医学検査
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技術論文
血糖測定器の正しい知識と選択―糖尿病患者が抱えるストレスの軽減のための一助となる―
土田 一樹石田 貴子石川 哲夫齋藤 理西井 亜紀
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2017 年 66 巻 2 号 p. 110-116

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Abstract

国内の糖尿病患者数が増加傾向にある中,血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose;以下,SMBG)器は患者自身による日常的な血糖コントロールの手段として,ますます重要性を増している。メーカー各社から販売されているSMBG器の多くは,2013年に改訂されたISO15197に準じて精度向上が図られているが,それらの測定値には機種間差が存在することが報告されている。そこで今回,医療スタッフが正しい知識を基に機種選択を行い,患者が安心してSMBG器を使用できる環境整備に貢献するべく,SMBG器7機種を用いて精度試験を実施し,新ISO15197(2013年)の基準に沿って基本性能を評価した。

I  はじめに

糖尿病患者が合併症の発症・進展を防ぐためには日常的な血糖コントロールが必要とされており,その手段として有用性が認められているのが血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose;以下,SMBG)器である。厚生労働省による統計調査1)でも,糖尿病患者数が2014年に過去最大の316万人超に達したことが公表されており,SMBG器の重要性が今後ますます高まることが予測されている。SMBG器の使用が広がる中,多くのメーカーから多様な機種が販売されている。メーカー各社は従来,2003年に発行された国際規格基準であるISO151972)を指針として精度の要求事項に準じるようになってきている。しかしながら,測定原理の違いやヘマトクリット(以下,Ht)・干渉物質などの影響および国内特有の低値換算問題3)によって,測定値に機種間差が存在することがかねてより指摘されている4)~6)。また機種によっては,特定の薬剤を投与している患者7)などが測定値に影響を及ぼすことも報告され8),医療安全性情報も発令されている。こうした状況の中,2013年5月にISO15197が改訂された9)。SMBGの精確さに対して従来よりも厳格な基準が求められるようになった他,Htや干渉物質の影響に対する規定も加わった。この新基準に沿って,メーカー各社が開発するSMBG器の精確性が,より一層向上することが期待されているのが現状である。今回我々は,新ISO15197(2013年)(以下,NewISO)改訂に伴い予め選定した7機種のSMBG器を用い各機器の基本性能について比較検討したので報告する。なお本研究において倫理委員会の承認の必要性はないと判断する。

II  対象

1. 測定試料

(1)ベース試料(35検体分)

患者及び健常者をヘパリン採血し,血糖の降下,血球の状態を考え4時間室温にて放置したものをベース試料とした。

(2)20%ブドウ糖注射液

(3)同型洗浄血球生食浮遊液

2. 使用機種

予め当院で選定した7機種を対象に検討を行った。それぞれの概要を記す(Table 1)。

Table 1  Outline of SMBG
機種名称 アキュチェック
アビバナノ
アキュチェック
モバイル
ワンタッチ
ベリオビュー
ワンタッチ
ベリオIQ
フリースタイル
プレシジョン ネオ
メディセーフ
フィット スマイル
ケアファストC
略称 アビバナノ モバイル ベリオビュー ベリオIQ プレシジョンネオ スマイル ケアファストC
ISO準拠 NewISO 旧ISO NewISO NewISO NewISO NewISO NewISO
販売元 ロシュ ロシュ J&J J&J アボット テルモ ニプロ
測定原理 電極法 比色法 電極法 電極法 電極法 比色法 電極法
測定範囲(mg/dL) 10~600 10~600 20~600 20~600 20~500 20~600 20~600
Ht値許容範囲(%) 10~65 25~55 20~60 20~60 30~60 20~60 20~60

また比較対照法として自動分析器GA08 IIを用いた。

III  検討方法

1. 同時再現性

3濃度(低濃度,中濃度,高濃度)において3検体のベース試料(Ht 46%前後)を用いてn = 5で実施。高濃度検体においては最適値が得られずベース試料に20%ブドウ糖注射液を添加し調整を行った。

2. 希釈直線性

ベース試料(Ht 48.5%)に20%ブドウ糖注射液を添加しグルコース400 mg/dL付近に調整を行った。また希釈試料については同型洗浄血球生食浮遊液(グルコース値0 mg/dL,Ht 48.3%)を作成し,ベース試料と希釈試料の組み合わせにより希釈系列から直線性を求めた。理論値は1/10値を基準としその値を基に誤差率を算出し評価を行った。

3. 相関性

NewISOでは,血糖値が100 mg/dL未満であれば測定結果の95%が基準値の±15 mg/dL以内に,血糖値が100 mg/dL以上であれば測定結果の95%が基準値の±15%以内に入ることが求められている。この規定に準じて,N数30検体のベース試料にて自動分析器GA08 II(血漿,電極法)との相関を実施した(以下GA08 IIでの値を対照値と記す)。図内の点線はNewISO基準を示す(Figure 2)。高値領域(200 mg/dL以上)については最適値を得ることが出来なかったためベース試料に20%ブドウ糖注射液を添加し調整した。対照値との乖離差及びNewISO基準より評価を行った。

Figure 2 

Relativity

4. Htの影響

NewISOでは,Htの正常検体(42 ± 2%)での平均測定値と比較し,測定器の動作範囲内の各Ht値における平均測定値の差が,検体の血糖値が100 mg/dL未満であれば±10 mg/dL以内に,100 mg/dL以上であれば±10%以内に入ることが求められている。この規定に準じて,Ht値の変化に応じた測定値の遷移を機種別にグラフ化し(Figure 3),Ht 40%(42 ± 2%)に調整したベース試料を基準として測定値に与える影響を検証した。図内の点線はNewISO基準を示す。調整後のベース試料を3,000 rpmで5分間遠心を行い分離した血球と血漿の比率調整により計11段階の系列を作成した(60~10%)。自動分析器GA08 IIにて各濃度域で血糖値が一定であることを確認後,Ht変化(二重測定の平均値)による評価を行った。

Figure 3 

Effect of hematocrit

IV  結果

1. 同時再現性

低・中・高濃度のサンプル検体を各SMBG器で測定した結果について,平均値,標準偏差(SD),変動係数(CV)を算出した。また結果について愛知県臨床検査値統一ガイドラインにある生理的変動幅CV 2.0%を評価基準とした。

各機種における5重測定の平均値は,低濃度で68~89 mg/dL,中濃度では87~115 mg/dL,高濃度では257~328 mg/dLの範囲に分布した。変動係数は低濃度では0.6~1.8%,中濃度では0.7~1.5%,高濃度では0.3~1.2%であり各機種良好な結果を得られた(Table 2)。

Table 2  Within-run reproducibility
アキュチェック
アビバナノ
アキュチェック
モバイル
ワンタッチ
ベリオビュー
ワンタッチ
ベリオIQ
Low Middle High Low Middle High Low Middle High Low Middle High
1 69 98 285 89 106 325 75 107 320 75 105 323
2 69 98 287 89 105 329 75 107 320 76 107 319
3 70 100 287 90 108 332 75 106 324 76 107 321
4 71 100 285 90 106 325 76 105 324 75 105 322
5 71 98 285 89 107 329 77 105 320 76 105 323
N 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5
Mean 70 99 286 89 106 328 76 106 322 76 106 322
SD 1.00 1.10 1.10 0.55 1.14 3.00 0.89 1.00 2.19 0.55 1.10 1.67
CV(%) 1.43 1.11 0.38 0.61 1.07 0.91 1.18 0.94 0.68 0.72 1.04 0.52
Min 69 98 285 89 105 325 75 105 320 75 105 319
Max 71 100 287 90 108 332 77 107 324 76 107 323
Range 2 2 2 1 3 7 2 2 4 1 2 4
フリースタイル
プレシジョン ネオ
メディセーフ
フィット スマイル
ケアファストC
Low Middle High Low Middle High Low Middle High
1 68 90 255 82 116 316 68 87 275
2 69 89 257 83 116 319 70 87 272
3 68 88 255 84 115 321 70 86 272
4 69 90 256 84 115 316 69 89 274
5 66 90 262 84 114 319 71 86 275
N 5 5 5 5 5 5 5 5 5
Mean 68 89 257 83 115 318 70 87 274
SD 1.22 0.89 2.92 0.89 0.84 2.17 1.14 1.22 1.52
CV(%) 1.80 1.00 1.13 1.07 0.73 0.68 1.64 1.41 0.55
Min 66 88 255 82 114 316 68 86 272
Max 69 90 262 84 116 321 71 89 275
Range 3 2 7 2 2 5 3 3 3

2. 希釈直線性

各段階において二重測定の平均を用いて評価を行った。全機種について全系列誤差率3%未満に収まり概ね良好な結果を認めた(Figure 1)。

Figure 1 

Dilution linearity

3. 相関性

プレシジョンネオは全体的に低値傾向にあり,対照値と比較して15%前後の乖離があった。また低濃度ではケアファストCがやや低めに,中・高濃度ではモバイルがやや高めに測定されたがそれ以外の機種については概ね良好な相関が得られた。

4. Htの影響

低Ht値においては,アビバナノ,プレシジョンネオ,ケアファストC,スマイル,モバイルにやや高値に測定される傾向が見られたが,全ての機種がNewISOの範囲内であった。一方,高Ht値においてはケアファストC,スマイル,モバイルがやや低値に測定され,スマイルはHt値60%においてNewISOの範囲内に収まらなかった。

V  考察

今回の検討では,同時再現性については,全ての機種で変動係数が2%以内という良好な結果を得られた。相関性については,プレシジョンネオの測定値が対照値から乖離していたが,それ以外の機種については良好な結果であった。

一方,NewISOで新たに規定されたHtの影響については,検討結果より数機種において,Ht値の違いが測定値に影響をおよぼす可能性が示唆された。これを踏まえ特にHt値の高い新生児を含むNICUにおいて使用する際は適切な機種選択が必要となる。さらにHt値機器許容範囲内であっても,測定結果が誤差範囲に収まらない機種や,対照値から乖離している機種が検討より見受けられ,使用の際には細心の注意をはらう必要があると考えられる。今回検討した機種の中では,全てのHt値で対照値に近い測定値が得られたのはベリオビューとベリオIQであった。

2013年に発行されたNewISOでは,SMBGの精確さ,Ht値や干渉物質の影響について,従来よりも厳格な基準が設けられた。近年,この新基準に準拠したさまざまなSMBG器が登場してきているが,これら新機種の性能が,旧ISOに準拠したSMBG器よりも大幅に改良されていることはこれまでにも確認されてきた10),11)

しかしながら今回の検討で,NewISOに準拠したSMBG器の中でも,血糖値やHt値によっては新基準に収まらない機種があることが我々の検討より危惧される結果となった。

血糖値やHt値が正常範囲にない患者でも安心してSMBG器を使用できるよう,メーカー各社が精確性に対して一層の努力を重ねることを期待したい。また同時に,機種によっては血糖値やHt値が測定値に影響してしまうことを医療スタッフが認識し,臨床現場における機種選択に活かしていくことが重要であると考えられる。

VI  結語

血糖値やHt値が正常範囲にない場合,NewISOに準拠したSMBG器であっても測定誤差が大きくなってしまう機種が存在することが確認された。糖尿病患者自身が血糖測定を安全に安心して行うために我々医療従事者はSMBG器の正しい選択をすることが求められ,機器の特性に対する十分な知識とそれを患者に伝える技術が必要であると考えている。機器の信頼性は患者ストレスの軽減に繋がり,今回の検討が臨床現場で今後の正しい機器選択のための効果的な一助となることを期待している。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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