医学検査
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症例報告
高度の血管内溶血を呈した劇症型Clostridium perfringens感染症の1症例
塚田 彩実麻生 さくら小林 かおり手塚 貴文塚田 弘樹
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2018 年 67 巻 4 号 p. 569-574

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Abstract

60歳代,男性。糖尿病にて内服治療中。当院受診2日前より心窩部痛出現し近医を受診,鎮痛剤を処方された。その後も症状の改善なく,全身状態不良で当院に紹介された。来院時,赤色尿を呈し,血液検査で貧血,凝固異常,T-Bil・AST・LDHの上昇を認め,高度な溶血が示唆された。腹部CT所見よりガス産生肝膿瘍と診断された。輸液,輸血,抗菌薬投与,外科的ドレナージなどの集学的治療を行ったが,溶血多臓器不全は急速に進行し,当院搬送から約12時間で永眠された。血液培養と腹水の培養からClostridium perfringensが検出された。本菌による敗血症では激しい溶血を併発することがあり,一旦溶血を発症した場合の致死率は極めて高く早期診断が重要である。早期診断・治療のためには,ガス産生肝膿瘍が疑われた早い時点で検体からグラム染色を実施し,グラム陽性桿菌を証明することが有用であると思われた。

I  はじめに

Clostridium perfringensはヒトや動物の腸管内の常在菌であり,土壌や泥中にも存在する偏性嫌気性グラム陽性桿菌である。本菌は食中毒,ガス壊疽,敗血症等を引き起こし,敗血症は急激な溶血を伴い,予後不良であることが報告されている1)。今回我々は,C. perfringensにより高度な血管内溶血を呈し,急激な経過をたどり死に至った症例を経験したので報告する。

II  症例

患者:65歳,男性。

主訴:心窩部痛。

既往歴:糖尿病,狭心症。

現病歴:2日前より心窩部痛を自覚し,近医を受診。単純CT撮影が行われたが特に問題となる所見等なく(Figure 1),鎮痛薬を処方され帰宅した。翌日も心窩部痛は続き,さらに疼痛,発熱,嘔吐も出現した。2日経過しても症状が継続していたため,同院を再度受診した。

Figure 1 

当院来日2日前に前医で撮影された腹部CT写真

同日,精査加療目的で近くの総合病院へ紹介受診し,鎮痛薬が使用されるも症状は改善せず。採血で原因不明の溶血性貧血が著明に見られ,呼吸状態が悪化し,当院へ紹介搬送された。

III  入院時検査所見

当院来院時,右季肋部痛を訴えていた。会話が可能で意識は清明であったが,仰臥位になれないほどの痛みにより苦悶様を呈し,座位で搬送された。体温37.7℃,血圧168/75mmHg,脈拍数112回/min,呼吸数24回/min。腹部は平坦,全体に圧痛を認めたが,明らかな腹膜刺激症状は認められなかったものの,右腰部の圧痛は体動で増強した。

来院時血液検査所見をTable 1に,来院時までの血液検査結果の推移をTable 2に示す。来院時血液検査では,白血球数23.3 × 103/μL,CRP 3.7 mg/dLと炎症所見が見られ,PCTは≥ 10 ng/mLであり血液培養が採取された。赤血球数2.42 × 106/μL,Hb 6.9 g/dLと急性溶血により貧血が進行していた。BUN 41.6 mg/dL,CRE 1.57 mg/dLと腎機能の低下が見られ,PT 54%,APTT 52秒,FDP 66.4 μg/mLとDICを呈していた。血液検査,赤色尿から溶血は明らかであった。

Table 1  来院時血液検査所見
血液検査 生化学検査 血液ガス検査
WBC 23.3 × 103/μL AST 460 IU/L pH 7.329
RBC 2.42 × 106/μL ALT 65 IU/L PCO2 30.2 mmHg
Hb 6.9 g/dL LDH 7,775 IU/L PO2 57.2 mmHg
PLT 211 × 103/μL CPK 560 IU/L HCO3 15.5 mmol/L
MCHC over T-Bil 3.6 mg/dL BE −9.5 mmol/L
凝固検査 TP 18 g/dL
PT 54% K 4.9 mEq/L
PTINR 1.46 BUN 41.6 mg/dL
APTT 52秒 CRE 1.57 mg/dL
Fib 272 mg/dL CRP 3.7 mg/dL
FDP 66.4 μg/mL PCT ≥ 10 ng/mL
AT III 78%
DD 24.9 μg/mL
Table 2  来院時までの血液検査結果の推移
X − 2 day 16:00前医 X day 14:00前医 X day 15:30前医 X day 16:40当院
WBC (×103/μL) 6.5 28.49 26.4 23.3
Hb (g/dL) 13.1 11.9 8.4 6.9
PLT (×103/μL) 277 227 151 211
GOT (IU/L) 27 78 407 460
GPT (IU/L) 20 62 73 64
T-Bil (mg/dL) 0.5 3.49 2.81 3.6
LDH (IU/L) 166 620 6,030 7,775
CPK (IU/L) 174 649 459 560
BUN (mg/dL) 25.6 32.5 34.2 41.6
CRE (mg/dL) 1.37 1.59 1.8 1.57
CRP (mg/dL) 0.02 3.87 3.42 3.7
PCT (ng/mL) ≥ 10

前医で撮影されたCTではガスが肝内に限局していたことから(Figure 2),感染巣は肝臓と判断され,肝膿瘍による敗血症性ショックと診断された。6時間後の当院来院時に撮影したCT(Figure 3)では,肝右葉後区域に多発性ガス像を認め,背側で肝被膜を穿破し,後腹膜内にもガス像が認められた。

Figure 2 

当院搬送6時間前に前医で撮影された腹部CT写真

Figure 3 

当院来院時の腹部CT写真

IV  臨床経過

病変は急激に拡大し,進行が早く,多臓器不全であった。敗血症に対し,メロペネムを投与,溶血性貧血に対し濃厚赤血球を6単位,新鮮凍結血漿が6単位輸血された。

救急外来での処置中にも出血傾向が進行し,開腹ドレナージが施行された。

腹腔内は,後腹膜がガスにより膨張しており,暗血性腹水が多量に貯留しており,培養提出された。膨張した後腹膜を切開したところ,嫌気性菌様の膿性臭を伴ったガス漏出があったが,膿瘍は認められなかった。

術後,溶血に対しハプトグロビンを投与,輸血するも溶血の進行に追い付かず,徐々に血圧が低下し,多臓器不全で来院12時間後に永眠された。臨床経過をFigure 4,溶血関連項目検査結果経過をFigure 5に示す。

Figure 4 

臨床経過

Figure 5 

溶血関連項目検査結果経過

V  細菌学的検査所見

血液培養検査は,92F好気用レズンボトル(日本BD)と93F嫌気用レズンボトル(日本BD)を使用し,BACTEC FX(日本BD)にて培養を行った。入院時に採取した血液培養2セット中,嫌気ボトルが6時間,好気ボトルが15時間で陽性となり,グラム染色にて大型のグラム陽性桿菌が認められた(Figure 6)。また,術中提出された腹水からも同様のグラム陽性桿菌が検出された。血液培養液のサブカルチャーは,ヒツジ血液寒天培地(極東製薬),BTB寒天培地(極東製薬),ABHK寒天培地(日水製薬),GAM半流動培地を使用し培養した。ABHK培地にR型コロニーが発育し,強い溶血性を示した(Figure 7)。生化学的性状は,非運動性でGAM半流動培地にて強いガス産生が見られ,ラップアイディーキット嫌気性細菌同定用キットII(株式会社アムコ)を使用し,C. perfringensと判定した。

Figure 6 

血液培養液からのグラム染色像(×1,000)

Figure 7 

ABHK培地上のコロニー写真

薬剤感受性検査はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)で検査方法が記載されていない菌属のため,CLSI M11-A7の微量液体希釈法を参考に,ABCMブイヨン‘栄研’(栄研化学),ドライプレート‘栄研’DP33(栄研化学)を使用し,35℃,48時間嫌気培養を行い,最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。薬剤感受性検査成績をTable 3に示す。

Table 3  薬剤感受性検査成績
MIC (μg/mL)
penicillin G ≤ 0.03
ampicillin 0.06
clavulanicacid/amoxicillin ≤ 2
sulbactum/ampicillin ≤ 4
ceftazidime ≤ 1
cefepime ≤ 1
cefmetazol ≤ 1
fulomoxef ≤ 1
imipenem ≤ 0.25
meropenem ≤ 0.25
clindamycin 1
minomycin 8
chloramphenicol 4
levofloxacin 0.5
tazobuctum/piperacilin ≤ 16
sulubactum/cefoperazone ≤ 8
ceftizoxime ≤ 2

毒素型別検査の結果,PCR法にて,α以外の毒素は検出されずA型と判明した。

VI  考察

C. perfringensは産生する蛋白毒素によりさまざまな病態を引き起こす。多くの外毒素を産生し,その中で致死作用を持つ主要毒素α・β・ε・ι毒素の産生性によってA,B,C,D,Eの5型に分類される2)。とくにα毒素は全ての菌株で検出され,ガス壊疽や食中毒の患者より分離されるC. perfringensのほとんどが,α毒素を最も多く産生するA型菌であることから,病原性の主役はα毒素と考えられている3)。α毒素はホスホリパーゼC活性とスフィンゴエミリナーゼ活性を持ち,致死,溶血,壊死,血小板凝集作用を有するとされている4)。α毒素は細胞膜に含まれるレシチンに作用し,赤血球の細胞膜を破壊し5),組織の壊死作用や溶血作用が極めて強く,心毒性もある4)。その他にも血管透過性亢進,出血,肝障害,心筋障害などをきたし,TNF-α遊離が誘導され,溶血や炎症を引き金として多臓器不全に至るものと考えられている。

土手内らによる本邦におけるC. perfringens敗血症報告59例の解析6)では,59例中47例(79.7%)が基礎疾患を保有しており,15例(25.4%)で糖尿病を認め,死亡率は81.4%(48例/59例)。糖尿病では血流不全により,酸素の輸送を妨げ結果的に嫌気性菌の増殖を促進させるような嫌気性の環境が作られている。本症例においても糖尿病の既往があり,嫌気性菌が増殖し易い環境であったと思われた。また,検査所見として血管内溶血は44例(74.6%)に認められていた。

本症例において,血液検査から溶血が著明であり,尿検体はヘモグロビン尿を呈していた。遠心後の検体においても,肉眼的に判断できるほどの強溶血が見られ,主治医に報告していた。このように,遠心後の採血管を見ただけで強溶血と判断できる場合は,本感染を考慮すべきとの報告もある7)。本感染症は,著しい溶血のために血液型判定が不能であったとの報告もある8)。したがって,本疾患を疑った場合の輸血療法は,赤血球製剤はO型,血漿・血小板製剤はAB型という緊急輸血と同様の対応が求められることもあるため,製剤を迅速に届けられるよう準備しておくことも重要と思われる。

治療については,感染巣のドレナージや切除などの外科的処置,ペニシリン系を中心とした抗菌薬治療,高圧酸素療法などが挙げられている8)~10)。肝膿瘍に関しては,Lawら11)によると,Clostridium perfringens肝膿瘍20例の検討から,適切な肝膿瘍ドレナージが予後因子であったとの報告がある。Clostridium属に対する抗菌薬治療については,大量ペニシリン療法と外毒素産生抑制効果を持つクリンダマイシンの併用が推奨されている9)。また近年ガス壊疽に対する新たな治療として高圧酸素療法が推奨されているが,全身状態等が良好でない場合は,実施自体が困難である。溶血を発症していても,エンドトキシン除去カラム(PMX-DHP)を導入して救命された報告もあり10),今後更なる症例の蓄積が望まれる。鑑別すべき疾患として,劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症,溶血性尿毒症症候群,発作性夜間ヘモグロビン尿症,薬剤性溶血性貧血などが挙げられ,早期診断には,積極的な血液培養の実施や,塗抹染色でのグラム陽性桿菌の証明が有効であると思われる。

本菌による敗血症は,溶血が進行してしまうと救命が難しく,致死率の非常に高い感染症であり,早期診断・治療が重要である。通常嫌気性菌であれば培養し同定結果が出るまでに最低2日程は要するが,当院ではMALDI-TOF MSを導入し血液培養ボトルからの直接同定を行っているため,菌名報告までの時間の短縮が可能になった。検体の直接塗抹標本のグラム染色や,血液培養ボトルからの早い段階での正しい菌名報告により,ペニシリンの大量投与や,毒素産生の減少効果があるクリンダマイシンの併用治療につなげることができる。また今回,好気ボトルも培養陽性となり,ボトル内に採取された菌量が多かったことやボトル内の酸素濃度に耐えられたことが理由であると思われた。グラム染色で大型のグラム陽性桿菌が検出され,血液培養ボトルの溶血や強いガス産生が見られる場合には,本菌による感染症を念頭に置き,検査を進めたい。夜間休日勤務で細菌検査専任者が不在の場合でも,肉眼的に判断できるほどの強溶血検体である場合や,敗血症所見を認める場合は,本菌による感染症を考慮し,検査技師が迅速に検査情報を臨床に伝えることが重要である。

VII  結語

肝膿瘍を契機に高度な血管内溶血を呈したC. perfringens敗血症の1例を経験した。本菌による肝膿瘍は一旦溶血を合併すると非常に予後不良な感染症であり,溶血を合併するまでの早期診断が重要である。簡便で迅速に実施できるグラム染色を早い時点で実施し,大型のグラム陽性桿菌を証明することが有用であると思われた。加えて,提出された検体が強溶血を呈する場合や,非運動性で強いガス産生などの生化学的性状を含む菌名報告が,早期診断・治療に繋がると思われた。

 

本論文の要旨は,第3回日臨技北日本支部医学検査学会(2014年11月,岩手)にて発表した。

ヒトを対象とした研究や動物を扱った研究ではないため,関連施設の倫理委員会の承認や,インフォームドコンセントは不要であり得ておりません。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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