医学検査
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66 巻, 6 号
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原著
  • 山森 雅大, 永山 円, 遠藤 美紀子, 加藤 敦美, 堀田 美佐, 前岡 悦子, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2017 年 66 巻 6 号 p. 615-621
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    【目的】レムナントリポ蛋白は動脈硬化を進展させるリポ蛋白であるが,2006年に血清レムナント様リポ蛋白コレステロール(RLP-C)の直接測定法が開発され,汎用自動分析機で簡便に測定できるようになった。本研究は動脈硬化の指標である頸動脈超音波検査における内膜中膜複合体厚(IMT)とRLP-C,従来からの動脈硬化性疾患マーカーとの関連を検討し,動脈硬化の診断におけるRLP-C測定の意義を明らかにすることを目的とした。【対象と方法】対象は当院の脳ドックを受診した251名である。総頸動脈遠位壁の最大IMTを測定し,これが早期動脈硬化研究会の提唱する年代別基準値以上を呈した場合,動脈硬化と定義した。動脈硬化と脂質異常(RLP-C 7.6 mg/dL以上,LDL-C 140 mg/dL以上,HDL-C 40 mg/dL未満,TG 150 mg/dL以上,non HDL-C 170 mg/dL以上,LH比2.6以上),動脈硬化危険因子(年齢,喫煙,血圧,体格指数,HbA1c,eGFR)との関連を検討した。【結果】単変量解析ではRLP-C ≥ 7.6 mg/dLとHbA1c ≥ 6.2%は動脈硬化と有意な関連を認めた。多変量解析ではHbA1c ≥ 6.2%は独立して動脈硬化と有意な関連を認めた(p < 0.05)。性別を分けて単変量・多変量解析を行うと,男性ではHbA1c ≥ 6.2%が,女性ではRLP-C ≥ 7.6 mg/dLが動脈硬化と有意な関連を認めた。【結論】RLP-C測定は女性において動脈硬化の診断予測に有用である。

  • 青江 伯規, 今田 昌秀, 日野 佳弥, 高橋 孝英, 渡部 俊幸, 柴倉 美砂子, 岡田 健, 大塚 文男
    原稿種別: 原著
    2017 年 66 巻 6 号 p. 622-628
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)症例を迅速に捉える目的で,ADVIA2120より得られるサイトグラムパターン及びパラメータの有用性を検討した。好中球の大きさ,左方移動をそれぞれ反映するNeY,PMNxについて解析した。健常者群(n = 22)とSIRS基準を満たす血液培養陽性群(n = 13)では,NeY(p < 0.0001)及びPMNx(p < 0.05)に有意差を認めたが,健常者群とSIRS基準を満たさない血液培養陽性群(n = 5)では有意差はなかった。次に,サイトグラムがNeY高値,PMNx低値(SIRSパターンと定義)を示したSIRS群(n = 33),顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor; G-CSF)使用群(n = 10)について検討した。健常者群と比較し,NeYはSIRS群及びG-CSF使用群で有意に高値であり(p < 0.0001),PMNxはSIRS群(p < 0.0001)及びG-CSF使用群(p < 0.05)で有意に低値であった。しかしSIRS群とG-CSF使用群ではNeY,PMNxともに有意差はなく,SIRS群で%MONOが有意に低値であった(p < 0.01)。またSIRSパターンを示したSIRS症例では,死亡例を含む重度の症例を多く認めた。サイトグラムやパラメータから炎症反応に伴う好中球の変化を迅速に捉えることは,SIRSの病態を示唆する情報として有用である。

技術論文
  • 佐藤 正樹, 高崎 健司, 戸村 弘樹, 行川 裕子, 伊藤 佳子, 菅原 勲, 村山 晴喜
    原稿種別: 技術論文
    2017 年 66 巻 6 号 p. 629-635
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    今回,我々は弾性線維染色にみられる染色性の低下やムラの原因として脱パラフィン(以下,脱パラ)不足に着目し,脱パラ不足が弾性線維染色にどの程度な影響を及ぼすのか検討した。またキシレン以外の脱パラ試薬を使用することで,その性質について検討した。検討方法は弾性線維が豊富な大動脈のFFPEの薄切標本を使用し,標本のキシレンへの浸漬時間と液温を変化させた脱パラ工程を行うことで様々な脱パラ状態の標本を作製した。これらに弾性線維染色を行い,その染色性を比較した。その結果,明らかな部分だけでなく,僅かな脱パラ不足が起きていると考えられる部分でも染色性の低下がみられた。また,同様の手順で代替キシレン,ベンゼン,オイルキシレンを使用し,その性質を比較するとキシレンやベンゼンは試薬への浸漬時間だけでなく液温にも大きく影響を受けることが分かった。また今回使用した代替キシレンはキシレンやベンゼンよりも脱パラ能力が高く温度変化による影響も受けにくいことが分かった。標本上に残留したパラフィンは僅かなものでも弾性線維の染色性の低下を起こす原因のひとつとなることが考えられ,その影響を避けるためには25℃程度に保った脱パラ工程や今回使用したような特性を持つ代替キシレンの使用が有効であると考える。

  • 兵頭 直樹, 日野 典文, 篠﨑 陽香, 篠原 直征, 藤原 直, 高橋 智恵, 菅 成器, 延原 研二
    原稿種別: 技術論文
    2017 年 66 巻 6 号 p. 636-641
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    術中迅速細胞診において,BDサイトリッチTMレッド保存液を用いる方法(サイトリッチ・レッド法)は,細胞変性や細胞剥離の予防に有効であるが,従来法と比較して標本作製に時間が必要である。そこで標本作製時間の短縮を目的に,重力沈降時間と細胞塗沫量の関連性を比較検討した。その結果,採取細胞量の多寡にかかわらず対照の10分に対して細胞塗沫量に有意差の見られない最短の重力沈降時間は 3分で,相対値は70%以上になることが明らかとなった。標本作製時間を短縮するためには,重力沈降時間に対する細胞塗沫量の経時変化を理解することが重要である。

  • 豊福 達郎, 平野 克治, 市田 隆文
    原稿種別: 技術論文
    2017 年 66 巻 6 号 p. 642-648
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    C型肝炎のDAA投与前後でM2BPGiが低下し,その現象は肝硬変症例や肝移植後の症例でも同様であった。M2BPGiの減少率はSVR12時点で45.6%であり,ALT,AST,AFPと同等であった。治療前後でM2BPGiの2.00 COI以上の比率が,50.1%から26.2%に低下し,M2BPGiの2.00 COI以上に関連する因子が,治療前はAST,FIB-4,ALT,AFPの順であったが,治療後には,FIB4,ALB,PLTの順に変化していた。M2BPGiは治療前は炎症の影響を受けるが,治療後は炎症よりも線維化の影響を反映しているものと考えられた。

  • 小林 沙織, 中村 竜也, 楠木 まり, 大沼 健一郎, 林 伸英, 大路 剛, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2017 年 66 巻 6 号 p. 649-655
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    近年,グラム陰性桿菌の薬剤耐性化が世界的に問題となっている。その一つにESBL産生菌があり,迅速な検出が求められている。そこで,各種β-ラクタマーゼ産生グラム陰性腸内細菌科細菌を用いて薬剤感受性測定機器DPS192iXおよび薬剤感受性測定パネルEPB1(ともに栄研化学)の有用性評価とESBL産生菌の迅速検出について検討した。対象は各種β-ラクタマーゼ産生菌71株とした。従来法(微量液体希釈法:ドライプレート‘栄研’DPK1,ドライプレート‘栄研’DP31)を対照とした本法の ±1管差一致率は対象とした全ての薬剤で94%以上を示した。ESBL産生株28株の検出率は,18時間でCTX 96%,CAZ 68%,CPR 93%,CPDX 96%であったが,5時間においてもCTX 75%,CPDX 96%と高率に検出可能な薬剤も存在した。18時間では,全てのESBL産生菌でいずれかの薬剤に陽性となったが,遺伝子型により陽性を示す薬剤が異なるため注意が必要であった。以上より,DPS192iXを用いた各種β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の薬剤感受性検査は,日常検査においても精度良く測定可能であった。また,ESBL産生株の迅速検出が可能であり,抗菌薬適正使用および院内感染対策にも貢献できる機器であると考えられた。

資料
  • 笠原 裕樹, 北沢 望, 平野 幸歩, 芝野 牧子
    原稿種別: 資料
    2017 年 66 巻 6 号 p. 656-662
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    高感度トロポニンI測定試薬である「アーキテクト・high sensitiveトロポニンI」(high sensitive Troponin I; hsTnI)を用いて臨床的有用性評価を行った。急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)の診断に関するROC解析により算出したAUCはhsTnIが0.869,CK-MBは0.739であった。疾患群ごとのhsTnI分布ではAMI群が狭心症群や慢性心不全群などの疾患群と比較して有意に高値となった。カットオフ値26.2 pg/mLでの感度と特異度は81.7%,72.6%であり,胸痛発生から採血までの時間(採血時間)ごとのAMIに対する陽性率は,2時間未満で54.2%,4時間未満では62.2%であった。冠動脈の狭窄率及び狭窄部位によるhsTnI濃度では,いずれのグループ間においても有意な差は認めなかった。しかし,狭窄率100%と100%未満の群をさらに採血時間で3群に分けると,2時間以降で狭窄率100%の群では100%未満の群に比べより多くの症例が高値を示し,10時間以上では2群間で有意差を認めた。以上のことからhsTnIは虚血による心筋傷害を鋭敏に反映し,AMIに対して優れた診断精度を有することが確認された。

  • 蜂須賀 靖宏, 濱口 幸司, 鈴木 美穂, 杉山 大輔, 小笠原 知恵, 菊田 まりな, 岡田 元
    原稿種別: 資料
    2017 年 66 巻 6 号 p. 663-669
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    血液ガス分析装置はPOCTの代表的機器として緊急性の高い治療現場に設置されており,迅速な多項目評価が可能である。しかし使用者は現場スタッフであるため機器やデータの管理責任が不確定であった。我々は以前より血液ガス分析の病院全体での効率的運用と一括管理体制を目指していたが,それには多部門連携が必要であった。そこで今回の機器更新においては臨床工学科と協力し,現状問題点から目標を設定し行動計画を立てて実行した。その結果,分析装置を1社で構成し,試薬や資材を共有して使うことで,管理を簡便かつ効率的に行えると判断し,全ての機器をRADIOMETER製にした。管理は臨床検査科の役割とした。そして全ての装置を24時間管理するために,血液ガス管理システム(RADIANCE)を導入し,患者結果や精度管理データについては臨床検査管理システムで一括管理するようにした。また機器トラブル時のサポート体制の強化と環境整備により,業務の効率化に繋げることができた。臨床検査科で一元管理することで,無駄の少ない機器・試薬の管理運営が可能になり,機器管理やデータ管理の責任所在も明らかにできた。今回の機器更新を通し,検査機器の一元管理体制はチーム医療の中で臨床検査技師が大きく貢献できる分野の1つと考えられた。

  • 米田 操, 井上 宏之, 金山 和樹, 松田 知世, 柳沢 健太
    原稿種別: 資料
    2017 年 66 巻 6 号 p. 670-675
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    超音波穿刺吸引細胞診(以下EUS-FNA)は,多くの施設で細胞検査士が,内視鏡室で標本作成,迅速染色して,細胞診専門医が,細胞判定する。いわゆる出張細胞診が実施されている。出張細胞診は,利点は多いが病理検査室の負担増にもなっている。本研究では,細胞診専門医の負担軽減するために携帯端末を利用した施設内テレサイトロジーの有用性を検討した。オンサイトで細胞検査士が異型細胞を検索してスマートフォンを接眼レンズにあてて,異型細胞を撮影する。その画像を,細胞診専門医に転送して画像診断する。膵管癌,退形成性膵癌,充実性偽乳頭状腫瘍(以下SPT)の症例は,画像による細胞診断が可能であった。携帯端末を用いた簡易型テレサイトロジーシステムは,EUS-FNAにおけるオンサイトの細胞診断に有用であると考えられる。

  • 浦園 真司, 山本 俊輔, 松浦 辰也, 太田 絢子, 内田 準, 長谷 一憲, 桑岡 勲
    原稿種別: 資料
    2017 年 66 巻 6 号 p. 676-679
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    一般社団法人福岡県臨床衛生検査技師会(以下,福臨技)筑豊地区の新たな取り組みとして,青年部という組織を立ち上げた。この組織の立ち上げに至った経緯や背景,青年部の活動内容と結果,そこから見えてきた今後の課題について報告する。技師会の将来に対する懸念や技師会活動を知っている後継者不足のために,今後の筑豊地区の技師会活動が衰退していくのではないかという不安があった。そこで,20~30代の技師を中心とした青年部を立ち上げ,筑豊地区青年部の活動が始まった。青年部立ち上げの目的としては,若い世代を中心に技師会に人を集めることと他施設との交流を深めることであった。そのために勉強会や親睦会を企画し,結果として,立ち上げ当初の目的は達成できた。技師会活動の今後の継続を勘案し青年部という組織作りが行われたが,この青年部の活動が筑豊地区の技師会を動かす要因の1つとなり,これが筑豊地区の技師会活動の活性化に繋がった。現在は,青年部のメンバーが再編され,新たな課題も見えてきた。今後この活動が筑豊地区から全国へ拡大できるよう邁進し,若い世代が臨床検査技師会を活性化させることができる,という思いを持つその一助となることを願う。

  • 金田 光稔, 神山 清志
    原稿種別: 資料
    2017 年 66 巻 6 号 p. 680-685
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    2005年から2014年までに当検査室に提出された男性は尿,女性は頚管分泌物のクラミジア抗原検査について集計した。クラミジア抗原の検出には,IDEIATMイデイアPCEクラミジア(協和メデックス株式会社)を用いた。2005年から2014年までの検査総数は13,572検体であった。男性の検査数は1,926検体,女性は11,646検体であった。陽性総数は1,089検体であった。男性の陽性率は15.8%(306/1,926),女性の陽性率は6.7%(783/11,646)であった。陽性率は男性,女性ともに30代が最も高かった。陽性総数は減少傾向にあった。

症例報告
  • 小副川 晃一, 山口 健太, 岸川 恭子, 築地 秀典, 堤 陽子, 吉田 緑, 阿部 美智
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 686-690
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    Clostridium perfringensにより後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎の1剖検例を経験した。症例は79歳,男性。急激な腹痛で当院を受診した。腹部CTでは膵頭体部を主体として後腹膜腔におよぶガス像を認め,同部では膵実質が同定できなかった。後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎もしくは十二指腸穿孔による二次性急性膵炎の診断で保存的加療を行った。しかし全身状態は増悪し,発症より3日後に死亡した。病理解剖では膵頭体部にかけて急性壊死性膵炎の状態であった。Vater乳頭肛門側には傍乳頭憩室が存在したが,膵壊死組織とに明らかな連続性は見られなかった。組織では膵臓には広範な出血壊死・脂肪織炎が見られたが,炎症細胞浸潤は軽度であった。壊死巣の中にはグラム陽性桿菌を認めた。また肝臓では軽度の炎症細胞浸潤を伴った肝細胞の凝固壊死巣が拡がっていた。膵壊死部と肝臓の凝固壊死部よりの細菌培養検査にてClostridium perfringensEnterococcus faeciumが検出された。Clostridium perfringensにより後腹膜気腫を併発した重症急性膵炎及び敗血症,循環不全が死因と考えられた。Clostridium perfringensによる膵炎や敗血症は非常に重篤な病態で急激な進行をきたすため,救命のためには早期診断と迅速な治療の開始が重要である。

  • 平岩 理雅, 奥洞 智太, 扇田 裕允, 森 京子, 大関 ゆか, 成田 努, 玉井 浩
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 691-695
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    伝染性単核球症(infectious mononucleosis; IM)はEpstein-Barr virus(EBV)の初感染によって起こる。乳幼児期に初感染した場合は不顕性感染であることが多く,思春期以降に感染した場合にはIMを発症することが多い。EBVはBリンパ球に初感染し,急性期を過ぎても体内から排除されることなく生涯にわたってBリンパ球に潜伏感染する。一方,血漿中では急性期においてはEBVが検出されるが,1か月以内には消失することが知られている。このことより今回,PCR法により血漿からEBVを検出することでIMの早期確定診断に至った一例を経験したので報告する。症例は18歳男性。咽頭痛,発熱を認めたため近医を受診し,扁桃炎と診断され抗生剤を処方された。その後皮疹が出現し,症状も改善しないため当院紹介となった。血液検査上では異型リンパ球の上昇や肝機能異常は認めなかった。診断のためPCR検査を施行したところ,リンパ球,血漿からともにEBV-DNA陽性となり,EBVによるIMと確定した。早期にIMと診断ができたことにより禁忌の抗生剤の使用を避けることができた。IMにおいて典型的な臨床症状や検査所見が乏しい症例においては,血漿を用いたEBVのPCR検査は早期確定診断に有用な検査法であると考えられる。

  • 渡辺 美津江, 風間 由美, 小竹 美佐江, 田村 清子, 松本 幸男
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 696-702
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    両側性に発症した精巣悪性リンパ腫の1例を経験した。症例は72歳,男性。左陰嚢内容の無痛性腫脹を主訴とし来院。画像検査にて両側精巣腫瘍,後腹膜リンパ節転移が疑われ,両側高位精巣摘除術を施行。病理組織診断にてびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。本症例は超音波検査において,右精巣は病巣を示す低エコー域と正常組織の境界は比較的明瞭,白膜の連続性は保たれていた。一方,左精巣は境界不明瞭な低エコー域が斑状に散在,白膜の連続性は途絶し輪郭は不整であった。これらの所見は精巣組織の壊死の程度や腫瘍の白膜及び精巣上体への浸潤を反映したものと思われた。カラードプラ法では両側に悪性リンパ腫の所見とされる豊富な血流信号を認めた。陰嚢内容超音波検査を行う上で,精巣内部の観察と共に精巣の輪郭や白膜の連続性の観察,及びカラードプラ法での血流評価は重要であると思われた。

  • 野上 綾子, 實原 正明, 三村 尚美, 下島 吉雄, 塚平 晃弘, 鈴木 道雄, 今岡 浩一
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 703-708
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    ネコ咬傷により感染したと考えられ,2016年に新菌種として認められたCapnocytophaga canisによる敗血症の1例を経験したので報告する。症例は67歳女性。既往歴として脾臓摘出があった。4日前にネコ咬傷があり,その後,発熱・全身倦怠感の出現と,血液検査結果から敗血症が疑われ入院した。入院時に採取した血液培養2セットは,培養開始から24時間後に嫌気ボトルのみ陽性となり,グラム染色像にて大小不同の両端が尖ったグラム陰性桿菌が認められた。サブカルチャー開始から4日後に発育した菌株を同定(IDテスト・HN-20ラピッド,日水製薬)したところ,Capnocytophaga canimorsus(プロファイル3051121,同定確率99%)と同定された。その後,実施されたシーケンス解析において,C. canimorsus基準株(ATCC35979株)との一致率は16S rRNA遺伝子が96.9%,gyrB遺伝子では75.5%と低値を示した。一方,C. canis基準株(LMG29146株)との一致率は16S rRNA遺伝子が99.8%,gyrB遺伝子では99.5%と高い一致率を示した。これまでの報告ではC. canisはイヌの口腔内から分離される病原性の低い菌種とされているが,本症例はネコ咬傷によりDICを伴う重症敗血症をきたした症例であった。

  • 塚原 祐介, 横山 貴, 大沼 榮子, 磯田 典子, 髙山 紗桜理, 三浦 ひとみ, 石田 英樹, 田邉 一成
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 709-714
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    症例は30歳代,男性。2015年7月に左の精巣腫瘍の腫大を認め,BEP療法(Bleomycin Etoposide Platinol(Cisplatin))を開始した。しかし,BEP療法は効果なく放射線治療を開始した。尿沈渣検査では,放射線療法前から尿細管上皮細胞が排出されていたが,これはBEP療法のシスプラチンの影響であると考えられた。放射線照射後の尿沈渣検査では,巨大な尿細管上皮細胞が排出されていた。照射前では,巨大な尿細管上皮細胞が排出されていなかったことから,放射線の影響が考えられた。放射線により腎症を発症すると,高血圧や溶血性尿毒症症候群を呈することもあり,治療困難で予後不良となる。未然に防ぐためには,巨大な尿細管上皮細胞の排出が持続するようであれば放射線腎症も考慮して鏡検し臨床に報告することが望ましい。

  • 今井 美里, 橋倉 悠輝, 梅木 一美, 山本 成郎, 梅北 佳子, 盛口 淸香, 久冨木 庸子, 岡山 昭彦
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 715-720
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    形質細胞白血病は形質細胞腫の一病型であり,末梢血中に多数の形質細胞が出現する稀な疾患である。形質細胞白血病は進行が早く,予後不良であるため,早期発見・早期の診断が重要である。今回,白血球分類の異常パターンを契機に,血液塗抹標本の鏡検を行い,迅速な形質細胞白血病の診断につながった症例を経験した。症例は75歳男性。急性腎不全,急性心不全が疑われ当院に搬送された。初診時に全自動血液検査装置による白血球分類結果が異常パターンを示したため,末梢血液塗抹標本を作製し鏡検したところ,形質細胞の特徴を示す異常細胞を42%認めた。形質細胞腫瘍が疑われたことから直ちに診療科へ報告したところ,当日中に骨髄穿刺等が施行され,骨髄腫細胞の診断に至った。その後の追加検査においても蛋白分画でMピークを認め,BJ蛋白が認められるなど,形質細胞白血病を示唆する所見があり,化学療法が開始された。日常検査において,全自動血液検査装置による白血球分類の異常パターンを認める場合には,速やかに塗抹標本を鏡検する重要性を改めて認識させられた。

  • 盛合 亮介, 遠藤 明美, 山田 暁, 望月 真希, 近藤 崇, 淺沼 康一, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 721-725
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    症例は30歳代,女性。咽頭痛,発熱のため近医を受診したところ,白血球増多,貧血,血小板減少を認め,急性白血病疑いで当院紹介受診となった。入院時の白血球数は40.7 × 109/Lと増加し,芽球細胞を96.6%認めた。末梢血中のcuplike芽球比率は,11.2%であった。凝固線溶検査では,FDP > 150 μg/mL,D-dimer > 150 μg/mL,SFMC 52.4 μg/mL,TAT 58.9 ‍ng/‍mL,PIC 17.2 μg/mLであり,線溶亢進型DICの所見を呈していた。骨髄血塗抹標本では芽球細胞が大部分(97.8%)を占めていたが,cuplike芽球比率は1.6%とほとんど見られなかった。芽球細胞の細胞表面抗原解析では,CD13,CD33,MPOが陽性,CD34,HLA-DRは陰性であった。さらに,染色体分析では正常核型で,FLT3-ITDが検出された。以上の結果より,AML-cuplikeと診断された。本症例では骨髄血でのcuplike芽球比率が非常に少なく,AML-cuplikeを診断するには骨髄血塗抹標本だけでなく,末梢血塗抹標本観察を行うことが重要であった。また,AML-cuplikeはDIC合併など凝固線溶動態について十分な解析がなされていないため,症例の蓄積が必要と思われる。

  • 阿部 瑛紀子, 奥田 和之, 笠井 香里, 小川 将史, 東 良子, 香田 祐樹, 角坂 芳彦, 蔦 幸治
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 726-730
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    症例は53歳の男性。入院3日前より微熱,右側胸部痛があり近医を受診し様子を見ていた。入院当日の朝より四肢の冷感と関節痛の症状が現れ,近医を再度受診したが,全身チアノーゼと橈骨動脈触知微弱でショック状態と判断され,当院に救急搬送となった。入院時所見は全身チアノーゼが顕著,胸部CTで肺炎像があり尿中肺炎球菌抗原が陽性であった。肺炎球菌性肺炎とそれに合併する急性感染性電撃性紫斑病と診断され治療が開始された。早期の診断と適切な治療により,敗血症,播種性血管内凝固症候群からは救命し得た。しかし,紫斑は徐々に悪化傾向を辿り,四肢末端優位に水疱形成,表皮剥離,乾性壊死へと進行し,数回にわたって壊死組織のデブリードマンが施行されたが,進行する壊死を阻止することができず,最終的に左上肢以外の三肢の切断となった。肺炎球菌性肺炎に合併する電撃性紫斑病は主に脾摘などの免疫障害をもつ患者で多く,その死亡率も高い。今回健常人に発症し,また救命し得た稀な症例を経験した。脾摘などの免疫不全がない場合でも肺炎球菌による重症感染症を発症する可能性があることを念頭におき,臨床側との密接なやりとりが必要であると考えさせられた症例であった。

  • 岩澤 劍, 古川 美里, 斎藤 友子, 鈴木 愛美, 小林 昌子, 林 秀和
    原稿種別: 症例報告
    2017 年 66 巻 6 号 p. 731-737
    発行日: 2017/11/25
    公開日: 2017/11/30
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    頸部膿瘍にてヘマトイジン結晶を認めた1症例を経験した。症例は10歳男児,左耳下腺部腫脹を訴え当院耳鼻咽喉科を受診した。画像検査所見より膿瘍形成を認め,エコー下穿刺を行った。採取した検体をグラム染色及びチールネルゼン染色を施した結果,赤血球,白血球,細菌とともに色調が黄褐色から赤褐色で大部分が菱形,一部は針状の結晶を認めた。結晶の形態的特徴からヘマトイジン結晶を疑った。ベルリン青染色とスタインのヨード法がともに陰性であり95%アルコール,10%酢酸,10%塩酸に不溶,10%水酸化ナトリウムに溶解したため,ヘマトイジン結晶と同定した。ヘマトイジン結晶は閉塞的な環境で出血することで形成され,髄液や尿などで観察されることが知られている。特に,髄液では穿刺時の血液混入と陳旧性の頭蓋内出血を鑑別診断する指標となる。結晶の出現は出血時期の推定に有用な情報となり得るため,積極的に臨床側へ報告することが重要である。

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