医学検査
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症例報告
経過を観察しながら保存的に加療した胆石イレウスの1例
宮原 佳那山下 信一郎尾道 賢吾末吉 麗美新原 亨仁王 辰幸田代 光太郎
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2017 年 66 巻 3 号 p. 284-288

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Abstract

症例は95歳,男性。既往歴に心不全,胆石がある。嘔吐,腹部膨満感,心窩部~臍周囲の痛みを主訴に前医にてCT検査を行ったところ,胆石の小腸への移動とイレウスが疑われたため,精査目的に当院へ緊急搬送となった。来院時腹部単純X線撮影では,明らかなイレウスを示唆するような腸管拡張所見は認められなかった。腹部超音波検査を施行したところ,左上腹部の小腸内に音響陰影(acoustic shadow)を伴う高輝度エコー(strong echo)と,それより口側の小腸の拡張やキーボードサイン(keyboard sign)を認め,胆石イレウスが疑われた。前医のCT画像と来院時の腹部超音波検査を比較したところ,結石が徐々に移動しており,年齢を考慮して保存的治療を開始した。入院24日目には,超音波検査で結石は回腸末端まで移動しており,イレウスは軽度となっていた。入院30日目,下剤投与後に大腸内視鏡検査にて観察を行ったところ,S状結腸に結石を確認することができた。その後も排便回数多く,自然排石を待つ方針となり,前医に転院となった。胆石イレウスの治療法の選択のために,閉塞部位を特定し,経過を観察するのに超音波検査が有用であった症例を経験した。

I  はじめに

胆石イレウスは比較的稀な疾患である1)~3)が,近年の画像診断の進歩により嵌頓部位の位置やイレウスの程度などの情報が得られやすくなり,手術を要する場合,保存的治療が可能な場合などケースに応じた診療が可能となりつつある。今回,超音波検査にて経過を観察しながら保存的に加療した胆石性イレウスの症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

II  症例

患者:95歳,男性。

主訴:嘔吐,腹部膨満感,心窩部~臍周囲の痛み。

既往歴:心不全,胆石。

現病歴:来院3日前,下腹部の周期的な痛みが出現し,前医を受診。CT検査を行ったところ,胆嚢~十二指腸にかけて大きさ約5 cmの胆石と思われる高吸収域を認めた(Figure 1A)。2日後(来院1日前)再度CT検査を行ったところ,左腹部の小腸と思われる構造内に高吸収域が移動しており(Figure 1B-1),これより口側腸管の拡張と,胆管内のガス像を認めた(Figure 1B-2)。胆石の小腸への移動とイレウスが疑われ,精査目的に当院へ救急搬送となった。

Figure 1 

Abdominal CT

Panel A: 3 days before visit. Observed a high absorption region through the gallbladder to the duodenum.

Panel B: 1 day before visit. Panel B-1: Migration to the small intestine in the high absorption range was observed.

Panel B-2: The small intestine was dilated and admission of intestinal fluid was allowed. Also, a gas image was recognized in the bile duct.

来院時血液生化学検査:CRPが3.2 mg/dLとやや高値であったが,その他の項目には明らかな異常所見は認めなかった(Table 1)。

Table 1  Laboratory data on visit
T-bil 0.7 mg/dL troponin (−)
AST 23 IU/L H-FABP (−)
ALT 9 IU/L WBC 7,550/μL
TP 6.2 g/dL RBC 387 × 104/μL
Alb 3.4 g/dL Hb 11.5 g/dL
ALP 232 IU/L Ht 34.10%
γ-GTP 22 IU/L PLT 19.1 × 104/μL
BUN 21.0 mg/dL
CRE 0.52 mg/dL
Na 140 mEq/L CRP 3.2 mg/dL
K 3.7 mEq/L
Cl 104 mEq/L

来院時腹部単純X線撮影:明らかなイレウスを示唆するような腸管の拡張所見は認めなかった(Figure 2)。

Figure 2 

Abdominal X-ray

We did not recognize obvious ileus-like findings.

来院時腹部超音波検査(US):胆嚢内部にガス像を認め,胆嚢の壁や形態が鮮明に描出できなかった(Figure 3A-1)。肝内胆管,肝外胆管にもガス像が認められ,胆道気腫の所見であった(Figure 3A-2, 3)。左側腹部の小腸内には5 cm大の結石と思われる音響陰影(acoustic shadow; AS)を伴う高輝度エコー(strong echo; SE)を認め(Figure 3B),これより口側の小腸は拡張し,キーボードサイン(keyboard sign)を呈していた(Figure 3C)。

Figure 3 

US image on visit

Panel A-1: A gas image was recognized in the gallbladder.

Panel A-2, A-3: Gas images in the intrahepatic bile duct and the extrahepatic bile duct.

Panel B: Strong echo with acoustic shadow in the small intestine of the left abdomen were observed.

Panel C: Strong echo of the small intestine distension on the adoral side, and a keyboard sign were observed.

経口小腸造影検査:ガストログラフィンを注入するも,空腸以下に流れず描出不良で,観察内に明らかな結石を疑う陰影欠損は認めなかった。胆嚢の描出は不良であったが,十二指腸から胆嚢へ向かうと思われる辺縁不整な造影剤の漏出像を認め,胆嚢十二指腸瘻の所見と考えられた(Figure 4)。

Figure 4 

Gastrografin enema

Gastrografin enema suggests the presence of a cholecystoduodenal fistula.

経過:前医のCT画像と来院時の超音波検査を比較したところ結石が徐々に移動しており,95歳と高齢であることや心不全の既往を考慮して,絶食,抗生剤投与,輸液にて保存的治療が開始された。入院24日目に施行されたUSでは回盲部の壁肥厚を認め(Figure 5A),回腸末端に結石と思われるASを伴うSEを認めた(Figure 5B)。

Figure 5 

US image on hospital day 24

Panel A: Area of ileal wall thickening was observed.

Panel B: Strong echo with acoustic shadow which seems to be calculus at the ileum terminal were observed.

これより口側の腸管は軽度拡張し,内部に腸内容物を認めた。入院30日目に大腸検査処置用下剤を注入して排便を促進し,大腸内視鏡を行ったところ,S状結腸に結石を確認することができた(Figure 6)。

Figure 6 

Colonoscopy

The stone in the sigmoid colon was observed.

自然排石が十分に期待できると考えられ,検査を終了し経過観察となった。その後,入院時より認められていた腹部膨満感は消失し,腹部単純X線検査にて小腸ガスは消失し,排便も頻回に見られた。入院中に排石は確認できなかったが,状態は良好にて入院40日目に転院となり,転院先にて経過観察を行う方針となった。

III  考察

胆石イレウスの頻度は,胆嚢結石症患者の0.3~1.5%,イレウス全体の0.05~1%と稀な疾患である1),2),4)。一般に高齢の女性に多い4),5)との報告があるが,今回経験したのは95歳の男性であった。結石の消化管内への通過経路は胆嚢十二指腸瘻が大部分を占め(83.8%),次いで胆嚢胃瘻(1.5%),総胆管十二指腸瘻(1.5%),自然胆道排泄(0.8%)とされている6)。自験例ではCTの経過と経口小腸造影検査の結果より,胆嚢と十二指腸の瘻孔を形成したものと考えられた。嵌頓する結石の平均径は4.4 cmと報告されている7)。また,結石が大きいほど口側に嵌頓しやすいとの報告もみられるが,5 cm程の結石でも自然排石された症例も報告されており,結石の大きさだけでは自然排石するか否かは判断できないとされている3)。胆石が嵌頓する部位は回腸が最も多く,次いで空腸,十二指腸,結腸,胃の順となっていると報告されている6),7)。今回の症例ではまず空腸への嵌頓によるイレウスを認め,保存的加療にて経過を観察する中で結石の移動を確認することができた。

胆石イレウスはRiglerの三徴8)とされる,腹部単純X線写真での小腸の閉塞・拡張像,胆道内ガス像,結石の位置異常・移動像が特徴であるが,これらが全て揃うのは半数以下とされていた8)~10)。しかし,近年では画像診断装置の進歩により画像上の様々な情報が得られやすくなり,正診率の格段な向上が見られている。今回超音波検査にて胆道内ガス像,小腸の拡張像,腸管内結石を指摘でき,経過を追うことにより結石の移動を観察することができた。

胆石イレウスと診断された場合,治療法としては,8割が外科的治療を要するとされ,1割は自然排石,また,近年では内視鏡的な結石除去の報告も見られている7),11)。しかし,胆石イレウスに対する標準的な治療方針は定まっておらず,治療法の選択に際しては患者の全身状態の評価,個々の状態に応じた治療が必要であると報告されている12)。本症例のような高齢者において,胆石イレウスの治療の選択のために閉塞部位を特定し,経過を観察するのに超音波検査が有用であると考えられた。

IV  結語

超音波検査にて経過を観察しながら保存的に加療した胆石イレウスの症例を経験した。

 

本論文の要旨は,第50回九州支部医学検査学会(2015,鹿児島)にて発表した。

本論文は,当施設の倫理委員会で承認されたものである。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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