医学検査
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66 巻, J-STAGE-2 号
認知症予防のための検査特集
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
  • 深澤 恵治
    原稿種別: 巻頭言
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 1-5
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    本特集号では,認知症予防に臨床検査がいかに役立つのかについて概説することに主眼を置いている。もちろん認知症対策において早期発見・早期治療はきわめて重要であり,その中で臨床検査も大きな役割を担っているのは明白である。日臨技においても認知症領域における臨床検査の普及や望ましい実施体制の構築に力を入れるべく,2014年度より「認定認知症領域検査技師制度」を立ち上げ,認知症の早期発見・予防・治療に臨床検査技師が多面的に参画・貢献出来るように進めているところだ。この章では認知症予防に役立つ臨床検査の紹介や認定認知症領域検査技師の役割について最新の知見も交えながら,論じてみたい。

  • 狩野 賢二
    原稿種別: 巻頭言
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 6-10
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    認知症が国民病と評される現在では,国家戦略として認知症対策が推進されるようになった。その一環として日本認知症予防学会および日本臨床衛生検査技師会が,認知症に関する専門知識を備えた臨床検査技師を育成する目的で認定認知症領域検査技師制度を構築した。認知症に関する専門知識を備えた臨床検査技師として,患者が認知症であっても安全で正確な臨床検査が実施できるように適切な対応が期待される。また,認知症という病気を知ることで患者への理解が深まり,今までできなかった対応ができるようになる。本章では,車椅子介助,歩行介助などの身体的介助,認知症特有の症状を考慮した対応,採血および生理検査の実施時に患者に負担をかけない方法で検査することを紹介した。

第一部 神経心理学的検査
  • 河月 稔
    原稿種別: 第一部   神経心理学的検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 11-21
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    神経心理学的検査とは,高次脳機能を評価するための検査であり認知症診療においては必須の検査である。認知症に伴う症状としては,中核症状と行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia; BPSD)があり,これらの症状を定量化する目的で神経心理学的検査が用いられる。神経心理学的検査は,スクリーニングとしての検査,認知症の進行度合いや治療効果の評価としての検査,鑑別診断の補助としての検査に分類することができるが,なかでもスクリーニングとしての検査は臨床検査技師が参画できる領域であると考える。代表的な検査としては改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised; HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く一般に使用されているが,マンパワーをかけずに行える方法としてタッチパネル式コンピュータを用いた簡易スクリーニング法(物忘れ相談プログラム)も推奨される。認知症の症状は様々であり,一つの神経心理学的検査で全ての症状を評価できないため評価目的により使い分ける必要がある。但し,我が国のみならず世界中で多数開発されているため,その選択は検査の信頼性や妥当性,対象疾患やその重症度等を考慮し,しっかりとエビデンスを調べたうえで導入することが望ましい。また,検査の総点数だけで評価するのではなく,どこを間違えたかを確認することで,障害されている機能をある程度推測することができるため,多面的に評価する必要ある。神経心理学的検査は医師または医師の指示により他の従事者が実施できる検査であるが,検査を熟知した者が行うことが望ましいため,認定認知症領域検査技師の認定資格を取得した技師が積極的に行っていくことを期待する。

第二部 画像検査
  • 高村 好実
    原稿種別: 第二部   画像検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 22-38
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    画像検査はその機器が高額であることや専門の撮像技術が必要なこと,さらに放射性同位元素を用いることなど,一般的な検査として施行するには多くの条件が必要であり,認知症の診断や治療を行う全ての施設において実施できるものではない。しかし,近年の撮像技術の進歩により脳の器質的変化は高い精度と分解能で画像化でき,脳の萎縮の程度については数ミリ単位での描出が可能となり,その有用性は従来にも増して高まっている。また,脳の機能撮像においても早期アルツハイマー型認知症診断支援システム(Voxel-based Specific Regional analysis system for Altheimer’s Desease; VSRAD)やメタヨードベンジルグアニジン(3(meta)-iodobenzylguanidine; MIBG)心筋シンチグラフィーは精度が高くなり,最近では認知症の原因とされているアミロイドやタウを測定し,認知症症状が出現する前の異常蛋白を捉えることも行われている。今後画像検査は早期発見から診断,治療からフォローにおいて増々その有用性が高まることが期待されている。この章では,認知症における各種画像検査について簡単な解説を加えるとともに,各認知症における各画像診断についての説明をする。

第三部 検体検査
  • 河月 稔
    原稿種別: 第三部   検体検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 39-46
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    認知症関連の脳脊髄液検査として,2012年4月の診療報酬改定に伴い,脳脊髄液中の総タウ蛋白(total tau; t-tau)とリン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau; p-tau)の測定が保険収載となった。t-tauやp-tau以外にもアミロイドβ(amyloid β; Aβ)42も重要なバイオマーカーであり,今後,保険適用となることが期待されている。基準値に関しては,報告されている研究の結果も様々で明確に設定されていないのが現状である。また,脳脊髄液中のt-tau,p-tau,Aβ42といったバイオマーカーの測定は,施設間差があることや,測定キットのLotの違いによっても結果にばらつきが生じる。日内変動がみられる項目や採取容器の種類によっても結果に影響を及ぼすことがわかっており,測定および採取条件の設定は極めて重要である。頻繁にオーダーが入る検査ではないので,費用対効果の面から自施設で測定している病院は少ないが,外注に提出するまでの検体採取からその処理までに認知症の脳脊髄液バイオマーカーについて熟知した臨床検査技師が関わることは,より信頼性の高い結果を提供するために重要であると考える。

  • 市村 輝義
    原稿種別: 第三部   検体検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 47-50
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    血液検査は,認知症の有無,分類をする上には,特異的ではないが,認知症症状を示す疾患や,認知症に似た症状をきたす疾患との識別には有用であり,認知症の原因の特性を区別する検査である。特に,血管性危険因子(高血糖,高脂血症,高血圧など)は,動脈硬化にともなう血管性認知症を予防するために,重要な検査項目となる。ここでは,糖尿病検査(血糖,HbA1c),生活習慣病検査(総コレステロール,HDLコレステロール,トリグリセライド),高血圧症関連検査などについて説明する。また,感染性認知症,二次性認知症,アルコール性認知症や身体疾患に伴う認知症など認知症に似た症状を示す疾患について述べる。

  • 河月 稔
    原稿種別: 第三部   検体検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 51-54
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    認知症の生化学的バイオマーカーとして,脳脊髄液中の総タウ蛋白(total tau; t-tau),リン酸化タウ蛋白(phosphorylated tau; p-tau),アミロイドβ蛋白(amyloid β; Aβ)42は明確な基準値は設定されていないものの,クロイツフェルト・ヤコブ病でt-tauは異常高値を示すことや,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)でp-tauは高値を示し,Aβ42は低値を示すことがわかっており,診断を支持する結果としてその有用性が確立されている。しかし,t-tau,p-tau,Aβ42は血液中での測定に関しては,一致した見解が得られておらず,これら以外の病態関連蛋白に着目した研究も進められている。本稿では,まだ確立はされていないが,将来的に期待されているADの血液バイオマーカーについて紹介する。

第四部 脳波検査
  • 髙梨 淳子
    原稿種別: 第四部   脳波検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 55-61
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    脳波検査は,脳血流障害や外傷等による脳萎縮,脳梗塞などの脳器質的障害の程度,てんかんの鑑別などを目的に実施される。記録方法はガイドラインに則り各種の導出法や賦活の反応性から異常を判定するが,年齢や各種の要因によって脳波波形は変化するためそれらの要因を考慮して評価する必要がある。認知症患者では,病態によって理解力の低下や判断力の低下,異常行動などがあり,患者の病態や行動を確認しながら臨機応変に対応することが重要である。

第五部 超音波検査
  • 伊藤 泉, 長田 美智子
    原稿種別: 第五部   超音波検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 62-73
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    認知症には,動脈硬化と深いかかわりがあり,頸動脈超音波検査による動脈硬化スクリーニングは,認知症発症のリスク評価に有用である。頸動脈超音波検査を行うにあたり,検査方法,評価方法をまとめた。

  • 八鍬 恒芳
    原稿種別: 第五部   超音波検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 74-83
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    認知症に対する超音波検査の中で,病態に直接的な関わり合いを持つ脳内の血流動態を観察する検査として,経頭蓋超音波検査がある。経頭蓋超音波検査には,パルスドプラ信号のみで頭蓋内の血流シグナルを捉える経頭蓋超音波ドプラ法(transcranial Doppler; TCD)と,一般的な通常の超音波断層像およびドプラ法により検査を行う経頭蓋カラードプラ法(transcranial color-flow imaging; TC-CFI)がある。TCDはくも膜下出血後の脳血管攣縮(vasospasm)のスクリーニングや脳塞栓症微小栓子シグナル(high intensity signals; HITS)の検出などに用いられている。TCD検査には,TCD専用の特殊な超音波機器が必要である。一方で,TC-CFI(TCCFIやTCCSともいう)は周波数の低いセクタプローブがあれば,通常の超音波診断装置にて検査が可能である。TC-CFIにより,中大脳動脈などの血流シグナルを捉え,波形解析を行うことで,認知症の進行度合いをみたり経過観察に用いたりすることができる。また,脳血管障害の有無を調べることで,認知症との鑑別や重複する疾患を認識できる。本章では,主にTC-CFIを用いた検査法と認知症病態への応用について述べる。

第六部 その他の検査
  • 河月 稔
    原稿種別: 第六部   その他の検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 84-89
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    嗅覚障害は直接的には生死に関係が少ないことや,外傷性などでない場合は症状の発現や進行が一般的に緩徐であり自覚されにくいことが原因で放置される傾向にある。嗅覚機能は,食品の腐敗への気づきや調理に関与し,ガス漏れや煙など身の危険を察知するためにも重要である。特定の認知症では嗅覚関連領域に病理学的変化が生じるため嗅覚機能の低下をきたすと考えられている。特にアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症でその報告は多く,病期の初期に障害されることがわかっている。認知機能の低下も異常な食行動を招く要因であり,認知症患者における嗅覚機能の低下を早期に発見し,アプローチすることはその後の生活の質を維持するために極めて重要である。しかし,加齢に伴っても嗅覚機能が低下することが知られており,その鑑別を正確に行うことは,現行の嗅覚検査法では困難である。一般的には,認知症の嗅覚障害のほうが重度であると報告されているが,今後,認知症の嗅覚機能の低下をより早期に発見できる検査法や,認知症患者の嗅覚障害への治療法あるいは予防法の開発が期待される。

  • 杉村 有司, 竹内 豊, 齊藤 友里香
    原稿種別: 第六部   その他の検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 90-94
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy; NIRS)検査は,近赤外光を用いて脳内のヘモグロビンの濃度変化を測定する検査法である。神経血管カップリング理論および修正Beer-Lambert則により,ヘモグロビン濃度変化を測定することで脳表層部の神経活動を間接的に測定することになる。精神科領域では治療抵抗性うつ病の診断補助検査として光トポグラフィー検査が保険診療として認められている。この保険診療では光トポグラフィー検査で得られた波形パターンから診断補助としての疾患判読を行う。今回,認知症患者(2名)について研究同意を得た上で光トポグラフィー検査を行った。光トポグラフィー検査の結果は,1名の認知症患者はMRI検査では両側海馬の強い委縮を認めていたが,健常者の平均波形に近い波形パターンを示した。もう1名の認知症患者では,診断補助としての光トポグラフィー検査で得られる典型的な波形パターンとは異なっていた。このような波形パターンが認知症に特徴的なものなのか,今後の研究に期待したい。

  • 野田 明子, 宮田 聖子
    原稿種別: 第六部   その他の検査
    2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 95-105
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2017/09/06
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    睡眠障害・睡眠不足は認知症のリスクファクターであり,認知症の発症・重症化の予防において睡眠検査は有用である。睡眠の客観評価法として,終夜における睡眠深度・睡眠中の呼吸循環の生理現象を総合的に評価する睡眠ポリグラフ検査,睡眠覚醒リズムを評価するアクチグラフィ,過眠症の診断や治療効果の判定として実施される反復睡眠潜時検査および在宅で行うことができる簡易睡眠呼吸障害検査がある。主観的睡眠検査として,ピッツバーグ睡眠質問票およびエプワース眠気尺度は睡眠障害のスクリーニングとして日常臨床で汎用されている。また,睡眠日誌はアクチグラフィとともに概日リズム睡眠障害の診断に必須の検査である。これらの睡眠検査の臨床的意義,検査方法および評価を十分理解し,実施することが重要である。

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