医学検査
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原著
全身性炎症反応症候群(SIRS)におけるADVIA2120サイトグラムパターンおよびパラメータの有用性
青江 伯規今田 昌秀日野 佳弥高橋 孝英渡部 俊幸柴倉 美砂子岡田 健大塚 文男
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2017 年 66 巻 6 号 p. 622-628

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Abstract

全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)症例を迅速に捉える目的で,ADVIA2120より得られるサイトグラムパターン及びパラメータの有用性を検討した。好中球の大きさ,左方移動をそれぞれ反映するNeY,PMNxについて解析した。健常者群(n = 22)とSIRS基準を満たす血液培養陽性群(n = 13)では,NeY(p < 0.0001)及びPMNx(p < 0.05)に有意差を認めたが,健常者群とSIRS基準を満たさない血液培養陽性群(n = 5)では有意差はなかった。次に,サイトグラムがNeY高値,PMNx低値(SIRSパターンと定義)を示したSIRS群(n = 33),顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor; G-CSF)使用群(n = 10)について検討した。健常者群と比較し,NeYはSIRS群及びG-CSF使用群で有意に高値であり(p < 0.0001),PMNxはSIRS群(p < 0.0001)及びG-CSF使用群(p < 0.05)で有意に低値であった。しかしSIRS群とG-CSF使用群ではNeY,PMNxともに有意差はなく,SIRS群で%MONOが有意に低値であった(p < 0.01)。またSIRSパターンを示したSIRS症例では,死亡例を含む重度の症例を多く認めた。サイトグラムやパラメータから炎症反応に伴う好中球の変化を迅速に捉えることは,SIRSの病態を示唆する情報として有用である。

全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)は,1992年にアメリカで提唱された概念で1),感染症領域のみならず,救急,集中治療,外科領域で患者の重症度の指標として用いられ,(1)体温 < 36℃または > 38℃,(2)心拍数 > 90回/分,(3)呼吸数 > 20回/分あるいはPaCO2 < 32 Torr,(4)末梢血白血球数 > 12,000/mm3または < 4,000 mm3ないし幼若好中球 > 10%,の4項目のうち2項目以上陽性で診断が可能である。手術,外傷,熱傷,感染など侵襲に対する生体の恒常性維持を目的とした全身反応で,高サイトカイン血症が病態の本態と考えられており2),感染症に起因したSIRSが敗血症と定義され長年用いられてきた。一過性のSIRSは,様々な病気や術後にしばしば認められ,数日で解消する。しかしSIRSの状態が長期化し重篤になると,ショックや多臓器障害(multiple organ dysfunction syndrome; MODS),播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)などを引き起こす危険があり,早期の治療が望まれる3),4)

近年,自動血球計測器の進化により,血球数(complete blood count; CBC)のみならず白血球分類においてもサイトグラムパターンやパラメータより数多くの情報が得られるようになった。今回,総合血液学検査装置ADVIA2120(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社)を用いた全血測定において,SIRSおよび敗血症症例で特徴のあるサイトグラムパターンが得られたので,その変化と関連して推移することが想定されるパラメータを用いて比較検討を行った。

I  測定原理

ADVIA2120はPeroxとBasoの2種類のチャンネルを用いて光学的に白血球測定を行う(Figure 1A)。Peroxチャンネルでは,赤血球を溶血させ,ペルオキシダーゼ染色を行い,タングステンハロゲンランプを用いて吸光度および散乱光量を測定する。サイトグラムのX軸にペルオキシダーゼ染色強度(吸光度),Y軸に血球容積(散乱光量)をプロットし,白血球分類を行う。この測定ではリンパ球と好塩基球は同一領域にプロットされるが,Basoチャンネルより算出される好塩基球比率を差し引くことでリンパ球比率が求められ,白血球は5分類および非染色大細胞(large unstained cell; LUC)に分類される。PeroxチャンネルよりNeX,NeY(好中球分画のX軸およびY軸の中心座標)および%MONO(単球の割合)が得られる。Basoチャンネルでは,酸性条件下で,界面活性剤による赤血球溶血および好塩基球以外の白血球の裸核化を行い,半導体レーザー光を用いて散乱光量を測定する。サイトグラムのX軸に核構造の複雑さ(高角度散乱光量),Y軸に細胞容積(低角度散乱光量)をプロットし,好塩基球比率を算出する。また,裸核化された細胞を単核白血球(MN),多型核白血球(PMN)に分類し,PMNのX軸の中心座標よりPMNxが得られる。

Figure 1 

ADVIA2120サイトグラムパターン

(A)健常者サイトグラム,NeY:Peroxチャンネルにおける好中球の中心Y座標,PMNx:Basoチャンネルにおける多形核球の中心X座標

(B)SIRSサイトグラム,NeY高値(大型好中球),PMNx低値(好中球の左方移動)および%MONO(単球)の減少

II  対象と方法

1. 対象

1) 健常者と血培陽性患者における比較

健常者22例,当院にて2008年7月中に血液培養検査(以下,血培)陽性であった18検体(年齢61.3 ± 19.7歳,男性11検体/女性7検体)を対象とした。

2) 健常者とSIRSパターンを示す群における比較

2009年1月から2010年4月の間に提出されたCBC検体の中で,Peroxチャンネルサイトグラムにおいて右肩上がりの好中球集団を示すNeY高値で,かつ BasoチャンネルサイトグラムにおいてPMNが左方移動を示すPMNx低値の特徴的なサイトグラムパターン(Figure 1B;以下,SIRSパターンと定義する)を示した51例(年齢58.1 ± 17.3歳,男性31例/女性20例)を対象とした。

なお本研究は,岡山大学生命倫理審査委員会の承認を得て行った。

2. 方法

日常検査でEDTA-2K加末梢血液を提出され,ADVIA2120にてCBCおよび白血球分類を測定後に保存されている解析対象症例のraw dataより得られたパラメータNeY,PMNxおよび%MONOを用いて,各群の平均値を求め,有意差の有無を後方視的に検討した。

1) 健常者と血培陽性患者におけるNeY,PMNxの比較

① 健常者と血培陽性患者の比較

健常者(n = 22),血培陽性検体(n = 18)を対象とし,NeY,PMNxについて比較検討を行った。

② 健常者と血培陽性SIRS群と血培陽性non-SIRS群の比較

血培陽性群をSIRS基準を満たす群(SIRS群)(n = 13)と満たさない群(non-SIRS群)(n = 5)に分けて,健常者(n = 22)との比較検討を行った。

2) 健常者とSIRSパターンを示す群におけるNeY,PMNxおよび%MONOの比較

SIRSパターンを示した51例のうち炎症はあるがカルテの情報が不十分でSIRSと判断できない8例を除外し,SIRS群33例,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor; G-CSF)使用群10例を検討対象とした。SIRS群とG-CSF使用群におけるNeY,PMNxおよび%MONOについて健常者群と比較検討を行った。

3) SIRSパターンを示したSIRS症例の病態とNeY,PMNxおよび死亡数の比較

上記2)の検討に用いたSIRS症例33例について,診療情報をもとに病態ごとに分けた場合のNeY,PMNxの平均値±標準偏差および死亡数を比較した。なお敗血症の定義については,「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」と2016年に大幅な変更が発表されたが5),本検討で用いた診療情報では当時の診断基準が用いられている。

3. 統計学的解析

GraphPad Prism6(GraphPad Software社)を用いた。2群間の比較では,NeYについてはWelchのt‍検‍定を行い,PMNxについてはMann-WhitneyのU‍検定を行った。3群間の比較では,NeYについては一元配置分散分析(One-way analysis of variance; One-way ANOVA)(Tukey法)を行い,PMNxおよび%MONOについては Kruskal-Wallis検定(Dunn法)を行った。結果には各群のパラメータの(平均値±標準偏差)を示し,危険率p < 0.05を統計学的有意差ありと判断した。

III  結果

1. 健常者と血培陽性患者におけるNeY,PMNxの比較

1) 健常者と血培陽性群におけるNeY,PMNxの比較(Figure 2
Figure 2 

健常者群と血培陽性群におけるNeY,PMNxの比較

NeY:Peroxチャンネルにおける好中球の中心Y座標,PMNx:Basoチャンネルにおける多形核球の中心X座標。*p < 0.05

NeYについては,血培陽性群(76.0 ± 5.2)で健常者群(72.0 ± 3.3)よりも有意に高値であった(p < 0.05)。PMNxについては,血培陽性群(29.9 ± 2.7)で健常者群(31.5 ± 2.2)よりも有意に低値であった(p < 0.05)。

2) 健常者と血培陽性SIRS群と血培陽性non-SIRS群におけるNeY,PMNxの比較(Figure 3
Figure 3 

健常者群,血培陽性(SIRS群),血培陽性(non-SIRS群)におけるNeY,PMNxの比較

NeY:Peroxチャンネルにおける好中球の中心Y座標,PMNx:Basoチャンネルにおける多形核球の中心X座標。*p < 0.05,***p < 0.001,****p < 0.0001,n.s.:有意差なし。

血培陽性群を,SIRS基準を満たす群(SIRS群)(n = 13)と満たさない群(non-SIRS群)(n = 5)に分けて比較を行った。NeYについては,SIRS群(79.0 ± 4.2),non-SIRS群(70.9 ± 1.8)であり,SIRS群で健常者群(p < 0.0001)およびnon-SIRS群(p < 0.001)と比較して有意に高値であった。PMNxについては,SIRS群(29.5 ± 3.0),non-SIRS群(30.9 ± 1.6)であり,SIRS群で健常者群(31.5 ± 2.2)と比較して有意に低値であった(p < 0.05)。またnon-SIRS群と健常者群ではNeY,PMNxともに有意差を認めなかった。

2. 健常者とサイトグラムがSIRSパターンを示したSIRS群およびG-CSF使用群の比較(Figure 4
Figure 4 

健常者群,SIRSパターンを示したSIRS群,G-CSF使用群におけるNeY,PMNx,%MONOの比較

NeY:Peroxチャンネルにおける好中球の中心Y座標,PMNx:Basoチャンネルにおける多形核球の中心X座標,%MONO:Peroxチャンネルにおける単球の割合。*p < 0.05,**p < 0.01,***p < 0.001,****p < 0.0001,n.s.:有意差なし。

サイトグラムがSIRSパターンを示した群を抽出し,そこに含まれていたSIRS群とG-CSF使用群および健常者群において比較を行った。NeYについては,SIRS群(80.1 ± 3.1),G-CSF使用群(82.7 ± 2.7)でそれぞれ健常者群(72.0 ± 3.3)より有意に高値であった(p < 0.0001)。PMNxについては,SIRS群(24.3 ± 4.0, p < 0.0001),G-CSF使用群(27.4 ± 2.0, p < 0.05)でそれぞれ健常者群(31.5 ± 2.2)より有意に低値であった。また%MONOについては,健常者群(5.9 ± 1.1)およびG-CSF使用群(6.7 ± 3.3)と比較して,SIRS群(4.0 ± 3.8)で有意に低値であった(p < 0.001およびp < 0.01)。

3. SIRSパターンを示したSIRS症例の病態とNeYおよびPMNx(Table 1
Table 1  SIRSパターンを示すSIRS症例の病態とNeYおよびPMNx
SIRS 33例(死亡数/症例数) NeY
mean ± SD
PMNx
mean ± SD
敗血症 6例(2/6) 78.5 ± 4.0 24.6 ± 3.2
敗血症性ショック 6例(3/6) 80.1 ± 3.1 25.8 ± 3.1
多臓器不全 3例(3/3) 82.1 ± 1.8 23.6 ± 4.8
その他 18例(8/18) 80.4 ± 2.8 23.8 ± 4.6

今回検討に用いたSIRS症例33例を病態ごとに分けた場合のNeYおよびPMNx(平均値±標準偏差)を示す。敗血症性ショック,多臓器不全に陥った症例では,NeYが平均値80以上と著しい高値を示した。また,各病態間におけるNeY,PMNxの平均値に有意差は認めないものの,病態が進展するにつれてNeYの増加傾向を認めた。

IV  考察

1992年にアメリカでSIRSが提唱され,敗血症とその関連病態,臓器不全に関する概念と定義が示された1)。SIRSは簡便な診断基準によりどの医療施設でも診断しうるという利点の一方で,年齢に関して制限がないこと,基礎疾患や地域差に関して考慮が必要となることなどの問題点が指摘されている6),7)。また診断基準範囲が広く,軽症から重症例まで幅広い患者群でSIRSを呈すると考えられ,軽度の侵襲も拾い上げてしまうことが指摘されている8)。SIRS診断における重要性は,重症度の判定ではなく,重症な敗血症に至る前段階を早期に検出することである。その一方で,病態が進展するSIRSの判別も重要となる。Rangel-Fraustoら9)は,SIRSからsepsis発症までの期間とSIRS診断基準の陽性項目数には負の相関があり,死亡率も陽性項目数の増加に伴い上昇することを報告している。SIRSの陽性項目数の増加やSIRSが3日以上持続する場合は,MODSへの進展や死亡率が増加するとの報告もある3),4)。また幼若好中球の割合の増加や成熟好中球の細胞質空胞形成の頻度が重症度や予後,死亡率と関わりがあるという報告もなされている10),11)

今回,SIRSおよび敗血症においてADVIA2120より得られるSIRSパターン(NeY高値,PMNx低値)の臨床的有用性について検討を行った。敗血症サイトグラムパターンの特徴であるNeY高値は好中球の容積が大きいことを,またPMNx低値は好中球の左方移動をそれぞれ表している。敗血症患者の末梢血液像では,大型で中毒顆粒のある好中球や桿状核球などの幼若好中球の増加をしばしば認め12),13),これらのパラメータは好中球の形態をよく捉えていると考えられる。

血培陽性患者では,健常者と比較してNeY高値,PMNx低値の傾向を示し有意差を認めたが,血培陽性以外の要素を考慮することでより有意差が得られるのではないかと考えた。そこで,血培陽性群をSIRS群とnon-SIRS群に分けて比較を行ったところ,SIRS群では,健常者群およびnon-SIRS群と比較してNeYが著しく高値であったが,non-SIRS群と健常者群の間では有意差を認めなかった。またSIRS群で健常者群と比較してPMNxが有意に低値であったが,non-SIRS群と健常者群の間では有意差を認めなかった。この結果から,血培陽性の場合でも,SIRS(敗血症)とnon-SIRS(菌血症)ではNeYやPMNxの変動に違いがあり,SIRS症例で好中球形態に変化が起きていることが示唆された。特に,NeYはSIRS群で著明に高値となり,SIRSの状態を捉えるのに有用と考えられた。また今回の検討に用いた血培陽性SIRS群の72.7%が死亡例であり,死亡例のなかったnon-SIRS群と比較して予後不良と考えられる。これまでに,NeYが80以上の症例において,血培陽性やプロカルシトニン高値の症例が多いことが報告されており14),またアルブミン低値,CRP高値の症例が多く,反復感染の頻度が高率であることも報告されている15)。これらのことから,血培陽性の症例においてSIRSかnon-SIRSかを区別することは重要であり,ADVIA2120から得られるサイトグラムパターンが,SIRSかどうかの鑑別,また重症化や予後推測のひとつの指標になると考えられる。

次に,SIRSパターンを示した51症例を対象に,NeY,PMNx,%MONOについて比較を行った。51例中にはSIRS症例を33例,G-CSF使用例を10例含んでおり,SIRSと判断できない8例は検討から除外し,健常者群,SIRS群,G-CSF使用群について比較を行った。SIRSパターンを示したSIRS群およびG-CSF使用群はそれぞれ健常者群との間で,NeYおよびPMNxに有意差を認めた。しかし,NeYおよびPMNxにおいてSIRS群とG-CSF使用群に有意差を認めず,これらのパラメータのみでSIRS群とG-CSF使用群の区別をすることは困難であると思われた。G-CSF使用群では,好中球の増加が促され,NeY高値,PMNx低値のサイトグラムパターンを示すと考えられるが,SIRS群と比較して単球の割合(%MONO)の有意な上昇を認めた。一方,SIRS群では健常者と比較して,%MONOが有意に低値を示した。これらの結果から,NeY高値,PMNx低値および%MONO低値のパターンよりSIRSを推測できると考えられる。

また,今回検討に用いたSIRS 33例を病態ごとに分けた場合のNeY,PMNxの平均値および死亡数をTable 1に示した。その他にグループ分けした症例には,肺癌,直腸癌,胃癌,横行結腸癌,肝炎,肺炎,腸炎,腹膜炎,熱傷,手術後など様々な症例が含まれており,18例中8例が死亡例であった。これらの症例ではSIRSが感染症に起因するものか特定できていないが,実際には敗血症症例が含まれている可能性が高いと思われる。敗血症,敗血症性ショック,多臓器不全と病態が進展するにつれて死亡率は高く,NeYも増加傾向を示した。この結果からもNeYが著しい高値を示す場合は,極めて注意が必要と考えられる。

患者の救命のためには,重篤な病態になりうる患者群を早期に把握することが重要となってくる。自動血球計測器による測定は迅速に行うことが可能であり,サイトグラムパターンからリアルタイムに病態を推測することは,非常に有用な情報となる。

V  結語

サイトグラムパターンから炎症反応に伴う好中球の変化を迅速に捉えることは,SIRSや敗血症を示唆する情報として有用と考える。

謝辞

本研究の統計学的解析に関して,ご助言,ご指導賜りました岡山大学大学院保健学研究科 篠畑綾子先生に深謝いたします。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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