医学検査
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第二部
尿沈渣検査
(一社)日本臨床衛生検査技師会 尿沈渣特集号編集部会
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2017 年 66 巻 J-STAGE-1 号 p. 18-50

詳細
Abstract

尿沈渣検査は,非侵襲的に繰り返して実施できる形態学的検査として重要である。そのため,尿中の成分である上皮細胞類,非上皮細胞類(血球類),円柱類,塩類・結晶類,微生物類についてそれぞれ正確に分類と計測をすることが必要である。尿沈渣検査の臨床的意義は,第一に腎・尿路系に病変があるかどうかのスクリーニング,第二にすでに確認された腎・尿路系の病変に対する治療効果や薬剤の副作用の判定についての情報収集の両者である。病態の推定は尿沈渣検査の結果のみではなく尿蛋白,尿潜血反応に代表される尿定性検査や生化学的な検査(血液化学検査)などの結果から総合的に判断される。しかし,画像診断や免疫学的検査の進歩によって腎・尿路系の病変の把握が可能になり,尿検査はスクリーニング検査としての価値が一層高まってきている。このような流れの中で,効率的に尿スクリーニング検査を行い,尿から病態を考え,患者・健診受診者に有用な情報を観察し,かつ提供するという検査の目的を明確にして検査にあたりたい。本稿では尿沈渣検査の技術的手法のみならずその役割について解説する。

I  求められる尿沈渣検査とは

尿沈渣検査は,尿路感染症をはじめ糖尿病性腎症,ネフローゼ症候群などの腎泌尿器系疾患における診断や治療効果の判定などに重要な役割を果たしてきた。しかし,より臨床的に有効に尿沈渣検査が活用されるためには,成分のみを鑑別し算定報告するだけでなく,付加価値情報を臨床側に提示することが求められている。この付加価値情報とは,病因に関係する情報のことである。医療費の抑制策や高齢化の波により,腎生検や膀胱鏡検査などの患者負担が大きい検査は実施不可能な場合も増加し,苦痛を与えない尿沈渣検査は必要不可欠な検査となっている。

しかし,日常検査としての尿沈渣検査における形態学的な評価は,超音波検査,MRI検査などの画像診断や種々の免疫学的な尿バイオマーカーなどの登場により,異型細胞などの一部の成分を除き,腎・尿路系病態の診断補助指標と位置づけられるようになった。そのためこれからは単なる形態学的な成分解析ではなく,その成分が落下し尿中に出現するに至った要因を成分から読み取ることが,非侵襲的で頻繁に検査を行うことが可能という尿の特性を活かした尿沈渣検査の新たな展開であると考える。

II  基本的な注意事項

尿沈渣検査は,採尿方法および尿沈渣標本の作製により結果が左右される。このため日常業務の中で適切な対応が必要とされる事柄や比較的多く遭遇する事例などについて示す。

1. 尿の種類に関して

尿の種類は採尿時間(早朝尿,随時尿など)や採尿方法(自然尿,カテーテル尿など)により分けられている(p.1 Table 1.1参照)。検査を実施する上で,尿の種類を把握することは重要であり,採尿方法および採尿時間を明記するよう働きかける必要がある。

2. 採尿方法に関して

採尿は多くの場合,被検者に委ねられている。適切な尿検体を得るためには,被検者に尿沈渣検査の必要性の理解と適切な採尿方法の指導が必要である。特に女性の場合,解剖学的見地から外陰部からの成分(赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌など)混入を避けるため,清拭などの採尿指導が必須である。

しかし,採尿指導を充実しても,他の成分の混入が避けられないことがある。このような場合は,コメントを付記し報告することが望ましい。

外陰部からの成分混入が示唆される場合のコメント例

 • 尿中にコンタミネーションを認めます。

 • 尿中に外陰部からの成分の混入が疑われます。

 • 尿沈渣に外陰部からの成分(赤血球,白血球,扁平上皮細胞,細菌など)の混入が示唆されます。

*コメントの報告とともに担当医と尿検体の再提出の必要性についても協議する必要がある。

3. 尿沈渣標本の作製に関して

高度の血尿や膿尿などの場合,遠心後,明らかに有形成分(沈渣量)が0.2 mLを超えることがある。このような場合には,その旨をコメントとして付記し報告することが望ましい。

沈渣量が0.2 mLを超える場合のコメント例

 • 高度の血尿のため,有形成分(沈渣量)が0.2 mLを超えています。

 • 高度の膿尿のため,有形成分(沈渣量)が0.2 mLを超えています。

 • 尿沈渣成分が多量にみとめられます。

*このような検体では遠心後,適切な手技で上清を除去し有形成分(沈渣成分)を可能な限り均等に混和して鏡検し報告することが必要な場合もある。

4. 尿沈渣検査における記載について

JCCLSの尿沈渣検査法においては赤血球および白‍血球の記載の単位は視野あたり(/HPFあるいは/LPF)を用いているが,欧米先進国のガイドライン[米国臨床検査標準委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards; NCCLS)1),The European Confederation of Laboratory Medicine(ECLM)2)など]では/μLによる記載を推奨している。また,尿路感染症(urinary tract infections; UTI)薬効評価基準においても計算盤法,無遠心尿法による/μL表示によることと規定している。これらのことからJCCLS検査法による標本作製・鏡検における1視野が何μLに相当するのかを知っておくことが大切である。しかし,尿沈渣標本作製の遠心過程における尿上清に残留する成分や,管壁に吸着される成分への対応が課題となっている。理論的には以下のように考えられる。

視野面積

 =π×(接眼レンズの視野数/対物レンズの倍率×1/2)2

1視野あたりの無遠心尿換算値(μL)

 =視野面積×尿濃縮倍率×沈渣積載量/カバーガラスの面積

視野数20において弱拡大[low power field; LPF(対物レンズ10×)]1視野面積3.14 mm2,強拡大[high power field; HPF(対物レンズ40×)]1視野面積0.196 mm2であるから1視野あたりの無遠心尿換算値(μL)は

  LPF 7.27 μL,HPF 0.45 μL

なおUTI研究会による計算盤法・無遠心尿法による/μL表示は以下の通りである。

  0~9/μL

  10~29/μL

  30~99/μL

  100/μL以上

III  尿沈渣染色法

尿沈渣検査の鏡検は原則として無染色標本にて実施する。染色操作を行うことにより溶血し尿中赤血球の数や形態の観察に不具合が生じる場合がある。また,各沈渣成分の色調的特徴が失われるため無染色標本による観察が重要である。

しかし,尿沈渣成分の確認や同定,また類似成分との鑑別が必要な場合は,用途に適した各種染色法を用いることが有用である。

基本的な染色液としてSternheimer染色(S染色),Sternheimer-Malbin染色(SM染色)がある。この染色法を用いる場合は,染色液による希釈誤差を考慮し,尿沈渣と染色液の比率が4:1程度で使用することが望ましい。

1. Sternheimer染色(S染色)(Figure 2.1
Figure 2.1 

Sternheimer染色

【試薬】

I液  2%アルシアンブルー8GS水溶液

II液 1.5%ピロニンB水溶液

I液とII液を濾過後2:1の割合で混合する。混合液の染色性は冷暗所保存3ヶ月程度はほとんど変わらない。

【染色手技】

鏡検時に沈渣に1滴滴下し,混合する。

【染色態度】

赤血球:無染または桃~赤紫色調

白血球:核は青色調,細胞質は桃~赤紫色調

上皮細胞:核は青色調,細胞質は桃~赤紫色調(ただし,粘液を有する円柱上皮細胞や腺がん細胞等は細胞質が青紫色または濃赤紫色調に染め出される)

大食細胞:核は青色調,細胞質は青紫~濃赤紫色調

円柱:硝子円柱は淡青~青色調,顆粒円柱およびろう様円柱は赤紫色調

 

2. Sternheimer-Malbin染色(SM染色)

【試薬】

I液  クリスタルバイオレット 3.0 g

 95%エタノール     20.0 mL

シュウ酸アンモニウム  0.8 g

精製水         80.0 mL

II液 サフラニンO      0.25 g

95%エタノール     10.0 mL

精製水           100.0 mL

I液とII液を3:97の割合で混合する。この混合液を濾過して使用する。3ヶ月ごとに混合液を新調する。

【染色手技】

鏡検時に沈渣に1滴滴下し,混合する。

【染色態度】

赤血球:無染または淡紫紅色

白血球:①濃染細胞(dark cell)の核は濃紫色,細胞質は紫色

    ②淡染細胞(pale cell)の核と細胞質が共に無染~淡青色

上皮細胞:核は紫色~濃紫色,細胞質は桃~紫色

円柱:硝子円柱は淡紅色,顆粒円柱は顆粒が淡紫色~濃紫色,細胞成分を含む円柱はそれぞれ固有の染色性を示す。

3. Sudan III染色(Figure 2.2
Figure 2.2 

Sudan III染色

【試薬】

Sudan III 1.0~2.0 gを70%エタノール100 mLに振とう溶解し,密栓して56~60℃の孵卵器に12時間放置した後,室温に戻し保存する。

【染色手技】

沈渣に濾過した本液を2~3滴加え室温(15‍~30℃)に15~60分放置後,鏡検する。

なお,Sudan IV染色法も有用である。

【染色態度】

脂肪球,脂肪円柱,卵円形脂肪体:黄赤色

4. Prescott-Brodie染色(PB染色)(Figure 2.3
Figure 2.3 

Prescott-Brodie染色

【試薬】

I液  2,7-ジアミノフルオレン   300 mg

フロキシンB      130 mg

95%エタノール      70 mL

II液 酢酸ナトリウム・3H2O   11 g

0.5%酢酸        20 mL

III液  3%過酸化水素水      1 mL

I,II,III液を混和後,濾過して使用する。

【染色手技】

鏡検時,沈渣に染色液を5~10滴加え,よく混和する。

 

【染色態度】

好中球,好酸球,単球などのペルオキシダーゼを有する細胞:紫色~黒色

リンパ球,他の細胞:赤色

5. Berlin blue染色(Figure 2.4
Figure 2.4 

Berlin blue染色

【試薬】

I液  2%フェロシアン化カリウム水溶液

フェロシアン化カリウム  2.0 g

精製水          100 mL

II液 1%塩酸水

濃塩酸          1.0 mL

精製水          100 mL

I液,II液を冷暗所に保存しておき,使用直前に両液を等量混合し,淡黄色透明のものを用いる。

【染色手技】

沈渣0.2 mLに染色液10 mL加え,混和して放置(10~20分)後に遠心し,上清除去後,沈渣成分を鏡検する。

【染色態度】

ヘモジデリン顆粒:青色調~青藍色調

6. Hansel染色(Figure 2.5
Figure 2.5 

Hansel染色

【試薬】

Hansel染色液 メチレン青 0.6 g

       エオジンY 0.2 g

       メタノール 60 mL

リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline; PBS)加エタノール

  PBSに10%になるように,エタノールを添加

【染色手技】

沈渣0.2 mLに染色液を2滴滴下し,混和後,5分間放置する。PBS加エタノール10 mLを加え,混和・遠心後,上清を除去し沈渣成分を鏡検する。

【染色態度】

好酸球 顆粒成分:赤色調

7. Lugol’s染色(Figure 2.6
Figure 2.6 

Lugol’s染色

【試薬】

Lugol’s液

  ヨウ化カリウム2 gを精製水約10 mLに溶解後,ヨード1 gを加えて溶解させ,さらに精製水を加えて300 mLにする。(試薬は新鮮であることが望ましい)

【染色手技】

沈渣と染色液を1:1で混和し鏡検する。

【染色態度】

上皮細胞:グリコーゲンを含有する細胞は細胞質の一部または全体が茶褐色に染色

IV  標本作製手順と鏡検法

尿沈渣検査における尿沈渣の標本作製法と顕微鏡の調整法について,各項目を動画で解説する。尿沈渣検査において,最も基本的な操作であるが,結果に大きく影響することもあり,とても重要な操作法として位置づけられている。この動画をよく観察し,技術を習得することを目的とする。

1. 顕微鏡調整法

1) 眼幅・視度調整

2) コンデンサ調整①

3) コンデンサ調整②

4) 開口数調整

2. 尿沈渣標本の作製手順

1) 尿の攪拌・分注手技

2) 遠心機の選択

3) 上清除去

4) 標本作製①

5) 標本作製②

V  尿沈渣成分の見方

1. 非上皮細胞類

1) 血球類

① 赤血球

赤血球(red blood cell; RBC)は腎・尿路系の出血性病変を示唆する重要な有形成分である。通常,大きさは6~8 μmで淡黄色の中央がくぼんだ円盤状を呈する。浸透圧やpHなど尿の性状および出血部位によって種々の形態を示し,高浸透圧尿や低pH尿では萎縮状を,低浸透圧尿や高pH尿では膨化状や脱ヘモグロビン状,無色のゴースト状を呈する。一般に尿の性状によって起こる形態変化は,同一標本においては単調な場合が多い。健常人では男女とも強拡大(40×, HPF)1視野に4個以下である。

*尿中赤血球形態

出血部位の違いによる尿中赤血球形態の差異は重要である。下部尿路出血など(非糸球体性血尿)では,赤血球は浸透圧などの尿の性状による変化により円盤状(従来の金平糖状も含む),球状,膨化,萎縮などの形態を示し,一標本の中では形態がほぼ均一で単調である。赤血球の大きさは大小不同を呈する場合もあるが,その程度は弱く,ヘモグロビン色素に富む。一方,糸球体性腎炎などによる糸球体性血尿の赤血球は,不均一で多彩な形態を呈し,大きさは大小不同で脱ヘモグロビン色素の状態を示し,赤血球円柱をはじめ種々の円柱や蛋白尿を伴う場合が多い(Figure 2.7, 2.8)。

Figure 2.7 

各種非糸球体型赤血球の模式図(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 58図4-17を一部改変)

Figure 2.8 

各種糸球体型赤血球の模式図(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 58図4-16を一部改変)

赤血球形態の報告方法としては,非糸球体性の血尿と考えられる場合を非糸球体型赤血球(isomorphic RBC),糸球体性の血尿を推定する場合を糸球体型赤血球(dysomorphic RBC)とコメントする。報告にあたっては個々の形態だけでなく沈渣全体のパターンを把握することが大切であり,すべての血尿について分類できるとは限らないことをも認識する必要がある(Figure 2.9, 2.10, 2.11)。

Figure 2.9 

非糸球体型赤血球 40× 無染色

Figure 2.10 

糸球体型赤血球 40× 無染色

Figure 2.11 

赤血球と間違いやすい成分 40× 無染色

S染色による赤血球の染色性は一定しておらず,赤く染まるものからほとんど染まらないものまである。

② 白血球

白血球(white blood cell; WBC)は腎・尿路系感染症など炎症性病変の存在を示唆する重要な有形成分である。通常,大きさは通常10~15 μmで球形をしていることが多いが,細胞の生死の状態(生細胞,死細胞)や尿の浸透圧,pHなどの性状によって種々の形態を示す。一般的に浸透圧の高い場合は萎縮傾向,低い場合は膨化傾向となる。

尿中に認められる白血球の大部分(約95%)は好中球であるが,各種疾患や病態により,リンパ球,好酸球,単球が多く出現することがある。これら白血球分画は臨床的意義が高いため,判別できるものについてはコメントとして付記し報告することが望ましい。健常人では強拡大(40×, HPF)1視野に4個以下である。

a. 好中球

好中球(neutrophil)は白血球のなかで最も活発な遊走能,貪食能を有する。膀胱炎,腎盂腎炎,尿道炎,前立腺炎などの尿路感染症で多数認める。生細胞と死細胞では形状が異なる。生細胞は球状から棒状,短冊状,アメーバ状など種々の形態変化像を示す。細胞容積,密度はほぼ一定であり,伸展拡張した細胞は非常に薄く不明瞭となる。また,生細胞では沈渣に3%酢酸水溶液を滴下すると白血球の核が明瞭となり,小型の上皮細胞などと鑑別しやすくなる。死細胞は尿の浸透圧やpHなどの影響を受け,膨化状や萎縮状を呈しやすい。

S染色法の染色性は生細胞では不良で,とくに染色直後はほとんど不染である。またS染色により濃染細胞,淡染細胞および輝細胞(グリッター細胞)に分けることができる。輝細胞は腎盂腎炎に高率に認めるとされるが疾患特異性は低い。萎縮状の死細胞の染色性は良好であり,膨化状は不良であることが多い。PB染色では,青~黒青色を呈する。

b. リンパ球

リンパ球(lymphocyte)は好中球より小さく顆粒成分が少ない。乳び尿,腎結核,腎移植後の拒絶反応や慢性疾患で増加する。PB染色では陰性である。

c. 好酸球

好酸球(eosinophil)は好中球とほとんど同じ大きさで,細胞質に好酸性顆粒を有する。間質性腎炎,アレルギー性膀胱炎,尿路結石症,寄生虫症などで増加する。Hansel染色に陽性である。

d. 単球

単球(monocyte)は好中球より大きく,細胞質は不明瞭で種々な形態変化を示す。慢性尿路感染症,前立腺疾患,糸球体性疾患,抗がん剤治療などで増加する。(Figure 2.12, 2.13, 2.14, 2.15

Figure 2.12 

白血球(好中球とリンパ球)

Figure 2.13 

白血球(好中球,好酸球および単球)

Figure 2.14 

白血球と間違いやすい成分

Figure 2.15 

白血球と各種染色法(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 59図4-18を一部改変)

2) 大食細胞

大食細胞(macrophage)は,腎・尿路系に生じた炎症や感染性疾患,組織崩壊亢進などの病的状態に伴って出現する貪食能を有する細胞である。

大食細胞の形態的特徴は,大きさ20~100 μm,細胞質の辺縁構造はギザギザまたはケバケバしていることが多く,不明瞭なことが多い。形は円形状の不定形を示す。細胞質の表面構造は淡く綿菓子状または均質状で細胞の透過性が高く,無染色でも核の観察が一般的に容易である。白血球と同様に浸透圧の影響を受けやすく,低張尿では膨化状を示し,脂肪顆粒などの顆粒成分が粗に浮いているようにみえる。この場合,細胞質の辺縁構造は丸みを帯び,円形,類円形を示す。細胞質内には白血球・赤血球などの細胞の死骸や破片,結晶,脂肪顆粒などが貪食されていることがある。無染色での色調は灰白色を呈する。S染色の染色性は良好で,核は青紫色に,細胞質は赤紫色または青紫色に染め出されることが多い。核形は,腎形やくびれ状などを示すものも認められる。集塊状として出現した場合には円柱上皮系細胞や腺がん細胞との鑑別を要することもあるが,上皮様の結合性は認められない。また,核の増大や核形不整を示すものも認められるが,N/C比は小さく核小体の肥大やクロマチンの増量を伴わないことから鑑別される。

尿沈渣検査における大食細胞と単球との分類は,大きさ20 μmを便宜上の基準とし,20 μm以上を大食細胞,20 μm未満を単球とする。(Figure 2.16

Figure 2.16 

大食細胞

3) その他

① 子宮内膜間質細胞

女性の場合,月経時や婦人科検診後などで尿中に子宮内膜細胞が混入することがある。子宮内膜細胞(endometrial cell)は上皮細胞と間質細胞からなり,尿中には両細胞が混在して認められる。子宮内膜細胞が集塊状で出現した場合には両細胞を鑑別することは一般的に困難であるため,合わせて円柱上皮細胞として報告する。(詳細についてはp. 33 V.2.1.3参照)

② 中皮細胞

膀胱破裂などによって尿路と腹腔との交通が生じた場合には尿中に中皮細胞(mesothelial cell)を認めることがある。中皮細胞は胸腔や腹腔など体腔を覆う漿膜を構成する細胞である。中皮細胞は厚みのある細胞質をもち,細胞質辺縁構造は不明瞭なことが多い。なお,鑑別にはMG染色やPapanicolaou染色などを行うことも有用である。

2. 上皮細胞類

尿中に出現する上皮細胞は,腎・尿路系の解剖から明らかなように近位尿細管からヘンレ係蹄(loop of Henle),遠位尿細管,集合管および腎乳頭までの内腔を覆う尿細管上皮細胞(renal tubular epithelial cell),腎杯,腎盂から尿管,膀胱,内尿道口までの粘膜に由来する尿路上皮細胞(urothelial epithelial cell),男性尿道の隔膜部,海綿体部の粘膜および女性尿道の一部の粘膜に由来する円柱上皮細胞(columnar epithelial cell),そして外尿道口付近の粘膜に由来する扁平上皮細胞(squamous epithelial cell)に分類することができる(Figure 2.17)。これらを基本的上皮細胞とする。基本的上皮細胞以外の上皮細胞類として,細胞の形態的特徴で分類する卵円形脂肪体,細胞質内および核内封入体細胞がある。また,ヒトポリオーマウイルス感染細胞やヒトパピローマウイルス感染細胞が出現することがある。

Figure 2.17 

尿中の出現細胞とその鑑別点

尿中の細胞を組織学的に分類するにあたって,それがどの細胞と断定する絶対的所見はなく,細胞の一側面だけで鑑別することは困難である。個々の細胞の形態的特徴のいくつかを把握し,総合的に判定することが大切である。とくに細胞の大きさ,細胞質辺縁構造,細胞質表面構造,色調などの所見は重要で,これらの所見に注目することにより,無染色による観察で正常尿中細胞の鑑別はかなり可能である。しかし,判定困難な細胞や異型性を示す細胞の鑑別には染色法が有効である。染色法のうちS染色法は,細胞質と核を染め分けることができ,しかも核内構造を明瞭に染め出す優れた方法である。無染色による観察にS染色法を併用することで判定困難な細胞や異型性を示す細胞の鑑別がほぼ可能となる。しかし,どうしても細胞由来がわかりにくく,判定困難な場合は無理をせず分類困難な細胞とし,図示あるいはコメントをつけ報告する。

1) 基本的上皮細胞類

① 尿細管上皮細胞

尿細管上皮細胞(renal tubular epithelial cell)は,糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,腎硬化症,ループス腎炎,嚢(のう)胞腎などの腎実質疾患患者尿に高率に認められる。また,腎疾患以外でも腎虚血または腎血漿流量減少をきたす病態(外傷・外科的・産科的出血,大量下痢・嘔吐,重篤火傷,不適合輸血などによる高度の溶血,高度脱水,心不全など)や,種々の化学薬品および薬物(水銀・鉛・カドミウムなどの重金属,四塩化炭素・エチレングリコールなどの有機溶剤,サリチル酸・ゲンタマイシン・種々の抗がん剤などの医薬品)などによって腎障害やアレルギー反応を起こした場合にも,高率に認められる。ほかに糖尿病性腎症や黄疸を伴う肝炎などの患者尿からも,各種円柱とともに多数出現することがある。このように尿細管上皮細胞は種々の病態・疾患で認められるが,健常人にも少数出現する。

日常最も多く遭遇する尿細管上皮細胞の形態的特徴は大きさ10~35 μm前後で,細胞質辺縁構造はギザギザまたは凹凸した鋸歯(きょし)状で,細胞質表面構造は不規則な顆粒状を示し,S染色での染色性は最良で赤紫色に染め出される。ほかに細胞質辺縁に棘状の突起のあるもの,切れ込みがありアメーバ偽足状にみえる棘突起・アメーバ偽足型,立体感の強い角柱・角錐台型などがあるが,その形態的特徴により鑑別可能である。これらの尿細管上皮細胞は共通して赤血球大の濃縮状の核を偏在性に有している。実際の尿沈渣鏡検で尿細管上皮細胞を鑑別するためには,まず円柱内に封入されている本細胞を詳細に観察し,その形態的特徴をとらえておくことが大切である。

尿細管上皮細胞は部位により機能が異なることと関連して多彩な形態を呈する。また,重篤な慢性腎不全や抗がん剤・抗生物質など薬剤の影響で特殊な形態や異型性を示すことがあり,類似した細胞や円柱および悪性細胞と鑑別が必要な場合がある。

 • 円形・類円形型は主に放射状配列などを示す集塊で出現し,細胞質辺縁構造は明瞭な曲線状,細胞質表面構造は細かい網目状や均質状で,核は白血球大で偏在し核小体が目立つことがあるため腺がん細胞との鑑別に注意が必要である。尿細管上皮細胞はクロマチンの増量を認めないことから鑑別することができる。

 • オタマジャクシ・ヘビ型や線維型は束状や放射状配列を示す集塊で出現し細胞質は薄く,細胞質表面構造は均質状を示す。類似した形状の扁平上皮がん細胞と鑑別に注意が必要であるが,N/C比の増大やクロマチンの増量などの異型性を認めない。

 • 洋梨・紡錘型は円柱に付着してみられることが多く,細胞質辺縁構造は角状・多辺形で尿路上皮細胞と鑑別が必要であるが,細胞質は薄く,細胞質表面構造は均質状,細胞質辺縁構造は不明瞭でシワ状を呈し折れ曲がるなど尿路上皮細胞と区別できる。

 • 顆粒円柱,空胞変性円柱型はそれぞれの円柱と鑑別が必要であるが,よく観察すると1個の細胞であり,1~2個の白血球大の核を有する。溶血性疾患(発作性夜間血色素尿症など)では,尿中に褐色のヘモジデリン顆粒を含有した細胞が認められることがあり,これは尿中ヘモジデリンの生成幾序から尿細管上皮細胞と考えられる。

Figure 2.18, 2.19, 2.20

Figure 2.18 

尿細管上皮細胞の特徴 40×

Figure 2.19 

尿細管上皮細胞の特徴 40×

Figure 2.20 

尿細管上皮細胞の特徴 40×

*丸細胞(丸型の尿細管上皮細胞)

小型な円形の細胞である。色調は灰白色調で,細胞質の表面構造は均質状で厚みがあるが,深層の扁平上皮細胞に比べると薄い。辺縁構造は曲線状である。S染色の染色性は不良もしくは淡桃色調を呈する。分化能を有し,大部分は尿細管上皮細胞へと分化することが考えられる。高度に腎機能が低下した状態で尿中に排出される。

② 尿路上皮細胞

臨床的に尿路上皮細胞(urothelial epithelial cell)は,膀胱炎,腎盂腎炎,尿管結石など腎杯・腎盂から内尿道口までの炎症,結石症,カテーテル挿入による機械的損傷を受けた場合などに認められる。尿路上皮細胞は組織学的には1~6層の多列上皮であり,しばしば集塊状としても出現する。表層型,中層型~深層型細胞に分けられる。

a. 表層型細胞

大きさ60~150 μm,細胞質辺縁構造は角張り,形は稜線状で多辺形を示すことが多い。色調は黄色調を呈し,細胞質表面構造はザラザラしており,核は一般的に2核,3核を示す。S染色での染色性は良好で赤紫色に染め出される。

 

b. 中層型~深層型細胞

大きさ15~60 μm,細胞質辺縁構造は角張り,形は紡錘形,洋梨形,多辺形などを示す。また,新鮮な細胞では有尾状を呈することがある。細胞質は厚く,細胞質表面構造はザラザラしている。無染色における色調は表層型細胞と同様,黄色調を呈し,S染色での染色性は良好で赤紫色に染め出される。核の大きさは深層型から表層型まで,ほぼ同じ大きさであるため深層型細胞はN/C比が高くみえ,悪性細胞との鑑別に注意が必要である。(Figure 2.21, 2.22

Figure 2.21 

尿路上皮細胞の特徴 40× 無染色

Figure 2.22 

尿路上皮細胞の特徴 40× S染色

③ 円柱上皮細胞

円柱上皮細胞(columnar epithelial cell)は,尿道炎やカテーテル挿入による尿道の機械的損傷後や回腸導管による尿路変更術後などに認められる。また,男性では前立腺や精嚢(のう)に由来する円柱上皮細胞が前立腺炎,前立腺肥大症,前立腺マッサージ後,精嚢炎などで出現することがある。女性の尿中には,解剖学的構造から子宮内膜由来の円柱上皮細胞が混入することがある。とくに月経時や細胞診検査のために子宮の機械的擦過後の尿中には,子宮由来の円柱上皮細胞が単独または集塊状に赤血球・白血球などとともに多数混入することがあるので注意が必要である。円柱上皮細胞が認められ,細胞の由来が推定可能な場合には,「前立腺円柱上皮細胞と考えられる」などとコメントを付記する。

円柱上皮細胞の形態的特徴は,小型で大きさ15~30 μm前後のことが多く,細胞質辺縁構造は角状を示すことから,とくに尿路上皮細胞の深層型細胞との鑑別に注意が必要となる。形は一端が平坦で円柱形,長方形,涙滴状を示すことが多く,新鮮な材料または良好に保存された円柱上皮細胞の平坦部分には線毛を有していることがあり,鑑別上重要である。また,大きさは小型で一般に揃っており,細胞の厚さは尿路上皮細胞の深層型に比べて薄く,細胞質表面構造は均質状または淡い網目状を示す。細胞質内の平坦部分と核との間にはしばしば数個の小さな顆粒を有していることがあり,無染色における色調は灰白色を呈する。S染色性は良好で,赤紫色または青紫色,濃赤紫色に染め出される。(Figure 2.23

Figure 2.23 

円柱上皮細胞の特徴

④ 扁平上皮細胞

扁平上皮細胞(squamous epithelial cell)は膣トリコモナスや細菌感染などによる尿道炎,尿道結石症,カテーテル挿入などによる機械的損傷後,前立腺がんのエストロゲン治療中などの場合に多く出現する。また,女性の尿中には尿路系に異常がなくても外陰部由来,膣部由来の扁平上皮細胞が赤血球や白血球,細菌などとともに混入しやすい。したがって,採尿の際には,小陰唇を開き清拭した後に中間尿を採るなどの指導が必要となる。組織像は,基底膜に対して細胞が水平で多層性に配列し中層型~深層型細胞と表層型細胞で構成されている。女性の場合,性周期により細胞の形状が変化することがある。また,エストロゲン治療や放射線治療時には奇妙な形状や大型化,多核化が認められる場合があり悪性細胞との鑑別に注意が必要である。

a. 表層型細胞

大きさ60~100 μm,形は主に不定形で,細胞質は著しく薄い。細胞質表面構造は均質状を示すが,辺縁が捻れたり折れ曲がったり,シワ状を呈していることが多い。S染色での染色性は良好で赤紫色に染め出される。

b. 中層型~深層型細胞

大きさ20~70 μm,細胞質辺縁構造は丸みを帯びており,形は大部分が円形,類円形を示す。細胞質は厚く,深層型に近づくに従って球状を呈するようになる。細胞質表面構造は均質状を示すが,細胞の一部が陥入したようなくぼみ状やひだ状を示すことがある。無染色での色調は光沢のある灰色や緑色調を呈している。S染色法での染色性は不良で,淡桃色に染まる程度のことが多い。これはこの層の細胞がグリコーゲンを豊富に含有しているためと考えられ,これらの細胞はLugol’s染色を行うと,茶~茶褐色に染め出される。(Figure 2.24

Figure 2.24 

扁平上皮細胞の特徴

⑤ その他上皮細胞

*糸球体上皮細胞

小型な円形の細胞である。色調は灰白色調で,細胞質の表面構造は均質状もしくは微細顆粒状で厚みがあるが,深層の扁平上皮細胞に比べると薄い。辺縁構造は曲線状である。S染色の染色性は不良もしくは淡桃色調を呈する。活動性の高いIgA腎症や巣状糸球体硬化症で尿中に排出される。

2) 変性細胞類・ウイルス感染細胞類

① 卵円形脂肪体

腎障害に伴って出現する脂肪顆粒細胞で,尿細管上皮細胞由来と大食細胞由来があり,両者を区別せず卵円形脂肪体(oval fat body)とする。本細胞はとくに重症ネフローゼ症候群患者尿に高率に認められ,本症診断基準の一つに含まれている。ほかに重篤な糖尿病性腎症,Fabry病,Alport症候群などの患者尿にも出現する。

本細胞の形態的特徴は,大きさ10~40 μm,形は円形,類円形,不定形を示し,脂肪顆粒の含有量が多い場合は細胞の辺縁に滴状にはみ出し,偽ロゼット様の形状を示すことがある。無染色における脂肪顆粒の色調は,小さい脂肪顆粒は黒色または褐色調の光沢を,大きい脂肪顆粒は黄色調の光沢を呈している。S染色では脂肪顆粒は染まらず,無染色の場合と同様に認められる。

卵円形脂肪体とそれ以外の脂肪顆粒を含む細胞は,形態的特徴のみでその由来を判定することは困難な場合が多い。しかし,背景などから互いの細胞を鑑別することは可能である。卵円形脂肪体と判定が可能なものは,同様の脂肪顆粒細胞が円柱内にも認められた場合や脂肪円柱が認められた場合である。また,尿蛋白が強陽性を示すことが多い。

卵円形脂肪体以外の脂肪顆粒を含む細胞で尿中に出現するものは,前立腺由来の大食細胞が多く,性別,年齢,尿の種類(前立腺マッサージ尿など)を確認することが大切である。また,背景に出現する好中球も脂肪顆粒を有している場合が多い。

脂肪顆粒の証明には,Sudan III染色や偏光顕微鏡下で観察する方法が多用されている。Sudan III染色では脂肪の種類により染色性は異なる。一般的にコレステロールエステル,脂肪酸は黄赤色,コレステロールは黄赤橙色,中性脂肪は赤色,燐脂質,糖脂質は淡赤色に染め出される。一方,偏光顕微鏡下で脂肪顆粒を観察すると,コレステロールエステルおよび燐脂質はマルタ十字(Maltese cross)と呼ばれる特有の重屈折性偏光像を示す。しかし,中性脂肪や脂肪酸では重屈折性偏光像を示さないので注意が必要である。(Figure 2.25

Figure 2.25 

卵円形脂肪体(脂肪円柱)の特徴

② 細胞質内封入体細胞

細胞質内封入体細胞(intracytoplasmic inclusion-bearing cell)は,麻疹,風疹,ムンプス(流行性耳下腺炎)やインフルエンザなどのRNAウイルス感染との関連性がこれまでいわれてきた。しかし,ウイルスは証明されておらず,むしろ本細胞は膀胱炎,腎盂腎炎,尿路変更術後,腎薬物中毒などの患者尿からしばしば認められることから,非特異的な炎症時に出現する変性細胞であると考えられる。また,細胞由来については封入体を有する細胞は崩壊や変性が著しく,形態的特徴のみでは由来を明確にすることは困難な場合が多く,単に細胞質内封入体細胞として報告されている。

細胞質内封入体細胞の形態的特徴は,大きさ15~100 μm,形は円形,類円形,不定形,多辺形など種々である。細胞質内表面構造も均質状,顆粒状などと種々で,細胞質内には円形,類円形,ドーナツ形,馬蹄形など多彩な形を示す封入体が認められる。無染色における封入体の色調は細胞質と同系色で濃く,やや光沢を有して見える。S染色における封入体の染色性は細胞質と同系色で濃く染め出されることが一般的である。(Figure 2.26

Figure 2.26 

細胞質内封入体細胞の特徴

③ 核内封入体細胞

ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスなどのDNAウイルス感染患者尿から検出される。本細胞は細胞質内封入体細胞と同様,細胞崩壊や変性が著しく,形態的特徴のみでは由来を明確にすることは困難なことが多い。

核内封入体細胞(intranuclear inclusion-bearing cell)の形態的特徴は,大きさ15~100 μm,まれに200 μm以上のものも認められ,形は円形,類円形を示すものが多い。核に特有な変化があり,核内には不規則な形をした無構造の封入体が形成され,クロマチンは核縁に凝集して認められる。また,多核化した巨細胞もしばしば検出され,その核はすりガラス状で核同士は圧排像を示すことがある。無染色における封入体の色調およびS染色における染色性は,細胞質内封入体細胞と同様である。多核のものはヘルペスウイルス感染細胞と考えられ,単核のものはサイトメガロウイルス感染細胞と考えられている。特殊染色などによりウイルスが同定されない場合はヘルペスウイルス感染疑い細胞,サイトメガロウイルス感染疑い細胞と報告する。(Figure 2.27

Figure 2.27 

核内封入体細胞の特徴

④ その他のウイルス感染細胞

a. ヒトポリオーマウイルス感染細胞

ヒトポリオーマウイルス感染細胞は,N/C比が増大し,核がすりガラス状を呈して認められる。形態的特徴や出現様式により,尿路上皮細胞由来と尿細管上皮細胞由来があると考えられる。特殊染色によりウイルスが同定されない場合はヒトポリオーマウイルス感染疑い細胞として報告する。

b. ヒトパピローマウイルス感染細胞(コイロサイト)

ヒトパピローマウイルス感染細胞は,扁平上皮細胞の核周囲に細胞質が広く空洞化する特徴がある。これをコイロサイトと呼ぶ。核の増大や核膿染などの異型性を伴うことがある。特殊染色によりウイルスが同定されない場合はヒトパピローマウイルス感染疑い細胞として報告する。(Figure 2.28

Figure 2.28 

ウイルス感染細胞の特徴

3. 異型細胞類

尿沈渣検査において異型細胞(atypical cell)として取り扱う細胞は,基本的に悪性細胞または悪性を疑う細胞である。悪性細胞の形態学的特徴は組織型により異なるが,一般的に核に多くの特徴がみられ,正常細胞と比較して核増大,クロマチン増量,核形不整,核小体肥大などの異型性を示して認められる。しかし,異型性を示す細胞,すなわち異型細胞は悪性病変だけに出現するのではなく,炎症や結石症,ウイルス感染などの良性病変または放射線や治療薬剤などによる化学的,物理的影響を受けた場合にも出現するため注意する必要がある。

異型細胞は一つの所見だけで判定できるものではなく,細胞をさまざまな角度から細かく観察し,標本全体に出現している個々の細胞の多様性などを総合的に判断することが大切である。尿沈渣検査から悪性細胞を検出するためには,尿中に出現する腎・尿路系の正常細胞の形態的特徴について十分に理解しておくことが基本である(Figure 2.29)。

Figure 2.29 

異型細胞の特徴

尿中に出現する悪性細胞は尿路上皮がん細胞が最も多く,まれに扁平上皮がん細胞や腺がん細胞なども出現する。悪性細胞の組織型を推定する場合には,これらの形態的特徴も十分に把握しておく必要がある。

尿沈渣検査における異型細胞の報告については臨床側の混乱を避けるため,より有用な情報となることを考慮し,以下のように取り扱うのが望ましい。

 • 尿沈渣検査において,異型細胞として取り扱う細胞は,基本的には「悪性細胞」または「悪性を疑う細胞」とする。また,異型性は弱くても悪性の可能性を否定できない細胞も異型細胞として報告する。これは悪性細胞の見落としを減らし,感度を重要視する尿沈渣検査にとって大切なことである。

 • 実際に異型細胞として報告する場合は,ただ単に「異型細胞(+)」,「異型細胞疑い」などと報告するのではなく,必ずコメントを付記して報告する。そのコメントは,どの組織型で,どのような病態が考えられるかなどを可能な限りわかりやすく報告することが大切である。したがって,異型細胞の報告法は,異型細胞(尿路上皮がん疑い),異型細胞(腺がん疑い,大腸がんの浸潤を疑う),異型細胞(扁平上皮がん疑い,子宮頸がんの混入を示唆)など可能な限り具体的に報告することが望ましい。組織型が不明な場合でも異型細胞(悪性疑い,組織型不明)などのように悪性細胞の存在を示唆するコメントを必ず付記する。

 • 異型性は弱くても悪性の可能性を否定できない異型細胞の報告法は,異型細胞(良悪性判定困難,尿路上皮細胞由来),異型細胞(良悪性判定困難,扁平上皮細胞由来),異型細胞(良悪性判定困難,組織型不明)など,どの組織型の異型細胞が出現していたか可能な限り報告することが望ましい。

 • 良性とわかる異型性を示す細胞は異型細胞として報告するのではなく,本来の組織型(尿路上皮細胞,扁平上皮細胞など)に分類して報告し,必要に応じてコメントを付記する。また,良性とわかる異型性を示す細胞のうち,組織型のわからない判定困難な細胞については分類不能細胞に分類し,これも必要に応じてコメントを付記する。

 • 異型性がなく組織型のわからない判定困難な細胞については分類不能細胞に分類する。

1) 上皮性悪性細胞類

① 尿路上皮がん細胞

尿路上皮がんは腎杯・腎盂から内尿道口までの尿路上皮層から発生する。尿路上皮がん細胞(urothelial carcinoma)は孤立散在性や集塊として出現し,組織学的異型度が高くなるに伴い細胞の結合性は低下し,散在傾向が強くなる。また,相互封入像がみられた場合は,核異型が弱くても悪性腫瘍の存在が強く疑われ,重要な所見となる。尿路上皮がん細胞は円形・類円形・洋梨形・角状などを呈する。細胞質辺縁構造の角張りは尿路上皮細胞由来を示唆する重要な所見である。核は増大し,異型度が高くなるにつれ核が偏在する傾向がある。また,核が細胞質からはみ出る像を認めることもある。核形は類円形あるいは角張り・切れ込みなどの不整形を呈し,顕微鏡のピントを変えると核形が変わる立体的な不整を示すことがある。クロマチンは粗顆粒状で増量しているが,S染色では必ずしも核濃染性を示すとは限らないため,核淡染性の場合があることを念頭に置き鏡検する。副所見として,背景に尿路上皮がん細胞由来が考えられる核濃縮した細胞,細胞質内封入体細胞や脂肪顆粒を含有した細胞などがしばしば認められる。これらの細胞が認められた場合は尿路上皮がん細胞の存在も考慮し,注意深く観察することが重要である。

② 腺がん細胞

腎・尿路系原発の腺がんには,腎細胞がん,前立腺がん,膀胱原発腺がん(尿膜管がんなど),尿路上皮の化生または尿路上皮がんの化生から発生する腺がんなどがある。また,直腸がんや卵巣がん,乳がんなどの腺がん細胞(adenocarcinoma)が腎・尿路系に浸潤または転移して尿中に認められることがある。高分化型のがんでは,円柱形や類円形のがん細胞が花冠状や柵状,または乳頭状の細胞集塊を構成して出現する。細胞質は尿路上皮がん細胞より淡く,ときに粘液様空胞を有する。核は類円形で偏在し,クロマチンは細顆粒状で増量している。核小体は著しく大きく目立つことが多い点も腺がん細胞の特徴である。

③ 扁平上皮がん細胞

腎・尿路系原発の扁平上皮がんには,尿路上皮の化生または尿路上皮がんの化生から発生する扁平上皮がん,外尿道口の扁平上皮層から発生する扁平上皮がんなどがある。また,子宮頸がんが膀胱へ直接浸潤して認められる場合や,がん細胞が外陰部から尿中に混入して認められることもある。女性の場合,尿沈渣に認められる扁平上皮がん症例の8割前後は子宮頸がんに由来するといわれている。そのため,女性で扁平上皮がん細胞が検出された場合は泌尿器系臓器だけでなく,子宮頸がんの存在も考慮し検査を進めることが重要である。

扁平上皮がん細胞(squamous cell carcinoma)は,ヘビ形,オタマジャクシ形,線維細胞形などの奇妙な形状を示して出現することが多く,核は大きくクロマチン増量も一般的に著明である。円形・類円形を呈するがん細胞では細胞質の厚みが増し,同心円状の層状構造を認め,核は中心性である。また,角化傾向の強い扁平上皮がんでは無核のがん細胞もみられ,見落とさないように注意が必要である。

④ 小細胞がん細胞

尿中に認められる小細胞がん細胞(small cell carcinoma)は,肺小細胞がん細胞と同様な形態的特徴を示し,大きさは白血球大で,孤立散在性や集塊状で出現する。また,出現様式の特徴として木目込様またはロゼット様の配列を認めることがある。大部分の細胞で細胞質が乏しいため,裸核状で出現することもある。クロマチンは微細顆粒状で増量している。尿路上皮がんや前立腺がんでも白血球大で出現することがあるが,上記の特徴から鑑別することが可能である。電子顕微鏡で細胞質内に神経内分泌顆粒が認められることが多く,免疫組織化学染色で神経特異エノラーゼ(neuron specific enolase; NSE),クロモグラニンA(chromogranin A),シナプトフィジン(synaptophysin)などの神経内分泌マーカーの証明により確定される。

⑤ その他の上皮性悪性細胞

まれに未分化がん,絨毛がん,カルチノイドなどの上皮性悪性細胞を認めることがある。

2) 非上皮性悪性細胞類

① 悪性リンパ腫細胞

悪性リンパ腫細胞(malignant lymphoma)は,膀胱,尿管などのリンパ組織原発または転移,浸潤により尿中に認められる。細胞の大きさは白血球大から2倍程度のことが多く,円形の細胞が孤立散在性に出現する。N/C比は高く,クロマチンは粗顆粒状で増量し核小体の腫大を示す。N/C比の高い点は小細胞がん細胞に類似するが,孤立散在性に出現することやクロマチン所見の違いなどから鑑別される。

② 白血病細胞

尿中の白血病細胞(leukemia cell)の多くは,末梢血に白血病細胞が出現している患者である。白血病で出血性素因の亢進が認められる症例では,血尿とともに白血病細胞が出現しやすい。悪性リンパ腫細胞との鑑別は困難で,臨床情報などを考慮し判定する。

③ その他の非上皮性悪性細胞

その他の非上皮性悪性細胞には,悪性黒色腫細胞,平滑筋肉腫細胞,線維肉腫細胞,横紋筋肉腫細胞などがある。

4. 円柱類

円柱は尿細管腔を鋳型として形成される有形成分で,形状は主に円柱状を示す。円柱の基質成分は,尿細管上皮細胞から分泌されるタム・ホースファルムコ蛋白(Tamm-Horsfall mucoprotein; THムコ蛋白)と少量の血漿蛋白とがゲル状に凝固沈殿したものである。この基質成分のみからなる円柱が硝子円柱であり,これに血液細胞や尿細管上皮細胞などが封入され,さらに崩壊や変性が加わって各種円柱が形成される。

円柱の出現は尿細管腔が一時的に閉塞されていたことと尿の再流があったことを意味し,円柱の種類,出現数や形態などを観察することによって腎・尿細管の病態や障害の程度を把握することができる。

円柱の分類法はLippmanの分類あるいは同分類に準じたものが過去には用いられてきた。しかし,これらの分類法は日常検査としてそぐわない点もあることから,本邦では,JCCLS GP1-P3(2000)において臨床的意義も考慮した簡素化された新分類法が提示された。本稿においても基本的にそれを踏襲する。

なお,以下の円柱は日常の尿沈渣鏡検法で鑑別可能であり,臨床的関連性も明らかにされていることから十分に鑑別できるように努めるべきである。(Figure 2.30, 2.31

Figure 2.30 

円柱の形成メカニズム(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 71図4-37を一部改変)

Figure 2.31 

円柱の変性過程(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 71図4-38を一部改変)

1) 硝子円柱

硝子円柱(hyaline cast)は各種円柱の基質となるものである。典型的な形態は両端が丸みを帯び,長辺が平行な円柱状であるが,屈曲,蛇行,切れ込みのみられるものまで種々なものがある。かつて類円柱と呼ばれていた先端が細くなっている成分も硝子円柱とする。形態的特徴は均質,無構造なものからシワ状,すじ状のものまでみられる。また,全く何も含まない単一性のものから,種々な成分を少量(血液細胞や尿細管上皮細胞,脂肪顆粒などが2個以下,顆粒成分1/3未満)封入するものまで多彩なものが認められる。

硝子円柱は,無染色標本下では薄くみえ,見逃しやすいので注意が必要である。S染色では淡青色から濃青色を呈する。また,S染色では粘液糸との鑑別が必要な場合がある。

硝子円柱は健常人で認められることもあり,とくに激しい運動に伴う脱水では出現頻度が高い。しかし,健常人でも持続的に認める場合には臨床情報として考慮されるべき所見である。また,蛋白尿を呈する腎疾患や全身性の血流障害などで認められることもある。

2) 上皮円柱

上皮円柱(epithelial cast)は基質内に尿細管上皮細胞が封入された円柱である。上皮細胞が3個から円柱全体に隙間なく封入されているものまで種々の状態がある。また,円柱に上皮細胞が付着している場合も上皮円柱とする。腎・尿細管障害で観察されることが多い。無染色標本では白血球円柱と,また,変性したものでは顆粒円柱との鑑別を要する。

S染色では円柱内の尿細管上皮細胞の細胞質は赤色から赤紫色,核は青色に染め出されることが多いが,無核のものも観察される。

3) 顆粒円柱

顆粒円柱(granular cast)は基質内に顆粒成分が1/3以上封入された円柱である。この顆粒成分の多くは尿細管上皮細胞が変性したものであるが,赤血球や白血球などが変性したものも含まれる。また,血漿蛋白由来と考えられる顆粒成分が認められることもある。粗い顆粒から微細な顆粒まであるが,すべて顆粒円柱とする。顆粒円柱内に細胞成分が3個以上封入されている場合や細胞円柱から顆粒円柱への移行型は細胞円柱と顆粒円柱の両者を報告する。

顆粒円柱は,多くの腎疾患において,腎機能低下と強く関連する円柱であり,腎実質の障害を意味する円柱である。

S染色では淡赤紫色から濃赤紫色,または濃青紫色を呈する。

4) ろう様円柱

ろう様円柱(waxy cast)は円柱全体または一部が「ろう」のように均質無構造にみえることから,ろう様円柱と呼ばれている。ろう様円柱は,尿細管腔の長期閉塞により円柱内の細胞成分や顆粒成分の変性が進行したものや,血漿蛋白質が凝集均質状となって出現したものが考えられている。ろう様円柱の形状は切れ込みがみられることが多いが,蛇行,屈曲しているものや毛玉状・イクラ状のものなど,種々なものがある。多くは厚みや光沢があり,高屈折性である。円柱の輪郭は明瞭で硝子円柱とは容易に区別できる。ろう様円柱内に細胞成分が3個以上封入されている場合は,ろう様円柱と細胞円柱の両者を報告する。また,顆粒円柱からろう様円柱への移行型および混合型はろう様円柱とする。

ろう様円柱は主としてネフローゼ症候群,腎不全および腎炎末期などの重篤な腎疾患にみられる。

S染色では淡赤紫色から濃赤紫色,または濃青紫色を呈する。

5) 脂肪円柱

脂肪円柱(fatty cast)は基質内に脂肪顆粒および卵円形脂肪体が封入された円柱である。脂肪顆粒が3個から円柱全体に隙間なく封入されているものまで種々のものがある。また,多くの卵円形脂肪体は脂肪顆粒を3個以上含有しているため,卵円形脂肪体が1個でも封入された円柱も脂肪円柱に分類する。脂肪円柱はネフローゼ症候群で高率に認められる。

S染色では脂肪顆粒は染色されず,Sudan III(IV)染色で橙赤色から赤色に染め出される。また,偏光顕微鏡でMaltese crossなどの偏光像をみることによっても確認できる。(p. 36 V. 2. 2. 1参照)

6) 赤血球円柱

赤血球円柱(red blood cell cast)は赤血球が基質内に取り込まれた円柱である。赤血球が3個から円柱全体に隙間なく封入されているものまで種々のものがある。円柱内の赤血球形態は,通常みられるヘモグロビンを含有した円盤状や球状を示すこともあるが,多くは脱ヘモグロビン状を示す。また,無染色による観察において円柱内の赤血球が,顆粒化,ろう様化した場合は赤褐色調を呈し,変性や崩壊の強い赤血球が輪郭を残して存在していることが多い。しかし,赤褐色調の円柱がすべて赤血球由来とは限らないので注意しなければならない。

赤血球円柱はネフロンにおける出血を意味し,臨床的にはIgA腎症,紫斑病性腎炎,急性糸球体腎炎,膜性増殖性腎炎,ループス腎炎,ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody)関連腎炎などの腎性出血を伴う患者尿に認められる。

7) 白血球円柱

白血球円柱(white blood cell cast)は基質内に白血球が封入された円柱である。ネフロンにおける感染症や炎症性疾患があるときに出現する。無染色標本では上皮円柱との,白血球が崩壊しているときには顆粒円柱との鑑別を要することがある。封入された白血球の多くは好中球であるが,病態によりリンパ球や単球などが主に封入されている場合がある。

白血球はS染色で核が染め出されるため鑑別しやすいが,細胞質は染色性が不良であることが多い。このため,良好な染色性を呈する尿細管上皮細胞との鑑別の参考となる。

急性糸球体腎炎や腎盂腎炎などの活動期には好中球主体の白血球円柱がみられ,慢性疾患ではリンパ球や単球を含む白血球円柱が出現する。また,間質性腎炎では好酸球を含む白血球円柱を認めることがある。

8) 空胞変性円柱

空胞変性円柱(vacuolar denatured cast)は円柱内に大小の空胞が認められる円柱である。円柱全体が空胞でみたされたものから,顆粒円柱やろう様円柱の一部が空胞化しているものまで種々のものがある。重症の糖尿病性腎症で多くみられ,高度の蛋白尿や腎機能低下を伴う症例が多い。

S染色では赤紫色に染色されるが,青紫色に染まるものもある。その成因は空胞化した尿細管上皮細胞に由来するものや,後述のフィブリン円柱の溶解に由来するものが考えられている。

9) 塩類・結晶円柱

塩類・結晶円柱(salt/crystal cast)は無晶性塩類(リン酸塩,尿酸塩)やシュウ酸カルシウム結晶や薬物結晶を封入した円柱である。尿細管腔内での結晶化,閉塞が考えられ,尿細管間質の病態を示唆する有用な成分である。ときに幅の広い円柱となって尿細管腔を拡張させ,円柱の内外に線維状や円形・類円形の尿細管上皮細胞を伴うことがある。

10) 大食細胞円柱

大食細胞円柱(macrophage cast)は3個以上の大食細胞が付着または封入された円柱である。大食細胞の形態学的特徴は,円柱内の大食細胞でも同様に確認することができる。無染色において,生細胞では灰色から灰白色調を呈し,細胞質表面構造は綿菓子状で,辺縁構造は不明瞭な鋸歯(きょし)状を示す。死細胞では黄色調を呈し,円形,類円形を示すことが多い。S染色での染色性は,生細胞では不良であり,死細胞では細胞質が青紫色から濃赤紫色調に染め出されることが一般的である。

また,大食細胞はしばしば脂肪顆粒を含有して観察される。しかし,円柱内で大食細胞が3個以上の脂肪顆粒を含有している場合は卵円形脂肪体とみなし,脂肪円柱に分類する。大食細胞円柱は活動性のネフローゼ症候群,高度の尿細管障害,腎不全,骨髄腫腎などで認められる。

11) フィブリン円柱

フィブリン円柱(fibrin cast)は線維が詰まった円柱であり,S染色に染まらない円柱である。無染色でも線維質構造を十分確認できるが,線維が融合して均質になったものも存在するため,円柱基質の不染色性を確認することが望ましい。

S染色で淡いピンク色や淡い青色に染まるものもあるが,明確に他の円柱と区別できる場合のみを本円柱とする。

糖尿病性腎症に認めやすく,高度な蛋白尿を背景にして,空胞変性円柱と同時に,あるいは空胞変性円柱より,若干早期からみられることが多い。

Figure 2.32

Figure 2.32 

円柱の判別基準(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 73図4-39を一部改変)

12) ヘモジデリン円柱

ヘモジデリン円柱(hemosiderin cast)は無染色標本下では黄色から茶色に着色した顆粒円柱状にみえる。Berlin blue染色で青染することによって鑑別できる。

発作性夜間血色素尿症,血管内赤血球破砕症候群,その他溶血性疾患で認められる。同時にヘモジデリン顆粒やヘモジデリン含有細胞(尿細管上皮細胞)を認めることが多い。

13) ミオグロビン円柱

ミオグロビン円柱(myoglobin cast)はヘモグロビン円柱と同様,赤褐色に着色したろう様あるいは顆粒円柱としてみられる。証明するためには免疫化学的な手法が必要である。横紋筋融解症やクラッシュ症候群などのミオグロビン尿症で認められる。

14) Bence Jones蛋白円柱

Bence Jones蛋白円柱(Bence Jones protein cast)はBence Jones protein(BJP)陽性の骨髄腫患者尿に認められ,毛玉状・イクラ状のろう様円柱を呈して出現することが多い。BJP円柱であることの証明には,免疫グロブリンL鎖に対する抗体を用いた蛍光抗体染色法などを行う。

*ヘモジデリン円柱・ミオグロビン円柱・BJP円柱については必ずBerlin blue染色や免疫染色などの確認検査が必要である。確認が出来なければ,基質の性状により,ろう様や顆粒円柱に鑑別し,必要に応じてヘモジデリン円柱疑い,ミオグロビン円柱疑い,BJP円柱疑いとコメントする。

5. 微生物類・寄生虫類

尿沈渣にみられる微生物・寄生虫として細菌,真菌,原虫および蠕虫(ぜんちゅう)などがある。

1) 微生物類

① 細菌

細菌は桿菌,球菌に分けられる。×400鏡検では,桿菌は比較的確認しやすいが,球菌の鑑別・確認は一般的に困難な場合が多い。尿中細菌の判定は,腎盂腎炎,膀胱炎などの尿路感染症の診断には必須である。しかし,尿道には常在菌が存在し,直接膀胱を穿刺して採尿する以外は,厳密に中間尿採取を行っても,常在菌の混入は避けられない。さらに採尿方法が不適切であると,尿道口周辺あるいは外陰部に多数存在する常在菌が混入する。女性の場合,膣に由来する乳酸桿菌が多数混入することもある。また,抗菌薬使用例(細胞壁合成阻害剤)では,菌体が細長く伸びた変形細菌を認める場合がある。

一般に単純性尿路感染症では単独菌感染が多く,‍起炎菌としてEscherichia coliが大部分を占め,その他,Klebsiella pneumoniaeStaphylococcusEnterococcusもみられる。複雑性尿路感染症は,約半数が複数菌感染である。起炎菌は単純性尿路感染‍症と異なってEscherichia coliが少なくなり,代‍わってPseudomonas aeruginosaSerratiaStaphylococcusEnterococcusなどの頻度が高くなる。

尿路感染症の診断には,正しく採尿された尿について膿尿(白血球尿)と細菌尿の証明が必須である。膿尿の判定は,尿沈渣検査で白血球数が5個/HPF以上を有意の膿尿としている。一方,細菌尿は定量培養法により判定される。中間尿の場合,一般に菌量が104~105 CFU/mL以上を有意の細菌尿としている。尿沈渣検査では,(1+)が104~105 CFU/mLに相当する。ただし,培養法は非遠心尿が対象であるのに対し,尿沈渣検査は遠心尿が対象のため,尿沈渣検査の場合,菌量は尿比重に左右されるので必ずしも培養法と一致するわけではない。

② 真菌

真菌(Fungi)は灰白色から淡い緑色調で,Candida様を呈するため判別は比較的容易である。しかし,赤血球と類似している場合があり注意が必要である。また,白血球崩壊により分葉核が裸核状になったときに真菌と混同することがある。真菌は抗菌薬投与中や投与後には腸内細菌叢の変動に伴って出現しやすい。尿路の真菌は特別な治療を行わなくても消失することも多く,治療対象になる例は少ないが,高齢者や糖尿病あるいは免疫抑制的治療などによって感染防御能が低下している患者では,敗血症や多臓器へ拡大する危険性が高くなる。

女性では,膣内の常在菌として存在するため,尿中に真菌を認めても,単なる混入から尿路感染症まで種々の可能性がある。細菌と同様,真菌による尿路感染症の診断は,膿尿と真菌尿の証明が必須で,一般に104~105 CFU/mL以上を有意の真菌尿としている。

2) 寄生虫類

① 原虫

尿沈渣にみられる原虫の多くは膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)である。膣トリコモナスは女性に多いが男性にもみられ,その場合は扁平上皮細胞を伴うことが多い。形は洋梨形で長径10~15 μm,短径6~12 μmで5本の鞭毛を有する。活発に活動している場合には確認が容易だが,活動を停止している場合は白血球に類似しているため鑑別を要する。光沢のある淡い灰白色を呈し,鞭毛の確認などから鑑別がつく。白血球に比べやや厚く大小不同を呈する。

その他,自然界に存在するプランクトンなどが混入する場合がある。

② 蠕虫

ビルハルツ住血吸虫卵がまれに尿中に出現する。ビルハルツ住血吸虫は膀胱および肛門付近の静脈叢の血管内に寄生し,産卵は主として膀胱壁の細静脈内で行われるため,虫卵が尿中に出現する。虫卵の特徴は一端が鈍円な紡錘形であり,卵殻は黄褐色で蓋はない。長径110~170 μm,短径40~70 μmで尾端に棘を有する。ビルハルツ住血吸虫は,アフリカ全域,中近東,インドなどに分布する。虫卵は組織とともに膀胱内に脱落するので主症状は血尿と排尿痛である。膀胱壁は次第に過形成と線維化が進み,エジプトなどの本虫の流行地では,膀胱がんの発生率が高く,本虫感染との関係が指摘されている。

また,糞線虫も尿中にみられる場合がある。糞線虫は小腸の粘膜内に寄生するが,免疫力が低下している患者では喀痰,気管支洗浄液,脳脊髄液,尿,胸水または腹水からみられる場合がある。

その他,尿への混入として出現する寄生虫類としては,蟯虫卵がある。

6. 塩類・結晶類

尿中に出現する塩類・結晶類の多くは摂取した飲食物や体内の塩類代謝に依存し,腎臓で濾過された成分が尿路系や排尿後に採尿容器内で種々の物理化学的作用(含有濃度,pH,温度,共存物質など)により溶解度が低下し析出したものである。

塩類・結晶類には健常人でもみられる通常結晶と病的状態を反映している異常結晶,その他に服用・投与された薬物に由来する薬物結晶がある。日常業務の中で多くみられるのはシュウ酸塩,尿酸塩,リン酸塩が大部分である。しかし,重症肝障害や先天性代謝異常にみられるアミノ酸結晶や核酸結晶などの異常結晶の鑑別は臨床的に重要である。異常結晶にはビリルビン,コレステロール,シスチン,2,8-ジヒドロキシアデニン,チロシン,ロイシンなどがある。薬物結晶は投与された薬物の多くが体内で代謝されてその構造が変化するため,元の薬物とは異なった結晶の形状に変化していることが多い。

多くの塩類・結晶類は特有の形態的特徴を示し,尿pHにより出現する種類も限られるため,鏡検で鑑別可能である。しかし,類似成分や異常結晶では酸またはアルカリ溶液による溶解性の確認や精密分析なども必要である。(Figure 2.33

Figure 2.33 

各種塩類・結晶類とpHの関連性(『一般検査技術教本』(2012)3) p. 79図4-43引用)

1) 通常結晶

健常人からも検出されるため一般的には臨床的意義は少ないと考えられている。しかし,通常結晶も尿路結石症の原因やカルシウム代謝異常を示唆することがあるため注意が必要である。

① シュウ酸カルシウム結晶

無色で屈折性のある正八面体,亜鈴状(鉄アレイ状),ビスケット状,楕円状などの形状を示す結晶で,酸性尿に認められることが多いが,アルカリ性尿でも認められることがある。性状として酢酸に不溶で,塩酸で徐々に溶解する。この結晶はシュウ酸を豊富に含有している食物(ミカン類,トマト,ホウレン草,アスパラガスなど)の多量摂取後に出現することがある。尿路結石の80%を占めるシュウ酸カルシウム結石は,発生原因は不明であるが食生活と深い関わりがある。

② 尿酸結晶

無色から黄褐色の砥石状,菱形,束柱状などの種々の形状を示す結晶で,シスチン結晶やコレステロール結晶に類似する場合があり注意が必要である。酸性尿に認められ,加温や水酸化カリウム,アンモニア水で溶解する。

③ リン酸カルシウム結晶

無色から灰白色の薄い不定形の板状,束柱状などの結晶で,アルカリ性尿,中性尿,弱酸性尿に認められ,塩酸,酢酸で溶解する。

④ リン酸アンモニウムマグネシウム結晶

無色で屈折性のある西洋棺蓋状,封筒状,プリズム形などの形状を示す結晶で,アルカリ性尿,中性尿に認められ,塩酸,酢酸で溶解する。

⑤ 尿酸アンモニウム結晶

褐色の棘を有する球状結晶で,アルカリ性尿で認められることが多い。塩酸,酢酸,水酸化カリウムで溶解する。

*酸性尿酸アンモニウム結晶

形態的には尿酸アンモニウム結晶と同様の褐色の棘を有する球状結晶で,加温,水酸化カリウムで溶解する。幼児の感染性胃腸炎(ロタウイルス胃腸炎など)や過度のダイエットを背景に緩下剤の乱用時に本結石が短期間に形成され,結石による腎後性急性腎不全例などの報告が増えている。鑑別には赤外線分光分析法が用いられるが,尿ケトン体強陽性の弱酸性尿で認められる場合は,酸性尿酸アンモニウム結晶疑いとして報告する必要がある。

⑥ 炭酸カルシウム結晶

無色の無晶性顆粒状または小球状,ビスケット状の結晶で,アルカリ性尿,中性尿に認められ塩酸,酢酸で気泡を生じ溶解する。

2) 異常結晶

異常結晶は先天性代謝異常や重症肝障害などで認められるため臨床的意義が高く診断に直結する場合もある。このため異常結晶は少数でも検出したら報告する必要がある。

① ビリルビン結晶

黄褐色の針状結晶で,白血球や上皮細胞に付着して認める場合がある。ビリルビン陽性尿中に認められるが,陰性尿中にも認められる場合がある。クロロホルム,アセトンで溶解する。肝炎,胆道閉塞などの肝・胆道系疾患に出現する。

② コレステロール結晶

無色の歪んだ長方形の板状で,ネフローゼ症候群,乳び尿などで認められる。クロロホルム,エーテルで溶解する。

③ シスチン結晶

無色の六角板状結晶で,先天性シスチン尿症,Fanconi症候群で出現し,尿路結石の原因となる。シスチンは酸性尿中で溶解度が低下するため酸性尿で認められる。塩酸,水酸化カリウム,アンモニア水で溶解する。

④ 2,8-ジヒドロキシアデニン結晶

淡黄色から褐色の放射状の円形・球状結晶で,酸性尿に認められ,先天性アデニンフォスホリボジルトランスフェラーゼ欠損症(APRT欠損症)に伴う尿路結石症で出現する。尿酸塩と類似するが,加温やEDTA塩加生理食塩水では溶解しない。赤外線分光分析法やX線回析法などで同定できる。

⑤ チロシン結晶

無色針状または管状の放射状に延びた結晶で,重症肝実質障害の酸性尿に認められるといわれている。塩酸,水酸化カリウムで溶解する。

⑥ ロイシン結晶

淡黄色の同心状または放射状の円形結晶で,重症肝実質障害でまれに出現し,塩酸,水酸化カリウムで溶解する。

7. その他

1) ヘモジデリン顆粒

ヘモジデリン顆粒は生体内色素の1つで,ヘモグロビンに由来する鉄を含む黄褐色の顆粒である。ヘモジデリン顆粒は,S染色では,赤紫色に染まり,顆粒を取り込んだヘモジデリン円柱と顆粒円柱の鑑別が困難な場合がある。ヘモジデリン顆粒の証明には,Berlin blue染色が用いられる。

血管内溶血を起こす疾患では,赤血球の崩壊によりヘモグロビンが放出され,主にハプトグロビンと結合して糸球体濾過を免れるが,ヘモグロビン濃度がハプトグロビンの結合能以上に上昇すると糸球体から濾過される。糸球体濾液(原尿)に含まれるヘモグロビンは,一部が尿細管で再吸収され,細胞内で変化してヘモジデリンとなる。このヘモジデリン含有細胞は,脱落して尿中に排泄され,黄褐色のヘモジデリン顆粒および顆粒を取り込んだヘモジデリン含有細胞やヘモジデリン円柱として観察される。

ヘモジデリン顆粒は,発作性夜間血色素尿症,急性溶血性貧血,特発性門脈圧亢進症,不適合輸血,大量輸血後,人工心臓弁患者,行軍症候群などの血管内溶血を起こす疾患でしばしば認められる。

2) 混入物

尿沈渣中には尿路に由来する細胞成分だけではなく,診断や治療に使用した造影剤や潤滑油などが認められたり,男性の尿中には精液成分(精子,性腺分泌物,類でんぷん小体,レシチン顆粒など)を認めることがある。精液成分の混入は臨床的意義に欠けるが混入により尿蛋白が偽陽性となる場合があるため注意が必要である。

女性や乳児ではしばしば,採尿の際に糞便が混入する場合がある。一般に,男性では糞便の混入をみないが,直腸がんが膀胱に浸潤した直腸膀胱瘻では,膀胱と腸管が交通して糞尿を呈する。したがって,男性では混入した糞便成分を契機に直腸がんが発見される場合があるので,注意深い観察が必要である。

採尿に使用する尿コップは使用時まで清潔に保つ必要がある。ベッドサイドに放置された場合,空中に浮遊する花粉,鱗片(りんぺん),ダニの死骸など思いもつかないものが混入することがある。また,採尿バッグに付着した糞便や紙おむつなどの繊維の混入も尿沈渣の判定を誤らせることがあるので注意が必要である。

VI  尿沈渣検査の自動化―尿中有形成分測定装置運用の考え方―

今日,尿沈渣検査においては尿中有形成分情報という新たな概念に基づく分析装置が登場し,尿検査の自動化・合理化の一翼を担うようになってきた。

尿中有形成分情報の測定原理は大きく2つに分けられる。尿沈渣画像を取り込み画像解析システムによって成分分類する画像処理方式と,サイトメトリー法により成分分析する方式である。尿中有形成分分析を用いる有用性については,一般検査業務の省力化や迅速化への貢献や一部の方式での成分画像の保存による臨床への情報提供や教育の面で有用性が指摘されている。しかし,少数成分検出の精度,詳細分類の限界など尿沈渣検査と異なる特性を有していることを運用時は十分に理解する必要がある。そのため,尿定性検査結果や前回値などとの検証をシステム化するとともに,運用前に各診療科が尿沈渣検査へ求めるものと尿中有形成分情報の特性について臨床医と協議し理解を得る必要がある。

JCCLS尿沈渣検査法指針提案では,尿沈渣検査の自動化機器について,その特性を理解して用いることと明記している。つまり尿沈渣検査の機械的な自動化ではなく,新しい尿中有形成分情報であるという立場を示している。

1. 画像処理方式

いわば顕微鏡下の成分像の解析をそのまま自動化したという形であるが,課題は如何に鮮明な画像を記録し的確な成分解析をする機能を有しているかである。現状ではこの方式による成分分析において,上皮細胞や円柱の詳細な分類には機種による差はあるものの限界がある。この場合,保存された画像を技師が画面上でマニュアル分類することになるが,この画像が顕微鏡下での像と比較して満足出来るものであるかという点と,一連の運用過程が日常検査として合理的であるかが導入のポイントといえよう。

2. サイトメトリー法

成分の大きさや形,核を中心とした特徴を蛍光色素により染め分け,レーザー光に対する散乱光や蛍光を測定することで成分をスキャッタグラム上に表示し,解析するものである。この方式の特徴は,大別された出現成分の種類の分布が明確に示される点で,血球類(赤血球,白血球)以外の成分の詳細分類には限度があるが短時間に無遠心尿における含有量(個数/μL)が測定可能である。しかし,詳細分類には鏡検が必須である。

VII  尿沈渣検査の精度管理

尿沈渣検査は鏡検者の技量により結果に大きな影響を与えることから,内部精度管理の一環として各施設においての教育カリキュラムを作成し,教育を実施する。尿沈渣検査の実施にあたっては各自の鏡検の技量を把握し,必要に応じて再教育などの対応を講じる。

また,検査実施にあたっては鏡検担当者を明確にし,記録に残す。

尿沈渣検査の内部精度管理法には鏡検時の患者情報チェック,項目間チェック,前回値チェックなどの方法があり,これらの方法は検査システムを使用した実施が望ましい。また,検査システムを利用した方法として,日常検査の結果を利用した各種要因に対する陽性率・陰性率チェックなどがある。

複数の技師で同一標本を鏡検する方法としてダブルチェック方法があり,日常検体を利用する方法と教育用の固定標本を用いる方法がある。ダブルチェック方法は成分鑑別能力の向上に利用できることから教育的効果もある。近年ではwebを用いたフォトサーベイ等も実施されており,個人の鑑別能力の向上のためにこれらに参加することも重要である。近年,導入が進んでいる尿中有形成分自動分析装置の精度管理は生化学自動分析装置などと同様の手法を用いることで管理が可能である。

尿沈渣検査の外部精度評価としては,日臨技や米国臨床病理学会(College of American Pathologists; CAP)などが実施しているフォトサーベイに参加する方法がある。外部精度管理調査への参加は施設間差を把握するために重要である。また,精度管理調査に用いられているフォトサーベイなどを用いての技師間差の是正や,施設内の教育的効果も期待できる。

文献
  • 1)  CLSI (formerly NCCLS): Urinalysis; Approved Guideline―Third Edition. CLSI document GP16-A3 (ISBN 1-56238-687-5). Clinical and Laboratory Standards Institute, Wayne, PA, 2009.
  • 2)  The European Confederation of Laboratory Medicine (ECLM): “European urinalysis guidelines,” 1–96, The Scandinavian Journal of Clinical & Laboratory Investigation Vol. 60, Taylor & Francis Group, UK, 2000.
  • 3)  日本臨床衛生検査技師会:一般検査技術教本,東京,2012.
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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