医学検査
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資料
当院における外来輸血の現状と課題
濵田 文香戸田 聡江松本 眞弓杉本 美香佐藤 達郎
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2019 年 68 巻 2 号 p. 353-357

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Abstract

当院では外来輸血を実施するにあたり『外来輸血の安全のための基準(院内基準)』を作成し検討したが,実施場所および人員の確保が困難と判断したため実現できなかった。2014年に再検討し,対象患者を外来化学療法患者のみ,実施場所を限定することで実施可能と判断して開始に至った。現在は対象患者を他科へも拡大している。この度我々は,2014年4月から2017年12月までに外来輸血が指示された全症例(17件・実人数11名)を対象とし,現状把握のための調査を行った。外来輸血実施率は88.2%(15/17件),投与製剤は赤血球製剤13件・血小板製剤2件で,副作用や帰宅後の不調および急変は認めなかった。院内基準遵守率は33.3%と低率であった。対象患者を拡大した際の周知が不十分であったと考えられた。今回の調査により,輸血を指示する医師だけでなく,診療に携わる看護師やクラーク,また輸血依頼を受ける検査技師など外来輸血に関わるすべてのスタッフが安全な輸血療法の提供への意識・知識を向上させる必要性を再認識した。

Translated Abstract

At the Kurashiki Medical Center, “the standard of safe blood transfusions for outpatients (standard of our center)” was established and considered to conduct blood transfusions for outpatients. However, the plan could not be realized owing to the lack of space and staff members. In 2014, our center reviewed and started blood transfusions for a limited number of outpatients and space. Currently, it is increasing the number of target patients. We surveyed all cases indicated for treatment (17 cases, 11 patients) between April 2014 and December 2017. The implementation rate of blood transfusions for outpatients was 88.2% (15/17 cases). There were 13 cases of transfusion of red blood cell products and 2 cases of transfusion of platelet products, and no transfusion reactions were observed in all these cases. The compliance rate of our standard was low (33.3%). The important point to consider is that not all staff members were well informed about standard of our center when increasing the number of target patients. It is important to share and improve the knowledge of safe blood transfusion services among all staff members.

I  はじめに

外来輸血の安全性に関するガイドラインは,日本輸血・細胞治療学会等の輸血関連学会からは現在のところ示されていない。当院では2009年に,日本麻酔科学会の「日帰り麻酔の安全のための基準」1)を参考に『外来輸血の安全のための基準』(以下,院内基準)を作成し,当院の輸血副作用集計結果も考慮して実施を検討したが,実施場所および人員の確保が困難であると判断したため実現には至らなかった2)。2014年にがん化学療法委員会からの強い要望を受け再検討し,現在,院内基準に基づく体制で実施している。この度,外来輸血の現状を把握する目的で調査を行ったので報告する。

II  当院の概要

当院は病床数269床の急性期中規模病院で,内科・肝臓内科・リウマチ科・外科・産婦人科・泌尿器科・小児科・眼科・皮膚科・整形外科・麻酔科・放射線科の12診療科を有する。2017年度の輸血用血液製剤使用量と依頼件数は,赤血球製剤(red blood cells; RBC):585単位・230件,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP):332単位・61件,血小板製剤(platelet concentrate; PC):160単位・15件であった。また当院では危機的出血への対応のため,O型RhD陽性RBC4単位とA型RhD陽性RBC2単位を在庫している。

III  経緯

2009年に診療部からの要望を受け,外来輸血実施を目指し,輸血療法委員会で院内基準(Figure 1)を作成した。安全に輸血治療を受けて頂くため,輸血後の副作用観察時間を入院の場合と同じ輸血開始後6時間としたことで,実施場所および人員の確保が困難と判断し,実現には至らなかった。

Figure 1 外来輸血の安全のための基準(院内基準)

2014年1月,がん化学療法委員会より,外来化学療法患者への外来輸血解禁が要望された。輸血療法委員会が主体となり,がん化学療法委員会メンバーと協議した結果,対象患者を限定するのであれば輸血の実施および副作用観察場所と輸血に関わる人員が確保できると判断し,同年4月より外来化学療法患者限定で外来輸血を開始した。2015年10月に開催された岡山県合同輸血療法委員会にて,外来輸血実施時のアドバイスとして『外来輸血を実施する場合の注意点』が提示された。その中で患者観察時間について「輸血終了後1時間程度は院内で観察する」とされたこと,また後述するが,それまでに実施した外来輸血では副作用を認めなかったことから,2016年1月より副作用観察時間を輸血終了後1時間に変更した。副作用観察時間を短縮したことで実施場所と人員の確保が容易となったため,同年4月からは対象患者を他科へも拡大し実施している。

以下に当院における外来輸血実施の流れを示す(Figure 2)。

Figure 2 外来輸血実施の流れ

輸血の決定から帰宅までの流れを示した。

IV  対象と方法

2014年4月から2017年12月までに外来輸血実施が指示された全症例(17件・実人数11名)を対象とし,外来輸血実施率・投与製剤・副作用の有無・院内基準遵守状況・輸血目的のみで来院された場合の来院から輸血開始までの所要時間を調査した。また輸血療法委員会へ報告された意見および課題をまとめ,考察を加えた。本研究は一般財団法人倉敷成人病センター倫理審査委員会の承認(承認番号:245)を得て実施した。

V  結果

外来輸血が指示された患者の一覧をTable 1に示した。

Table 1  外来輸血患者一覧
症例 患者 輸血実施日 依頼科 製剤事前納品 事前検査 併科受診 待ち時間 離院後の条件 輸血歴 副作用既往歴 備考
1 A 2014.04.15 外来化学療法 なし 30分 あり なし
2 B 2014.04.17 外来化学療法 × × なし 180分 なし
3 C 2014.09.16 外来化学療法 × なし 130分 あり なし 当日主治医不在
4 D 2015.03.06 外来化学療法 × なし 75分 あり なし
5 E 2015.08.21 外来化学療法 × なし 穿刺直前で輸血拒否
6 E 2016.01.21 外来化学療法 × なし 60分 あり なし
7 E 2016.05.09 外来化学療法 × なし 165分 あり なし
8 F 2016.06.17 内科 NT
(PC輸血)
× なし 本人の希望により入院で実施
9 F 2016.07.08 内科 NT
(PC輸血)
あり あり なし
10 F 2016.07.15 内科 NT
(PC輸血)
あり × あり なし 本人が不安を訴えられたが実施
11 E 2016.07.15 外来化学療法 × × なし 120分 あり なし 本人の強い希望により当日輸血
12 G 2016.09.30 外科 × なし 90分 あり なし
13 H 2017.03.11 救急科 × × なし 100分 あり なし
14 I 2017.05.09 外来化学療法 なし 10分 あり なし
15 J 2017.08.03 外来化学療法 なし 10分 あり なし
16 K 2017.09.28 透析 × × なし 50分 なし 本人の強い希望で帰宅,翌日より予定入院
17 J 2017.10.12 外来化学療法 なし 10分 あり なし

薄いグレー:外来輸血が指示されたが実施されなかった症例

濃いグレー:院内基準をすべて遵守した症例

1. 外来輸血実施率

実施が指示された17件のうち15件で実施された(実施率:88.2%)。穿刺直前で輸血自体を拒否された症例5と,患者本人の希望により入院で実施となった症例8の2件は中止となった。

2. 投与製剤

RBCが13件(RBC-2単位製剤×1本:9件,RBC-2単位製剤×2本:4件),PCが2件(PC-10単位製剤×1本:2件)であり,FFPはなかった。

3. 副作用の有無

副作用は全症例で認められなかった。また帰宅後の不調や急変もなかった。

4. 院内基準遵守状況

外来輸血を実施した症例のうち,製剤事前納品があったものが11件,RBC輸血の際の不規則抗体検査・交差適合試験が事前に実施されたのは4件,輸血歴のないものが2件で,輸血歴がある場合の副作用既往歴は認めなかった。また帰宅後の条件(帰宅中を含め介護者がいること,速やかに受診できる範囲に居住していること)を満たさない症例が1件あった(Table 1)。すべての条件を遵守した症例は15件中5件(遵守率:33.3%)であった。

5. 来院から輸血開始までの所要時間

併科受診が無く輸血目的のみでの来院は13件あり,その所要時間は平均79.2分(10–180分)であった。院内基準を遵守した症例では30分以内に輸血が開始されていた。

6. 外来輸血を実施しての意見

外来輸血の実施後,外来看護部輸血療法委員が実施したアンケート調査により輸血療法委員会に報告された利点,課題とその対策をTable 2にまとめた。

Table 2  外来輸血を実施しての意見(輸血療法委員会への報告事項)
利点
〇患者の身体的・経済的負担の軽減
〇関係部署間での連携強化の機会となった
〇学会認定・臨床輸血看護師による指導により,経験の少ない部署スタッフも輸血の勉強ができている
課題 対策
〇マニュアルが,経験の少ないスタッフには分かりにくい 投与手順を詳細に記載したマニュアルに変更
〇実施手順が周知できていない診療科がある 外来各科でのマニュアルの周知
〇院内基準が遵守できていない症例がある 外来各診療室へ院内基準掲示
・患者家族が遠方であるため付き添いが難しく,帰宅後の不安を訴えられたにも拘わらず外来輸血が実施された 電子カルテ上に聞き取り項目のテンプレートを作成
 安全な輸血医療の提供ができているとはいえない(症例10)
・患者の希望で当日輸血が指示されたが,場所の確保や製剤準備を含めた事前準備が非常に大変だった(症例11)

VI  考察

外来化学療法や病院機能再編成等もあり,外来輸血は今後も増加すると予想されている3)。当院での外来輸血解禁要望の背景には,患者QOL改善のためには輸血治療が必要であるが,患者自身が身体的拘束や経済的負担を理由に入院での輸血治療に難色を示す事例が増えたことが挙げられる。通院での化学療法や日帰り手術が日常的に行われるようになった現在では当然の流れである。外来輸血を選択した場合には,離院後の体調管理・副作用への対応は患者へ委ねられることになるため,離院後の環境確認や起こり得る副作用,その対応に関する説明を十分に行い,急変時の院内体制を整備しておく必要がある。

当院では外来輸血を選択した場合でも安全な輸血療法を提供すべく院内基準を作成した。院内基準には,患者の待ち時間を軽減するために,事前予約・事前検査体制を盛り込んだ。院内基準を遵守した症例では来院から30分以内には輸血を開始できていた。また院内基準に準じた説明により,患者が入院での治療を望まれるケースもあり,院内基準の作成は迅速・安全な輸血療法に寄与できていると考える。

離院後の条件を満たさなかった症例10および患者本人の強い希望により当日輸血が実施された症例11の経験後,院内基準の周知徹底を図る対策として,すべての診察室に院内基準をラミネートし掲示,また患者情報聞き取りのため,電子カルテ内にテンプレートを作成して問診時に活用できるようにした。しかし今回の調査では,この院内基準遵守率が33.3%と非常に低いことが分かった。再周知以降に初めて実施する部署での遵守ができておらず,経験不足も要因と考えられた。当院では外来輸血の実施場所を特に限定しておらず,場所とスタッフが確保できれば実施可能としているが,実施場所の限定も課題の1つと言える。

また,現在までに輸血中・輸血後・離院後の副作用は経験しておらず,マニュアルは作成しているものの迅速に対応できるか不安がある。輸血後,特に離院後に発生する副作用について患者へ説明するためのパンフレットを作成・使用することで,患者説明や指導に携わる外来看護師自身の輸血業務や輸血副作用に対する理解が深まり安全な輸血に寄与できているという事例4)や,副作用履歴等を記載し患者自身にも輸血実施記録を記載していただく輸血手帳を発行して運用することで安全な輸血実施体制を構築する取り組み5)が報告されている。当院でもこのような仕組みを積極的に取り入れ,安全な外来輸血療法を確立していきたい。

VII  結語

輸血を指示する医師だけでなく,診療に携わる看護師やクラーク,また輸血依頼を受ける検査技師など外来輸血に関わるすべてのスタッフが安全な輸血療法の提供への意識・知識を向上させる必要性を再認識した。

 

なお,本論文の要旨は,第65回日本輸血・細胞治療学会総会(2017年6月,千葉)にて報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  公益社団法人日本麻酔科学会:指針・ガイドライン.http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/higaerimasui.pdf(2018年8月1日アクセス)
  • 2)   濵田  文香,他:「輸血後副作用と外来輸血の是非―外来輸血ガイドライン早期作成への期待―」,医学検査,2012; 61: 443–448.
  • 3)   北澤  淳一,他:「平成26年度血液管理及び実施体制と血液製剤使用実態調査報告~外来輸血に焦点を当てて~(抄)」,日本輸血細胞治療学会誌,2016; 62: 305.
  • 4)   三浦  聡子,他:「外来輸血患者用パンフレット作成・運用前後における看護師の副作用に対する意識調査(抄)」,日本輸血細胞治療学会誌,2016; 62: 332.
  • 5)   守岩  美紀,他:「輸血手帳を用いた外来輸血を安全に実施しるための取り組み(抄)」,日本輸血細胞治療学会誌,2017; 63: 527.
 
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