faecalis),Streptococcus pyogenes(S. pyogenes)と種々の濃度のGBSを共培養し,その選択性を評価した。その結果,3社とも1)選択分離培地ではGBSと他の菌種と選別は容易であり,2)選択増菌培地と選択分離培地の併用では,E. coli,S. pyogenesおよびC. albicansとの共培養ではGBSは3 × 101 CFU/mL以上の濃度において検出可能であった。一方で3)E. faecalisとの共培養においてGBSは3 × 105 CFU/mL未満では検出できなかった。以上より3社の選択増菌培地・選択分離培地の組み合わせはGBSを選択的かつ高感度に検出できることが示されたが,E. faecalisが増菌された検体においては追加培養を要する可能性が示唆された。
B群連鎖球菌(Group B streptococcus;以下GBS)は膣内や腸管内に常在することのある菌の1つであるが,新生児GBS感染症の原因菌となっている。発症した場合に敗血症や髄膜炎など重篤化することが報告1)されている。日本産婦人科学会の診療ガイドライン2)においても妊娠後期の妊婦に対してGBSスクリーニング検査を推奨すると共に,GBS陽性あるいは前児がGBS感染症の場合には,分娩中に抗菌薬を投与するように勧告している。
今回我々はGBSの検出率向上にむけ,シスメックス・ビオメリュー,栄研化学,関東化学3社の選択増菌培地および選択分離培地の基本性能を比較したので報告する。
使用菌株は,GBS ATCC 13813,Streptococcus pyogenes(S. pyogenes)ATCC 19615,Escherichia coli(E. coli)ATCC 25922,Candida albicans(C. albicans)ATCC 10231,Enterococcus faecalis(E. faecalis)ATCC 29212の5株と,Coagulase Negative Staphylococcus(CNS)臨床分離株5株,Lactobacillus spp.臨床分離株5株,Gardnerella vaginalis(G. vaginalis)臨床分離株5株を用いた。
2. 検討培地選択増菌培地は,ドット・ヒューイットCNAブイヨン(シスメックス・ビオメリュー),ポアメディアGBS半流動培地(栄研化学),ランバクイックGBS(関東化学)を用い,選択分離培地は,chromID Strepto B(シスメックス・ビオメリュー),ポアメディアViGBS寒天培地(栄研化学),クロモアガーストレップB寒天培地(関東化学)を用いた。
3. 方法 1) 選択分離培地の発育性対象菌株を滅菌生理食塩液でMcF 1.0(3 × 108 CFU/mL)に調整後,1/103に希釈し,3 × 105 CFU/mLの菌液を作製した。この調整菌液を各選択分離寒天培地に50 μLずつ接種後,コンラージ棒で塗布した。培養条件は35℃好気培養で,24および48時間後のコロニーの発育と色を観察した。
2) 選択増菌培地の発育性ATCC株5株を滅菌生理食塩液を用いて,McF 1.0(3 × 108 CFU/mL)に調整した。GBSのみ菌液を10倍ずつ滅菌生理食塩液にて段階希釈し,3 × 108~3 × 100 CFU/mLに菌液を調整した。段階希釈したGBS菌液とMcF 1.0に調整したGBS菌液以外のATCC株4種類をそれぞれ選択増菌培地の1%菌液量になるように接種した。培養条件は35℃,好気培養で24および48時間後の選択増菌培地の混濁発育を観察した。
3) 選択増菌培地と選択分離培地併用時の発育性さらに発育した選択増菌培地を混和後,1白金耳(10 μL)を選択分離寒天培地に接種した。培養条件は35℃,好気培養で24および48時間後の選択分離寒天培地でのコロニーの発育と色を観察した。
3社共GBSは,赤紫色コロニーが発育した(Figure 1)。GBS以外の発育性は,chromID Strepto BではC. albicansが白色コロニー,E. faecalisが青色コロニーで発育し,それ以外の菌種は未発育であった。ポアメディアViGBS寒天培地ではS. pyogenesが透明または微小な赤紫色コロニー,E. faecalisが透明コロニーで発育し,それ以外の菌種は未発育であった。クロモアガーストレップB寒天培地ではGBS以外は全て未発育であった(Table 1)。
各選択分離培地のGBSの発育性(培養24時間後)
上:chromID Strepto B
中:ポアメディアViGBS寒天培地
下:クロモアガーストレップB寒天培地
培養時間 | GBS | S. pyogenes | E. coli | C. albicans | E. faecalis | CNS | Lactobacillus spp. | G. vaginalis | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
chromID Strepto B | 24時間 | 赤紫 | − | − | 白 | 青 | − | − | − |
48時間 | 赤紫 | − | − | 白 | 青 | − | − | − | |
ポアメディアViGBS | 24時間 | 赤紫 | 透明 | − | − | − | − | − | − |
48時間 | 赤紫 | 透明or赤紫小 | − | − | 透明 | − | − | − | |
クロモアガーストレップB | 24時間 | 赤紫 | − | − | − | − | − | − | − |
48時間 | 赤紫 | − | − | − | − | − | − | − |
−:未発育
GBS: Group B streptococcus
CNS: Coagulase negative staphylococcus
選択増菌培地で発育を認めなかった菌液は,3社ともGBS濃度が3 × 100 CFU/mLとE. coliの混合菌液とE. coliのみの菌液であった。またポアメディアGBS半流動培地のみ24時間培養で,C. albicansの接種菌液のみが未発育であった。それ以外の混合菌液では,選択増菌培地で全て発育した(Table 2)。
ATCC株 | 選択増菌培地 | 培養時間 | GBS濃度(×3[CFU/mL]) | |
---|---|---|---|---|
108~100 | GBS接種なし | |||
S. pyogenes | ドット・ヒューイットCNAブイヨン | 24時間 | + | + |
48時間 | + | + | ||
ポアメディアGBS半流動培地 | 24時間 | + | + | |
48時間 | + | + | ||
ランバクイックGBS | 24時間 | + | + | |
48時間 | + | + |
ATCC株 | 選択増菌培地 | 培養時間 | GBS濃度(×3[CFU/mL]) | ||
---|---|---|---|---|---|
108~101 | 100 | GBS接種なし | |||
E. coli | ドット・ヒューイットCNAブイヨン | 24時間 | + | − | − |
48時間 | + | − | − | ||
ポアメディアGBS半流動培地 | 24時間 | + | − | − | |
48時間 | + | − | − | ||
ランバクイックGBS | 24時間 | + | − | − | |
48時間 | + | − | − |
ATCC株 | 選択増菌培地 | 培養時間 | GBS濃度(×3[CFU/mL]) | |
---|---|---|---|---|
108~100 | GBS接種なし | |||
C. albicans | ドット・ヒューイットCNAブイヨン | 24時間 | + | + |
48時間 | + | + | ||
ポアメディアGBS半流動培地 | 24時間 | + | − | |
48時間 | + | + | ||
ランバクイックGBS | 24時間 | + | + | |
48時間 | + | + |
ATCC株 | 選択増菌培地 | 培養時間 | GBS濃度(×3[CFU/mL]) | |
---|---|---|---|---|
108~100 | GBS接種なし | |||
E. faecalis | ドット・ヒューイットCNAブイヨン | 24時間 | + | + |
48時間 | + | + | ||
ポアメディアGBS半流動培地 | 24時間 | + | + | |
48時間 | + | + | ||
ランバクイックGBS | 24時間 | + | + | |
48時間 | + | + |
+:発育,−:未発育
GBSとE. coliの混合菌液では,3社共GBSが3 × 101~3 × 100 CFU/mLまで発育しE. coliは抑制された(Table 3)。
選択増菌培地と選択分離培地併用時(選択分離培地の発育性):GBSとE. coliの混合菌液
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)2+ | − | ||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | − |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 1+ | − | ||||||
48時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 少量 | − |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | − | |||||||
48時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | − |
発育コロニーの色と菌量を表示(GBS:赤紫,−:未発育)
GBSとC. albicansの混合菌液では,3社共GBSは3 × 101~3 × 100 CFU/mLまで発育した。また同時発育したC. albicans は,chromID Strepto Bでは白色コロニーが,クロモアガーストレップB寒天培地では48時間培養で透明コロニーが発育したがポアメディアViGBS寒天培地は抑制された(Table 4)。
選択増菌培地と選択分離培地併用時(選択分離培地の発育性):GBSとC. albicansの混合菌液
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)2+ | |||||||||
白 1+ | ||||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | |||||||||
白 1+ |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 少量 | − | ||||||
48時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 少量 | − |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)2+ | − | ||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | 透明 少量 |
発育コロニーの色と菌量を表示(GBS:赤紫,C. albicans:白or透明,−:未発育)
GBSとS. pyogenesの混合菌液では,3社共GBSは3 × 101 CFU/mLまで発育した。また,ポアメディアViGBS寒天培地のみ全ての混合菌液にS. pyogenesが透明または赤紫小型コロニーで発育した(Table 5)。
選択増菌培地と選択分離培地併用時(選択分離培地の発育性):GBSとS. pyogenesの混合菌液
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)2+ | 1+ | 少量 | − | ||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | 1+ | 少量 | − |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 1+ | |||||||
透明 少量 | 1+ | |||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)3+ | 2+ | 1+ | |||||||
透明 少量 | 1+ | |||||||||
赤紫小 数コロニー |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)2+ | 1+ | 少量 | − | ||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | 1+ | 少量 | − |
発育コロニーの色と菌量を表示(GBS:赤紫,S. pyogenes:透明or赤紫小,−:未発育)
GBSとE. faecalisの混合菌液では,3社共GBSは3 × 105~3 × 106 CFU/mLまで発育した。E. faecalisは,chromID StreptoBでは青色コロニー,ポアメディアViGBS寒天培地では,透明または赤紫小型コロニー,クロモアガーストレップB寒天培地では,青または赤紫小型コロニーが発育した(Table 6, Figure 2)。
選択増菌培地と選択分離培地併用時(選択分離培地の発育性):GBSとE. faecalisの混合菌液
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)少量 | |||||||||
青 2+ | ||||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)少量 | |||||||||
青 2+ |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)少量 | |||||||||
透明 1+ | 少量 | |||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)少量 | |||||||||
透明 1+ | ||||||||||
赤紫小 数コロニー |
GBS濃度 (3×[CFU/mL]) |
108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | 100 | GBS接種なし |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
24時間 | 赤紫(GBS)1+ | 少量 | ||||||||
青 少量 | ||||||||||
赤紫小 数コロニー | ||||||||||
48時間 | 赤紫(GBS)2+ | 1+ | 少量 | |||||||
青 少量 | ||||||||||
赤紫小 数コロニー |
発育コロニーの色と菌量を表示(GBS:赤紫,E. faecalis:青or透明or赤紫小)
E. faecalisの発育性
上:ポアメディアViGBS寒天培地(GBS接種なし)
※矢印は,赤紫小型コロニー
下:クロモアガーストレップB寒天培地(GBS接種なし)
1996年のCDCガイドライン3)には妊娠35~37週の全妊婦に対して,直腸および膣から採取された材料でGBSスクリーニング検査を行うように推奨されており,国内でも日本産婦人科学会で妊娠33~37週の膣入口部ならびに肛門内から採取された材料でのGBSスクリーニング検査を推奨2)している。
また新生児のGBS感染症発症率は妊婦GBS保菌者から出産した新生児の約1~2%で,新生児がGBSを発症した場合,敗血症や髄膜炎など重篤化するとの報告4)や,妊婦GBS保菌者に対して抗菌薬治療を行うことで新生児のGBS疾患を減少させることが可能との報告5),6)もあり高感度にGBSを検出し,出産前に抗菌薬治療をすることが重要である。
今回われわれは,妊娠後期のGBS検出率向上にむけ,3社のGBS選択増菌培地と選択分離培地の検討を行った。
選択分離培地では3社共にGBSが赤紫色のコロニーで発育した。GBS以外の菌種ではポアメディアViGBS寒天培地においてS. pyogenesが微小赤紫色コロニーを認めたためGBSとの鑑別が困難だった。しかしその他の選択分離培地では抑制もしくは赤紫色以外の色調のコロニーの発育を認めたため,GBSとの鑑別が容易であった。
選択増菌培地では3社共E. coliの発育は抑制され,ポアメディアGBS半流動培地でC. albicansも抑制を認めた。
選択増菌培地と選択分離培地を併用した場合,GBSの発育性はGBSとE. faecalisの混合菌液以外では,3 × 101~100 CFU/mLまで認められ,多くの報告7)~9)と同様に高感度にGBSが検出できた。しかし,GBSとその他菌種の混合菌液濃度別比較において,3社共GBSとE. faecalisの混合菌液でGBSの発育に抑制がかかった。その原因としてE. faecalisはバクテリオシンを産生し他の菌種を抑制することが知られており10),11),その一部がGBS の発育を抑制したのではないかと考えるが,今後の追加検討が必要であると思われる。
また膣入口部ならびに肛門内から採取された材料の方が膣単独の検査よりもGBSの検出率が上昇すると報告12),13)されている。しかし肛門内の常在菌が多量に存在する場合には,増菌によりGBS 以外の常在菌の増加によりGBSの選択分離が困難になることも予想され,選択増菌培地と選択分離培地を併用したGBSスクリーニング検査は有用であると思われる。
3社の選択増菌培地と選択分離培地を併用したGBS検出法は,選択的にGBSを検出できるだけでなく,高感度にGBS検出ができ,少量のGBS保菌妊婦に対するGBSの見落としが少なくなる。よって妊婦のGBSスクリーニング検査に有用であり,GBS保菌妊婦の抗菌薬治療が早期に行えることは,新生児のGBS感染症発症率の低下につながると考えられた。
しかし,E. faecalisが混在する場合には,GBSの検出感度が低下する可能性があるため注意を要し,追加検討が必要であると考えられた。
なお,本論文の要旨は第64回日本医学検査学会(2015年5月,福岡)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。