医学検査
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第六部 その他の検査
第3章 睡眠検査
野田 明子宮田 聖子
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2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 95-105

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Abstract

睡眠障害・睡眠不足は認知症のリスクファクターであり,認知症の発症・重症化の予防において睡眠検査は有用である。睡眠の客観評価法として,終夜における睡眠深度・睡眠中の呼吸循環の生理現象を総合的に評価する睡眠ポリグラフ検査,睡眠覚醒リズムを評価するアクチグラフィ,過眠症の診断や治療効果の判定として実施される反復睡眠潜時検査および在宅で行うことができる簡易睡眠呼吸障害検査がある。主観的睡眠検査として,ピッツバーグ睡眠質問票およびエプワース眠気尺度は睡眠障害のスクリーニングとして日常臨床で汎用されている。また,睡眠日誌はアクチグラフィとともに概日リズム睡眠障害の診断に必須の検査である。これらの睡眠検査の臨床的意義,検査方法および評価を十分理解し,実施することが重要である。

はじめに

睡眠障害・睡眠不足は認知機能の低下と密接に関係しており,認知症のリスクファクターである1)~5)。高齢者では不眠および睡眠時無呼吸症候群など睡眠障害の頻度が高い。さらに,認知症では,加齢に伴う中途覚醒や睡眠覚醒リズムの変調など睡眠の変化がより著明となる。認知症高齢者における不眠や概日リズム睡眠障害,それに伴う夜間徘徊およびせん妄などは,認知症患者本人の健康上の問題だけでなく,介護者の負担や医療費の増大などにも関連する。また,レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder; RBD)は,レビー小体型認知症の早期徴候として認められることがあり,その診断には睡眠ポリグラフ検査が必須となる。社会の24時間化および超高齢化社会を背景として,認知症予防の観点から,睡眠検査は今後重要な位置づけになる。本稿では,主観的・客観的な睡眠検査について概説する。

1. 質問票(ピッツバーグ睡眠質問票・エプワース眠気尺度)

1) 臨床的意義

ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh sleep quality index; PSQI)は,睡眠障害のスクリーニング,経過観察や治療効果の評価,うつ病,高齢者における睡眠障害評価などに用いられる6)。エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness scale; ESS)は,眠気の主観的評価法であり,過眠のスクリーニングとして用いられる6)

2) 検査方法

PSQIは,最近1ヶ月に関する19項目の自記式項目と5項目の同室就寝者への質問からなり,睡眠の質・睡眠時間・入眠時間・睡眠効率・睡眠困難・眠剤使用および日中の眠気の7つの要素から構成され,回答を対象者が選択記入する(Figure 17)。ESSは,被検者が眠気をもたらす日常生活でよくみられる8つの状況の各々における眠気のレベル0~3点を対象者に選択記入させる。

Figure 1 

ピッツバーグ睡眠質問票問1–9(文献7)より引用)

3) 検査データ

PSQI各要素の得点は0~3点であり,総合得点0~21点が算出される。得点が高いほど睡眠が障害されていると判定し,カットオフポイントは5/6点である。ESS総合スコアは0~24点で,カットオフポイント10/11点以上は過眠が疑われる。

2. アクチグラフィ

1) 臨床的意義

アクチグラフィにより,患者の生活を制限せずに長期間の活動量を記録し,睡眠習慣や睡眠覚醒リズムの日差変動を把握することができる8),9)。また,不眠症および高齢者など検査室で眠ることのできない患者の睡眠を評価することが可能であり,入眠や起床のタイミングに問題がある概日リズム睡眠・覚醒障害の診断・治療効果判定および薬剤の副作用を評価する上で本法は有用である10)。本法は軽度認知機能障害および認知症予防を目的としたスクリーニング検査としての臨床的意義は高いと考えられる2),3)

2) 検査方法

アクチグラフは,腕時計ほどの小さな体動感知センサであり,腕(非利き手)や腰に装着し,睡眠覚醒リズムを評価する。記録期間は,1週間から数ヶ月と目的に合わせて記録される。アクチグラフを装着する患者は,就寝時間,起床時間,眠らずに寝床の中で過ごした時間,昼寝,起床時の気分,睡眠薬等の服薬,日常生活とは違った活動および機器をはずした時間などを睡眠日誌に記録する。睡眠日誌は,データ解析時,睡眠と覚醒の判別に重要である。アクチグラフに記録されたデータは,コンピューターで様々なアルゴリズム用いて処理され,自動解析後,視覚的にも確認し,覚醒と睡眠を判別する。また,治療効果判定には内因性の概日リズムを反映するメラトニン分泌量の情報があれば役立つ。通常,本法により,全睡眠時間,睡眠時間の割合,覚醒総時間,覚醒時間の割合,覚醒回数および睡眠潜時などの情報が得られる。

3) 検査データ

就寝時刻・入眠時刻および起床時刻から睡眠覚醒リズムの位相や周期の評価を行う。アクチグラムによる睡眠覚醒のパターン(Figure 2)から睡眠位相の遅れ,継続的な睡眠相の前進・後退および不規則性を視覚的に評価する。高齢者では若年成人に比べ位相が前進する。アクチグラフィの機種により,一部のソフトで客観的に周期解析ができるが,現在では基準値はない。

Figure 2 

アクチグラム

睡眠覚醒リズムの乱れ,睡眠中の睡眠の分断化を把握できる。ピンクはアクチグラフを外していた時間帯を表す。

4) 検査上の留意点

アクチグラフを装着していなかった時刻を記録させることにより,睡眠覚醒判定精度が向上する。過敏症患者の検査を施行する場合,皮膚トラブルを避けるために,アクチグラフを1日に数分間外しても良いことを説明する。光を検出できるタイプのアクチグラフでは,その角度により,光センサが十分に機能しないこともあるため,光センサを袖などで隠してしまわないように注意する。アクチグラフィは,脳波ではなく,四肢の動きから,睡眠覚醒を推定しており,睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)により定義されている睡眠指標とは異なる解釈になる。たとえば,アクチグラフィは,睡眠を過大評価し,覚醒を過小評価する。アクチグラフィは,睡眠覚醒リズムおよび入眠後の中途覚醒の評価に有用である。

5) 認知症患者への対応と注意事項

認知症の患者にアクチグラフを装着するとき,家族または介護者に十分説明し,外れてしまわないように必要に応じ装着法を工夫する必要がある。認知機能の低下により,睡眠日誌とアクチグラフィの結果に不一致が多くなるので,両法の同時評価は臨床的に意義が高い。

6) 診療報酬点数

保険適用を受けていない。

3. 睡眠呼吸障害検査装置による簡易検査

1) 臨床的意義

睡眠時無呼吸症候群が動脈硬化,生活習慣病,心血管病および精神疾患の発症や病態生理に関係することが明らかとなり11),睡眠時無呼吸症候群の早期発見・治療開始が重要なため,検査の需要は増大してきている。睡眠時無呼吸症候群の診断にはPSGがゴールドスタンダードとされているが,疑われる患者すべてに対しPSGを実施するのは困難である。検査件数の増加は重症の睡眠障害患者の検査待ちの期間が長くなることにも繋がる。本邦では,簡易検査機器による在宅検査は,睡眠呼吸障害のスクリーニングを目的として行われている。一方,米国では睡眠呼吸障害の確定診断に用いることを推奨している。

2) 検査方法

米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine; AASM)では,睡眠検査機器は,その仕様により4つのタイプに分類されており,タイプ1は検査施設で監視下において実施されるPSGであり,タイプ2–4の携帯型装置に分類される12),13)。タイプ2は非監視下において脳波を含む携帯型装置による検査,タイプ3は換気量/気流,心電図/心拍数,酸素飽和度を含む最低4チャンネルの記録装置による検査,タイプ4は酸素飽和度あるいは気流を含む1–2チャンネルの記録する検査とされている。一般的に医療機関において装着法の説明を行い,本人または家族が自宅で装着して就寝,翌日以降に機器を返却する。本邦において,多点感圧センサを有する睡眠評価装置による睡眠呼吸障害検査も現在保険適応であり,無拘束であることから認知症の睡眠呼吸障害スクリーニングとして有用性が高い。

3) 検査データ

簡易検査による睡眠呼吸障害の診断基準は現在定められていないが,睡眠呼吸障害のスクリーニングとしての位置づけであり,睡眠呼吸障害指数が15/h以上の場合,PSGの対象となる。一方,睡眠呼吸障害指数が5/h以上で15/h未満の場合も,睡眠障害関連症状がある場合(ESS ≥ 11),酸素飽和度 < 90%が5分以上持続,または心血管病の合併がある場合,睡眠障害の鑑別のためPSGが考慮される。

4) 検査上の留意点

使用する機器の特性をあらかじめ把握しておく必要がある。また,自宅で,患者自身または介護者がセンサを装着することになるため,十分な経験を有する検査技師の患者指導が必要である。わかりやすい検査マニュアルは患者が在宅で正確に検査を実施する上で役立つ。一般的に簡易検査機器では睡眠を判定できないため,睡眠効率が悪い場合,中途覚醒が多く認められる患者においては正確な睡眠時間の評価は困難であり,結果の解釈に注意する必要がある。また,低呼吸が多い場合,口呼吸の場合および日常的に側臥位睡眠の場合では,PSGとの比較において睡眠呼吸障害指数の差が大きい傾向がある。飲酒習慣のある患者では,検査室と在宅検査の睡眠呼吸障害指数の結果が大きく異なる場合がある。検査日の日常生活の把握は結果の解釈に非常に重要である。睡眠呼吸障害指数が40/h以上で閉塞性睡眠時無呼吸関連症状を有する場合,簡易検査のみで持続気道陽圧(continuous positive airway pressure; CPAP)療法の導入が可能である。重症の睡眠呼吸障害における,早期CPAP療法の導入は心血管病の予防,認知症発症の予防に極めて重要である。簡易検査でCPAP療法を導入しCPAP療法が順調に経過しない場合,PSGを考慮し,その要因および病態生理を把握することが大切である。米国の大規模研究において,睡眠呼吸障害が軽度認知障害およびアルツハイマー病の発症に関与し,閉塞性睡眠時無呼吸のCPAP療法が認知機能障害の進行を遅らせる可能性が示された14)。また,CPAP療法によって認知機能が改善し,海馬や前頭部の灰白質量が増加したことも報告されている15)。認知症予防の観点から,信頼精度の高い簡易検査による睡眠呼吸障害の診断・治療システムの構築が必須である。

5) 認知症患者への対応と注意事項

睡眠中にセンサが外れないよう工夫し,センサが外れた場合,家族または介護者に協力を得られるよう,検査方法を丁寧に説明することは重要である。

6) 診療報酬点数

携帯用装置を使用した場合 720点。

多点感圧センサを有する睡眠評価装置を使用した場合 250点。

4. PSG

1) 臨床的意義

PSGは,脳波・眼球運動・頤筋筋電図を基本とし,呼吸・心電図・酸素飽和度(pulse oximetric saturation; SpO2)・いびき・前脛骨筋筋電図・体位・体動・体温・食道内圧などの生体現象を同時記録することにより,終夜における睡眠深度・睡眠中の呼吸および循環の生理現象を総合的に評価する検査である16),17)。CPAP療法は,閉塞性睡眠時無呼吸症候群の第一選択治療であり,心血管病の罹患率や死亡率を抑制させることが報告されている。高齢者において,CPAPアドヒアランス良好な患者では,長期的なCPAP療法により認知機能低下の予防効果も認められている18)。PSGによるCPAPの適切な圧設定は治療効果において重要である。

2) 検査方法

PSGの標準的な検査手技と睡眠段階判定には,1968年RechtscaffenとKales(R&K)により標準化され広く普及していたが,2007年に作成されたAASMによる睡眠および随伴イベントの判定法が最近では広く用いられ,2012年および2016年にその改訂版も発表されている。

各睡眠段階の判定には,脳波・眼電図・頤筋筋電図が必要である。睡眠段階は30秒を1エポックとして評価する。R&Kの分類やこれを基にしたAASMのガイドラインなどいくつかの基準が存在するが,ここではAASMのガイドラインに基づく各睡眠段階の特徴およびポリグラムをTable 1Figure 3に各々示した。

Table 1  各睡眠段階の特徴
睡眠段階 特徴
覚醒(Stage W) 8–13 Hzのα波が50%以上,α波は閉眼時に後頭部領域優位,開眼により減弱
急速な眼球運動
筋電図は相対的に高電位
ノンレム睡眠
 睡眠段階N1(Stage 1) α波振幅低下,8–13 Hzのα波が50%未満
低電位でさまざまな周波数(low voltage mixed frequency; LVMF)の脳波
緩徐な眼球運動(slow eye movements)
 睡眠段階N2(Stage 2) 紡錘波(spindles)(周波数11–16 Hz,多くは12–14 Hz,持続時間は0.5秒以上),頭頂部に出現
K複合(K complex)の出現,持続時間は0.5秒以上,最大振幅は通常前頭部誘導で記録される
眼球運動はほとんど消失
 睡眠段階N3 徐波活動が1 epochの20%以上
  睡眠段階3(Stage 3) 周波数0.5~2 Hz,振幅は75 μVを超える波形が1 epochの20–50%
  睡眠段階4(Stage 4) 周波数0.5~2 Hz,振幅は75 μVを超える波形が1 epochの50%以上
レム睡眠(Stage R) 睡眠段階N1と類似したLVMFの脳波
2–6 Hzの鋸歯状の脳波(sawtooth wave),中心部で最大振幅となる
覚醒時より1–2 Hz遅いα波が出現
特徴的な急速眼球運動
筋電図は一夜を通して最も低電位になることが多い
Figure 3 

各睡眠段階のポリグラムと筋脱力のないレム睡眠

Table 1に示した各睡眠段階(Stage W,Stage N1,Stage N2,Stage N3およびStage R)の特徴が認められる(A–E)。

REM期にも関わらず頤筋電図の活動が認められた(REM sleep without atonia)(F)。

PSGに必要な脳波電極位置は前頭部(F3,F4),中心部(C3,C4)と後頭部(O1,O2)が基本であり,その配置は国際脳波学会の標準法(ten-twenty electrode system;10/20法)に従う。眼電図(electro-oculogram; EOG)として,左外眼角から1 cm下方(E1),右外眼角から1 cm上方(E2)の位置に装着した電極と右乳様突起(M2)を結ぶ2誘導(単極導出)が用いられる。頤筋筋電図(electromyogram; EMG)測定時には,正中で下顎の下縁から1 cm上方,下顎の下縁から2 cm下方で正中から2 cm右側,下顎の下縁から2 cm下方で正中から2 cm左側の3個の電極を装着する。この筋電図は,覚醒とREM睡眠を鑑別するのに重要である。また,レム睡眠中に,頤筋の持続性の筋活動または頤筋もしくは四肢筋の相動性の筋活動が1エポック(30秒)中50%以上認められると,筋脱力のないレム睡眠(REM sleep without atonia; RWA)と判定する(Figure 3F)。RWA はRBDの診断に必須の指標である。認知症発症する数年~10年以上前にRBDが出現した報告があり,RBDは神経疾患の早期徴候である可能性がある。下肢筋電図として,前脛骨筋が用いられる。周期性四肢運動(periodic limb movement; PLM)を判定するのに重要である。心電図誘導として,右鎖骨下窩を(−)とし,左肋骨下を(+)とする修正第II誘導の単独使用が推奨されている。心電図は,不整脈およびST-T変化のモニタとして用いられる。呼吸曲線は,鼻孔・口部からのエアーフロー,胸部および腹部の運動の最低3種類が必要である。これは,閉塞性,中枢性および混合性の無呼吸の分類に重要となる。また,閉塞性睡眠時無呼吸症候群においては,側臥位睡眠で重症度が軽減する例があり,他の生体現象と体位の同時記録は有用な情報を提供する。SpO2測定部位は,無呼吸および低呼吸の判定,睡眠時呼吸障害の重症度評価に重要となる。

CPAP処方圧の決定には,PSG監視下におけるマニュアル設定が推奨されている。CPAPタイトレーションを開始後,睡眠段階を観察しながら,いびき,無呼吸/低呼吸,SpO2低下時に,1–2 cmH2Oずつ圧を上昇させる。呼吸異常または覚醒反応を伴わないいびきであれば,そのまま観察可能である。適正圧は,無呼吸/低呼吸,SpO2低下,覚醒反応を消失させる圧とされる。圧が適切に設定された場合,深睡眠や長いレム睡眠(反跳現象)が認められることがある。CPAP療法の理解,マスクフィッティング,鼻閉および口呼吸などはCPAP intoleranceの要因となる19)

3) 検査データ

Table 2にPSGの睡眠変数と健常若年成人と高齢者の参考値を示した。高齢者では,中途覚醒時間の増加・徐波睡眠の減少が特徴である。若年成人では入眠後,深い睡眠が認められるが,高齢者では入眠後も睡眠段階の移行が多く,睡眠段階の1–2が増加,深睡眠は減少する。Figure 4に睡眠経過図の説明,Figure 5に軽症閉塞性睡眠時無呼吸症候群とレム睡眠行動障害,Figure 6に軽度,中等度および重症な閉塞性睡眠時無呼吸症候群の睡眠経過図を示した。睡眠経過図は1夜の睡眠時間・入眠・睡眠段階の経過・中途覚醒・レム睡眠-ノンレム睡眠周期から病態生理の把握に有用である。なお,これらのデータ収集は,中部大学倫理審査委員会および名古屋大学大学院医学系研究科/医学部附属病院生命倫理審査委員会の承認を得て行われた。

Table 2  PSGの睡眠変数と参考値
睡眠変数 説明 健常若年成人の
参考値
健常高齢者の
参考値
総記録時間(TRT) 消灯から点灯までの時間(TRT)
睡眠時間(SPT) 入眠から最終覚醒までの時間 5–8.5時間 5–9時間
総睡眠時間(TST) 睡眠時間から中途覚醒時間を除いた時間
睡眠効率 TST/TRT × 100(%) 83–98% 75–98%
中途覚醒時間 睡眠時間内における覚醒時間の総和
睡眠潜時 消灯から入眠までの時間 0–25分 1–28分
レム睡眠潜時 入眠から最初のレム睡眠までの時間
離床潜時 最終覚醒時刻から起床時刻まで
睡眠段階の出現率 各睡眠段階の総和/TST × 100(%) %Stage N1 5–20
%Stage N2 45–75
%Stage N3 10–22
%Stage R 15–25
%Stage N1 20–50
%Stage N2 35–70
%Stage N3 0–10
%Stage R 7–20
睡眠周期 第一周期は入眠から最初のレム睡眠の終了時点までの時間で,第2周期以降はレム睡眠の終了時点から次のレム睡眠終了時点までの時間 80–100分
覚醒回数 覚醒段階の回数
覚醒反応指数 1時間あたりの覚醒反応回数
無呼吸低呼吸指数 1時間あたりの無呼吸低呼吸回数 5回/h未満
酸素飽和度低下指数 1時間あたりの酸素飽和度低下回数
周期性四肢運動指数 1時間あたりの周期性四肢運動回数 15回/h未満
Figure 4 

睡眠経過図の各指標

Figure 5 

30歳台の軽症閉塞性睡眠時無呼吸症候群(上段)と40歳台のレム睡眠行動障害(下段)の睡眠経過図

軽症睡眠時無呼吸例では,睡眠段階3は1.1%であり,徐波睡眠の減少が認められた。レム睡眠行動障害例では,各睡眠段階の出現率は基準範囲であったが,睡眠後半では睡眠段階1–2の移行回数が多い傾向を認めた。

Figure 6 

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の軽症,中等症および重症の睡眠経過図と酸素飽和度の睡眠経過

閉塞性睡眠時無呼吸の重症化に伴い中途覚醒の増加および睡眠の質の低下が認められる。

4) 検査上の留意点

検査当日の昼寝,過度の運動および飲酒は禁止する。検査前数時間のカフェイン含有飲料および入浴は制限し,検査前の水分摂取は控えさせる。三環系抗うつ薬のレム睡眠抑制作用,ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・精神安定剤の徐波睡眠抑制作用は服薬中止後の反跳現象を考慮し,少なくとも2週間の休薬期間が必要とされる。検査者は,患者に検査内容・検査所要時間・検査の順序・検査の安全性などを丁寧に説明し,検査の意義を理解させるとともに検査に対する不安を和らげ,通常の睡眠が得られるよう常に注意を払う必要がある。検査が初めての被検者では,睡眠環境の変化によって中途覚醒,睡眠段階移行の増加,REM睡眠や徐波睡眠の減少が認められることがある(第一夜効果:first night effect)。

睡眠中のセンサの脱落は,被検者の睡眠の妨げとなるため,あらかじめしっかり装着し,バックアップセンサを装着するなど,夜間の介入を最低限にするようにする。記録中の緊急事態に対応できるように,患者の状態を適切かつ継続的にモニタリングできる体制を整える必要がある。緊急時の対応として,心肺蘇生法等を行えるようにしておく必要がある。

5) 認知症患者への対応と注意事項

高齢者は,様々な疾患を合併している。睡眠検査中に重篤な疾患を発症することはまれではあるが,致死的な不整脈,てんかんやけいれん発作,持続する低酸素血症,胃逆流物などによる窒息など緊急事態の対応をできるようにしておく。また,夜間せん妄,ねぼけ,パニックやレビー小体型認知症に関連するレム睡眠行動障害では,夜間の異常行動が問題となる。事故が発生しないような検査室のレイアウトを考慮する必要がある。可能であれば介護者に付き添ってもらう。

6) 診療報酬点数

3,300点。

他の検査により睡眠中無呼吸発作の明らかな患者に対して睡眠時無呼吸症候群の診断を目的として行った場合および睡眠中多発するてんかん発作の患者またはうつ病若しくはナルコレプシーであって,重篤な睡眠覚醒リズムの障害を伴うものの患者に対して行った場合に,1月に1回を限度として算定する。なお,在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料を算定している患者については,治療の効果を判定するため,初回月に限り2回,翌月以後は1月に1回を限度として算定できる。当該患者の睡眠中8時間以上連続して測定し,記録する。

5. 反復睡眠潜時検査(multiple sleep latency test; MSLT)

1) 臨床的意義

日中の眠気の客観的な評価法の一つに反復睡眠潜時検査(multiple sleep latency test; MSLT)がある。眠気の評価は過眠症の診断や治療効果の判定などに重要である20)~22)。ナルコレプシーと特発性過眠症の診断に有用である。睡眠不足,睡眠断片化および睡眠効率の低下をもたらす睡眠障害では,日中の眠気は増強するので,鑑別診断には本法が必要となる。

2) 検査方法

MSLTではPSGの手法を用いて,日中に2時間間隔で4回以上の睡眠潜時を測定する。MSLTは眠りやすさを評価する検査で,入眠時レム睡眠の検出にも用いられる。検査前夜にPSGを行い,検査終了後1.5~3時間経過してから開始し,第1回開始から2時間ごとに検査を実施する。原則として5回実施する。ただし,入眠時レム睡眠(sleep onset REM period: SOREMP)検出が目的である場合,SOREMが全く無いか,2回以上確認された場合は4回で終了しても良い。または,前日のPSGにおいてSOREMPが認められた時は,1回としてカウントしてよいことになっている。

PSGに基づき,脳波,左右の眼球運動,頤筋筋電図および心電図の記録を行う。1エポックはPSGと同様に30秒とする。検査開始後,1エポックの中で50%以上睡眠脳波が認められた場合を入眠と判定する。入眠が認められなかった場合は,開始から20分で検査を終了する。最初の睡眠エポックが観察された後は15分間記録を続ける。検査終了後,被検査者に自覚的な入眠潜時と夢見を聴取する。

3) 検査データ

健常成人の平均睡眠潜時は10~20分であり,10~15分で軽度,5~10分で中等度,5分以下で重度の眠気と評価される。レム睡眠の開始が睡眠開始後15分以内の時に,SOREMPと判定する。ナルコレプシー患者において2回以上のSOREMPの出現は診断的価値が高いとされるが,睡眠時無呼吸症患者やうつ病患者でも認められることがある。

4) 検査上の留意点

前日までの睡眠量はMSLTの結果に影響するため,検査の1週間ほど前から睡眠日誌やアクチグラフィを用いて睡眠覚醒リズムを確認する。また,中枢神経刺激薬やレム睡眠を抑制する薬物などは可能であれば2週間前までに中止することが望ましいとされている。前日の睡眠時間が6時間以下の場合,レム睡眠が増加したり,睡眠潜時が短縮したりすることもあり,MSLTの正しい結果が得られないこともある。検査当日は,アルコールおよびカフェインの摂取は禁止とする。また,非検査時には居眠りや過度の運動を禁止する。朝食および昼食は軽めとし,検査開始の少なくとも1時間前までに終了する。検査室の環境は,暗く静かであり,被検査者が心地よいと感じる室温・湿度を保つ必要がある。具体的には,照度は低く設定し,窓から光が入らず,外部からのノイズが避けられる部屋を用意する。

5) 認知症患者への対応と注意事項

PSGと同様な対応が必要となる。

6) 診療報酬点数

5,000点。

ナルコレプシーまたは特発性過眠症が強く疑われる患者に対し,診断の補助として,概ね2時間間隔で4回以上の睡眠検査を行った場合に1月に1回を限度として算定する。なお,本検査とPSGを併せて行った場合には,主たるもののみ算定する。

まとめ

睡眠不足・睡眠断片化・睡眠の質の低下・睡眠覚醒リズムの変調は認知機能・脳活動の低下をもたらす。睡眠指導とともに睡眠検査体制の充実によるこれらの睡眠障害の早期発見は認知症の予防に繋がると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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