医学検査
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第一部
日本臨床検査標準協議会 尿沈渣検査法指針提案の目指すもの
(一社)日本臨床衛生検査技師会 尿沈渣特集号編集部会
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2017 年 66 巻 J-STAGE-1 号 p. 1-8

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Abstract

臨床検査の世界で尿検査の歴史は特に古いが,今日でも腎尿路系疾患および全身疾患のスクリ-ニング検査として重要な位置づけにある。その臨床的意義は5つの尿異常,①膿尿,②細菌尿,③血尿,④蛋白尿,⑤代謝異常尿(結晶尿,糖尿その他)を見逃しなく検出することである。尿沈渣検査は形態学的検査として位置づけられ,尿中の有形成分である上皮細胞類,血球類,円柱類,塩類・結晶類,細菌類についてそれぞれ正確に分類と概数計測することで,尿定性検査所見と組み合わせて尿異常を示す病態の推定情報を提供する目的がある。本邦における尿沈渣検査法は日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards; JCCLS)より2000年に尿沈渣検査法指針提案GP1-P3(尿沈渣検査法2000)が発表され,2010年にGP1-P4(尿沈渣検査法2010)として改訂された。本稿では,GP1-P4に準拠(一部改変)して尿沈渣検査法の概要を解説する。

I  採尿法

1. 尿の種類

尿の種類は採取時間による分類と採取方法による分類がある(Table 1.1)。

Table 1.1  尿の種類
採尿時間による尿の種類 採尿方法による尿の種類
1)早朝尿:起床後の第一尿 1)自然尿:自然に排出された尿
2)随時尿:早朝尿以外の随時採取した尿 (1)全部尿(全尿):自然排尿で全量採取した尿
3)負荷後尿: (2)部分尿:自然排尿の一部を採取した尿
(1)運動負荷後尿 ①初尿:最初に排出された部分尿
(2)前立腺マッサ-ジ尿 など ②中間尿:初尿および後尿を採取せず,排尿途中に採取した尿
4)蓄尿:24時間尿は原則として尿沈渣検査には使用しない 2)カテーテル尿:尿道カテーテルにより採取した尿
3)膀胱穿刺尿:膀胱穿刺により直接採取した尿
4)分杯尿:目的に応じて分割採取した尿
5)その他:回腸導管などの尿路変更術後尿など

2. 採尿時の留意事項

正確な尿沈渣検査の結果を報告するために,以下の点に留意し実施することが望ましい。

1)尿沈渣検査には早朝尿かつ中間尿が適しているため患者への指導が必要である。

2)尿の種類および採尿方法(自然採尿,カテーテル採尿など)を明記する。

3)採尿前に尿道口を清拭することが望ましい。特に女性の場合,外陰部からの成分(赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌など)混入を避けるため,清拭することを含めた採尿指導が必要である。

4)特別に保存が必要な場合は,防腐剤としてホルマリンを尿100 mLに対して1 mLの割合で添加する。また,沈渣の固定を目的とする場合は,グルタルアルデヒド液が望ましい。

5)採尿時間を原則として記載する。

6)尿検体は,遅くとも採尿後4時間以内に速やかに検査する。尿性状の保存時間による影響は検体によって一様でない。赤血球,白血球,上皮細胞および円柱は減少し,細菌と真菌は増加する傾向がある。

7)女性が生理中の場合には,検査は適切でない。やむを得ない場合には,その旨を明記する。

3. 採尿のための器具

1)採尿コップは清潔な紙,ポリスチレン樹脂,プラスチックおよびガラス製などで,コップ内壁に何も塗布されていないものを用いる。

2)尿検体の一部を試験管に採って提出する場合,採取尿全体をよく混和した後に移し替える。必ず蓋をする。

3)採尿バッグ使用例(特に新生児,乳児例)では,バッグを適切に取り付け,尿が漏れ出さないように注意する。

II  尿沈渣標本の作製

尿沈渣標本の作製時は,まず,尿外観の観察と記録が重要である。色調,混濁の有無,血尿,異物混入(便,紙類など)の有無などについて可能な限り記載することが望ましい。

1. 尿検体の攪拌

検体は必ず均等になるよう十分に混和する。

2. 遠心沈殿法

1)遠心管:10 mLおよび0.2 mLに正確な目盛りの付いた先端の尖ったスピッツ型遠心管を用いる。材質は透明なポリアクリルスチレン製などが望ましい。

2)尿量:10 mLを原則とする。尿量が少ない場合でもできる限り検査を実施し,その旨を記載する。

3)遠心機:懸垂型遠心機(スウィング型)を用い,傘型(アングル型)を使用しない。

4)遠心条件:遠心管は左右のバランスをよくとって遠心機に掛ける。遠心機が自然に完全に止まってから遠心管を取り出す。

(1)遠心力は500 gとする。ただし,遠心機の大きさ(半径)によって回転数が同じでも遠心力が異なるため,各遠心機の回転数を以下の式により算出する。

  g = 11.18 × (rpm/1,000)2 × R

  rpm:1分間の回転数

  R:半径,中心から遠心管管底までの距離(cm)

(2)遠心時間は5分間とする。

5)沈渣量:アスピレータ,ピペットまたはデカンテーションによって沈渣量を0.2 mLとし,上清を除去する。沈渣量が0.2 mLを超える場合は,重要な有形成分が希釈されるので,0.2 mLにすることを原則とする。

3. 標本の準備

1)スライドガラスへの積載量:スライドガラスは75 × 26 mmを用いる。沈渣はピペットなどを用いて均等になるように有形成分が破壊されない程度で十分混和し,15 μL採量する。

2)カバーガラスの載せ方:カバーガラスは18 × 18 mmを用いる。沈渣が均等に分布し,カバーガラスからはみ出さないように真上から載せる。

III  尿沈渣標本の鏡検

顕微鏡は接眼レンズの視野数が20[×400(対物レンズ40×)視野面積が0.196 mm2]のものを使用することが望ましい。異なる条件のレンズを使用する場合は,補正に関する情報をメーカーから入手するなどして補正を行う。

1. 鏡検の順序

弱拡大で全視野(whole field; WF)を観察後,強拡大にする。

1) 弱拡大[low power field; LPF,×100(対物レンズ10×)]による鏡検

(1)標本内の有形成分が均等に分布していることを確認する。

(2)均等に分布していない場合は,標本を再作製するか,やむを得ない場合は,全視野について平均値が出るよう鏡検する。

(3)カバーガラス辺縁部には沈渣成分が集まりやすいため注意する。

(4)弱拡大では開口絞りを絞り,硝子円柱や細胞集塊などを見落とさないよう注意する。

2) 強拡大[high power field; HPF,×400(対物レンズ40×)]による鏡検

20~30視野を鏡検することが望ましいが,最低10視野を観察する。

2. 標本の観察

1) 無染色での鏡検

無染色での鏡検が原則である。

2) 染色後の鏡検

尿沈渣成分の確認および同定に際し,必要な場合は,染色法を用いる。ただし,染色液によっては溶血作用の強いものもあり,使用にあたって注意する。

3) 注意事項

(1)沈渣に尿酸塩,リン酸塩,炭酸塩などの析出が多いときは成分の鏡検が著しく妨げられるので,尿酸塩ならば尿を加温し(50℃くらいで撹拌しながら),リン酸塩,炭酸塩ならば酢酸を加え,溶解した後に再度遠心して尿沈渣を作製するとよい。

(2)細胞や円柱のような形の大きなものは,カバーガラスの周辺部に集まりやすいので注意して観察する。

(3)尿蛋白検査,尿潜血反応および尿白血球検査などの定性・半定量法所見と尿沈渣の出現とは必ずしも並行するものではない。多項目試験紙法で陰性のときでも尿沈渣を検査することは腎・尿路系疾患はもとより,全身性疾患の鑑別上にも有用な場合がある。

IV  尿沈渣成分の分類

JCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4(2010)に従い尿中有形成分はTable 1.2に示す成分に分類する。

Table 1.2  尿沈渣成分の分類
1 非上皮細胞類
1)血球類
① 赤血球(非糸球体型赤血球,糸球体型赤血球)*1
② 白血球(好中球,好酸球,リンパ球,単球)*2
2)大食細胞
3)その他(子宮内膜間質細胞*3,中皮細胞*4など)
2 上皮細胞類
1)基本的上皮細胞類
① 尿細管上皮細胞
② 尿路上皮細胞
③ 円柱上皮細胞[尿路円柱上皮細胞,前立腺上皮細胞,精嚢(のう)上皮細胞,子宮頸部上皮細胞,子宮内膜上皮細胞,腸上皮細胞など]
④ 扁平上皮細胞
2)変性細胞類・ウイルス感染細胞類
① 卵円形脂肪体*5
② 細胞質内封入体細胞
③ 核内封入体細胞
④ その他のウイルス感染細胞(ヒトポリオーマウイルス感染疑い細胞,ヒトパピローマウイルス感染疑い細胞など)
⑤ 分類不能細胞
3 異型細胞類*6
① 上皮性悪性細胞類
② 非上皮性悪性細胞類
4 円柱類*7
① 硝子円柱
② 上皮円柱
③ 顆粒円柱
④ ろう様円柱
⑤ 脂肪円柱
⑥ 赤血球円柱
⑦ 白血球円柱
⑧ 空胞変性円柱
⑨ 塩類・結晶円柱
⑩ 大食細胞円柱
⑪ その他(フィブリン円柱,ヘモグロビン円柱,ミオグロビン円柱など)
5 微生物類・寄生虫類
① 微生物類(細菌,真菌)
② 寄生虫類[原虫,蠕虫(ぜんちゅう)]
6 塩類・結晶類
① 塩類(無晶性リン酸塩,リン酸塩,無晶性尿酸塩,尿酸塩など)
② 通常結晶類(シュウ酸カルシウム結晶,リン酸カルシウム結晶,尿酸結晶など)
③ 異常結晶類(ビリルビン結晶,シスチン結晶,コレステロール結晶,2,8-ジヒドロキシアデニン結晶など)
④ 薬物結晶類(スルファメトキサゾール,スルファメトキサゾール・トリメトプリムなど)
7 その他
① ヘモジデリン顆粒
② 混入物(服用薬剤・造影剤,パウダー,糞便,繊維類,花粉など)

*1 尿中赤血球は非糸球体型赤血球と糸球体型赤血球に大別され,その分類は尿中赤血球形態の判定基準(2010)に従う。

*2 尿中にみられる白血球の大部分は好中球であるが,病態により好酸球,リンパ球,単球などが増加するため,報告することは意義がある。

*3 生理時に子宮内膜上皮細胞とともにしばしば混入してみられる。

*4 腹膜・膀胱屢(ろう)などの場合にみられることがある。

*5 ネフローゼ症候群などの腎疾患に伴って出現する脂肪顆粒を含有する細胞で,尿細管上皮細胞由来と大食細胞由来がある。両者を区別せずに卵円形脂肪体とする。一方,膀胱炎や前立腺炎などにみられる大食細胞由来の脂肪顆粒を含有する細胞は,大食細胞とし,卵円形脂肪体として分類しない。脂肪顆粒を含有する細胞は同定が可能ならば由来する細胞に分類し,分類困難な場合は分類不能細胞に分類する。

*6 異型細胞(atypical cell)という用語は臨床細胞学的見地においては,現在,悪性細胞と良性細胞の両者を包含しているが,前者としての意味合いが強い。したがって,日常尿沈渣鏡検においては,悪性ないし悪性を疑う細胞のみを異型細胞として報告し,その場合,さらに細胞情報に関するコメントを付記する必要がある。また,判定に当たっては,認定一般検査技師などの尿沈渣検査の熟練者,細胞診・病理検査担当者,担当医などとの協議を原則とする。判定困難な細胞については分類不能細胞として報告し,形態情報を付記する。

*7 フィブリン円柱,ヘモグロビン円柱,ヘモジデリン円柱,ミオグロビン円柱,Bence Jones蛋白円柱,アミロイド円柱,血小板円柱などは,特殊染色や他の臨床検査所見,臨床情報などを考慮し判別可能なものについては記載する。

 なお,円柱の判別については下記の基準に従う。

 1)硝子円柱の基質内に赤血球,白血球,上皮細胞,および脂肪顆粒が3個以上入っている場合は,それぞれ赤血球円柱,白血球円柱,上皮円柱および脂肪円柱とし,それ未満の場合には,硝子円柱とする。たとえば,硝子円柱内に赤血球が2個含まれるものは硝子円柱となる。封入物が白血球,尿細管上皮細胞および脂肪顆粒も同様である。

 2)円柱の基質内に顆粒成分が1/3以上入っている場合には顆粒円柱とし,それ未満の場合には硝子円柱とする。

 3)複数成分が同一基質内にそれぞれ3個以上混在する場合は,それぞれの円柱として報告する。

  ①顆粒円柱内に複数の細胞成分や脂肪顆粒などの成分が3個以上含まれている場合は,顆粒円柱とそれぞれの円柱として報告する。

  ②ろう様円柱内に細胞成分が3個以上含まれている場合は,ろう様円柱と細胞円柱の両者を報告する。

  ③顆粒円柱からろう様円柱への移行型および混合型の場合には,顆粒円柱とろう様円柱の両者を報告する。

 4)先端が細くなっている円柱様物質,いわゆる類円柱(cylindroid)と呼ばれていた成分については硝子円柱に含める。

 5)円柱の幅が約60 μm以上の場合,円柱の種類と同時に幅広円柱(broad cast)として報告する。なお,大きさの推定には,同一沈渣中に存在する他の成分(赤血球,白血球など)と比較するとよい。

V  尿沈渣成績の記載

「尿沈渣成績の記載」として以下に示すものは参考例である。被検対象等(患者集団,集団健診,診療科)の違いにより記載法および異常とする個数は異なるので,担当医と協議のもとで決める必要がある。

1. 非上皮細胞類・上皮細胞類の記載法

強拡大(40×,HPF)での鏡検結果を記載する。

 1個未満/HPF    20~29個/HPF

 1~4個/HPF    30~49個/HPF

 5~9個/HPF    50~99個/HPF

 10~19個/HPF   100個以上/HPF

(注)50~99個/HPF,100個以上/HPFは50個以上/HPFとすることができる。

2. 円柱類の記載法

弱拡大(10×,LPF)での鏡検結果をTable 1.3の基準によ‍り全視野(whole field; WF)または各視野(LPF)の概数に基づき記載,または定性表示で記載する。

Table 1.3  円柱類の記載法
0/WF 0/100 LPF 0/100 LPF
1+ 1~4個/WF 1~4個/100 LPF 1個/WF~1個未満/10 LPF
5~9個/WF 5~9個/100 LPF
2+ 10~19個/WF 10~19個/100 LPF 1~2個/10 LPF
20~29個/WF 20~29個/100 LPF
3+ 30~49個/WF 30~49個/100 LPF 3~9個/10 LPF
50~99個/WF 50~99個/100 LPF
4+ 100~999個/WF 100~999個/100 LPF 1~9個/LPF
5+ 1,000個以上/WF 1,000個以上/100 LPF 10個以上/LPF

3. 微生物類の記載法

強拡大(40×,HPF)での鏡検結果をTable 1.4の基準により定性表示で記載する。

Table 1.4  微生物類の記載法
​0から数視野に散在
1+ ​各視野にみられる
2+ ​多数あるいは集塊状に散在
3+ ​無数

4. 寄生虫類の記載法

強拡大(40×,HPF)での鏡検結果をTable 1.5の基準により定性表示で記載する。

Table 1.5  寄生虫類の記載法
​0
1+ ​1個/WF~4個/HPF
2+ ​5~9個/HPF
3+ ​10個以上/HPF

5. 塩類・結晶類の記載法

強拡大(40×,HPF)での鏡検結果をTable 1.6の基準により定性表示で記載する。なお,異常結晶は全視野に1個でもあれば記載する。

Table 1.6  塩類・結晶類の記載法
結晶 塩類
0 0
1+ 1~4個/HPF 少量
2+ 5~9個/HPF 中等量
3+ 10個以上/HPF 多量

VI  自動分析装置による検査

フローサイトメトリー法などの自動分析装置の使用に際して,尿中有形成分(urine formed element)情報として装置の特性を理解して使用することが望ましい。無遠心尿による検査は,迅速性につながり,世界的傾向にある定量的表示(個数/μL)に対応している。今後,スクリーニング検査としての位置付けが確立されつつある。

 付記 尿中赤血球形態の判定基準について

日本臨床検査標準協議会により発表された尿中赤血球形態の判定基準(2010)の概要を付記する。

​[引用:血尿診断ガイドライン2013 ライフサイエンス出版]。

日本臨床検査標準協議会JCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4(2010)

赤血球形態情報は,血尿の由来を考えるためのひとつの情報である。本指針では,赤血球形態の用語と判定基準を示す。報告にあたっては個々の形態だけではなく尿沈渣全体のパターンを把握することが大切であり,すべての血尿について分類できるとは限らないことを認識する必要がある。また,赤血球形態情報は臨床側との協議に応じて記載する。

尿中赤血球形態の表現

尿中赤血球形態の表現は,非糸球体型赤血球(均一赤血球)と糸球体型赤血球(変形赤血球)とする。

尿中赤血球の分類

尿中赤血球の形態の特徴を明確に把握するために,非糸球体型赤血球を4分類,糸球体型赤血球を3分類に大別する。しかし,日常検査では非糸球体型赤血球,糸球体型赤血球の各小分類に分ける必要はない。

●非糸球体型赤血球

円盤状赤血球

典型・円盤状赤血球

膨化・円盤状赤血球

膨化・円盤状赤血球のなかには辺縁が厚くドーナツ状を示すものも認められる。しかし,糸球体型赤血球のドーナツ状不均一赤血球と異なり,ドーナツ状の辺縁は均一である。

萎縮・円盤状赤血球

ここでいう萎縮とは,小型になった形状の意味ではない。したがって,低浸透圧下で円盤状に大きく広がった赤血球が,その後,高浸透圧下で萎縮することにより辺縁がギザギザした形状である。

従来,金平糖状といわれている辺縁がギザギザした赤血球の形態も萎縮とする。

球状赤血球

球状赤血球

萎縮・球状赤血球

コブ・球状赤血球

コブ・球状赤血球が検出された場合は,背景にコブ部分の分離した赤血球の断片が同時に出現していることが一般的である。これら赤血球の断片は赤血球としてカウントしない。

円盤・球状移行型赤血球

膜部顆粒成分凝集状脱ヘモグロビン赤血球

前立腺生検実施後の尿や多発性嚢(のう)胞腎の尿では,前立腺液や嚢胞液の影響を受けて通常の脱ヘモグロビン状の赤血球形態とは異なり,脱ヘモグロビン状した赤血球の膜部に凝集状の顆粒成分が認められる。

●糸球体型赤血球

ドーナツ状不均一赤血球

ドーナツ状不均一赤血球

標的・ドーナツ状不均一赤血球

コブ・ドーナツ状不均一赤血球

コブ・ドーナツ状不均一赤血球が検出された場合は,コブ・球状赤血球と同様,背景にコブ部分の分離した赤血球の断片が同時に出現していることがある。これら赤血球の断片は赤血球としてカウントしない。

有棘状不均一赤血球

ドーナツ・有棘状不均一混合型赤血球

注意事項

①分類に用いている膨化や萎縮の用語は大きさを表しているのでなく,最終的な赤血球の状態を意味するものであり,膨化は広がった状態,萎縮はしぼんだ状態である。

②糸球体型赤血球が小球状を示す要因は,糸球体・尿細管通過の際に生じる赤血球の断片化が第一に考えられる。

尿中赤血球形態の判定基準

光学顕微鏡による無染色観察を前提として,赤血球の形態から判断する。糸球体型赤血球に判定する場合は,×400(対物レンズ40×)1視野に認められる赤血球の中で,糸球体型赤血球と判定できる赤血球が5~9個以上認められた場合から判定する。

判定にあたっては,「糸球体型赤血球・大部分」,「糸球体型赤血球・中等度混在」,「糸球体型赤血球・少数混在」の3段階に分類する。分類基準は,全体の赤血球数に対する糸球体型赤血球数のランクにより分類する。

Table 1.7  糸球体型赤血球形態の3段階分類基準表
全体の赤血球数
5~9/HPF 10~19/HPF 20~29/HPF 30~49/HPF 50~99/HPF 100~/HPF
糸球体型赤血球数 5~9個/HPF 大部分 中等度 中等度 少数 少数 少数
10~19個/HPF 大部分 中等度 中等度 少数 少数
20~29個/HPF 大部分 中等度 中等度 少数
30~49個/HPF 大部分 中等度 中等度
50~99個/HPF 大部分 中等度
100個以上/HPF 大部分

HPF:High Power Field[×400(対物レンズ40×)1視野]

《注意事項》

①糸球体型赤血球の出現パターンには,多彩性がなく大部分が直径2~4 μmと小球状を呈することがある。このような場合は小さくてもこれらを赤血球としてカウントする。

②これらは小さくても詳細に観察すると糸球体型赤血球の特徴が一部にみられる。少数ながらコブ・ドーナツ状不均一赤血球も確認することができる。

③各施設において赤血球形態の判定基準の運用は,臨床医との協議のもと進める。

出典:日本臨床検査標準協議会(JCCLS)尿沈渣検査標準化委員会:「尿沈渣検査法GP1-P4」,尿沈渣検査法2010,7–9,(社)日本臨床衛生検査技師会,東京,2011.

文献
  • 1)  日本臨床衛生検査技師会:尿沈渣検査法2010,東京,2011.
  • 2)  血尿診断ガイドライン編集委員会:血尿診断ガイドライン2013,ライフサイエンス出版,東京,2013.
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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