医学検査
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第二部 画像検査
認知症の画像診断
高村 好実
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2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 22-38

詳細
Abstract

画像検査はその機器が高額であることや専門の撮像技術が必要なこと,さらに放射性同位元素を用いることなど,一般的な検査として施行するには多くの条件が必要であり,認知症の診断や治療を行う全ての施設において実施できるものではない。しかし,近年の撮像技術の進歩により脳の器質的変化は高い精度と分解能で画像化でき,脳の萎縮の程度については数ミリ単位での描出が可能となり,その有用性は従来にも増して高まっている。また,脳の機能撮像においても早期アルツハイマー型認知症診断支援システム(Voxel-based Specific Regional analysis system for Altheimer’s Desease; VSRAD)やメタヨードベンジルグアニジン(3(meta)-iodobenzylguanidine; MIBG)心筋シンチグラフィーは精度が高くなり,最近では認知症の原因とされているアミロイドやタウを測定し,認知症症状が出現する前の異常蛋白を捉えることも行われている。今後画像検査は早期発見から診断,治療からフォローにおいて増々その有用性が高まることが期待されている。この章では,認知症における各種画像検査について簡単な解説を加えるとともに,各認知症における各画像診断についての説明をする。

I  認知症診断における画像診断の役目

認知症ではスクリーニング検査として,最初に脳の病変の有無や形態異常の確認についてCTもしくはMRI検査が行われる(Figure 1)。CT,MRIは近年装置の技術進歩が著しく,一般的な装置でも高分解能の画像が提供されており,大脳や海馬の萎縮,脳溝の開大や脳室の拡張,腫瘍や出血などの病変も高分解能での確認が可能である。また,磁気共鳴血管造影(magnetic resonance angiography; MRA)では非造影での血管描出が可能で頭部血管検査ではスクリーニングで用いられている。他にも多種あるシーケンスは疾患に合わせた撮像が可能で,早期脳梗塞での拡散強調画像(diffusion-weighted image; DWI)や神経の走行を見る拡散テンソル画像などもある。

Figure 1 

画像診断の目的と診断意義

単光子放射型断層撮影(single photon emission computed tomography; SPECT)と陽電子放射型断層撮影(positron emission tomography; PET)はそれぞれ特性を持った放射性同位元素をトレーサーとして用い,生体の代謝や神経伝達機能などの機能を画像化することができる。脳機能を観察するのには適しているが形態異常の観察は適さない。SPECTでは特徴的な脳血流状態やトランスポーターの画像化が各疾患の鑑別診断に有用であり,また,PETは糖代謝を測定するF-フルオロデオキシグルコース(18F-fluorodeoxyglucose; FDG)-PETが行われているが,近年アミロイドやタウなど認知症の原因とされている物質を測定することで早期診断に有用となる検査も登場している1)Figure 2)。

Figure 2 

画像診断の評価目的の比較

II  各画像診断検査の撮像方法と画像の特徴

1. CT検査

コンピューター断層撮影(computed tomography; CT)検査は,X線を人体に照射し組織による吸収値の違いによって断面像を画像化する検査で,1スライス毎に寝台の移動と停止を繰り返しながら行うノンヘリカルスキャンと,連続回転するX線管の中を寝台が移動し撮影を行うヘリカルスキャンがある。ヘリカルスキャンは骨周囲のアーチファクトが少ないため頭部(脳)の撮影に用いられており,撮影時間は2分ほどである。また,ノンヘリカルスキャンでは約30秒の一回の息止めによって体幹部の全てを撮影することが可能となっている。装置はX線管球,X線検出器,寝台,操作コンソールなどにより構成されている(Figure 3)。撮影方法は,造影剤を使用せずスクリーニング検査として用いられる単純CTと,ヨード造影剤を血管内に注射して,血管内の血流や臓器や組織などを高信号で描出し,病変など明瞭にコントラストをつけ詳細に描出する造影CTがある。寝台に横になってから検査時間は5~30分である。そのほかに,造影剤の注入速度を急速に行い,造影されるタイミングの違いを画像化していくダイナミックCT,造影後の造影剤の時間的変化を観察するPerfusion CT,CT Angiography,点滴静注胆嚢胆管造影法(drip infusion cholecystocholangio­graphy; DIC)-CTなどの検査がある。画像の特徴は,X線の吸収値が高いものをCT値が高いといい,金属や骨などが白いコントラストで描出され,軟部組織濃度といわれるグレーの濃度域は脳や肝臓などの各臓器,筋肉などが描出される。また,吸収値の低いものをCT値が低いといい,水に近い体液などが黒く描出される。現在は画像処理によって3次元グラフィックスを作成し,臓器と腫瘍や血管などを高精細なバーチャル画像として提供し臨床の場で大いに活用されている。

Figure 3 

CT装置(提供:シーメンス・ヘルスケア株式会社)

2. MRI検査

磁気共鳴断層撮影(magnetic resonance imaging; MRI)検査は,人体の組織を構成している元素の中で最も多い水素原子の磁石の性質を利用している。静磁場の中で一定の方向に磁場をかけると人体の水素原子は一定の方向に揃う。この磁化されたスピンに対し特定の周波数のラジオ波を照射し励起する。そのパルスの照射を止めた際に,元の定常状態に戻ろうとするスピンの緩和現象を一定のタイミングで信号を拾うと,それぞれ異なる組織の信号強度がコントラストの違いとして画像化される。つまり,一定の周波数の磁場を照射し,その共鳴現象により人体より発生する信号を画像化する検査である。電磁波を外部と遮断する磁気シールドルームの中には,寝台やマグネット,撮像部位に合わせた多彩なコイルなどがあり,シールドルーム外の操作コンソール,大型のCPU装置,チラー(冷却装置)などと合わせて装置が構成されている(Figure 4)。撮像方法は,金属の有無などを確認したのち寝台に横になりマグネット内に入る。撮像部位に合わせてコイルを装着し撮像を行う。検査時間は通常20分~1時間程度である。撮像対象部位は全身で,検査目的に合わせて2Dや3Dなどの様々な撮像法があり,水平断像,冠状断像,矢状断像の任意の断面の画像が得られる。頭部や下肢などの血管撮像(MRA)は,造影剤を用いずに3Dで撮像し血管を描出することが可能であり,胆道系には水強調画像のMRCPも必須の検査である。その他,心臓検査やスペクトロスコピー,脳機能イメージングなど特殊な検査もある。画像の特徴は,組織のコントラスト差が大きいことや複数の撮像法の組み合わせがあることなどで,臓器の位置関係や筋肉や脂肪など組織の鑑別に有用である。また,小さい病変に対しては薄いスライスにより任意の断面での撮像が可能である。さらに脳梗塞時の検査では,超急性期における梗塞部位の病変の描出が可能で,早期治療にはなくてはならないものもある。MRAは非造影のためスクリーニングから精査,フォローまで必須となっている。特に3テスラの高磁場装置を用いると細血管も描出可能で高分解能での診断が可能となっている。

Figure 4 

MRI装置(提供:シーメンス・ヘルスケア株式会社)

3. SPECT検査

単光子放射型断層撮影(single photon emission computed tomography; SPECT)検査は,単一光子を放出する核種を標識した薬剤を使用する。微量の放射性同位元素を静脈から体内に投与し,一定時間経過後にそこから放出される微量のγ線を身体の周りを回転するガンマカメラ(検出器)によって計測し,脳や心臓などの機能を集積の分布の差として画像化する。投与した放射性同位元素(ラジオアイソトープ)から放出される放射線(γ線:ガンマ線)を検出し画像化する検査で,装置は検出器,寝台,操作コンソールなどで構成されている(Figure 5)。撮像方法は,まず寝台に横になり静脈から薬剤を注入する。身体の周りを,ガンマカメラを回転させながら撮影し画像化する。画像の特徴は,脳の血流や代謝の情報が得られる機能診断である。それがCT,MRIと異なるところである。脳血流SPECT検査では,99mTcなどの放射性医薬品が脳血流の多い部分には集積し,血流が乏しい部分では集積が低下する血流分布の違いを画像化している。

Figure 5 

SPECT装置(提供:シーメンス・ヘルスケア株式会社)

4. PET検査

陽電子放射型断層撮影(positron emission tomography; PET)検査は,消滅放射線を生成する陽電子放出核種を標識した薬剤を使用する。注射により体内に投与した放射性同位元素(ポジトロン)と,合成したフルオロデオキシグルコース(18F-FDG; FDG)やPittsburgh Compound B(11C-PIB; PIB)などの集積の状態を,PET装置で放射線(γ線)を検出し体内分布を画像化する検査である。生体機能を画像として捉え,アルツハイマー型認知症の早期診断や鑑別診断で役立つ。装置は同時計数管や寝台,操作コンソールで構成されている(Figure 6)。撮影方法は,5~6時間絶食したのちFDGやPIBとポジトロン核種を合成した薬剤を静脈注射し,1時間ほど安静にしたのち寝台に横になり30分程度撮影する。画像の特徴は,投与されたFDGは正常細胞にも取り込まれるが,がん細胞は正常細胞に比べて数倍のブドウ糖を取り込み組織に集積される。健常者のFDG-PET画像では,脳の灰白質密度とブドウ糖代謝はよく相関しているため,大脳皮質,小脳皮質,中心灰白質,視床での取り込みが高い。大脳皮質では後頭葉や後部帯状回,楔前部での集積が高く,逆に内側側頭葉の集積は他の領域と比較して低い。脳血流SPECTと比較すると,FDG-PETでは小脳皮質への集積が大脳皮質より低い傾向にある。また,上部頭頂葉の糖代謝は健常高齢者においても低い傾向にある。アミロイドPETでは,アミロイドβにPIBが取り込まれるため,脳組織へのアミロイドβの蓄積の有無が分かる。タウPETでは,11CPBB3の集積部位が初期には海馬付近で認められ,アルツハイマー病を発症して重症化するに従い,大脳辺縁系全体,さらに,大脳皮質の広い領域へと拡大する。

Figure 6 

PET装置(提供:シーメンス・ヘルスケア株式会社)

III  脳解剖画像

1.MRIの脳正常解剖画像を以下に示す(Figure 7A, B)。

Figure 7A 

脳の正常解剖画像(MRI)

Figure 7B 

脳の正常解剖画像(MRI)

2.MRAの血管走行画像を以下に示す(Figure 8)。

Figure 8 

MRAの脳血管画像

3.脳CTでの基準線は,眼窩中心(外眼角)と外耳孔を結ぶ眼窩耳孔線(orbitomeatal base line; OM line)が,脳MRIでの基準線では前交連と後交連を結ぶ線(AC-PC line)が主に用いられる。

IV  各疾患別画像検査の画像所見と臨床的意義

1. アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)

1) MRI

アルツハイマー型認知症における形態学的変化は,前頭葉,側頭葉,頭頂葉に萎縮が認められ,特に海馬や海馬傍回を含む側頭葉内側の萎縮があり,それらを反映した側脳室下角の拡大が特徴の一つである1)~3)。後頭葉と小脳には萎縮がないことが多い3)Figure 9)。

Figure 9 

アルツハイマー型認知症の画像検査

MRI T1,IMP-SPECT,3D-SSPで解析した脳血流低下を示すZスコアマップ(全脳をリファレンス)

(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

海馬や海馬傍回を対象とした撮像での冠状断は1 mm程度の薄いスライスでの撮像が可能なため,萎縮の程度をみる形態学的変化の描出に優れており4),側頭葉内側の萎縮を視覚的に評価しやすくなっている2)

① Voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer’s disease(VSRAD)

VSRADはMRIで得られた脳の容積をボクセル単位でコンピューター解析する画像統計解析法で,早期アルツハイマー型認知症特有の内側側頭部の萎縮の形態画像情報を解析し診断支援情報に変換するシステムである1),4)~6)。VSRADを用いて解析をすると,voxel-based morphometry(VBM)手法を用いて簡単に海馬および海馬傍回の萎縮の程度を数値で評価できる4)~7)。画像データベースの平均画像と標準偏差画像から算出されるZスコアが2以上であれば,アルツハイマー型認知症を支持する明らかな萎縮があると判定される1)~3),6)Figure 10)。PVLやPVHは,アルツハイマー型認知症でも認められるが,程度は血管性認知症と比べると軽度のことが多いとされている2)。これらVSRADの結果によってアルツハイマー型認知症の診断を行うことはできない。あくまで補助診断として用いられる7)

Figure 10 

VSRADによる解析(市立宇和島病院報告例)(提供:エーザイ株式会社)

2) SPECT

アルツハイマー型認知症が疑われる段階では側頭葉と頭頂葉の集積低下が中心となる1)。一次知覚運動野,基底核,視床,小脳の血流は保たれているのが特徴である2),3)。認知症の程度が進むと前頭葉の血流低下が進んでくる2)。若年性アルツハイマー型認知症症例では側頭葉内側の萎縮変化が認められず,側頭頭頂皮質で集積低下をきたしていることが多くSPECT画像が有効とされている1)

また,脳血流SPECTの画像統計解析であるThree-Dimensional Stereotactic Surface Projections(3D-SSP)は,健常例を正常対象群として,対象の症例の統計学的解析を行い,有意差の有無をZスコアとして脳表面上に投影している1),3)Figure 9)。この方法では,萎縮による見かけ上の低集積を除外でき萎縮の影響が軽減される1),3)。集積低下域の広がりを3次元的に観察でき早期アルツハイマー型認知症の診断に用いられている。この血流画像の頭頂葉内側および後部帯状回での血流低下が診断を支持する所見とされている3)

3) PET

アルツハイマー型認知症における所見は,大脳皮質のうち頭頂側頭連合野および後部帯状回から楔前部にかけての糖代謝の低下である。進行した時期になると前頭連合野の代謝の低下が明らかとなってくることが多い1)Figure 11)。FDG-PETはSPECTよりも空間分解能が高いため,所見が明瞭で診断精度は優れている。PETの断層画像は軽度の糖代謝低下を視覚的に評価するのは難しいが,3D-SSPやSPMといった統計画像解析を用いると認識が容易となる1)

Figure 11 

アルツハイマー型認知症のPET画像(提供:エーザイ株式会社)

2. レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies; DLB)

1) MRI

前頭葉,側頭葉,頭頂葉に萎縮が認められる。側頭葉内側の萎縮はアルツハイマー型認知症と比べて軽度とされており,海馬の萎縮はあまり見られない。そのため側脳室下角の拡大は目立たない(Figure 12)。MRIによる形態画像のみではアルツハイマー型認知症との鑑別は困難である。

Figure 12 

レビー小体型認知症の画像検査

MRI T1,IMP-SPECT,3D-SSPで解析した脳血流低下を示すZスコアマップ(全脳をリファレンス)

(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

2) SPECT

脳血流SPECTは,123I-IMPなどの放射性医薬品を体内に静注し,脳組織への集積により脳血流分布の状態を観察する。レビー小体型認知症では後頭葉の血流低下が特徴的とされている6)Figure 12)。これはアルツハイマー型認知症では見られない。しかし,後頭葉の血流低下が見られなくてもレビー小体型認知症の否定はできない1)。また,側頭葉と頭頂葉においても血流の低下が見られる。

123I-MIBG心筋シンチグラフィの所見は,心臓への取り込み低下が見られることである。MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)はノルアドレナリンとよく似た物質で,心筋の交換神経末端からこの物質を取り込み,心臓交感神経機能をみる検査で,レビー小体型認知症では交感神経節後線維の障害が認められるためMIBGの取り込みが低下する(Figure 13)。MIBGシンチグラフィの異常はほぼレビー小体型認知症に限られ診断価値が高い。

Figure 13 

MIBG心筋シンチグラフィ画像

赤で囲まれた心臓の取り込みが少ない。(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

3) PET

後頭葉で取り込み低下が認められる1)

4) ドーパミントランスポーターイメージング

パーキンソン病,レビー小体型認知症における黒質線条体ドーパミン神経の脱落の有無により,アルツハイマー病などの別の認知症との鑑別を行う。

レビー小体型認知症は黒質にある細胞が変性して働きが弱くなる。黒質では神経伝達物質であるドーパミンが作られ,線条体という部分を通って広がり,そこから大脳基底核とそれに指令を与える大脳皮質に枝を伸ばしてドーパミンを分泌する。DAT scanは黒質線条体にあるドーパミントランスポーター(dopamine transporter; DAT)に結合する性質をもっており,DAT scanを注射してSPECT撮影をすることで,ドーパミントランスポーターの脱落の有無をみる(Figure 14)。パーキンソン病,レビー小体型認知症では,神経終末に存在するドーパミントランスポーターが減少する。

Figure 14 

ドーパミントランスポーターイメージング

イオフルパンSPECT(DaT scan)

(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

3. 前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia; FTD)

1) MRI

前頭葉,側頭葉の顕著な萎縮がある1)。Silvius裂の拡大が見られる場合もある。海馬や偏桃体の萎縮も強い。意味性認知症と非流暢性失語では優位半球の側頭葉に顕著な萎縮が認められることが多い2)Figure 15)。

Figure 15 

前頭側頭型認知症の画像検査

MRI T1,IMP-SPECT,3D-SSPで解析した脳血流低下を示すZスコアマップ(全脳をリファレンス)

(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

2) SPECT

前頭葉と前部側頭葉を中心に強い血流低下が認められる1),3)。頭頂葉の血流低下は認められない(Figure 15)。意味性認知症と非流暢性失語では,前頭葉と側頭葉の優位半球側の血流低下が顕著で,左右差が認められる2),3)

4. 血管性認知症(vascular dementia; VaD)

1) MRI

脳血管障害により認知症が発症した場合は,MRIで梗塞巣を確認し診断する。急性期脳梗塞の場合は拡散強調画像(DWI)で,また,急性期以外は主にFLAIRかT2強調画像で診断される(Figure 16)。梗塞巣はそれぞれ正常部位に比し高信号で描出され,梗塞のタイプ,大きさ,部位,さらに梗塞巣の発生時期などにより画像所見は様々で多彩な所見を示す(Figure 17)。我が国では,基底核部や白質に多発性の病巣を認める血管性認知症が多いとされている2),3)

Figure 16 

血管性認知症の画像検査

MRI T2,IMP-SPECT,3D-SSPで解析した脳血流低下を示すZスコアマップ(全脳をリファレンス)

(画像提供:日本医科大学武蔵小杉病院認知症センター 北村伸先生)

Figure 17 

血管性認知症の画像検査

左/DWI画像:両前頭葉に皮質下主体に異常高信号が多数出現している。

右/MRA画像:末梢動脈の描出が乏しい。

2) MRA

MRAは非造影で血管を描出する方法であるが,撮像は血流量や流速を反映し梗塞巣では血管の走行や血流量が乏しいことが多く血管の描出が弱いものが多い(Figure 17)。

3) CT

CTでの脳室周囲の低吸収域(PVL)やMRIでの高信号域(PVH)などの深部白質病変は血管性認知症と関連があり,皮質下血管性認知症では特徴の一つである。

4) SPECT

脳血流SPECTでは,脳血管障害の病巣に応じてさまざまな脳血流低下パターンが認められる2),3)。多くは病巣およびその周囲での血流低下があるが,病巣から離れた部位でも血流の低下が認められることがある2),3)Figure 16)。Crossed cerebellar diaschisisにより病巣の対側小脳で血流低下を認めることもある3)

基底核や白質に多発する小梗塞による血管性認知症やビンスワンガー型認知症では,基底核領域と前頭葉皮質の血流低下パターンが特徴とされている2)

[認知症と関連のある病巣]

認知症と関連ある血管障害の病巣部位には,中大脳動脈領域ほぼ全域にわたるような皮質と白質を含む広範な病巣や,境界領域にある多発性の皮質梗塞巣や多発性の皮質および皮質下出血や基底核と白質の多発性の小梗塞巣があり,さらに,認知機能に関連した領域である視床,海馬,帯状回などに限局した病巣(梗塞および出血)などがある1)

5. 軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)

1) MRI

MCIにおける研究では,non-converterに比較して,converterでは海馬や嗅内野の萎縮が目立つと報告されている1)。局所的な皮質や白質の萎縮性変化の正常域と異常の境界は不明瞭であり,形態の個体差や年齢によっても変化が著しいとされている1)

2) SPECT

初期のアルツハイマー型認知症やアルツハイマー型認知症へコンバートするMCI患者においては,嗅内皮質や,海馬傍回後部皮質と解剖学的に密接な繊維連絡を有する帯状回後部や楔前部での糖代謝や血流低下が見られるとされている1)

V  認知症の原因となりうる疾患における画像所見

1. 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus; iNPH)

CT・MRIにおいて側脳室に対称的に顕著な拡大を認めるが脳実質の萎縮はない(Figure 18)。外側溝や局所的な側溝に拡大などが認められるが,高位円蓋部の脳溝に拡大がないのが特徴である2)。冠状断では高位円蓋部の脳溝の狭小化,シルビウス裂の不釣り合いな拡大が確認できる。特発性正常圧水頭症ではアルツハイマー型認知症を合併していることがある2)。診断上特に重要なのは,冠状断で前頭葉の高位円蓋部が頭蓋骨と密に接して隙間が少ないこと,島皮質を上から覆う前頭頭頂弁蓋部と下方から覆う側頭弁蓋の間をなす間隙であるシルビウス裂の開大である。SPECTでは大脳半球内側面で脳が特に圧縮を受ける上前頭回後部から後頭葉にかけての脳血流の上昇である。

Figure 18 

正常圧水頭症のMRI画像

左/FLAIR画像,右/T2冠状断画像にて側脳室の拡大を認める。PVH(+)

2. 大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration; CBD)

CT・MRIで大脳皮質の萎縮が認められ,前頭葉と左右差のある頭頂葉の萎縮が特徴的である2)。脳血流SPECTでは,基底核,前頭葉,頭頂葉に血流低下を認め,頭頂葉の血流低下にも左右差を認めることがある2)

3. 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy; PSP)

MRIで大脳皮質の萎縮,中脳及び小脳の萎縮が特徴的である3)。大脳皮質の萎縮は前頭葉が主体で程度は強くないことが多い。中でも特徴的な所見は中脳被蓋の萎縮でMRIの矢状断で描出される。萎縮により中脳被蓋は鳥のくちばしのように見える。(ハチドリ徴候)2),3)。第三脳室の拡大は早期から認められ診断の助けとなる2)。脳血流SPECTでは中脳と前頭葉の血流の低下が認められ,FDG-PETによる研究では,中脳と前頭葉の糖代謝の低下が示されている2),3)

4. クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)

MRIのDWI(拡散強調画像)での病初期より大脳皮質や大脳基底核,視床の高信号が特徴である2),6)。病期によってはDWIの高信号域は大脳皮質全体に認められる(Figure 19)。

Figure 19 

クロイツフェルト・ヤコブ病のMRI画像

左/DWI画像:側頭葉後頭葉の両側大脳皮質に異常高信号を認める。

右/FLAIR画像:側頭葉後頭葉の両側大脳皮質に異常高信号を認める。

5. 慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma)

診断的にCTやMRIが有用である。いずれにおいても,硬膜下に血腫像,またはmidline shiftを認める6)Figure 20)。CTでは受傷からの時期によっては血腫像が不鮮明な場合(isodensity)もあり注意を要する。追加の精査にはMRIを実施する。多くは片側に血腫が存在するが,ときとして両側に見られることもあり注意を要する6)

Figure 20 

慢性硬膜下血腫のMRI画像

FLAIR画像:左硬膜下に血腫を認める。左大脳半球は軽度圧排されている。

6. 脳腫瘍(brain tumor)

脳腫瘍の検査には,CT検査・MRI検査などの画像検査が有用で,この2つの検査でほぼ診断することができる。MRIでは主にT1強調画像,T2強調画像,FLAIR画像を撮像したのち,ガドリニウム造影剤を静注しT1強調画像を撮像して腫瘍の位置を確認する(Figure 21)。

Figure 21 

脳腫瘍のMRI画像

左/FLAIR画像:右頭頂葉に浮腫を伴う腫瘤を認める。

右/T1強調画像:ガドリニウム造影剤で45 × 25 mm大の腫瘤を認める。

VI  認知症におけるこれからの画像検査

1. アミロイドPET

アミロイドPETは,認知症の原因物質とされているアミロイドβの脳内沈着を非侵襲的に画像化できる診断技術である1),8)。脳にアミロイドが沈着しているとPIBと結びつくため薬剤の集積量により明瞭に描出される(Figure 22, 23)。

Figure 22 

アルツハイマー病患者のタウPET画像とアミロイドPET画像

(量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所HP8)より引用)

Figure 23 

臨床研究で得られたMRIおよびPET画像

(量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所HP8)より引用)

2. タウPET

アルツハイマー型認知症は発症の20年ほど前からアミロイドβが脳に蓄積しはじめ,続いてタウの蓄積が始まり,これらの病理変化によって神経伝達異常,神経細胞の死滅,認知機能障害に至るとされている1),8)。タウはアルツハイマー型認知症以外の変性性認知症でも蓄積が見られ,神経細胞死や記憶障害とより密接に関連しているとされている。現在,神経原線維変化したタウに選択的に結合する放射性薬剤の11CPBB3(Pyridinyl-Butadienyl-Benzothiazole)が開発され,タウPETによって脳内のタウの蓄積量を可視的に把握できるようになった8)Figure 22, 23)。アルツハイマー型認知症患者ではアミロイドβではなくタウが海馬を中心に集積し,病気の重症度が増すにつれ周辺まで広がっている8)とされるなど,今後のさらなる研究開発で治療に結びつくことが大いに期待されている。

VII  画像検査を実施する際の留意点

画像検査でCT,SPECT,PETは放射線を用いるため,臨床検査技師が実際に施行できる検査はMRIに限られる。MRI検査で最も注意すべき点は金属持ち込みにある。MRI装置で患者が入るマグネットは強力な磁石でできており,非磁性体の金属は持ち込めるが,万が一磁性体を持ち込んだ場合は装置に吸引され,患者や操作者のケガや装置の故障など重大な事故を招く恐れがある。また,患者が手術やケガなどによって体内へ金属を入れている場合や,ペースメーカーや脳動脈クリップなどが装着されている場合は,MRI対応型でない場合や金属の種類,大きさなどによっては検査ができない場合がある。検査中は体温の上昇,火傷などの問題も発生することがあるので検査には十分な注意を払う必要がある。また,放射線を使う装置の最も大きい問題は被曝である。患者も操作者も安全性を担保しながら検査を行ってはいるが,常に過剰な被曝をする危険性が伴っていることを忘れないようにしなくてはいけない。

VIII  認知症患者に画像検査を行う際の留意点

認知症患者に画像検査を行う場合に留意すべき点は,患者に検査についての説明を無理に理解させようとしないことである。検査を行う操作者はつい検査を完遂させることを考えてしまいがちである。認知症以外の患者については,多少理解力の伴わない場合でも丁寧な説明によって状況を把握でき,検査を行うことを受け入れてもらう場合がほとんどである。しかし,認知症患者の場合は検査についての理解が得られない場合が多く,それを無理に理解してもらおうと説明を繰り返したら逆に拒否感が強くなっていく場合が多い。また,認知症のタイプによっては検査途中に体動が激しくなりマグネットなどドーム内で危険を伴う場合もある。いずれにしても,患者の家族や付き添いの方に検査の説明を行い,その説明を患者に話していただくことが最もよい方法である。さらに,検査時には家族や付き添いがスタッフと一緒にマグネットルームに入り,患者に付き添いながら検査を行うことも対応策の一つである。MRIなど長時間の検査では動きのアーチファクトが伴い診断が困難な画像となる場合があり,そのような場合はシーケンスの選択や撮像時間の短縮など撮像操作におけるテクニックも必要となる。

IX  まとめ

認知症の画像検査は目的に応じた適切な組み合わせによって診断されている(Figure 24)。認知症の否定,認知症の早期発見,認知症タイプの鑑別,認知症の経過の判定など,いずれも正確な診断に結びつけることが私たちの大切な目的である。その前に最も大切なことは,これらの検査を受ける認知症患者に対して恥ずかしさや怒り,取り繕いなどの心の変化を生じさせないことである。スタッフの対応いかんでは検査が困難になる場合が少なくない。よって,患者の気持ちを考慮すること,できるだけ頑張って取り組んで頂けるよう工夫すること,これらが当たり前のようにできるための知識を持ち業務を行っておくことが,検査技師として病院スタッフとして今必要とされている。

Figure 24 

各画像検査の目的

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  武田 雅俊,他:認知症の脳画像診断 早期検出と鑑別をめざして 第1版,1–172,西村 恒彦,武田 雅俊(編),メジカルビュー社,東京,2015.
  • 2)  日本認知症予防学会(監修):認知症予防専門士テキストブック 第1版,1–304,浦上 克哉,他(編),メディア・ケアプラス,東京,2013.
  • 3)   北村  伸:「認知症診断に必要な検査法,画像検査(CT/MRI,SPECT/PET)」,Medical Technology, 2013; 41: 264–269.
  • 4)   櫻井  圭太,他:「MRIによるアルツハイマー病の診断」,Pharma Media, 2014; 32: 13–17.
  • 5)   櫻井  圭太,他:「MRIによる認知症性疾患の診断,特集 高齢化社会と脳疾患―認知症の画像診断」,映像情報メディカル,2013; 45: 498–504.
  • 6)  松田 博史,朝田 隆:ここが知りたい認知症の画像診断Q&A 第1版,1–207,松田 博史,朝田 隆(編),harunosora,神奈川,2014.
  • 7)  松田 博史:早期AD診断支援システム,VSRAD advance(エーザイ社製品資料),1–46.
  • 8)  独立行政法人放射線医学総合研究所:認知症で神経細胞死を引き起こす異常タンパク質の生体での可視化に世界で初めて成功―タウタンパク質病変を画像化するPET薬剤を開発―.http://www.nirs.qst.go.jp/information/press/2013/09_19.html
 
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