医学検査
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原著
反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞の鑑別におけるvimentinの有用性について
佐伯 勇輔大﨑 博之此上 武典藤田 泰吏北澤 荘平
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2017 年 66 巻 1 号 p. 1-7

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Abstract

尿細胞診は,尿路系悪性腫瘍のスクリーニングや経過観察に欠かすことのできない検査であるが,他領域の細胞診に比べ誤陽性の比率が高いという問題がある。特に,尿路結石患者の尿中に出現する反応性尿路上皮細胞は,形態学的に尿路上皮癌細胞に類似するため,誤陽性の原因となっている。そこで今回は,反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞を客観的に鑑別することを目的として,vimentinを用いた免疫細胞化学的検討を行った。反応性尿路上皮細胞群18症例,尿路上皮癌細胞群17症例,正常尿路上皮細胞群21症例を対象とした。上記症例にvimentinを用いた免疫細胞化学を行い,1)各群における症例別のvimentin陽性率,2)各群における全細胞集団別のvimentin陽性率,3)反応性尿路上皮細胞群における結石の存在部位とvimentin陽性率の3項目について比較検討を行った。症例別と全細胞集団別のvimentin陽性率においては,反応性尿路上皮細胞群が尿路上皮癌細胞群・正常尿路上皮細胞群よりも有意に高い結果を示した。結石の存在部位とvimentin陽性率では,腎盂の方が尿管よりも有意に高いvimentin陽性率を呈した。今回の検討で,尿路結石症例に出現する反応性尿路上皮細胞のvimentin陽性率は,尿路上皮癌細胞よりも有意に高いことが明らかになった。以上よりvimentinを用いた免疫細胞化学は両者の客観的な鑑別に有用である。

I  はじめに

尿細胞診は,安価で患者への侵襲もないことから,尿路系悪性腫瘍のスクリーニングや経過観察に欠かすことのできない検査である1),2)。一方で尿細胞診は,疑陽性や誤陽性が多いことが問題となっている3)~7)。その原因の一つとして,形態学的に癌細胞に類似している良性異型細胞の存在が挙げられる。尿路上皮癌細胞との鑑別が問題となる良性異型細胞の大部分は,腎臓由来の反応性尿細管上皮細胞と,腎盂・尿管・膀胱由来の反応性尿路上皮細胞とされる1),8)~15)

反応性尿細管上皮細胞については,その形態学的特徴とvimentinに陽性を示すという免疫細胞化学的特徴が明らかにされている8)~10)。間葉系細胞に特有の中間径フィラメントであるvimentinが,間葉系ではない反応性尿細管上皮細胞に陽性を示す機序は以下のごとく説明されている。糸球体腎炎などでは,糸球体以降の血管で栄養されている尿細管上皮細胞が虚血により細胞死に陥る。その後,尿細管上皮細胞は再生するが,再生過程における尿細管上皮細胞(反応性尿細管上皮細胞)では,上皮性結合やcytokeratin陽性などの上皮としての性質を保ちながら,同時にvimentinなどの間葉系マーカーにも陽性を示すようになる10)。このような形質転換は,上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition; EMT)と呼ばれている16),17)

反応性尿路上皮細胞は,主に腎盂から膀胱における結石や炎症,薬剤・放射線治療などによって尿中に出現することから1),反応性尿細管上皮細胞と同様の上皮修復過程における再生上皮細胞と考えられる。そのため,反応性尿路上皮細胞においてもEMTによってvimentin陽性を呈することが予想される。以前より,反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞を形態学的に鑑別するための検討は行われているが11)‍~15),形態学的鑑別は観察者の主観に左右されるため,診断精度に個人差が生じることや再現性に乏しいなどの問題がある。このような問題が生じにくい客観的な鑑別方法として免疫細胞化学があるが,我々が知る限り反応性尿路上皮細胞に対して免疫細胞化学的検討を実施した報告は認められない。

そこで今回我々は,客観的かつ再現性の高い反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞の鑑別方法の確立を目的として,vimentinを用いた免疫細胞化学的検討を行ったので報告する。

II  対象と方法

1. 対象

1) 反応性尿路上皮細胞群

Computed tomography(CT)検査において尿路結石が認められ,かつ尿路系腫瘍の存在が指摘されていない患者の尿細胞診標本に,正常とは異なる形態を示す尿路上皮細胞集団が出現した18症例を対象とした。これら症例は,2013年8月から2015年4月の間に西条中央病院を受診した患者(男性17名,女性1名)であり,平均年齢は65.4歳(25~89歳)であった。

2) 尿路上皮癌細胞群

病理組織学的診断が確定した尿路上皮癌17症例(膀胱癌15例,尿管癌2例)を用いた。その診断分類は,Grade 1が3例,Grade 2が11例,Grade 3が2例,上皮内癌が1例であった。これら17症例は,2012年3月から2015年3月の間に,市立八幡浜総合病院(13症例)と西条中央病院(4症例)を受診した患者(男性16名,女性1名)で,平均年齢は76.5歳(54~95歳)であった。

3) 正常尿路上皮細胞群

CT検査において尿路結石を認めず,かつCT検査と膀胱鏡検査で尿路系腫瘍の存在が指摘されていない21例を対象とした。これら症例は,2014年10月から2015年8月の間に,西条中央病院を受診した患者(男性13名,女性8名)で,平均年齢は68.3歳(32~88歳)であった。

2. 方法

尿検体は,反応性尿路上皮細胞群と尿路上皮癌細胞群においては自然尿,正常尿路上皮細胞群においては膀胱洗浄液を使用した。

上記検体は,BDサイトリッチレッドTM保存液(ベクトン・ディッキンソン社)で30分以上固定した後,BDサイトリッチTM法(ベクトン・ディッキンソン社)を用いて尿細胞診標本を作製した。これら尿細胞診標本にパパニコロウ染色を行って鏡検し,それぞれの標本に対象となる細胞集団が出現していることを確認した。

その後,標本をキシレンに5日間浸漬してカバーガラスを剥がして免疫細胞化学を実施した。その際,一次抗体として200倍希釈したvimentin(clone: V9)(ダコ社),二次抗体としてシンプルステインMAX-PO(ニチレイ社)を使用した。上記のvimentin染色標本の全塗抹面を目視にて観察した。

先行研究において反応性尿路上皮細胞は小型の集団で出現することが多いと報告されていること1),11)‍~15),我々の予備実験においても数個以上の細胞から構成される集団を主に認めたことから,細胞数5個以上から構成される細胞集団を判定対象とした。陽性判定の基準は,先行研究と我々の予備実験での結果より,集団を構成する細胞の10%以上がvimentin陽性を示した場合とした18)~20)。なお,扁平上皮細胞や反応性尿細管上皮細胞の形態学的特徴を有する集団は対象から除外した。反応性尿細管上皮細胞と判定する根拠となった形態学的特徴は,ホブネイル状形態,放射状配列集団,細胞質内のヘモジデリンや蛋白沈着,円柱内包埋像などである8)~10)

検討は以下の3項目について行った。

1) 各群における症例ごとのvimentin陽性率

反応性尿路上皮細胞群と尿路上皮癌細胞群,正常尿路上皮細胞群における症例ごとの細胞集団のvimentin陽性率を比較した。

2) 各群における全細胞集団のvimentin陽性率

それぞれの群に出現した全細胞集団のvimentin陽性率を比較した。

3) 反応性尿路上皮細胞群における結石の存在部位とvimentin陽性率

反応性尿路上皮細胞群18例における結石の存在部位と細胞集団のvimentin陽性率について検討した。

上記1)と2)の検討における統計評価は,Steel-Dwass法により3群比較を行った。また,3)の検討においてはχ2検定で2群比較を行った。いずれも統計学的有意差はp < 0.05とした。なお,統計ソフトにはIBM SPSS 22.0J for WindowsとRを使用した。

本検討は,西条中央病院の倫理委員会の承認(2014年6月27日)と,市立八幡浜総合病院の倫理委員会の承認(2014年12月12日)を受けている。

III  結果

1) 各群における症例ごとのvimentin陽性率

各群においてvimentin陽性細胞集団が認められた症例は,反応性尿路上皮細胞群で100%(18/18)(Figure 1a),尿路上皮癌細胞群で11.8%(2/17)(Figure 1b),正常尿路上皮細胞群で9.5%(2/21)(Figure 1c)という結果であった(Table 1)。なお,尿路上皮癌例で陽性を示した2症例はいずれもGrade 2の症例であった(Figure 1d)。

Figure 1 

vimentinに対する各種細胞の反応性(vimentin,×100)

a:反応性尿路上皮細胞はvimentinに強陽性を呈する。

b:尿路上皮癌細胞はvimentin陰性である。背景にはvimentin陽性の好中球が孤在性に出現している。

c:正常尿路上皮細胞はvimentin陰性である。細胞集団の上に乗った好中球が陽性を呈している(矢印)。

d:尿路上皮癌Grade 2症例。周辺の孤在性の癌細胞はvimentin陰性であるが,中心の癌細胞集団のみvimentin陽性を呈している。

Table 1  各群における症例ごとのvimentin陽性率
各細胞群 症例数 vimentin(+) p値(Steel-Dwass法)
反応性尿路上皮細胞 18 100%(18/18) vs尿路上皮癌細胞(p < 0.001)
vs正常尿路上皮細胞(p < 0.001)
尿路上皮癌細胞 17 11.8%(2/17) vs反応性尿路上皮細胞(p < 0.001)
vs正常尿路上皮細胞(p = 0.778)
正常尿路上皮細胞 21 9.5%(2/21) vs反応性尿路上皮細胞(p < 0.001)
vs尿路上皮癌細胞(p = 0.778)

(+):陽性細胞 ≥ 10%

Steel-Dwass法を用いた有意差検定において,反応性尿路上皮細胞群と尿路上皮癌細胞群の両群間,反応性尿路上皮細胞群と正常尿路上皮細胞群の両群間では,いずれも反応性尿路上皮細胞群で有意にvimentin陽性率が高い結果となった(p < 0.001)。一方で,尿路上皮癌細胞群と正常尿路上皮細胞群の間に有意差は認められなかった(p = 0.778)。

2) 各群における全細胞集団のvimentin陽性率

各群に出現した全細胞集団のvimentin陽性率について,反応性尿路上皮細胞群18例中に出現した全202集団の陽性率は43.1%(87/202)であった。尿路上皮癌細胞群17例中に出現した全455集団の陽性率は0.4%(2/455),正常尿路上皮細胞群 21例中に出現した全938集団の陽性率は0.2%(2/938)であった(Table 2)。

Table 2  各群における全細胞集団のvimentin陽性率
各細胞群 全集団数 vimentin(+) p値(Steel-Dwass法)
反応性尿路上皮細胞 202 43.1%(87/202) vs尿路上皮癌細胞(p < 0.001)
vs正常尿路上皮細胞(p < 0.001)
尿路上皮癌細胞 455 0.4%(2/455) vs反応性尿路上皮細胞(p < 0.001)
vs正常尿路上皮細胞(p = 0.418)
正常尿路上皮細胞 938 0.2%(2/938) vs反応性尿路上皮細胞(p < 0.001)
vs尿路上皮癌細胞(p = 0.418)

(+):陽性細胞 ≥ 10%

Steel-Dwass法を用いた有意差検定において,反応性尿路上皮細胞群と尿路上皮癌細胞群の両群間,反応性尿路上皮細胞群と正常尿路上皮細胞群の両群間では,いずれも反応性尿路上皮細胞群で有意にvimentin陽性率が高い結果となった(p < 0.001)。一方で,尿路上皮癌細胞群と正常尿路上皮細胞群の間に有意差は認められなかった(p = 0.418)。

3) 反応性尿路上皮細胞群における結石の存在部位

反応性尿路上皮細胞群18例のCT画像診断における尿路結石の存在部位については,腎盂のみが50.0%(9/18),腎盂・尿管が27.8%(5/18),尿管のみが11.1%(2/18),腎盂・尿管・膀胱が11.1%(2/18)であった。

また,結石存在部位別の全細胞集団のvimentin陽性率については,腎盂のみが50.7%(34/67),腎盂・尿管が44.6%(41/92),尿管のみが18.2%(4/22),腎盂・尿管・膀胱が38.1%(8/21)であった(Table 3)。

Table 3  反応性尿路上皮細胞群における結石の存在部位とvimentin陽性率
結石の存在部位 比率 全集団数 vimentin(+) p値(χ2検定)
腎盂のみ 50.0%(9/18) 67 50.7%(34/67) vs尿管(p = 0.007)
腎盂・尿管 27.8%(5/18) 92 44.6%(41/92)
尿管のみ 11.1%(2/18) 22 18.2%(4/22) vs腎盂(p = 0.007)
腎盂・尿管・膀胱 11.1%(2/18) 21 38.1%(8/21)

(+):陽性細胞 ≥ 10%

χ2検定を用いた有意差検定において,腎盂のみと尿管のみの両者間では,腎盂のみの方が有意に高いvimentin陽性率を示した(p = 0.007)。

IV  考察

尿細胞診における尿路結石症例の誤陽性率は,4.0~39.1%11)~15)と報告されている。この原因は,結石の機械的刺激により正常の尿路上皮細胞が剥がれた後に再生してくる反応性尿路上皮細胞を尿路上皮癌細胞と誤認するためである15)。再生過程にある上皮細胞は,核と核小体の腫大など癌細胞に類似する形態学的特徴を示すため誤陽性の原因となる1),8)。以前から,反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞を細胞形態で鑑別する取り組みがなされている11)~15)。しかし,形態学的な判定は個人の主観により行われるため,判定者間における診断精度の違いや再現性の低さが問題となる。そこで我々は,客観的で再現性の高い免疫細胞化学を用いた反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞の鑑別について検討を行った。

今回の検討で,各群においてvimentin陽性細胞集団が認められた症例は,反応性尿路上皮細胞群で100%(18/18),尿路上皮癌細胞群で11.8%(2/17),正常尿路上皮細胞群で9.5%(2/21)という結果を示し,反応性尿路上皮細胞群で有意にvimentin陽性率が高い結果となった。一方で,尿路上皮癌細胞群と正常尿路上皮細胞群に有意差は認められなかった。

Ohsakiら10)は,糸球体腎炎患者の尿中に出現する反応性尿細管上皮細胞と,尿路上皮癌Grade 1患者の尿中に出現する尿路上皮癌細胞を用いた検討で,反応性尿細管上皮細胞症例のvimentin陽性率が97.5%,尿路上皮癌細胞症例のvimentin陽性率が0%であったと報告している。腎臓由来の反応性尿細管上皮細胞と,腎臓以降の腎盂・尿管・膀胱に由来する反応性尿路上皮細胞という違いはあるものの,今回の検討においても反応性尿路上皮細胞症例のvimentin陽性率は100%(18/18),尿路上皮癌細胞症例のvimentin陽性率は11.8%(2/17)とほぼ同様の結果を示した。このことは,上皮の種類が異なっても再生過程にある上皮細胞はEMTにより間葉系マーカーであるvimentinに陽性を呈するということを表している。一方で,尿路上皮癌細胞の陽性率については若干の違いがあるが,原因の1つとしてOhsakiらは尿路上皮癌Grade 1を対象としているのに対して,今回用いた尿路上皮癌症例は,Grade 1・2・3と上皮内癌であり,分化度が多彩であったことが挙げられる。実際に今回の検討でvimentin陽性となった尿路上皮癌の2症例はいずれもGrade 2であり,Grade 1症例は全てvimentin陰性であった。尿路上皮癌においてもEMTを起こすことは知られているが,その場合,腫瘍全体がEMTを起こすのではなく,深部に存在する浸潤能を獲得した癌細胞に限られるとされている16)。この現象は,結合性がなく遊走性を持つ間葉系細胞の性質が浸潤や転移をする際に有利に働くためと考えられている17)。そのため,腫瘍表面の細胞が剥離してくる尿細胞診に,腫瘍の深部に存在する浸潤部由来の癌細胞が出現することは少ないと推定できる。そもそもGrade 1で浸潤・転移を起こすことは極めて稀とされているため1),今回の検討でも,Grade 1症例についてはEMTを伴うvimentin陽性の癌細胞は認められなかったものと考える。また,今回の検討でvimentin陽性を呈したGrade 2の2症例においては,何らかの原因で腫瘍表面の癌細胞が大量に崩壊・剥離し,深部に存在する浸潤能を獲得した癌細胞が尿中に剥離してきたものと考えられる。しかし,これらvimentin陽性の癌細胞は細胞異型が強く,形態学的に明らかに反応性尿路上皮細胞とは異なっていた。このことからもvimentin陽性を示すような浸潤部の癌細胞が仮に尿中に剥離してきても,細胞形態から反応性尿路上皮細胞との鑑別は可能と考える。

反応性尿路上皮細胞群 18例に出現した全202集団のvimentin陽性率は43.1%(87/202)であった。一方で,尿路上皮癌細胞群17例における全455集団のvimentin陽性率は0.4%(2/455)であり,反応性尿路上皮細胞群のvimentin陽性率は尿路上皮癌細胞群よりも有意に高値であることが明らかになった。また,正常尿路上皮細胞群21例中における全938集団のvimentin陽性率は0.2%(2/938)であり,反応性尿路上皮細胞群の方が有意に高値であった。

結石の存在部位と反応性尿路上皮細胞との関連について,単独の臓器のみに結石が存在したものを比較すると,腎盂が50.0%(9/18),尿管が11.1%(2/18)であった。反応性尿路上皮細胞が出現する尿路結石の存在部位として,尿管よりも腎盂の方が多かった理由は以下のごとく推測する。腎盂結石は腎盂内の容積が大きいため無症候のうちに経過することが多いが,結石が尿流により尿管内に落下して尿管の生理的狭窄部で詰まると,尿流閉塞により腎盂内圧が急上昇して腰背部から側腹部にかける疝痛や下腹部への放散痛が生じるとされる21),22)。すなわち,尿管結石では結石が移動することがないため粘膜上皮に与える機械的刺激は少ないが,結石の移動が可能な腎盂では機械的刺激も大きくなるため剥離する細胞集団も増加すると考える。さらに,腎盂結石の場合には尿流が確保されているが,尿管結石では尿流が減少または途絶するため,尿管結石の場合には剥離した反応性尿路上皮細胞が尿とともに排出されにくくなる。Erikssonら23)は,腎盂・尿管に発生する尿路上皮癌における尿中への癌細胞の出現率を検討した結果,尿流が保たれている機能腎の場合には94%の症例で尿中に癌細胞を認めたが,尿流が途絶または減少している無機能腎では50%の症例にしか癌細胞が出現しなかったと報告している。また,同様の検討を行った中津ら15)は,尿管の完全閉塞が確認された症例では全例において尿中に癌細胞を認めなかったが,尿流が確認できた症例では全例に尿中への癌細胞の出現を認めたと報告している。これら報告と我々の検討とは,腎盂・尿管に由来する尿路上皮癌細胞と結石による反応性尿路上皮細胞という違いはあるが,尿流と尿中への細胞出現の関係という点では共通しており,我々の結果と矛盾しないものと考える。

結石の存在部位と細胞集団のvimentin陽性率についても,腎盂のみが50.7%(34/67),尿管のみが18.2%(4/22)で,腎盂のみの方が有意に高い結果となった。上述のごとく,尿管結石は腎盂において形成された結石が尿流により尿管の生理的狭窄部位で詰まったものである21),22)。結石の可動域が大きい腎盂では機械的刺激により広範囲の尿路上皮細胞が剥離するため,再生上皮である反応性尿路上皮細胞の数も多くなる。一方の尿管結石は,結石の可動域に乏しいため機械的刺激を受ける尿路上皮細胞も限定され,反応性尿路上皮細胞の数も少ない結果になったと推測する。いずれにしても,腎盂結石の方が尿管結石よりもvimentin陽性率が高いことから,免疫細胞化学の結果とともにCT等の画像診断を参考にして結石の存在部位を確認することが重要となる。

V  結語

今回の検討で,尿路結石症例に出現する反応性尿路上皮細胞集団のvimentin陽性率は,尿路上皮癌細胞例よりも有意に高いことが明らかになった。そのため,自然尿中に尿路上皮癌細胞との形態学的鑑別が困難な異型細胞を認めた場合には,vimentinを用いた免疫細胞化学を追加することが有用である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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