2017 年 66 巻 2 号 p. 152-157
Roseomonas属は,ピンク色素を産生するブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で,特に免疫抑制者(悪性腫瘍,後天性免疫不全症候群,慢性腎不全,糖尿病)に感染症を引き起こす日和見感染の原因菌として臨床的重要性がある細菌である。今回,R. gilardii subsp. gilardiiによる菌血症の一例を経験した。症例は82歳の男性,肺炎と診断され当院入院となった。患者は一旦軽快したが,第10病日に再度発熱した。その際,血液培養を2セット採取し,1/2セットの血液培養からグラム陰性桿菌を検出した。分離された集落はピンク色でムコイド型の集落が発育した。同定検査はWalkAway40SI及びIDテスト・NF-18を用いたが同定できず,16S rRNA遺伝子配列解析にてR. gilardii subsp. gilardiiと同定した。薬剤感受性試験結果よりSulfamethoxazole-trimethoprimが投与され,患者は軽快した。Roseomonas属による感染症は本邦では報告例の少ない稀な症例である。多くの検査室においてRoseomonas属の菌種レベルまで同定することは困難である。そのため,本菌の臨床的重要性はあまり知られていない。今後,本菌の薬剤感受性試験成績や感染症治療成績を蓄積していくことが重要であると思われる。
Roseomonas gilardiiは,Roseomonas属に属しているブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であり,主に水域環境に生息している。Roseomonas属は特に悪性腫瘍,後天性免疫不全症候群,腎不全,糖尿病などの基礎疾患を有する易感染宿主に感染症を引き起こすことが多い病原体である1)。臨床検体分離例の大部分は血液培養から分離されており,創傷,滲出液,膿瘍,泌尿器材料においても,わずかであるが報告されている1)。今回,血液培養よりR. gilardii subsp. gilardiiが分離された菌血症を経験した。本邦の報告例は未だ1例のみと稀であるため,文献的な考察を含めて報告する。
患者:82歳男性。
主訴:発熱,咳嗽。
既往歴:パーキンソン病,糖尿病,緑内障,誤嚥性肺炎,総胆管結石,逆流性食道炎,胃瘻造設(3か月前)。
現病歴:発熱と咳嗽があり,X年X月X日当院受診し左下葉背側主体の肺炎と診断され入院した。
入院時現症:血圧138/86 mmHg,脈拍110/分,体温37.1℃,SpO2 98%(O2 2 L),意識清明,ラ音・心雑音 なし,腹部 手術痕あり・平坦・軟・圧痛なし,下肢浮腫なし,上肢に振戦あり。
入院時検査:血液検査の炎症反応はWBC 7,800/μL,CRP 11.80 mg/dL,PCT 0.07 ng/mL,微生物学的検査は喀痰培養及び血液培養が提出された。喀痰培養からはStreptococcus pneumoniae,methicillin-resistant Staphylococcus aureus,Pseudomonas aeruginosaが分離され,血液培養からはP. aeruginosaが分離された。
経過:入院時,体位ドレナージを行いつつAmpicillin/Sulbactam 3 g × 3回/dayが投与開始された。入院時に採取した培養検体の同定検査,薬剤感受性試験結果から,Tazobactam/Piperacillin 4.5 g × 3回/dayとArbekacin 200 mg/dayに変更した。患者は一旦,下熱したが第10病日に38.4℃の発熱を呈したため,血液培養が2セット提出された。第13病日,1/2セット血液培養からグラム陰性桿菌が検出された。尚,発熱時の血液検査は血液培養採取時に提出しておらず,直近のデータである第8病日の血液検査の炎症反応はWBC 5,500/μL,CRP 2.67 mg/dLであった。第20病日にR. gilardii subsp. gilardiiの同定結果を報告した。抗菌薬はSulfamethoxazole-trimethoprim(ST)4 g × 2回/day 2週間,胃瘻注入に変更し,症状は安定した。第93病日,患者はリハビリテーション専門病院へ転院した。
血液培養液をグラム染色(neo-B&Mワコー;和光純薬工業)したところ,連鎖状を成したグラム陰性球桿菌が認められた(Figure 1)。
Gram stain of blood culture solution (×1,000)
血液培養用自動検出機器はバクテアラート3Dシステム(シスメックス・ビオメリュー),血液培養ボトルは好気用(FA)ボトルと嫌気用(FN)ボトル(シスメックス・ビオメリュー)にて培養した。末梢静脈から血液培養を2セット採取し,血液培養開始から53時間53分後に4本中1本の好気ボトルが陽転した。分離培養は5%羊血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン),チョコレート寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて35℃5%炭酸ガス培養,ドリガルスキー改良培地(日水製薬)を用いて35℃好気培養,ブルセラHK培地(極東製薬工業)を用いて35℃嫌気培養を行った。48時間培養後に5%羊血液寒天培地,チョコレート寒天培地,ドリガルスキー改良培地に約3–4 mmの円形で隆起したピンク色のムコイド型の集落が発育した(Figure 2)。発育した集落の特徴からRoseomonas属が疑えたため,東京医科大学 微生物学講座へ16S rRNA遺伝子配列解析を依頼した。
Colony of R. gilardii subsp. gilardii
a) 48 hours of culture on chocolate agar, b) Pink pigment
菌の生化学的性状はカタラーゼテスト陽性,オキシダーゼテスト(チトクローム・オキシダーゼ試験用ろ紙 日水製薬)陽性。自動機器を用いた生化学的同定検査は,WalkAway40SI(BECKMAN COULTER)を使用しNeg NF Comb 1Jパネル(BECKMAN COULTER)で実施し,また,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌同定キットIDテスト・NF-18(日水製薬)も用いた。Neg NF Comb 1JパネルはPseudomonas sp.と同定され,IDテスト・NF-18はプロファイルコードと一致する菌種はなかった。菌の16S rRNA塩基配列は,R. gilardii subsp. gilardiiの基準株に対し,相同性が100%(1,374/1,374 bp)であった。最終的にR. gilardii subsp. gilardiiと報告した。
本菌はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)で検査法が記載されていない菌属のため,CLSI M100-S22 Other non-Enterobacteriaceaeの微量液体希釈法を参考にした。薬剤感受性試験はNeg NF Comb 1Jパネルを使用し,最小発育阻止濃度(MIC)を測定した(Table 1)。MICの結果は参考値として臨床に報告した。
Antimicrobial agents | MIC値(μg/mL) |
---|---|
Piperacillin | > 64 |
Ceftazidime | > 16 |
Cefozopran | > 16 |
Cefepime | > 16 |
Imipenem | ≤ 1 |
Meropenem | ≤ 1 |
Doripenem | ≤ 1 |
Aztreonam | > 16 |
Sulubactam/Cefoperazone | > 32 |
Tazobactam/Piperacillin | > 64 |
Gentamaicin | ≤ 2 |
Tobramycin | ≤ 2 |
Amikacin | ≤ 8 |
Minocycline | ≤ 2 |
Levofloxacin | ≤ 0.5 |
Ciprofloxacin | 0.5 |
Sulfamethoxazole-trimethoprim | ≤ 40 |
Fosfomycin | > 16 |
Colistin | ≤ 2 |
Roseomonas属は,GilardiとFaurがピンク色素を産生するブドウ糖非発酵菌グループを報告し,1984年にこれらの細菌をCDCが “pink coccid” group I,II,III,IVと定義した。その後,1993年にRihsがRoseomonas属の生化学性状とDNAハイブリダイゼーション法を基にR. gilardii(genomospecies 1),R. cervicalis(genomospecies 2),R. fauriae(genomospecies 3),Roseomonas genomospecies 4,5,6の6つの種に分類した2)。現在は上記の菌種の他にR. aerilata,R. aquatic,R. lacus,R. mucosa,R. terrae,R. stagni,R. vinaceaが知られている3)。尚,R. gilardiiはR. gilardii subsp. gilardiiとR. gilardii subsp. roseaの2つの亜種が報告されている。これらの中で感染例として多いのはR. gilardii subsp. gilardii,R. gilardii subsp. rosea,R. mucosaである。
Struthersら1)は,Roseomonas属感染症の患者35例の臨床情報を分析した。患者の80%は基礎疾患を有しており,悪性腫瘍,腎疾患,炎症性腸疾患,糖尿病,アルコール依存症,骨関節炎,嚢胞性線維症の順に多かった。微生物学的検査では血液検体での分離例が多いと報告している。また,Déら4)は固形癌及び血液腫瘍の患者36例を対象にRoseomonas属におけるカテーテル関連感染と菌血症の分析を報告している。患者36例中33例に鎖骨下中心静脈カテーテルが挿入されており,うち6例がカテーテル関連感染や菌血症を繰り返したとしている。実際にRoseomonas属による感染症の特徴を把握するために,過去に症例報告されているものを表にまとめた(Table 2)3),5)~14)。本症例は,基礎疾患に糖尿病を有した易感染状態であったが,カテーテル挿入歴はなく,血液培養以外の検査材料は提出されなかったため,菌の侵入門戸は特定されなかった。死亡率は比較的低く,死亡例はNo. 4の1例のみであったが,死因は基礎疾患によるものであった。一方,検査材料において血液培養は複数セットで提出されているが,全セット陽性となったものは1例のみであった。このような特徴をきたす理由を解析した報告は未だない14)。
No. | 年齢 | 性別 | 主訴 | 基礎疾患および背景 | 臨床検体 | 分離菌 | 使用抗菌薬 | 参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 62 | 女性 | 不明 | 腎不全,(腹膜透析) | 透析液 | R. gilardii | Netilmicin(NTL) | 5) |
2 | 49 | 男性 | 発熱 | 白血病,中心静脈カテーテル | 血液培養2/3セット陽性 | R. gilardii | IPM, TOB, CPFX | 6) |
3 | 65 | 女性 | 腹痛 | 腎不全,(腹膜透析) | 透析液 | R. fauriae | NTL, VCM | 7) |
4 | 31 | 男性 | 発熱,咳 | 白血病,中心静脈カテーテル | 血液培養2/2セット陽性 | R. gilardii | CPFX, CAM | 8) |
5 | 42 | 女性 | 発熱,足の痛みと腫れ | 高血圧,C型肝炎,甲状腺機能低下症 | 血液培養1/2セット陽性 | R. gilardii | CFPM | 9) |
6 | 83 | 女性 | 眼痛,流涙,視界不良 | 水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ移植 | 眼材料 | Roseomonas sp. | AMK, CPFX | 3) |
7 | 18 | 男性 | 発熱,倦怠感 | 偽性腸閉塞症,胆嚢切除,中心静脈カテーテル,胃瘻 | 血液培養1/2セット陽性 | R. mucosa | CPFX, GM | 10) |
8 | 48 | 男性 | なし | IgA腎症,腹膜透析 | 透析液 | Roseomonas sp. | CEZ, GM | 11) |
9 | 19 | 男性 | 発熱,腹痛 | 腎不全,HIV感染,(腹膜透析) | 透析液 | R. mucosa | CPFX, GM | 12) |
10 | 30 | 男性 | 頭痛 | 12年前に頭蓋形成術 | 頭部内膿瘍 | R. gilardii | 不明 | 13) |
11 | 87 | 女性 | 発熱,悪寒,倦怠感 | なし | 血液培養1/2セット陽性 | R. gilardii | CPFX | 14) |
12 | 82 | 男性 | 発熱 | 糖尿病 | 血液培養1/2セット陽性 | R. gilardii subsp. gilardii | ST | 本例 |
同定検査は,当院の全自動細菌同定感受性装置やブドウ糖非発酵菌用同定キットでは解析できなかったが,過去2例13),14)において,全自動細菌同定感受性装置で結果を得られている報告があり,いずれもシスメックス・ビオメリュー社のVITEKシリーズであった。同定キットを用いて最終同定に至った報告例はない。菌種レベルの同定には16S rRNA遺伝子配列解析が有用であったが,日常的に16S rRNA配列解析を行える施設は少ない。属レベルまでの同定で重要な点は,グラム染色で連鎖状のグラム陰性短桿菌であること,特徴的なピンク色の集落が発育すること,その他にカタラーゼ試験,尿素分解試験,クエン酸利用試験が陽性であること,これらが同定の一助となりえる。また,本菌株では認められなかったが,アラビノース分解試験が陽性であることも重要な性状である。Hanら15)が報告した感染例の多いR. gilardii subsp. gilardii,R. gilardii subsp. rosea,R. mucosaの生化学的性状を表にまとめた(Table 3)。
Reaction | Our strain | R. gilardii subsp. gilardii | R. gilardii subsp. rosea | R. mucosa |
---|---|---|---|---|
Nitrate reduction | ||||
To nitrite | − | − | − | d |
To nitrogen | − | − | − | − |
Indole production | − | − | − | − |
Glucose acidification | − | − | − | − |
Arginine hydrolysis | − | − | − | − |
Urea utilization | + | + | d | + |
Esculin hydrolysis | − | − | − | − |
β-galactosidase activity | − | − | − | − |
Assimilation of | ||||
Glucose | + | d | d | d |
Arabinose | − | + | + | + |
Maltose | − | − | − | − |
Citrate | + | + | + | d |
Oxidase | + | − | d | d |
Catalase | + | + | + | + |
+:陽性,−:陰性,d:陽性と陰性の両方あり
薬剤感受性試験では,本菌株とHanら15)が報告したR. gilardii subsp. gilardii,R. gilardii subsp. rosea,R. mucosaのMICを比較した(Table 4)。薬剤感受性パターンは一定の傾向を認め,AmikacinとCiprofloxacinは低いMIC値を示し,第3世代セファロスポリン系薬と第4世代セファロスポリン系薬は高いMIC値を示した。このことは,Roseomonas属を疑うためのポイントとして有用となる可能性がある。
Antibiotic | Our strain (μg/mL) |
R. gilardii subsp. gilardii (n = 1) (μg/mL) |
R. gilardii subsp. rosea (n = 8) (μg/mL) |
R. mucosa (n = 22) (μg/mL) |
---|---|---|---|---|
Amikacin | ≤ 8 | 1.5 | 1.0 to 3.0 | 0.5 to 2.0 |
Ciprofloxacin | 0.5 | 0.25 | 0.19 to 1.5 | 0.13 to 2.0 |
Imipenem | ≤ 1 | 0.5 | 0.38 to > 32 | 0.5 to > 32 |
Ticarcillin-clavulanate | ND | 6.0 | 0.5 to > 256 | 1.5 to > 256 |
Ceftriaxone | ND | 2.0 | 0.5 to > 32 | 1.0 to > 32 |
Sulfamethoxazole-trimethoprim | ≤ 40 | > 32 | 2.0 to > 32 | 0.13 to > 32 |
Ampicillin | ND | > 256 | 0.25 to > 256 | > 256 |
Cefepime | > 16 | > 32 | > 32 | > 32 |
Ceftazidime | > 16 | > 256 | > 256 | 64 |
ND: no data
本症例のように,Roseomonas属を種まで同定することは困難であり,時間を要する。実際に,16S rRNA遺伝子配列解析できる検査室は少ない。原因菌が連鎖状のグラム陰性短桿菌,ピンク色のムコイド型集落,カタラーゼ試験陽性,尿素分解試験陽性,クエン酸利用試験陽性,アラビノース分解試験陽性,第3世代セファロスポリン系薬と第4世代セファロスポリン系薬が低感受性の場合,最終同定結果が得られなくても,Roseomonas属を疑う旨を臨床側に迅速に報告することは,治療上において重要であると思われる。治療抗菌薬選択の参考として,本例は16S rRNA遺伝子配列解析結果までに時間を要したため,臨床にRoseomonas属が疑われる旨を伝え,本邦における過去の症例報告14)を臨床に提供した。また,我々の調べた限り,Roseomonas属による院内感染事例の報告はないが,超高齢化社会が背景にある今日において院内感染対策上,動向を把握する必要があると思われる。
今回,Roseomonas gilardii subsp. gilardiiを分離した菌血症の症例を経験した。Roseomonas属の感染症は,本邦の報告が1例と稀な症例であるが,超高齢化社会の本邦において,Roseomonas属による感染症は今後,増えていくことが懸念される。こうしたことにより,本邦における本菌の薬剤感受性試験成績や感染症治療成績を蓄積していくことが重要であると思われる。
本研究は当院倫理審査委員会の審査非該当項目のため,倫理審査委員会の承認を得ていない。
菌の同定にご協力頂いた東京医科大学 微生物学講座 大楠清文先生,並びに本論文を執筆するにあたり,ご助言を賜りました済生会新潟第二病院 呼吸器内科 寺田正樹先生,同院 腎膠原病内科 田崎和之先生に深謝申し上げます。