医学検査
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技術論文
Clostridium difficile ToxinおよびGDH抗原同時検出試薬の検出性能に関する比較検討
西尾 美津留宮木 祐輝小川 有里子大杉 崇人
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2018 年 67 巻 4 号 p. 469-474

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Abstract

糞便中Clostridium difficile Toxin(CD Toxin),GDH抗原の同時検出試薬であるC. DIFF QUIK CHEKコンプリート(QUIK CHEK)とGEテストイムノクロマト-CD GDH/TOX「ニッスイ」(GEテスト)の有用性を比較検討した。CD Toxin検出において,Toxigenic cultureを対照とした場合のsensitivity,specificityは,QUIK CHEK 41.9%,100%,GEテスト48.8%,100%であり,GEテストはQUIK CHEKよりsensitivityが6.9%高かった。GDH抗原検出においては,分離培養法を対象とした場合のsensitivity,specificityは,QUIK CHEK 90.2%,99.0%,GEテスト94.1%,95.2%であり,sensitivityはGEテストの方が優れた結果となった。またC. difficile臨床分離株を用いた希釈菌液によるGDH抗原検出感度の比較試験においてもGEテストの方が優れた結果となった。しかし一方で,GDH抗原検出におけるGEテストのspecificityはQUIK CHEKに比べて低く,何らかの交差反応が起きている可能性が推察された。GEテストはQUIK CHEKに比べ,CD Toxin,GDH抗原検出のsensitivityが高く,CDI診断におけるスクリーニング検査試薬として有用性が高いことが明らかになったが,GDH抗原検出においては精度向上に向けた改良の必要性があると考える。

I  はじめに

Clostridium difficileは,抗菌薬関連下痢症・腸炎(antibiotic-associated diarrhea; AAD)の主要な原因菌である。本菌はAAD症例の15~25%,発熱や末梢血白血球数増加を伴う腸炎に進展した例では50~70%関与するとされている1)。Toxin A(エンテロトキシン),Toxin B(サイトトキシン)等の毒素が本菌の病原性に大きく関与しており,C. difficile感染症(CDI)診断にはこの毒素産生の有無が重要になる。また本菌は,手指消毒用アルコールに耐性の芽胞菌であるため,病院環境下で長期間生存可能であり,医療関連感染の原因微生物としても非常に重要な菌である2),3)。米国では C. difficileは,MRSA 以上に主要な医療関連感染の原因微生物として認識されており,Centers for Disease Control and Prevention(CDC)はカルバペネム耐性腸内細菌科細菌などと並ぶ耐性菌の脅威としてC. difficileを挙げて警戒を促している。CDIを早期に診断し,適切な治療を開始することにより,患者の重篤化や死亡を防ぐとともに,CDI を発症した患者に対し,速やかに感染対策を実施することにより,院内での伝搬を防ぐことが重要である。ゆえにCDIは,迅速で正確な検出をすることが臨床検査の現場に求められている。

CDI診断のためのGold standardは,細胞培養法を用いた糞便中の毒素検出であるが,ベロ細胞などの維持・管理が必要であり,測定手技も煩雑であることから,通常の検査室では実施が困難である4)。また昨今,より感度,特異度が高く,迅速に結果が得られる診断法としてPCR法などの遺伝子検査法(nucleic acid amplification test; NAAT)が開発され,日本にも導入されつつあるが,診断手順の手間やコストの面など,クリアすべき課題も多く,未だ導入施設が少ないのが現状である。これらの事情により,CDIの診断には,迅速検査として便検体から直接enzyme immunoassay(EIA法)を行う検査方法が一般的に用いられているが,C. difficile Toxin(以下CD Toxin)の検出感度の低さが問題視されており,CDIの一部は見落とされていると指摘する報告もある5),6)。それゆえ欧米のガイドラインでは,より効率的なCDIの診断手順として,はじめにC. difficile抗原(glutamate dehydrogenase,以下GDH抗原)によるスクリーニングを実施した後,GDH抗原陽性例に対して,細胞毒性試験あるいは分離菌の毒素産生性の確認を実施する2段階アルゴリズムが提唱されており5),6),国内でもこの手順で検査を実施している施設が多いと思われる7)~10)

現在国内で販売されているCD Toxin,GDH 抗原の同時検出が可能なキットは,C. DIFF QUIK CHEK コンプリート(アリーアメディカル,以下QUIK CHEK)とGEテストイムノクロマト-CD GDH/TOX「ニッスイ」(2016年6月より発売,日水製薬,以下GEテスト)の2種類ある。検査試薬を選択する際は,よりCD Toxin,GDH抗原の検出性能の優れた試薬を選択することが重要であると考え,今回我々は,QUIK CHEKとGEテストの検出性能について比較検討を行ったので報告する。

II  対象と方法

1. C. difficile臨床分離株を用いたGDH抗原最小検出感度の基礎的検討

1) 対象

当院で分離されたC. difficile臨床分離株(Bruker Daltonics社のMALDI Biotyperにて同定:Score 2.000以上)3株

2) 方法

CCMA EX培地(日水製薬)にて48時間培養した分離株を,滅菌生理食塩水にてMcFarland 2.0に調整した菌液を10倍,100倍,1,000倍に段階的に希釈し,それぞれの希釈菌液を検体とし,添付文書に従い,QUIK CHEK,GEテストのGDH抗原最小検出感度を比較した。

2. 臨床糞便検体を用いた検出性能の比較検討

1) 検討対象

2016年7月から12月までの期間にCDI 疑いでC. difficile検査依頼のあった糞便検体156件を対象とした。EIA法による検査は,原則検体提出当日に実施した。当日の検査が不可能であった場合には,冷蔵(4℃)保存し,2日以内に検査を実施した。なお今回検討に用いた糞便検体は,Bristol Stool Form Scale11)などの客観的指標を用いた評価をしておらず,臨床から依頼のあった検体全てを対象とした。

2) 糞便中のGDH抗原とCD Toxinの検出

糞便中のCD Toxin およびGDH抗原の同時検出試薬であるQUIK CHEK,GEテストを添付文書に記載された方法に従い実施した。

3) 糞便中のC. difficile培養方法

培養は以下に示す3法で実施し,いずれかの方法にてC. difficileが発育した場合を培養陽性と判定した。

① 糞便検体を,直接CCMA EX培地に1白金耳画線塗抹し,35℃で48~72時間嫌気培養を実施した。

② 糞便検体を,等量のエタノールと混和し,30分静置後CCMA EX培地に1白金耳画線塗抹し,35℃で48~72時間嫌気培養を実施した。

③ 糞便検体を,等量のエタノールと混和し,30分静置後のエタノール混和液を,極東HK半流導生培地(極東製薬)に0.5 mL接種し,48~72時間培養後,CCMA EX培地に1白金耳画線塗抹し,35℃で48~72時間嫌気培養を実施した。

4) C. difficile同定方法

CCMA EX培地に発育した,特徴的な臭気を発する辺縁不整,R型のマンニット分解,黄色コロニーについて,MALDI Biotyperを用いて同定し,Score 2.000以上をC. difficileと確定した。

5) 培養陽性分離株のCD Toxin検出(Toxigenic culture)

CCMA培地EX上に発育した分離株を,谷野らの報告に従いQUIK CHEKのキット添付の希釈液にてMcF4.0以上に調整し12),その菌液を検体としてQUIK CHEKを用いて分離株のCD Toxin産生性を確認した。

III  結果

1. C. difficile臨床分離株を用いたGDH抗原最小検出感度の基礎的検討結果

C. difficile臨床分離株を用いた希釈菌液によるGDH抗原最小検出感度の比較試験結果をTable 1に示す。測定に用いた臨床分離株3株全て同一の結果となった。100倍希釈検体でGEテストではGDH陽性と判定可能であったのに対し,QUIK CHEKでは陰性であり,GEテストのGDH抗原最小検出感度は,QUIK CHEKより良好であった。

Table 1  Detection limit test results of the Glutamate dehydrogenase with C. difficile clinical isolates
Sample Dilution ratio GDH results
QUIK CHEK GE TEST
Clinical Isolate 1 1/1 + +
1/10 + +
1/100 +
1/1,000
Clinical Isolate 2 1/1 + +
1/10 + +
1/100 +
1/1,000
Clinical Isolate 3 1/1 + +
1/10 + +
1/100 +
1/1,000

2. 臨床糞便検体を用いた検出性能の比較検討結果

1) 糞便中のCD Toxin検出結果

Table 2にToxigenic cultureを対照とした場合のQUIK CHEK,GEテストのCD Toxin結果の比較成績を示す。Toxigenic cultureにて毒素産生株が検出された43検体のうち,QUIK CHEKは18検体,GEテストは21検体がToxin陽性と判定された。またToxigenic cultureにてC. difficile陰性あるいは毒素非産生株が検出された113検体では,QUIK CHEK,GEテストともに113検体全てCD Toxin陰性と判定された。Toxigenic cultureを対照とした場合のCD Toxin検出のsensitivity,specificity,positive predictive value(PPV),negative predictive value(NPV)は,QUIK CHEKが41.9%,100%,100%,81.9%,GEテストが48.8%,100%,100%,83.7%であった。

Table 2  Comparison of QUICK CHEK and GE TEST toxin results with toxigenic culture
Toxin results Toxigenic culture Sensitivity (%) Specificity (%) Positive predictive value (%) Negative predictive value (%)
Positive Negative
QUICK CHEK Positive 18 0 41.9 100 100 81.9
Negative 25 113
GE TEST Positive 21 0 48.8 100 100 83.7
Negative 22 113

2) 糞便中のGDH抗原検出結果

Table 3に分離培養法を対照とした場合のQUIK CHEK,GEテストのGDH抗原結果の比較成績を示す。分離培養法にてC. difficileが検出された検体51検体のうち,QUIK CHEKは46検体,GE テストは48検体がGDH抗原陽性と判定された。また分離培養法にてC. difficile陰性であった105検体では,QUIK CHEKは104検体,GEテストは100検体がGDH抗原陰性と判定された。分離培養法を対照とした場合のGDH抗原検出のsensitivity,specificity,PPV,NPVは,QUIK CHEKが90.2%,99.0%,97.9%,95.4%,GEテストが94.1%,95.2%,90.6%,97.1%であった。

Table 3  Comparison of QUICK CHEK and GE TEST GDH results with culture
GDH results Culture Sensitivity (%) Specificity (%) Positive predictive value (%) Negative predictive value (%)
Positive Negative
QUICK CHEK Positive 46 1 90.2 99.0 97.9 95.4
Negative 5 104
GE TEST Positive 48 5 94.1 95.2 90.6 97.1
Negative 3 100

3) 乖離データの解析

Table 4にQUIK CHEK,GEテストのGDH抗原結果と分離培養法の3法に結果の乖離が認められた検体の内訳を示した。Type 1~3は,QUIK CHEK,GEテストともにGDH抗原陰性であったが,分離培養でC. difficileが検出された検体,Type 4,5は,QUIK CHEKのGDH抗原は陰性であったが,GEテストのGDH抗原が陽性であり,分離培養でC. difficileが検出された検体,Type 6~10は,QUIK CHEKのGDH抗原は陰性,GEテストのGDH抗原が陽性であったが,分離培養陰性だった検体,Type 11は,QUIK CHEKのGDH抗原は陽性であったが,GEテストのGDH抗原が陰性であり,分離培養陰性だった検体であった。Type 1~11のいずれの検体も糞便から直接行ったCD Toxin結果は陰性であった。

Table 4  Disagreement samples among the results of QUICK CHEK and GE TEST and culture
Type Number of stool samples GDH results Culture Toxin results Toxigenic culture
QUIK CHEK GE TEST QUIK CHEK GE TEST
1 76 +
2 117 + +
3 130 + +
4 60 + + +
5 132 + + +
6 23 +
7 50 +
8 81 +
9 107 +
10 128 +
11 156 +

IV  考察

今回我々は,糞便中のCD Toxin,GDH抗原の同時検出が可能な試薬であるQUIK CHEKとGEテストの検出性能に関する比較検討を目的に,臨床分離株を用いた基礎的検討と,臨床糞便検体を用いた検討を行った。

Toxigenic cultureを対照とした場合のToxin検出のsensitivityは,QUIK CHEK 41.9%,GEテスト48.8%と,GEテストの方が6.9%高く,NPVは,QUIK CHEK 81.9%,GEテスト83.7%と,GEテストの方がわずかに高い結果が得られており,Toxin検出においては,GEテストの方が優れていることを示唆する結果であった。添付文書にはCD Toxinの最小検出感度は,QUIK CHEKがToxin A:0.63 ng/mL,Toxin B:0.16 ng/mL,GE テストはToxin A:0.73 ng/mL,Toxin B:0.73 ng/mLと記載されている。これらの数値を単純に比較するとQUIK CHEKの方が,GEテストに比べて検出感度が優れていることになるが,今回の我々の結果と矛盾するものであった。いずれにしてもsensitivityが41.9%,48.8%という結果は,決して良好とは言えず,CD Toxin検出においては,どちらの試薬もより一層の感度向上が必要と思われた。よってEIA法のCD Toxin検出のみに頼ったCDI診断は,病原性を過小評価する可能性があり,GDH抗原検出を併せて診断していく必要性を感じる結果であった。

GDH抗原検出について考察する。基礎的検討結果では,GEテストのGDH抗原最小検出感度は,QUIK CHEKより良好な結果が得られた。臨床糞便検体を用いた検討においても,分離培養法を対照とした場合のsensitivityは,QUIK CHEKが90.2%,GEテストが94.1%とGE テストの方が優れた結果となった。GDH抗原最小検出感度について,添付文書には,QUIK CHEKは0.8 ng/mL,GEテストは0.18 ng/mLと,単純比較でGEテストの方が4倍以上の最小検出感度が記載されており,今回行った我々の結果はそれを裏付けるものであった。

CD Toxin検出,GDH抗原検出のsensitivityは,どちらもGEテストが優れた結果となったが,分離培養法を対照とした場合のspecificityは,QUIK CHEK 99.0%,GEテスト95.2%,PPVはQUIK CHEK 97.9%,GEテスト95.2%と,QUIK CHEKの方が優れた結果となった。これは乖離データの解析結果で示した通り,GDH抗原陽性であるが分離培養が陰性となった検体がGEテストでは5検体検出されたことに起因する。Clostridium sordellii13)Clostridium sporogenesClostridium botulinumPeptostreptococcus anaerobius14)など,GDH抗原に交差反応を示す微生物は予てから報告されているが,キットの改良に伴い,これらのピットフォールは現在回避されつつある。実際に,QUIK CHEK,GEテストの添付文書には,これらの微生物とGDH抗原は,交差反応を示さないことが記載されている。しかし次世代シーケンサーが登場し,複雑な微生物コミュニティーのプロファイリングが実現可能となった現在,100兆個100種を超える細菌が腸内フローラには存在することが分かっているが15),それら全ての微生物において,交差反応に関する検討が行われていないのが現状であり,予てから報告されている微生物以外にも交差反応を起こす微生物がいる可能性は十分あると考えられる。また和泉ら16)は,経腸管洗浄剤がQUIK CHEKのToxin検出に偽陽性反応を示すことを明らかにしており,診療に使われる様々な治療薬には,Toxin検出のみならず,他のイムノクロマト法を原理とした検査試薬にも影響を及ぼす可能性があると述べている。検体中に混入している様々な物質による非特異反応に関する検討も,十分に行われていないのが現状である。今回の検討において,分離培養陰性となったがGEテストにてGDH抗原陽性を示した5検体について,詳細な解析が出来ておらず,結果が乖離した原因は不明であるが,何らかの微生物もしくは便中物質による交差反応が起きている可能性が推察される。

免疫学的測定法を測定原理とする抗原検出法において,非特異的反応に起因する偽陽性は避けることの出来ない重要な課題であるが,いずれの試薬を使用するにおいても,sensitivity,specificityが100%の試薬はないため,検査には限界がある。よって偽陽性や偽陰性について念頭に置きながら,試薬特性を十分に理解して使用し,CDIの診断においては,分離培養法やNAAT,また臨床症状と合わせた総合的な判断が必要であると考える。

今回我々は,C. difficile Toxin/GDH 抗原同時検出試薬の検出性能に関する比較検討を実施し,GEテストがQUIK CHEKに比べ,CD Toxin検出,GDH抗原検出のsensitivityが高く,CDI診断におけるスクリーニング検査試薬として有用性が高いことを明らかにした。しかし一方で,GEテストのspecificity,PPVは,QUIK CHEKに比べて低く,今後精度向上に向けた改良の必要性があると考える。

また,QUIK CHEKの操作手順は,酵素標識抗体を加えた希釈液に糞便検体を混合し,作成した試料をメンブレンデバイスに滴下,15分静置後,判定部を洗浄液で洗浄し,基質液を加え,10分間発色反応を行った後に最終判定をする,ステップ数の多い検査である。一方GEテストは,糞便検体を検体希釈液に入れ,作成した均一試料をテストプレートの検体添加部に滴下,20分静置後に最終判定を行う,比較的手順の少ない検査法であり,この点も大きな利点と考える。試薬の分注操作が不要になれば,誤操作の危険性も低くなり,測定精度の観点からも有用であると考える。さらに医療機関によっては微生物検査室が施設内に無く,CDIの検査を実施していない,もしくは外注で検査を実施している施設は数多く存在し,また微生物検査を自施設内で実施している施設においても,CDI検査が24時間体制で実施可能な施設はごく一部だと思われる。検査手技が簡便化されることにより,施設規模を問わず検査導入しやすくなり,さらには24時間検査が実施可能な体制を構築できる契機にもなる。それらがもたらす治療面,感染対策面での臨床貢献は大きいと考える。

これらの迅速試薬と,今後我が国においても益々導入されていくであろうNAATを上手く組み合わせつつ,CDI診断に利用できる体制が構築できるよう努めたい。

 

なお,本論文の要旨は第66回日本医学検査学会(千葉,2017年6月)において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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