医学検査
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第五部 超音波検査
第1章 頸動脈超音波検査
伊藤 泉長田 美智子
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2017 年 66 巻 J-STAGE-2 号 p. 62-73

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Abstract

認知症には,動脈硬化と深いかかわりがあり,頸動脈超音波検査による動脈硬化スクリーニングは,認知症発症のリスク評価に有用である。頸動脈超音波検査を行うにあたり,検査方法,評価方法をまとめた。

I  臨床的意義

血管性認知症は,脳梗塞や脳出血といった脳血管障害が原因となり発症する認知症であり,動脈硬化と深いかかわりがある。

また,アルツハイマー型認知症においても,動脈硬化の危険因子である高血圧,糖尿病,脂質異常症などが発症リスクを増加させることが知られており,動脈硬化の早期発見は脳血管障害,虚血性心疾患のみならず,認知症発生予防の観点からも極めて重要である。

頸動脈超音波検査は,非侵襲的で,手技が比較的簡便であり,動脈硬化の進行度や脳血管障害の発生リスクを有する頸動脈病変の有無を評価していくうえで有用な検査である。

II  検査方法

1. 頸動脈の解剖

頸動脈超音波検査を行うにあたり,頸部血管の解剖(Figure 1)を理解しておくことは必須である。

Figure 1 

頸部血管の解剖

大動脈弓部より腕頭動脈が分岐し右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれるが,左は大動脈弓部から直接左総頸動脈と左鎖骨下動脈が分岐する。

総頸動脈は第4頸椎レベル(個人差あり)で圧受容体などが存在する膨隆部(頸動脈洞)を形成し,内頸動脈と外頸動脈に分かれる。内頸動脈は後方・体深部に向かい,外頸動脈は前方・体表面に向かって走行する。

椎骨動脈は左右の鎖骨下動脈から分岐し,第6頸椎より頸椎の横突起間を走行する。

頭蓋内を栄養する血管は内頸動脈と椎骨動脈であり,内頸動脈は前頭葉・頭頂葉・側頭葉を,椎骨動脈は後頭葉・脳幹・小脳を栄養している。外頸動脈は起始部付近で上甲状腺動脈を分岐後,舌動脈,顔面動脈,浅側頭動脈などを分岐し,主に頭皮・頭蓋骨・硬膜など頭蓋外を栄養している。

脳底部では内頸動脈と椎骨動脈の枝が連絡して輪状の動脈吻合(Willis動脈輪)が形成されており,大脳動脈はすべてこの動脈輪を介して交通することができるため,どこかが閉塞した場合に迂回路として機能することができる(Figure 2)。

Figure 2 

脳底部の内頸動脈枝と椎骨動脈枝

内頸動脈は,頭蓋内で最初の枝である眼動脈を分岐後,前大脳動脈・中大脳動脈に分岐する。

椎骨動脈は後下小脳動脈を分岐後,頭蓋内に入り左右が合流して1つの脳底動脈となる。脳底動脈からは前下小脳動脈を分岐し,その後,2本の後大脳動脈に分かれる。

頸動脈超音波検査で観察できる範囲は限られているが,末梢や中枢側の病変を推定することもでき,得られる情報量は多い。

2. 検査を始める前に

1) プローブの選択

一般的に高周波のリニア型プローブを用いる。プローブの中心周波数は内中膜複合体の計測精度を考慮し7 MHz以上が必要である。内頸動脈深部や鎖骨下動脈など深部を観察する際には,コンベックス型やセクタ型,マイクロコンベックス型のプローブが有効である。特にマイクロコンベックス型のプローブは深部を描出でき解像度も高く深部の観察には有用である。また,セクタ型プローブは高速血流を捉えるのに適している。

2) 患者体位

検査時の体位は,基本仰臥位で枕は外し,頭がやや後屈した状態とする。患者の肩に丸めたバスタオルを入れてあげると,後屈状態をとりやすい。顔は観察側と逆方向にやや傾けた状態にすると頸部を広く確保できる。必要以上に顔を傾けると胸鎖乳突筋を緊張させてしまい,アプローチが困難になる。

3) 画像の表示方法

短軸断面では画面左が患者の右になるように表示し,長軸断面では一般的には画面左が中枢側(心臓側),右が末梢側(頭側)となるように表示する。しかし,長軸断面は,学会などによって表示方法の推奨が異なるため施設内での統一が必要である。

3. 観察方法と条件設定

1) Bモード断層像の観察

血管壁の内中膜複合体が明瞭に描出され,血管内腔が黒く抜けるようにゲインやダイナミックレンジで画像調整し,フォーカスポイントを観察対象に合わせ,短軸断面・長軸断面で観察を行う(Figure 3)。ダイナミックレンジは低輝度プラークから高輝度プラークを描出できるように70~90の間で調整する。

Figure 3 

Bモードの条件設定

A:血管内腔が黒くぬけ,内中膜複合体が明瞭に描出されている。フォーカスポイントも観察対象に合っている。

B:ダイナミックレンジが高く白と黒のコントラストのつかない画像となり微妙な差が表示されていない。またフォーカスポイントが観察対象に合っていない。

短軸走査は病変の検索に有効であり,内中膜複合体の厚さの計測,プラークの有無,狭窄・閉塞の有無,血管走行などの観察を行う。必ず,頸部の前方と側方(後方)の2方向以上から観察し,描出不良な領域を補うように観察することが大切である(Figure 4)。

Figure 4 

短軸走査による2方向以上からの観察

Aの前方から描出し得られた画像の血管側面は,超音波ビームが平行に入り内中膜複合体が明瞭に得られない。プローブをスライドさせBの後方から観察することにより,超音波ビームが直交する断面で観察することができる。

長軸走査では,短軸走査で描出された病変部の性状や位置の確認,長軸方向への病変の広がりなどを観察する。

観察時に内頸動脈,外頸動脈の鑑別に迷うことがあるが,鑑別方法を参考に判断する(Figure 5)。

Figure 5 

内頸動脈と外頸動脈の同定方法

血管同定で最も重要な違いは,分岐血管の有無である。外頸動脈はいくつかの分岐血管を有するが,内頸動脈は頭蓋内に入るまで分岐血管を持たない。

2) カラードプラ法での観察

Bモード画像にカラードプラ法を併用することで,より詳細な血管内腔の情報が得られる。Bモードでは捉えにくい低輝度プラークの評価,潰瘍性プラークの有無,狭窄率の計測,血流方向確認などに有効であり,必要に応じてカラードプラ法を併用する。

カラードプラ法の設定は一般的にはプローブに向かってくる血流は赤,遠ざかる血流は青と設定する。

画像調整は,血管内腔に沿って血流シグナルが満たされるようにドプラゲインを調整し(Figure 6),検査対象となる血管の血流速度に応じて流速レンジ(総頸動脈30 cm/s前後,椎骨動脈20 cm/s前後)を調整する(Figure 7)。

Figure 6 

ドプラゲインの調整

A:血流シグナルが表示されていない部分がある。

B:血管内腔に沿って血流シグナルが表示されている。

C:血管壁や血管外にもカラー表示されている。

Figure 7 

流速レンジの調整

A:折り返し現象(aliasing)が生じモザイク状のカラー表示となっている。

B:適正

C:低流速の血流シグナルが乏しい。

適正に調整してあるにも関わらず,部分的にモザイク状の血流シグナルが検出された場合,その部位の狭窄が考えられる。また,血流速度が非常に低い場合,血流シグナルが検出されないことがあるため,流速レンジを下げ,カラーゲインを上げ確認する。

スラント機能を用いることでドプラビーム入射角度(血流方向とドプラビームがなす角度)を小さくできるが,スラント機能に依存しすぎるとドプラ感度が低下し,深部領域の血流は検出されにくくなる(Figure 8)。ドプラ入射角度を小さくするためにはプローブ走査の工夫が必要である(Figure 9)。

Figure 8 

スラント機能

A:適正

B:カラー感度低下し,血流シグナルが表示されない。

C:短軸断面でのカラードプラ法併用時は,スラント機能は用いない。

Figure 9 

ドプラ入射角度を小さくするための工夫

長軸走査

A:血管が平行に描出され,ドプラ入射角度は90度と大きい。

B:プローブの片方を圧迫することで血管を傾斜させ,ドプラ入射角度を小さくできる。

短軸走査

C:血流方向とビームが直交し,ドプラ入射角は90度と大きくカラー感度低下。

D:プローブを傾けることにより,ドプラ入射角度を小さくできる。

3) パルスドプラ法での観察

総頸動脈,内頸動脈,椎骨動脈の血流速度の測定を行う。内頸動脈の測定部位は血管径が一定となった領域で行い,屈曲や蛇行がある部位での計測は避ける。椎骨動脈は,椎骨横突起間で測定するのが望ましい。

血流波形から中枢側や末梢側の血管病変の推察も可能となるため,頸動脈の正常血流パターンを知っておくことは大切である。健常者の正常血流パターン(Figure 10),および年代別の総頸動脈,内頸動脈および外頸動脈における血流速度とPI値(Table 12)を提示する。

Figure 10 

頸動脈の正常血流パターン

内頸動脈と椎骨動脈は拡張期流速が早い。これは,脳の栄養血管で豊富な血流を必要とするため末梢血管抵抗が低いことを表している。

Table 1  年代別の総頸動脈,内頸動脈および外頸動脈における血流速度とPI値
PSV(cm/s) EDV(cm/s) TAMV(cm/s) PI
総頸動脈 20–30歳(n = 24) 101 ± 22 25 ± 5 40 ± 6 1.89 ± 0.39
40–59歳(n = 24) 89 ± 17 26 ± 5 42 ± 7 1.51 ± 0.37
60–85歳(n = 30) 81 ± 21 20 ± 7 36 ± 10 1.75 ± 0.31
内頸動脈 20–30歳(n = 24) 72 ± 18 26 ± 5 39 ± 7 1.16 ± 0.30
40–59歳(n = 24) 65 ± 10 26 ± 5 38 ± 6 1.04 ± 0.20
60–85歳(n = 30) 58 ± 11 20 ± 5 33 ± 8 1.20 ± 0.21
外頸動脈 20–30歳(n = 24) 86 ± 14 16 ± 4 30 ± 5 2.32 ± 0.46
40–59歳(n = 24) 85 ± 18 19 ± 6 35 ± 7 1.90 ± 0.43
60–85歳(n = 30) 81 ± 30 15 ± 6 33 ± 11 2.06 ± 0.39

頸部血管超音波検査ガイドライン2)より

流速測定時のサンプル幅は,血管内腔の中央部を外さないようにし,血管径の2/3以上から血管壁に掛からないよう設定する。

角度補正は,60度を超えると計測誤差が極端に大きくなるため,60度以内で可能な限り小さくする(Figure 11)。

Figure 11 

サンプル幅と角度補正

血管内の流速は,血管中心部では早く,血管壁近くでは遅いため全体を捉えるように,サンプル幅を設定する。角度補正は60度以内で可能な限り小さくなるように描出画像も工夫する。

プローブに向かってくる血流はベースラインから上向き,遠ざかる血流は下向きに表示され,血流速度が速いと折り返し現象が生じ,表示しきれない血流はベースラインの反対側に表示されてしまうので,流速レンジやベースラインで調整する。

III  検査の評価方法

1. 内中膜厚(intima-media thickness; IMT)の計測

動脈硬化危険因子(糖尿病,脂質異常症,高血圧症,喫煙,肥満など)が存在すると,血管は硬くなり,次いで内中膜複合体(intima-media complex; IMC)の肥厚,更にプラーク形成,狭窄,閉塞へと動脈硬化性病変は進行する。

プラークのない症例に関して,IMT肥厚はプラークの出現の基礎病態となり3),動脈硬化性疾患の発症が有意に多いと言われている4)。したがって,IMT計測は動脈硬化の定量的評価として重要である。

動脈硬化では主に血管壁の内膜肥厚が進展するが,超音波では内膜と中膜を分けて描出できないので,内中膜複合体(IMC)として,内中膜厚(IMT)の計測を行う。総頸動脈,頸動脈洞,内頸動脈の各領域でプラークを含めた一番厚いIMCをmaxIMTとし計測する。計測の際は,後壁と前壁の内中膜複合体が明瞭に描出される画像で,画像表示深度を3 cm以内とするか,ズーム機能で拡大し計測する(Figure 12)。

Figure 12 

IMT計測のポイント

・前壁と後壁の内中膜複合体が明瞭に描出されている画像で計測する。

・短軸断面または長軸断面の後壁側での計測が望ましい。

・画像表示深度を3 cm以内とするか,ズーム機能で拡大し計測する。

総頸動脈maxIMTの年代別基準値を示す(Table ‍25)

Table 2  総頸動脈IMTの年代別基準値
年齢 CCA
20–29 ≤ 0.7
30–39 ≤ 0.8
40–49 ≤ 0.9
50–59 ≤ 1.0
60–69 ≤ 1.1
70– ≤ 1.2

早期動脈硬化研究会5)より

2. プラークの評価

プラークとは「1.1 mm以上の限局した隆起性病変(血管長軸または短軸断面で隆起と認知できる血管腔へのIMCの突出像)」を総称とする。全体がびまん性に肥厚した状態は「びまん性肥厚」としてプラークとは区別する6)

プラークは,厚み(IMT),内部性状,表面性状,可動性などを観察する。プラーク評価ではプラークの破綻により脳塞栓症の塞栓源となるプラークの検出が重要となる。

1) プラークの内部性状

プラークの内部性状は,エコー輝度と内部均質性により6分類される(Figure 136)。エコー輝度は,Bモード断層像では血管内腔に近い輝度を低輝度,内中膜複合体の輝度に近いものを等輝度,骨の輝度に近いものを高輝度とする(Figure 14)。

Figure 13 

プラークの輝度分類と均質性

超音波による頸動脈病変の標準的評価法2016(案)6)より

Figure 14 

プラークの輝度

低輝度プラークは認識しづらいことがあるので,注意深く観察し,カラードプラ法を併用して詳細な評価を行う。

プラーク内部性状と病理組織との対比では,高輝度は石灰化病変,等輝度は繊維性病変,低輝度は脂質やプラーク内出血を示していることが多く,低輝度プラークは脆弱で破綻しやすく脳梗塞発症の危険性が高いとされている7)

2) プラーク表面の形態

表面の形態は平滑,不整,明らかな陥凹を伴う潰瘍形成に分類される。潰瘍形成とはプラーク内で出血した血腫や脂質が破綻してできた陥没であり,潰瘍内は血栓ができやすい。

3) プラークの可動性

動脈の拍動とともに変形するものや,血流により可動するものは,塞栓源となりえる非常に不安定なプラークであり,見落とさないためにも注意深く観察する。

4) 注意すべきプラーク

低輝度プラーク,低輝度部分を含みプラーク表面の繊維性被膜(fibrous cap)にあたる高輝度層構造が薄いプラーク,可動性プラーク,潰瘍形成を伴うプラークが注意すべきプラークである(Figure 15)。

Figure 15 

注意すべきプラーク

3. 狭窄率の評価

臨床的には狭窄率70%以上が有意狭窄として評価されるが,50%以上の症候性内頸動脈狭窄病変がある場合,内科的治療に加えて,頸動脈内膜剥離術の施行が進められており,また,60%以上の無症候性内頸動脈狭窄病変では頸動脈内膜剥離術の有効性が示されている8)。治療の適応を考える上でも狭窄率の評価は重要である。

狭窄率の評価には長軸断面ではNASCET法,ECST法,短軸断面ではarea法がある。NASCET法は血管造影の狭窄率に対応しており,脳神経領域ではNASCET法が多く用いられているが,それぞれに長所短所があるため可能な限りすべての方法で測定するのが望ましい(Figure 16)。狭窄率はarea法 > ECST法 > NASET法の順で値が大きくなる。

Figure 16 

狭窄率の測定法

狭窄部の血流速度を測定することにより狭窄率の推定が可能であり,PSV 150 cm/s以上ではNASCET法50%以上,PSV 200 cm/s以上ではNASCET法70%以上の狭窄が疑われるため,狭窄部血流速度の測定も同時に行う。

4. 血流評価

血流評価は,同一部位での左右差による評価が重要であり,血流速度はあくまでも定量的目安である。

血流速度の指標

・収縮期最高血流速度(peak systolic flow velocity; PSV)

・拡張末期血流速度(end-diastolic flow velocity; EDV)

・平均血流速度(time averaged maximum velocity; TAMV)

・拍動係数(pulsatility index; PI)= PSV-EDVTAMV

・ED ratio: 総頸動脈EDV(EDV早い方)総頸動脈EDV(EDV遅い方)

 ※総頸動脈のEDVに左右差がある場合に指標となる

流速測定部より末梢側に閉塞や高度狭窄病変が存在すると血管抵抗が増大するためEDVが低下し,PSVとEDVの差が大きく(PI値高い)なる狭窄前パターンを呈する(Figure 17)。また,流速測定部より中枢側に高度狭窄が存在するとPSVが低下するとともに最高血流までに達する時間が延長し,血流波形は山がなだらかとなる狭窄後パターンを呈する(Figure 18)。ただし,心臓の大動脈弁に高度の狭窄があると,総頸動脈,内頸動脈,椎骨動脈のすべてで狭窄後パターンの波形を呈する。

Figure 17 

狭窄前パターン

右内頸動脈に有意狭窄を認めた症例

A:右総頸動脈は左に比べ,EDVは低下しPSVとEDVの差が大きい(PI値が高い)狭窄前パターン。

B:左総頸動脈は正常血流波形。

C:右内頸動脈はカラードプラ法にてモザイクパターンの乱流を認める。

D:乱流部の血流速度は313 cm/sと亢進し有意狭窄が推察される。

また,総頸動脈ED ratio 2.5となりEDVが低い右の末梢側の狭窄が推察される。

Figure 18 

狭窄後パターン

左総頸動脈に高度狭窄を認めた症例

A:左内頸動脈は,PSVが低下するとともに最高流速に達するまでの時間が延長し,血流波形は山がなだらか(狭窄後パターン)。

B:右内頸動脈は正常血流パターン。

総頸動脈のED ratioが1.4以上の場合,総頸動脈のEDVの低い方の末梢側に閉塞や高度狭窄が考えられる。

5. 椎骨動脈の評価

椎骨動脈は総頸動脈より深部に存在し,IMTなどの詳細な描出は困難なため,ドプラ法を用いた評価が中心となる。また椎骨動脈は先天的な低形成や欠損例もあり左右差があることが多い血管なので,同時に血管径も計測する。

椎骨動脈の狭窄病変の好発部位は鎖骨下動脈からの起始部と後下小脳動脈の分岐手前が好発部位であり,椎体に沿って走行する描出しやすい部分の病変は少ない。よって,観察可能部位での血流波形から中枢側・末梢側の閉塞や狭窄の評価を行うことにな‍る。

観察可能部位で狭窄後パターンの波形が見られた場合は,椎骨動脈起始部の有意狭窄が推察される。

椎骨動脈末梢側の閉塞評価は後下小脳動脈(PICA)分岐部より前か後ろかで血流パターンが大きく変わってくるので,椎骨動脈閉塞部位診断基準(Figure 192)により閉塞部位の推定を行う。

Figure 19 

椎骨動脈閉塞部位診断基準

頸部血管超音波検査ガイドライン2)より

椎骨動脈は狭窄病変の有無の他に鎖骨下動脈盗血現象の評価がある。これは鎖骨下動脈が椎骨動脈を分岐する前で狭窄や閉塞を呈した場合,椎骨動脈から上腕動脈に血液を補おうとするため椎骨動脈が逆流する現象である。鎖骨下動脈の狭窄の程度に応じて逆流成分が増していく(Figure 20)。解剖学的に左側に多いが,右側に生じることもある。

Figure 20 

椎骨動脈の逆流(鎖骨下動脈盗血現象)

鎖骨下動脈の狭窄程度が高度になるにつれ椎骨動脈の逆行性血流が増す。

IV  認知症患者への対応と注意事項

認知症患者の対応とし,相手のペースに合わせ,話を真剣に聞き,相手を受け入れることが大切である。検査を進めていく上では,納得できるように話をし,声掛けを多くすることで不安にさせないように心がける。検査を受け入れてもらえないときは,無理せず,担当医や担当看護師あるいは付き添い者と相談しながら安心できる検査環境を作る事が望ましい。

V  診療報酬点数

超音波検査 その他(頭頸部) 350点

パルスドプラ法を行った場合は,200点を所定点数に加算する。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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