医学検査
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資料
採血室患者満足度調査の実施と業務改善の取り組み
太田 由理直本 拓己東口 佳苗矢野 美由紀中町 祐司三枝 淳
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2018 年 67 巻 5 号 p. 740-746

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Abstract

採血室では多くの患者が採血を実施するため,高い採血技術,より良い患者対応,快適な採血室環境,待ち時間の短縮など,質の高い患者サービスが求められている。そこで我々は,採血室への患者視点の評価を得ることにより,採血室の業務改善を行って患者サービスを向上させることを目的として,2016年6月に当院検査部として初めて採血室に対する患者満足度調査を行った。その結果,採血者の対応や採血手技など人的要因のソフト面は満足度が高かったが,待ち時間に対する満足度が最も低いことが判明した。そこで,待ち時間の満足度の改善のために,採血者毎の採血所要時間や曜日時間帯別の待ち時間などの採血業務の実態を調査し,客観的な現状把握を行った。更に,採血者の人員配置や新人採血者の業務の見直しなどの改善策を実施した。翌年,同内容の満足度調査(第2回)を実施したところ,待ち時間の満足群の割合が増加し,平均待ち時間が短縮し,改善策の効果を確認することができた。待ち時間短縮の主な要因は,朝の混雑時に採血優先の業務体制として採血台10台全てを使用する運用に変更したことであると考えられた。満足度調査の実施により,採血室の客観的評価が得られ,問題点が明らかとなり,業務改善を実施することができた。更なる患者サービスの向上のために採血室患者満足度調査は有効であり,今後も患者満足度の向上に努めていきたい。

I  はじめに

神戸大学医学部附属病院では,病院全体での患者満足度調査を実施することにより患者サービスの向上に努めているが,この調査のみでは検査部への患者満足度は不明であった。しかし,外来採血患者の多くは来院後まず初めに診察前検査のために採血室に来室し,その後,他の検査や診察を受ける。そのため,採血室における患者サービスや待ち時間は,患者の病院に対する満足度への影響が大きいと考えられる。採血室における患者満足度調査の実施は,採血室の業務改善や患者サービスの向上に有用であると考えられており1),我々は2016年6月に,当院検査部として初めて採血室に対する患者満足度調査(以下,第1回満足度調査)を行った。この調査の結果から,幾つかの問題点を抽出し,採血室の現状を客観的に把握した。そして,それらを踏まえて採血室の業務改善を行い,翌年の2017年6月に再度同内容の第2回満足度調査を実施して改善策の有効性を検証したので報告する。

II  採血室の概要と調査方法

1. 採血室の概要

当院には,1日平均約2千人の外来患者が来院し,そのうち,検査部中央採血室(以下,採血室)では1日平均550人の外来患者採血を実施して検査を行っている。

採血室の採血台は10台で,8時15分から16時まで外来患者採血を実施している。採血担当者の構成は,午前は,検査部採血部門所属の臨床検査技師3名,看護師3名,及び採血部門以外の所属である検査部臨床検査技師4名(当番制)の合計10名が基本である。午後は採血部門所属の検査技師と看護師の数名で採血を実施している。

2. 患者満足度調査の方法

第1回満足度調査の実施期間は2016年6月13日(月)から17日(金)までの5日間で,回答者は1日当たり外来採血患者100名ずつの合計500名である。各日,無作為に100名を抽出して調査票を配布し,満足度調査についての説明を行い,採血待ち時間の間にその場で無記名で回答いただいた。

満足度調査では,採血室に関する6つの質問項目に対する満足度を5段階で回答いただき,自由記述で採血室に対する意見や要望についても記載いただいた。また,回答者には,性別,年齢,受診する診療科,採血実施の時間帯,診察の何分前に採血室に来室したか,予約の有無,採血の頻度についても記載していただいた。満足度の6つの質問項目は,①採血待ち時間,②採血手技,③採血者(臨床検査技師・看護師)の対応,④採血待合室,⑤採血室の椅子の数,⑥採血者(臨床検査技師・看護師)の人数とし,それぞれ非常に満足5,満足4,どちらとも言えない3,やや不満2,不満1の内から回答を求めた(Figure 1)。回答欄に無記入または分からない0を選択した場合は無効回答とした。回答後の調査票は,採血室の出入り口に回収箱を設置して回収した。

Figure 1 

採血室に対する患者満足度調査票

採血室患者満足度調査において配布した調査票の実例

非常に満足5,あるいは満足4と回答した人を満足群と定義し,各質問項目の満足群の割合を比較した。また,調査実施週の時間帯別,曜日別の待ち時間,採血患者数を自動採血管準備システム(テクノメディカ社)から抽出して解析に用いた。

改善対策を施行した後の第2回満足度調査は,2017年6月27日(火)から7月3日(月)までの5日間実施し,調査方法は第1回と同様とした。

なお,満足度調査の6つの質問項目に対する満足度の結果及び自由記述欄の意見に対する採血室からの回答を後日採血室に掲示した。

3. 改善対策のための採血業務担当者への実態調査

調査対象は,検査部採血室所属の臨床検査技師,看護師,及び検査部の臨床検査技師(以下,採血当番者)の合計33名である。調査期間は2016年9月から2017年2月までの6カ月間とした。調査内容は,採血者の1患者当たりの採血所要時間,採血当番者の午前中(8:15~12:00)の採血患者数,1カ月当たりの採血当番回数,とした。

4. 採血業務における新人の配置の見直し

採血業務における新人は,所定の採血教育,採血練習を行った後に採血業務に従事しているが,より効率よく採血業務が行えるように改善した。なお,採血所要時間を採血業務の上達の指標とした。

III  結果

1. 第1回満足度調査の結果

1) 調査票の回収率と回答者の属性

回収率は100%で,満足度の質問項目の回答率は①採血待ち時間:98%,②採血手技:99%,③採血者の対応:99%,④採血待合室:99%,⑤採血室の椅子の数:99%,⑥採血者の人数:96%であった。回答者は,男性が49%,女性が51%,年齢構成は,60歳以上が59%,20~59歳が37%,6~19歳が3%であった。当院では外来診察前検査を実施しており,診察前採血の患者のうち,61%の患者が診察の60分以上前に採血室に来室していた。また,当日検査オーダーは11.7%であった。

2) 満足度の結果

5段階の満足度の中央値は,全ての項目で4となり,25%値は待ち時間についてのみ3で,その他の項目は4であった。また,満足群の割合は,待ち時間の満足群69.4%,採血手技83.8%,採血者の対応90.2%,採血待合室81.0%,採血室の椅子数78.2%,採血者の人数80.0%であった(Figure 2)。採血者の対応についての満足群の割合が最も高く,採血手技についての満足群が2番目に高かった。一方で,待ち時間に対する満足群が最も低かった。すなわち,採血者の対応や手技など人的要因のソフト面は満足度が高く,採血室の設備等のハード面は満足度が低いという結果であった。

Figure 2 

第1回満足度調査結果

上:満足度スコアの箱ひげ図(plot: average, error bar: 2SD)

下:満足群の割合

調査実施週の患者数は,月曜日(6/13):539人,火曜日(6/14):567人,水曜日(6/15):545人,木曜日(6/16):422人,金曜日(6/17):537人で,午前中の採血担当者の人数は,火曜日のみ9人,その他の曜日は10人であった。調査実施週の時間帯別の待ち時間は,8時台が最も長く,曜日別の待ち時間は,患者数が最多の火曜日が最も長かった(Figure 3)。

Figure 3 

時間帯別待ち時間,曜日別満足度,時間帯別満足度

上:第1回満足度調査実施週の曜日時間帯別待ち時間の推移

左下:曜日別(火曜日とその他の曜日)の満足度の箱ひげ図の比較(error bar: 10–90%)

右下:時間帯別(8時台,9時台,10時以降)の満足度の箱ひげ図の比較(error bar: 10–90%)

次に曜日別,時間帯別の満足度を比較した。曜日別では,待ち時間が最も長かった火曜日は採血者の対応以外の全ての項目の満足度が他の曜日より低くなった。時間帯別では,待ち時間の長かった8,9時台は待ち時間,採血室の椅子の数,採血者数の項目の満足度が他の時間帯より低くなった(Figure 3)。

3) 自由記述欄の結果とそれに対する採血室からの返答内容

自由記述欄の採血室に対する意見や要望が記載されたのは,合計78件であった。そのうち,お礼やお褒めの意見は40件,注意,批判等の意見は38件であった。当採血室として改善すべきと考えられた意見は,採血待ち時間の長さ,技術の個人差,混雑時の採血室の狭さと待合室の椅子不足,呼び出し番号の見えづらさ,などであった。

これらの意見や要望を踏まえ,患者さんに対して,連休明けや休日の翌週は混雑日となり待ち時間が長くなること,検査結果が出るまでに1~2時間かかるため診察時間までに余裕を持って採血室に来ていただきたいこと,採血困難者は採血前に申し出ていただければ熟練者と交代することも可能であること,などを回答した。

また,2016年度の採血待ち時間の時間帯別平均は,8時台:12分,9時台:10分,10時台:7分,11時以降:4分以下であった。曜日別に比較すると,火曜日の待ち時間が最も長く,8時台:17分,9時台:15分,10時台:9分,11時以降:4分以下であった。曜日ごとに待ち時間の傾向があったため,この結果を混雑度及び待ち時間の指標となるように,採血待合室に掲示した(Figure 4)。

Figure 4 

採血室混雑状況の掲示ポスター

2016年度の曜日時間帯別の待ち時間の結果を採血室にポスターとして掲示し,待ち時間及び混雑の指標となるようにした。

2. 第1回満足度調査後の改善策

第1回満足度調査において採血待ち時間の満足度が最も低かったこと,及び待ち時間短縮による混雑緩和によって採血室の設備等のハード面の満足度も向上できると考えられたことから,待ち時間短縮のための改善を試みた。

1) 改善のための採血業務の実態調査の結果と対策

採血者の平均採血所要時間は156秒で,そのうち,最短時間は120秒台,最長時間は170秒台であり,採血所要時間にばらつきがあった。採血当番者の午前中の平均採血患者数は54人で,1カ月当たりの採血当番回数は平均3回であった。そして,採血当番の頻度が高い技師の方が採血所要時間が短い傾向にあった。実態調査終了後には,採血担当者の半年間の採血業務の調査結果と検査部内の平均記録を各個人に配布し,自身の採血業務の見直しの指標となるようにした2)

2) 採血者の人員配置の見直し

待ち時間が15分以上と特に長くなった日は採血担当者が9人であった日が多かったことから,採血担当者の不足が待ち時間延長の原因と考えられた。したがって2017年4月より,混雑時は他の業務より採血業務を優先して採血担当者を10人とし,採血台を全て使用するように運用を変更した。

3) 新人採血者の4カ月間の採血業務専念

新人は業務開始当初は患者数の少ない曜日に配置し,上達した後に患者数の多い曜日に配置した。さらに,新人が多数同一日に採血担当に当たらないように配慮した。また,採血業務習熟を速やかに達成するため,採血部門以外の新人は4カ月間集中して採血業務を担当することとした。その結果,新人の採血所要時間は業務開始当初は200秒以上だったが,4カ月間集中的に採血業務に専念することにより,約170秒に短縮した。しかし,熟練者の156秒には及ばなかった。

4) 採血室に検査に関するパンフレット(読み物)を設置

採血待ち時間の体感時間を短縮するため,採血待合室のソファに検査に関するパンフレット(読み物)を設置した。

3. 改善対策実施後の第2回満足度調査の結果と第1回満足度調査との比較

第1回満足度調査の結果を受けて改善策を実施後,第2回満足度調査を2017年6月27日から7月3日までの5日間実施した。回答者は556人で,回収率は100%であった。満足度の質問項目の回答率は①採血待ち時間:99%,②採血手技:98%,③採血者の対応:98%,④採血待合室:99%,⑤採血室の椅子の数:98%,⑥採血者の人数:96%であった。男性が48%,女性が52%で,年齢構成は,60歳以上が59%,20~59歳が38%,6~19歳が3%であった。診察の約60分前に採血室に来室した患者が最も多く62%を占め,第1回満足度調査とほぼ同様であった。

1) 満足度の結果

5段階の満足度の中央値は,全ての項目で4となり,25%値は待ち時間についてのみ3で,その他の項目は4であった。2016年の第1回満足度調査の結果と比較して,全ての項目において差はなかった。

一方,満足群の割合は,待ち時間の満足群71.2%,採血手技82.9%,採血者の対応90.1%,採血待合室80.8%,採血室の椅子数79.7%,採血者の人数82.0%で,前回と比較するとそれぞれ+1.8%,−0.9%,+0.1%,−0.2%,+1.5%,+2.0%と,多くの項目で満足度が上昇した。

2) 待ち時間の結果

2017年度の4月~8月までの時間帯別の待ち時間の平均は,8時台:10分,9時台:7分,10時台:6分で,前年との比較はそれぞれ−2分,−3分,−1分と待ち時間は短縮した(Figure 5)。

Figure 5 

時間帯別待ち時間の変化

2016年の採血室の時間帯別の待ち時間と改善策実施後の2017年4月から8月までの時間帯別の待ち時間の比較

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IV  考察

採血は多くの患者が定期的に実施するため,採血室では,高い採血技術,高いレベルの接遇,快適な環境,適度な待ち時間など,患者から求められる事項が多い1)。今回,当院採血室が患者の多様なニーズにどれだけ応えられているのかを患者視点から評価することを目的として,採血室における患者満足度調査を実施した。

検査部採血室の患者満足度調査において,採血手技や採血者の対応に対する満足群は,2回の調査ともに,8~9割とそのほかの項目より高く,当院採血室における採血担当者のソフト面の満足度は十分高いと考えられた。その一方で,待ち時間に対する満足度が最も低かった。さらに,待ち時間の増加に伴ってその他の項目の満足度も低下する傾向が見られたため,待ち時間に対する改善対策が重要であると考えられた。

改善策として,混雑時の採血担当者の増員と新人採血者の配置見直しを行ったところ,平均待ち時間が短縮し,改善策の効果を確認することができた。待ち時間短縮の主な要因は,朝の混雑時に採血優先の業務体制として採血台10台全てを使用する運用に変更したことであると考えられた。その結果として第2回の調査では待ち時間,採血者の人数,採血室の椅子数の満足群の割合は上昇した。待ち時間短縮に伴い,採血室の混雑が緩和し,採血室で待つ患者数が減少したため椅子不足が改善されたと考えられた。

新人の採血技術を向上させることも患者サービスにとって重要な要件である3)。我々は今までの経験から採血業務を一定期間集中的に行うことが採血手技を効率よく上達させると考えた。そして,新人の臨床検査技師は4カ月間集中して採血業務につく運用とした。その結果,新人の採血所要時間は,運用開始前と比較して著しく短縮した。しかし,その平均時間は検査部全体の平均よりは長かった。このことから,4カ月間集中のみでは平均レベルに到達することは難しく,その後の採血当番の継続によって採血手技を上達させる必要があると考えられた。

採血待合室に検査に関するパンフレット(読み物)を設置後,多数の患者が待ち時間にパンフレットを読んでいた。これは待ち時間の体感時間の短縮や患者教育に繋げていけると考えられるため,検査に関する読み物などの設置をさらに充実させることも重要であると思われた。

今後の課題としては,第1回満足度調査,改善策実施後の第2回満足度調査ともに,回答者の約60%が60歳以上であったことから,調査票の文字を大きくすることや,質問内容をわかりやすくして回答しやすいレイアウトにするなどの工夫が必要であると考えられた。

また,満足度調査の自由記述欄の意見の,採血の呼び出し番号の見えづらさについては,今回の改善では対応できなかった。モニターのレイアウトの変更など,呼び出し番号の視認性の向上は今後の課題であり,機器更新時に考慮すべきと考えられた。さらに,88%の患者が予約採血であったことから,診察前検査の患者に対して,検査結果が出るまでの平均時間をわかりやすく提示し,時間に余裕を持って採血室に来室するように促す必要があると考えられた。

これまで,当院検査部は採血室における患者の意見を収集することがあまりできていなかったが,今回の調査で患者の意見を積極的に収集して採血室の業務改善に取り組むことの重要性を実感した。また,改善点だけでなく,採血室が評価された点や,以前より良くなったという意見を得られたことで,今後の採血室業務へのモチベーション上昇にも繋がった。

今後も,質の高い採血技術や患者対応を継続し,採血室での待ち時間を少しでも短縮させ,採血室の設備等の工夫を実施して,患者の満足度の向上に努めていきたい。

Ⅴ  結語

採血室患者満足度調査の実施により,採血室の客観的評価が得られ,問題点が明らかとなり,業務改善に取り組むことができた。更なる患者サービスの向上のために採血室患者満足度調査は有効であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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