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技術論文
簡易紫外線ランプ(ブラックライト)を用いた尿中蛍光物質の検出,確認(II)
滝澤 旭佐々木 文雄大沢 伸孝奥田 舜治
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2018 年 67 巻 2 号 p. 204-209

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Abstract

我々は簡易紫外線ランプ(ブラックライト)を用いた方法で12種類の尿中蛍光物質を検出,確認した。今回,ろ紙を使った蛍光スポットテスト及び薄層クロマトグラフィー(TLC)分離により,さらに12種類の蛍光物質を検出,確認した。今回使用したブラックライトの主励起波長は350 nm,370 nmであるが,300 nm以下の紫外線も放出しており,300 nm以下に励起波長を持つ蛍光物質の検出が可能であった。ろ紙を使った蛍光スポットテスト及びTLC分離により,アミノ酸(トリプトファン,ヒスチジン),フラビン化合物(FMN, FAD),芳香族アミノ酸代謝物(ゲンチジン酸,トリプタミン,セロトニン,5-ヒドロキシインドール酢酸,スカトール,インドール),ヘモグロビン代謝物(コプロポルフィリン,ウロビリン)など12種類の蛍光物質を尿中に検出,確認した。

I  はじめに

我々は尿中のどの様な物質が蛍光を持つか,蛍光スペクトル分析,TLC分離により,検討し12種類の蛍光物質を検出,確認した1)。TLC分離では尿中に12~20個の蛍光スポットを検出できることから,さらに多くの蛍光物質の存在が考えられた。TLC分離では尿中に蛍光物質の存在が認められるのに,蛍光スペクトル分析では検出が難しい場合があった。今回,その原因を検討した。また,尿中蛍光物質の検出確認にろ紙を使った蛍光スポットテストを用い,この方法による蛍光物質の検出感度,及び蛍光発色性を検討した。

II  方法

1. 試薬,器材

市販試薬(L-トリプトファン,L-ヒスチジン,FMN,FAD,ゲンチジン酸,トリプタミン,セロトニン,5-ヒドロキシインドール酢酸,スカトール,インドール,コプロポルフィリン-IIIテトラメチルエステル)は和光純薬特級品,及び規格品を用いた。ウロビリンは健常者尿より有機溶媒抽出した後,TLC分離により自家精製した。

蛍光スペクトルの測定は,U-4000型分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジー),蛍光スポット検出用ブラックライトはビオスコープ(型式:BIO-1,主励起波長;350 nm,370 nm,アメニティー・テクノロジー),蛍光スポット検出用ろ紙は化学分析用定性ろ紙(No. 2,アドバンテック,東洋濾紙),TLC分離用薄層クロマト用ケイ酸プレートはsilica gel 70 TLC Plate-Wako(和光純薬)を使用した。

2. 尿中ウロビリンの部分的精製

標準物質として用いたウロビリンはWatsonら2)の方法により尿から部分的精製した。健常者3名の遠心上清プール尿20 mLに,等量のジエチルエーテルを加え抽出した。抽出液は70℃の温浴槽で減圧蒸留乾固し,濃縮沈殿物は少量の蒸留水で溶解し,2回ジエチルエーテルで再抽出し部分的精製を行った。この抽出物は吸光スペクトル,蛍光スペクトルで単一ピークを持ち,十分に精製されていることを確認した。

3. ろ紙を使った蛍光スポットの検出

1) 尿中蛍光物質の検出感度

健常者男女5名(20~50才)の随時尿(比重:1.022)をプールし,3,000 rpm(1,500 G)10分間遠心分離し,その上清尿を用いた。上清尿及び蒸留水希釈尿(上清尿~80倍)1 μLをろ紙に塗布し,ドライヤーで熱風乾燥後,ただちに尿中蛍光物質の検出を行った。蛍光物質の検出確認は,ブラックライトをろ紙上ななめ45度,高さ15 cmに置き,UV照射,及び写真撮影は暗室で行った。蛍光スポットの確認は暗室下目視で行った。

2) 市販試薬の蛍光スポット検出

市販試薬及び自家精製したウロビリンは,40 mM/‍Lリン酸緩衝液(pH 6.5)に溶解し,各調製液の1~10 μLをろ紙に塗布し,酸性溶液での蛍光発色性,検出限界を確認した。

4. 市販試薬の蛍光スペクトルの測定

市販試薬及び自家精製したウロビリンの40 mM/Lリン酸緩衝液(pH 6.5)に,10%アンモニア水を加えてアンモニア性アルカリ性溶液(pH 10~11)を調整した。各酸,アルカリ溶液の蛍光量は,最適励起波長における蛍光スペクトルを測定し求めた。

5. TLCによる尿中蛍光物質の分離

遠心上清尿からの有機溶媒抽出は1-ブタノールを用いた。尿10 mLに同量のブタノールを加え2回抽出した。ブタノール抽出液は70℃の温浴槽で減圧蒸留乾固し,蒸留乾固物を0.5 mLのブタノールに溶解しTLC分離の試料とした。上清尿,ブタノール抽出液及び市販試薬のTLC分離は,アルカリ性展開溶媒系(1-ブタノール:メタノール:蒸留水:28%アンモニア水,80:10:10:1,V/V)を用い室温で行った。

III  結果

1. 尿中蛍光物質の検出感度

尿中の蛍光スポットは,白色のスポットとして検‍出‍され,蛍光スポットテストによる尿中蛍光物質の検出限界は40倍希釈尿まで可能であった(Figure 1)。

Figure 1 

尿中蛍光物質の検出感度(蛍光スポットテスト)

A.尿希釈:上清尿~8倍,B.尿希釈:15~80倍

尿試料:健常者5名の遠心上清プール尿(1 μL),蛍光スポット:40倍希釈尿まで検出(矢印).尿対照:蒸留水(1 μL).

2. 市販試薬の蛍光スポットの確認

蛍光スポットテストで,新たに蛍光検出できた市販試薬は12種類であった(Table 1)。市販試薬の蛍光発色は,白色,黄色,青白色,紅色,黄緑色などさまざまであった。

Table 1  蛍光スポットテスト,蛍光スペクトルによる市販試薬を用いた尿中蛍光物質の検出確認
市販試薬 尿中排泄量c)
(mg/24 hr)
蛍光スポットテスト(ろ紙) 蛍光スペクトル(最適励起波長)
検出限界
(μg)
蛍光発色 蛍光波長/励起波長酸性,
(アルカリ性)
蛍光発光量
酸性(A),
アルカリ性(B)
a)アミノ酸
 1.トリプトファン 8–25 3–6 白色 352/280,(360/280) A < B
 2.ヒスチジン 113–320 6 白色 306/261,(429/252) A < B
b)フラビン化合物
 3.FMN 0.002 黄色 520/280,(510/280) A < B
 4.FAD 0.002 黄色 520/280,(508/281) A < B
c)芳香族アミノ酸代謝物
 5.ゲンチジン酸 0.02 青白 445/300,(445/236) A > B
 6.トリプタミン 0.045–0.120 0.1 青白 358/296,(360/298) A < B
 7.セロトニン 0.045–0.160 0.5 青白 337/276,(340/278) A > B
 8.5-ヒドロキシインドール酢酸 2–13 6 青白 344/288,(344/277) A > B
 9.スカトール 1 白色 370/281,(369/281) A > B
 10.インドール 4 白色 343/281,(343/280) A > B
d)ヘモグロビン代謝物
 11.コプロポルフィリンIIIa) 0.130–0.248 0.005 紅色 595/550,(610/398) A > B
 12.ウロビリンb) 0.143–1.857 0.011 黄緑 442/550,(451/339) A < B

a)コプロポルフィリンIIIテトラメチルエステル塩酸加水分解産物で確認,b)自家調製品,c)文献3),4

3. 市販試薬の蛍光スペクトル

蛍光スペクトルによる蛍光量は,市販試薬の液性(酸性,アルカリ性)によって異なっていた。トリプトファン,ヒスチジン,FMN,FAD,トリプタミン,ウロビリンの最適励起波長における蛍光スペクトルの蛍光量は,アルカリ性溶液の方が大きかった。

4. TLC分離による尿中蛍光物質の検出,確認

健常者尿のブタノール抽出液によるTLC分離では,明確な蛍光スポットは10~12個程度であるが,塩酸処理した尿(0.5N-HClを含む尿を70℃-30分間放置)のブタノール抽出液では20個以上分離が可能であった(Figure 2)。また,同一展開溶媒による二次展開により蛍光スポットに広がりが見られ,蛍光発色に色調の重なりが認められたことから,蛍光スポットは充分に単離されたものではないと思われた。

Figure 2 

尿中蛍光物質のTLC分離

試料:1.遠心上清尿,2.ブタノール抽出液,3.塩酸処理尿,4.塩酸処理ブタノール抽出液

塗布量:10 μL

蛍光スポット:a(塗布位置),b~u(TLC分離スポット区分)

展開時間:室温4時間(溶媒フロント;18 cm)

TLC分離による尿中蛍光物質と市販試薬との蛍光スポットの相対移動距離(Rf値)はほぼ一致しており,また,蛍光スポットの発色性の類似性から尿中蛍光物質の蛍光スポットには市販試薬が含まれていると判断した(Table 2)。

Table 2  TLC分離による市販試薬を用いた尿中蛍光物質の検出確認
尿中蛍光物質区分 ブタノール抽出液
(Rf値)
蛍光色調
(尿)
市販試薬
(Rf値)
a 0(塗布位置) ・FAD(0)
b 0.02 白+紅
c 0.05 ・ヒスチジン(0.08)
d 0.09 青+白 ・セロトニン(0.09)
e 0.14 青+白 ・トリプトファン(0.16)
f 0.19 白+紅 ・5-ヒドロキシインドール酢酸(0.22)
g 0.22 黄緑+白 ・ウロビリン(0.22)
h 0.26 青+白 ・コプロポルフィリンIII(0.25)
i 0.29 黄緑+白 ・ウロビリン(0.29)
j 0.32 青+白
k 0.38
l 0.47 ・FMN(0.44)
m 0.50
n 0.55
o 0.64 青+白 ・ゲンチジン酸(0.63)
p 0.69
q 0.71 ・スカトール(0.74),インドール(0.74)
r 0.78 ・トリプタミン(0.78)
s 0.83
t 0.90 青+白
u 0.95 白+紅

尿中のウロビリン,ポルフィリンは,数種類の化合物が知られている5),6)

IV  考察

今回使用したブラックライトは,2008年奥田ら7)により食堂やトイレなどの,食物や尿汚染の検出,監視をすることを目的に開発されたものである。今回,ろ紙を使った蛍光スポットテストでの検討で,健常者プール尿では,40倍希釈尿1 μLまで検出可能であることから,本法は極めて高感度な尿汚染を検出,確認できる方法であると思われた。また,このブラックライトの主励起波長は,350 nm,370 nmであるが,300 nm以下に最適励起波長を持つ市販試薬が蛍光スポットテストや,TLC分離で蛍光検出が可能であったことから,300 nm以下の波長の光もわずかに‍発しているものと思われた。この装置について300 nm以下の発光スペクトルが測定されていないので,300 nm以下の発光量がどの程度であるか詳細は不明である。

尿中蛍光物質の検出確認を蛍光スペクトルの測定,蛍光スポットテスト,TLC分離による方法で行った。TLC分離で尿中蛍光物質を確認できるのに,酸性,中性溶液による蛍光スペクトルでの検出が困難な場合があった1)。蛍光物質の蛍光量は,溶液の液性の違いにより大きく変わることが知られている8)。今回のTLC分離では,展開溶媒にアンモニアが含まれておりアルカリ性の条件下で検出している。したがって,酸性,中性溶液での蛍光スペクトルでは,低濃度の蛍光物質の検出が難しい場合が考えられる。

今回,新たに12種類の蛍光物質をTLC分離,及び蛍光スポットテストで検出した。ゲンチジン酸を除いていずれも尿中排泄が認められている。アスピリンやサリチル酸を投与した場合,ゲンチジン酸の尿中排泄が報告されている9)。尿中のFMN,FADについては,HPLC分離でその存在が確認されている10)。インドール,スカトールの尿中排泄量は明確ではないが,総インドール量として240~350 mg/24 hrの排泄が知られている11)

上清尿そのままのTLC分離では,尿中に微量に含まれる蛍光物質の検出は難しく,ブタノール抽出することで各蛍光スポットが明瞭に分離された。また,今回の検討で,尿を塩酸処理することでさらに蛍光スポットの数,蛍光量が増加した。上清尿やブタノール抽出液のTLC分離では,多くの蛍光スポットは白色を示した。蛍光スポットの呈色は,蛍光物質の濃度が極端に高いか,あるいは低い場合,蛍光物質が持つ蛍光色と違った白色を示すと言われている12)。尿中に検出された多くの蛍光物質は極めて微量な存在量であると推測された。

上清尿の塗布位置に多量の蛍光量が残存していた。また,ブタノール抽出液ではTLC分離上の蛍光スポットの蛍光量の増加を認めた。これは,グルクロン酸,硫酸,グリシンなどと抱合された蛍光物質の存在が考えられる。塩酸処理することで加水分解され,TLC分離されたためと思われる。

我々は,今回と先の報告1)で24種の尿中蛍光物質の存在を検出確認した。Zondekら(1951)13)はUV照射で蛍光を示す物質の尿中存在を報告した。その後,色々な尿中蛍光物質が報告されている。尿中蛍光物質の多くはトリプトファン,チロシン代謝物であり,疾病との関係については,3-ヒドロキシキヌレニン,3-ヒドロキシアントラニル酸などは発がん性があることが知られている。また,キヌレニン,アントラニル酸,キサンツレン酸は糖尿病惹起作用があることが注目されている。カロチノイド腫瘍,肝疾患,精神病患者尿中に5-ヒドロキシインドール酢酸,インドール酢酸,セロトニン排泄の増加が知られている14)

腎透析を行っている慢性腎不全患者の尿中,血中,血液透析ろ過液中に,トリプトファン代謝物と結合し蛍光を持ったアルブミンが生じ,血中LDH15),CK16)のアイソザイム分析に影響を与えることが知られている。小延ら17),18)は血液透析ろ過液や肝硬変症の尿中にアルブミン非結合性の蛍光物質を分離し,病態との関連性を報告している。

V  まとめ

今回,尿中蛍光物質の検出を蛍光スペクトルやブラックライトを使った蛍光スポットテスト,TLC分離などの方法で行った。これらの方法は非常に高感度な蛍光物質の検出法であるが,蛍光物質の蛍光量は酸,アルカリなどの液性によって検出感度が影響されることを理解しておく必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
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