医学検査
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症例報告
CEA異常高値から診断された原発不明癌による縦隔リンパ節転移の一症例
仲田 夢人遠藤 由香利原 文子本倉 徹鰤岡 直人
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2018 年 67 巻 4 号 p. 591-597

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Abstract

Carcinoembryonic antigen(CEA)の異常高値から診断された原発不明の縦隔リンパ節転移の1例を経験したので報告する。症例は70代男性。既往歴に胃癌があり,胃全摘出術を施行後,定期的にCEAが測定された。CEAの軽度上昇を認めたため,上部消化管ならびに大腸内視鏡検査,positron emission tomography computed tomography(PET-CT),小腸透視,腹部,甲状腺のエコー検査が施行されるも明確な腫瘍は認められなかった。その後,CEAの急激な上昇,PET-CTにて大動脈下リンパ節の腫大と同部へのfludeoxy glucose(FDG)集積を認めた。転移性を疑うも原発巣が明確ではないため,非特異反応の可能性を考慮して,非特異反応解析試験として他法による測定,希釈直線性試験,異好抗体吸収試験,Scavenger-alkaline phosphatase(ALP)処理試験,polyethylene glycol(PEG)処理試験,酢酸処理試験を行った。その結果,特異的にCEAを測定していることが確認されたため,診断確定と治療目的に縦隔郭清術が施行された。病理学検査で類円形核と多辺形細胞質を有した異型細胞の乳頭状~充実性増生を認めた。異型細胞は免疫染色にて上皮系マーカー,及び肺腺癌マーカー(thyroid transcription factor 1; TTF-11, Napsin A)に陽性を示したことから,肺癌のリンパ節転移が第一に疑われた。しかし,他臓器からの転移も否定できず,確定には至らなかった。術後CEAは著明に低下した。本症例では,胃癌の既往による定期的なCEA測定がリンパ節転移の発見に大きく寄与し,さらに非特異反応の可能性を否定することで手術に踏み切ることができ,臨床に貢献できたと思われる。

近年,本邦における死因第1位は悪性新生物であり,年間約30~40万人が死亡している1)。その中‍で,‍2010年に日本臨床腫瘍学会より『原発不明癌‍診療ガイドライン』が,2016年にはNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)より『原発不明癌ガイドライン』が発刊された。転移性腫瘍であることが組織学的に証明されている腫瘍のうち,治療前の評価期間中に原発巣を同定できないものは原発不明癌(occult primary tumorまたはcancer of unknown primary; CUP)と定義され,癌全体の1~5%を占めている2),3)。今回,carcinoembryonic antigen(CEA)の上昇を機に診断・治療に至った,原発不明癌による縦隔リンパ節転移の1例を経験したので報告する。

I  症例

患者:70歳代 男性。

主訴:息切れ,湿性咳嗽。

既往歴:2004年 胃癌(胃全摘出術)

    2006年 前立腺肥大症

    2009年 総胆管結石(胆嚢摘除術ならびに胆道切開術)

喫煙歴:40本/日×48年間(20~68歳)

臨床経過:随時血糖高値のため血糖コントロールの目的で当院内分泌内科に通院加療(後に糖尿病と診断),また,慢性閉塞性肺疾患にて当院呼吸器内科に通院加療中であったが,2009年10月からCEA 11.4 ng/mL(< 5.0 ng/mL)と軽度上昇を認めたため,胃癌の再発を疑い,上部消化管ならびに大腸内視鏡検査を施行したが,CEAの上昇をきたす病変は認められず,再発は否定的であった。以降,血糖コントロールの目的ならびにCEA上昇の原因検索も含め,CEAの測定と合わせて血糖とHbA1cの測定も行った。血糖の測定はglucose oxidase(GOD)固定化酵素膜と過酸化水素電極によるアンペロメトリー法を測定原理とするグルコース分析装置ADAMS Glucose GA-1172(アークレイ株式会社)を,HbA1cの測定はhigh performance liquid chromatography(HPLC)法を測定原理とするグリコヘモグロビン分析装置ADAMS A1c HA-8182(アークレイ株式会社)用いた。同時期に測定した血液・生化学検査は基準範囲内であり,他の腫瘍マーカーはカットオフ値以下であった(Table 1)。CEA上昇の原因検索のため単純胸部X腺,胸部~骨盤部computed tomography(CT)を施行(Figure 1A, B)。さらにpositron emission tomography computed tomography(PET-CT)を施行したが明らかな腫瘍性病変は認められなかった(Figure 2A)。その後,大腸内視鏡,小腸透視,腹部・甲状腺エコーなど全身検索するも明確な腫瘍は認められず,経過観察となっていた。2013年よりCEAの急激な上昇があり,2014年2月にはCEA 459.2 ng/mLまで上昇。PET-CTにて大動脈下リンパ節の腫大と同部へのfludeoxy glucose(FDG)軽度集積を認めた(Figure 2B)。転移性のリンパ節腫瘍を疑う所見だが,このときも原発巣は明確ではなかった。2014年10月にはCEA 895.5 ng/mL,胸部CTにて大動脈下に35 × 23 mm大の腫瘤,PET-CTにてFDGの集積亢進を伴うリンパ節腫大を認め,腫瘍の悪性度の指標となるstandardized uptake value(SUV)値は最大で早期像5.79,後期像6.54と上昇した(Figure 2C)。しかし,血液・生化学検査は基準範囲内であり,他の腫瘍マーカーはカットオフ値以下で‍あったことから,CEAの非特異反応の可能性も考‍慮し,担当医より当院検査部に精査依頼があり,希釈直線性試験を行った。また,メーカーの協力のもと非特異反応解析試験を行った。当院ではchemiluminescent enzyme immunoassay(CLEIA)を測定原理とするUnicel DxI 800(ベックマン・コールター株式会社)を使用し,CEAを測定している。解析試験は,異好抗体吸収試験,scavenger-alkaline phosphatase(ALP)処理試験,polyethylene glycol(PEG)処理試験,酢酸処理試験を行った。またchemiluminescent immunoassay(CLIA)を測定原理とし,NCA-2の反応性が高いとされるARCHITECT i2000SR(アボットジャパン株式会社)でも測定した4)。解析の結果,各試験における回収率は良好であり,特異的にCEAを測定していることが確認された(Table 2)。上記の結果を踏まえ,2015年5月大動脈下リンパ節腫大に対して縦隔リンパ節癌の疑いで,診断確定目的にリンパ節腫瘤に対する縦隔郭清術を施行。術中病理診断で悪性と判定。術後病理組織学的に,類円形核と多辺形細胞質を有した異型細胞の乳頭状~充実性増生を認め,異型細胞は免疫染色にてCEA,cytokeratin(CK)AE1/AE3,CK7,thyroid transcription factor 1(TTF-1),Napsin Aに陽性を示した(Figure 3)。また,CK20,CK5/6,CD56には陰性であった。以上の結果より,病理学的には肺腺癌リンパ節転移が疑われた。しかし,術前に行った血液検査にてsquamous cell carcinoma associated antigen(SCC)1.4 ng/mL(≤ 1.5 ng/mL),pro-gastrin releasing peptide(pro-GRP)29.0 pg/mL(< 81.0 pg/mL),cytokeratin subunit 19 fragment(CYFRA)2.2 ng/mL(≤ 3.5 ng/mL)であり,画像検査にて肺に悪性病変を指摘されなかったことから,他臓器からの転移も否定できず,確定には至らなかった。術前にはCEA 2,718.1 ng/mLまで上昇したが,術後は1,938.5 ng/mL,2015年11月には2.7 ng/mLと著明に低下した(Figure 4)。現在は,外来経過観察中で,胃癌の既往歴もふまえ原発巣の検索を行っているが,CEAの上昇,原発巣の顕在化や腫瘤の再増大は認めていない。

Table 1  Laboratory findings
Biochemical Tests Hematological Tests
Na 139 mmol/L WBC 5.8 × 103/μL
K 4.4 mmol/L RBC 4.46 × 106/μL
Cl 100 mmol/L Hb 13.7 g/dL
Ca 10.3 mg/dL Ht 40.2%
BUN 14 mg/dL MCV 90.3 fL
Cre 0.80 mg/dL MCH 30.8 pg
T-Bil 1.3 mg/dL MCHC 34.1%
AST 24 U/L PLT 262 × 103/μL
ALT 20 U/L
ChE 271 U/L
Glu 127 mg/dL
CEA 11.4 ng/mL
CA19-9 < 0.8 U/mL
CA72-4 ≤ 3.0 U/mL
STN 34 U/mL
Figure 1 

Chest radiograph and CT scan

(A) A chest radiograph shows no neoplastic lesion. (B) A chest computed tomography scan shows no neoplastic lesion.

Figure 2 

PET-CT scan

(A) A FDG-PET scan in January 2010 shows mild FDG uptake in bilateral hilar and mediastinal lymph nodes, which is unchanged compared with the previous survey. (B) A FDG-PET scan in February 2014 shouws the enlargement of the mediastinal lymph node and mild increase of FDG uptake. (C) A FDG-PET in October 2014 shows further enlargement of the lymph node accompanied by a more significant increase of FDG uptake.

Table 2 

Results of nonspecific reaction analysis tests

(A) Dilution linearity test
Dilution rate Measurement value Reduced value Recovery (%)
X1 (sample)912.89
X2438.60877.2096.1
X4217.19868.7695.2
X8108.21865.6894.8
X1653.38854.0893.6
(B) Acetic acid extraction treatment test by CLIA method
Measurement value Reduced value Recovery (%)
sample755.88
Acetic acid Buffer:sample = 1:1
+
room temperature 15 min
387.63775.26102.6
Acetic acid Buffer:sample = 1:1
+
70°C 15 min
383.48766.96101.5
(C) Heterophil antibody absorption test
Measurement value Reduced value Recovery (%)
sample912.89
Blank treatment
sample:Blank = 9:1
849.28943.64103.4
HBR1 treatment
sample:HBR1 = 9:1
849.21943.57103.4
(D) Scavenger-ALP treatment test
Measurement value Reduced value Recovery (%)
sample912.89
Blank treatment
sample:Blank = 9:1
849.28943.64103.4
Sca-ALP treatment
sample:Sca-ALP = 9:1
849.02943.36103.3
(E) Polyethylene glycol treatment test
Measurement value Reduced value Recovery (%)
PEG untreated PEG treatment
Blank treatment
sample:Blank = 1:1
912.89465.57931.14102.0
PEG treatment
sample:12.5% PEG = 1:1
912.89452.89905.7899.2
Figure 3 

Pathological findings

Hematoxylin and eosin staining (A, B) and immunohistochemical staining of lymph node tumors for CEA (C), TTF-1 (D), and NapsinA (E). Original magnification: ×100 (A) and ×400 (B–E).

Figure 4 

Time course of CEA (ng/mL), Glucose (mg/dL), and HbA1c (%)

II  考察

原発不明癌の発生頻度は,60歳代を中心とし,性差はほぼないか,または男性に多い5)~7)。病変部位は肝臓,骨,肺およびリンパ節の頻度が高く,組織型では腺癌が半数以上を占めている8),9)。基本的に予後不良だが,病変部位や病理所見の特徴,性別によっては予後良好との報告もある。本症例のように転移部位がリンパ節のみの場合は予後良好であり,迅速に治療することが重要である10),11)。CEAは糖鎖を有する糖蛋白であり,糖尿病患者においては合成が促進され上昇すると報告されている12)。本症例についても背景に糖尿病の既往があり,CEA上昇の原因検索のため血糖・HbA1cの同時測定も行ったが,血糖は大きな変動はなく,HbA1cは軽微な上昇は認められたが,CEAの測定値が高く,関連性は確認できなかった(Figure 4)。また,血液中にはCEAだけでなくnonspecific cross reacting antigen(NCA)やNCA-2,normal fecal antigen(NFA)-1,NFA-2といったCEAファミリーと呼ばれるCEA類似の反応性を有する物質が存在し,各メーカーの測定試薬に使用されている抗体の反応性の違いから,ベックマン・コールター株式会社のアクセスや,富士レビオ株式会社のルミパルスはNCA-2との反応性が低く,アボットジャパン株式会社のアーキテクトやロシュ・ダイアグノスティックス株式会社のエクルーシスはNCA-2との反応性が高いとされ,測定値が大きく乖離する例が報告されている4),13)。当院で使用しているアクセスはNCA-2との反応性が低く,NCA-2の影響の可能性は低いと思われ,他の測定原理においても乖離は認められず,解析試験からも自己抗体やhuman anti mouse antibody(HAMA)といった異好抗体による偽陽性の可能性は否定され,CEAを特異的に測定していたことが確認された。NCA-2は悪性腫瘍でも上昇し,NCA-2に対する反応性が高いことで,再発の早期発見につながるとの報告もあるため14),15),臨床応用する上で,自施設で使用している試薬の特徴・反応性を理解することは重要と考えられた。

III  結語

CEAは広範囲の悪性腫瘍で陽性を示し,早期癌に対する感度は低いとされる一方,癌の進行度と比例するため,治療効果の判定,治療後の経過観察や予後の予測において有用性を発揮する。本症例では既往歴に胃癌があるため,定期的なCEA測定がリンパ節転移の発見に寄与した。さらにCEA上昇の原因として,免疫検査項目の測定系において起こりうる偽陽性や非特異反応の可能性を否定する検討を行うことで,手術に踏み切ることができ,臨床に貢献できたと思われる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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